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第56話 借りぐらしのりんごッティ(後編)

「りんご先輩! ゆき先輩のしけた村から、効率Ⅲ(掘るのが速くなる)がついたダイヤスコップと、効率Ⅱのついたダイヤツルハシを持ってきたバニ!」


「おー! サクサク掘れる! これなら地下帝国だって一瞬で作れちゃうよ!」


「一瞬は無理ですバニ!」


 道具を一式揃えると、私たちはあひる先輩の家の地下を掘りだした。


 りんご先輩が庭を直下堀り(真下にひたすら地面を掘る)で掘り進める。

 梯子で地上と繋げると、私もすぐに地下へ。

 特に空洞やダンジョンには繋がっておらず、石と土できた地下を、私がスコップ、りんご先輩がツルハシでどんどん拡げていく。


 あっという間に、幅15×奥行き15×高さ8の空間ができあがった。


 所要時間、約30分。

 とんでもないスピード工法だった。


「どうしますりんご先輩? 土と石壁の部屋で満足ですか?」


「満足するわけないじゃな~い! やるからにはお洒落にしないと~!」


「じゃあ、砂と砂利と顔料を集めてきましょう! コンクリートブロックで、カラフルな内装にしちゃうバニよ!」


「そんなことできるの~! バニラちゃんってば、マイクラの天才では⁉」


「そんなことないバニですよ……でへへ」


 というワケで地下を出て海岸に。

 りんご先輩に砂を集めてもらいながら私は海に潜って砂利を集める。

 こちらも手分けをすればあっという間。3スタック分の砂と砂利が集まったところで、次は染料集めに奔走する。


 赤の染料になるポピー(花)を草原でゲットし。

 黒の染料になるイカスミをイカ(生き物)を狩ってゲットする。

 白の染料になる骨粉をスケルトン(モンスター)を倒して手に入れ、私たちは再びあひる先輩の庭へと戻った。


 ただし、材料を集めて終わりではない。

 作業台で『砂』と『砂利』と『染料』を混ぜてできるのは――。


「あれ? ばにらちゃん、コンクリートパウダーってなってるけど?」


 あくまでコンクリートの元『コンクリートパウダー』だ。

 現実と同じく、マイクラでも『コンクリート』に変えるための作業が必要なのだ。


「そうですバニ! 作業台で作ることができるのはパウダー! コンクリートにするには、一度水で濡らさないといけないバニ!」


「えぇ~、なんだかめんどくさいなぁ~」


「基本はコンクリートパウダーを直下積み(ジャンプして真下にブロックを置き、積み上げていく)して、上から水を流してコンクリート化するバニです。あとはツルハシでひたすら砕いて回収。なぁに、効率Ⅱのついたツルハシがあれば一瞬バニです」


「よ~し! 面倒だけど、地下暮らしのために頑張るぞぉ~!」


 コンクリートパウダーの塔をそれぞれ積み上げる私とりんご先輩。

 ちょうど1スタック(64個)積み終えると、水を流してコンクリート化する。

 その上に立ち、私たちはツルハシを振り下ろした。


「ソイヤ! ソイヤソイヤ! ソイヤソイヤソイヤ!」


「気合い入ってますねりんご先輩!」


「コンクリート砕くことしか、ワイにはできへんからなぁ~! ワイはこれ一本で、子供を養わなあかんねん! 邪魔せんといてや~!」


「すごい! これがプロのコンクリート砕き!」


「よく見とくんやでばにらちゃん! コンクリート舐めたらアカンで!」


「あ、ちなみに連打しなくても押しっぱなしで掘ってくれますよ?」


「それ先に言ってよぉ~! 地下で作業してる時から連打してたじゃ~ん!」


 出来上がった、黒・赤・白のコンクリートブロック。

 再び地下に戻り、むき出しの土壁と石壁をコンクリートで整えれば――まるで悪の秘密結社のような神秘的な空間が出来上がる。


 黒と赤はりんご先輩のパーソナルカラー。

 まさに彼女の部屋という感じ。


 その仕上がりにりんご先輩は満足したようで、千鳥模様の床の上でぴょんぴょんと飛び跳ねては念願の住居の完成を喜んでいた。


 だが、まだ足りない。

 こんなもんじゃない。


 マイクラがりんご先輩にもっと輝けと言っている。

 この泥棒猫にマイクラの才能を見せてくれと囁いている。


 私はそれをひしひしと――さっきから上がりっぱなしで落ちる気配のない、同接数から感じ取っていた。


 三万人て。

 記念ライブ並みの視聴者数やで。

 ここで止めるのは配信者にあらず。


 配信者ならここで倍プッシュや!


