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ドラコマギア・オンライン -天才錬金術師ザラメ・トリスマギストスを演じて-【祝!30000PV感謝!】  作者: シロクマ
第一章 死者蘇生の秘法をさがして

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012.シルバーソード[34,000DM]を盗みますか?

 ザラメ・トリスマギストスの観測許可がまた再開されたのは昼十二時頃だった。


 【観測登録9】

 ひとり増えている……。


 観測登録を行うメリットは運営の示したルールによれば、まず観測可否の通知だそうだ。

 手動でチェックせずともいいので、いつ観測が再開されたかを見落としづらくなる。


 もうひとつはアーカイブの閲覧だ。

 他の観測者によって保存されたデータを閲覧することで、現在だけでなく過去の冒険者の行動についても確認することができる。

 さらに戦闘など何らかのイベントが発生した時、それを通知する機能もある。

 要するに、観測者は登録している複数の冒険者をずっと観続けているわけではなくて、注目のイベントがあればそちらに集まるといった流動をつづける。


 また観測対象に近いエリアでのイベントであれば、非観測対象についても通知が飛ぶ。

 つまり、キョンと戦っていたときの妙に多かった観測者数は、一時的にその周囲を観測していた者たちが野次馬のようにやってきた末、また散っていったのだ。

 時間差でひとり増えたのはアーカイブ閲覧で興味を抱いたのかもしれない。


 ――といった考察ができるのは、ザラメが受けたIT教育のおかげだ。

 小学校の基礎教科として必修の“情報”は小学三年生から習うことになっている。

 国語、算数、理科、社会、情報。

 これら五つを基礎教科として学ぶことになるのでそのへんをよくわかっている。


「さて……昼食、どうしましょうか」


▽「あ、ザラメちゃん再開してる。気分はだいじょうぶ?」


▽「町、ズタボロで飲食店はやってなさそう」


 観測者はただいま四人。


 非イベント時の低速なときはザラメがのんびりしているのもあって会話が成立しやすい。

 その一方、戦闘のような注目のタイミングではコメントも加速して会話が成立しない。

 試合中に観客席のファンとのんきにおしゃべりするスポーツ選手はいないが、試合前後なら気兼ねなく交流することもある。そういう感じ。


 ザラメとしては低速な方が情報収集やかんがえごとはやりやすい。


「気分は……泣いてスッキリしたらおなか空きました」


▽「切り替え早くていいね」


▽「また料理する?」


「どもです。料理してもいいんですけど、手軽に食べれるバナナとかの携行食料はとっておいた方がいいと、さっきアドバイスもらってて」


▽「ああ、もうアイテム買うための店も閉じてるのか」


▽「じゃあ高台に行ってみたらどうかな?」


「高台……ですか?」


▽「港町の海側半分は津波でやられちゃってる。避難した町の人達は、北側にある港より標高が高いところに避難してるはずだ。港町には必ず、津波避難所があるものだよ」


▽「いや、でもこれゲームだぞ?」


▽「ドラマギの異様な作り込みならありうる」


▽「ちょい町、今ザッピングして確認してみる」


 ザッピングとは、何だろう。

 ザラメが不思議に思うと修正補助がデータを掲示してくれた。


【ザッピング――背嚢を背負い気ままに山や森を練り歩くこと。遠足、ハイキング】 


(家庭科でナップザック作ったことあるけど、ザックってアレかぁ)


 この観測者はきっと山林を散策するようにちょっと見て回ってくる、と言いたいらしい。

 なにか、そんな死語もあった気がするけれど、ザラメには馴染みがなさすぎた。


▽「噴水広場に行こう! 冒険者もNPCも集まってるみたいだ」


「ありがとうございます。行ってみます」


 壊滅的被害にある市場付近をザラメはシオリンの亡骸を連れて後にする。

 ――じつは非公開時、ザラメは泣き疲れたあとですこし市場の瓦礫を調べてまわった。


 いわゆる火事場泥棒だ。

 この四の五の言ってられない状況下、なにか役立つものを拝借できないか。

 そう考えて、とりわけ高価なアイテムのありそうな武器屋を調べてみる。

 

【シルバーソード[34,000DM]――銀製の剣。高い攻撃力と扱いやすさ、銀製特効つき】


 シローが欲しがっていた初心者向け課金アイテムだ。

 所持金の十倍を越える値打ちものを見つけてしまい、ザラメの胸は高鳴ってしまった。


 ザラメ当人には無用の長物であれ、路銀に替えるにはうってつけだ。

 二階部分の崩落した武器屋の瓦礫に埋もれた、銀製の剣の意匠を凝らした鞘へとザラメは手を伸ばそうとする。


 これはゲームだ。

 これを売っていたのはNPCに過ぎず、店員もどこかへ消えてしまった。


 たった二週間のタイムリミットで死者蘇生の秘法を見つけなくてはならないというのに、ちいさなことに躊躇している場合ではない。

 そう自分に言い聞かせて、銀の剣の鞘を掴んだ。


(……詩織、ごめん)


 ――そして鞘を瓦礫から引き抜くと、拾いやすいところに置いてそのまま立ち去った。

 その一部始終を、動く死体となったシオリンが意志のない瞳で見つめていた。


 ザラメは己を恥じた。

 今は亡き親友を言い訳にして、都合のいい理屈で盗みを正当化しようとしたからだ。


 仮にこれがゲームでNPCの所持品にすぎなくても、販売アイテムデータの不正取得は現実でも罪に問われかねないことだ。

 それにもし、今ここに親友が生きていたら、なんて言っただろうか。


(……うん、わかってた)


 ザラメは観測者らと会話しながら、またあの武器屋前を通り過ぎていく。

 安置したシルバーソードはいつの間にか忽然と消えていた。

 誰かに盗まれたのか、店員が回収したのか。


(バイバイ、課金アイテムさん)


 ザラメはカッコつけな自分を少し鼻で笑って、高台の広場へと向かった。

毎度お読みいただきありがとうございます。

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