「ありがとう、ばにらちゃん! ばにらちゃんのおかげで、こんな素敵な家ができたよ! これで今日から借りぐらしのリンゴッティしていくから!」


「りんご先輩、ただ部屋が完成しただけで満足ですか?」


「……ほう? 話を聞こうじゃないか?」


「もっと、家具とか装飾品とか、欲しいとか思ったりしませんか?」


「けど、作るのに材料が必要だし。そこまでやってる時間は、流石に僕もばにらちゃんもないじゃない。だから、また今度に……」



「バカたれ!!!!」


「!?」



「りんご先輩はなんですか! 何系VTuberなんですか! 言ってください!」


「泥棒猫系VTuberです!(ノリノリ)」


「なのにゲームの世界で泥棒しなくてどうするんですか! みんなが求めていることは、真っ当に家具を作るりんご先輩なんかじゃありません!」


「そうか! 僕は泥棒猫系VTuber! 欲しいものがあれば盗めばいいんだ!」


「そうです!」


「けど、どこから――?」



「ゆき先輩のしけた村に決まってるでしょ! これから、ばにーらとりんご先輩で、あの村を――略奪しにいくバニよ!」


「ヒャッハ~! こいつは面白くなってきたぜぇ~!」



 私とりんご先輩は、ゆき先輩の城が建つしけた村へと向かった。


 斧とツルハシを手に家に押し入り、かまど、製図台、醸造台、書見台といった職業ブロックを強奪する。レア素材が使われている家を解体する。

 内装に使われているお洒落インテリア(ランタンや色つきベッド)を略奪する。


 これぞまさしく暴虐の限り。

 蛮族と化した川崎ばにらと津軽りんごは、ゆき先輩のしけた村を世紀末状態にし、多数の戦利品を抱えてあひるハウスの地下に戻るのだった。


 マイクラっていうより、Valheimヴァイキングのサンドボックスゲームやってる気分だ。けど、これもまたヨシ。


 サンドボックスは無茶苦茶してなんぼ。

 お行儀良く建築するのもいいけれど、こういうプレイも大事なんだよな。


「うーん、すごい。まさか一日でここまで生活環境が整うなんて」


 あひる先輩の家よりリッチになった地下室。

 赤、青、緑のベッドの上で跳ねながら満足げにりんご先輩が言う。


「ちょうど近くに略奪しがいのある村があってよかったバニですな」


「ちなみに、こういうプレイってマイクラ的に推奨されてるの?」


「HAHAHAHAHAHAHA! 村から物資をパクってきて拠点を発展させるのは、基本中の基本バニですから! むしろそのための村ですから!」


「そっかぁ~! ばにらちゃんが言うなら安心だぁ~!」


「泥棒系VTuberなのに細かいこと気にしちゃノンノンノンですよ!」


「だよねぇ~! よ~し、これからマイクラでいっぱい泥棒するぞぉ~!」


「その調子です! りんご先輩ならきっとやれますバニ!」


 もう充分生活拠点としては申し分ない。

 あとはエンチャント台(武器や道具にスキルを付ける台)さえできれば、この部屋だけでマイクラでやりたいことは全部できるようになるだろう。


 いい仕事をしたという満足感に、かいてもいない額の汗を私は拭う。

 本当に充実したマイクラ配信だった。


「ばにらちゃん、また一緒に略奪しようね!」


「はい! あと、コラボって言ってください! 人聞きが悪すぎるんで!」


 当然、この一連の配信はリスナーによって切り抜かれ――「DStars公式サーバーに山賊現る⁉」「泥棒猫と悪戯兎、最狂コンビ結成⁉」「近々、DStarsの狂犬も参戦予定か⁉」「DStarsレジスタンスか⁉」と、散々な言われようをされた。だが、それがかえって話題を呼び、二人の突発コラボのアーカイブは――両者共に100万再生越えを達成したのだった。


 なお配信外で――。



「ゆきの村がぁああああああ! なにやってんだばにらぁあああ!」



 と、ゆき先輩に泣かれたのだけは申し訳なかった。


 けど仕方ないじゃん。

 私らVTuberなんだから。


 これがプロってもんですバニよ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 誰がこの二人がノリノリで突発コラボすると思ったか。(白目)

 バチギス百合展開とみせかけてノリノリコラボ。私情を棄て、即座に演者になりきれるのは二人の強みですね。これくらいタフじゃないとVTuberは務まらない。


 それにしたってゆきはあんまりですが。(しけた村が……)


 番外編をお読みの方は「実はばにらとりんごの相性がいい」と、ぽめらが過去に占っていたことにお気づきかと思います。あれ、ライバルポジに収まって、これからやり合う感じになるんじゃないの――と、ちょっと気になってしまった方は、今後の展開をどうぞお楽しみに。そして、ぜひぜひ評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m

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