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第55話 借りぐらしのりんごッティ(前編)

 翌日も変わらずマイクラ配信。


 今日は先輩たちの建造物を気ままに見学する『お散歩配信』をすることにした。

 ただ、サーバー内を歩いて感想を言うだけで、コンテンツとして成立してしまうのだからマイクラは本当にすごい。


 しかし、なによりすごいのはマイクラの発展速度だ。

 まだ稼働して一週間も経っていないのに、森は切り開かれ、丘は整地され、道路が舗装され、トロッコまで走っている。驚異的なスピードで発展するゲーム世界に、「やっぱりバケモノコンテンツだな……」と、あらためて驚嘆した。


「こんばに! DStars3期生の川崎ばにらバニ! 今日はDStars公式マイクラサーバー内を、お散歩していきたいと思うバニ!」


 軽い挨拶から配信スタート。

 昨日と比べると視聴者はちょっと控えめ。

 まぁ、これは二日目なのでしょうがない。まだ、川崎ばにらのマイクラ配信に、集客力がない状況で、人がすぐに集まるだけマシだろう。


 誰が敷いたか分からない石レンガの道を辿り、私はおさんぽを開始する。


「ファッ⁉ なんだこの村⁉ 魔王城みたいなのあるんだけれど⁉ え、ゆき先輩が開発した村? 謹慎中になにやってんの⁉」


 ゆき先輩が開発した村を訪れ、村人(アイテムを交換してくれる)のしけっぷりをネタにしたり。


「すごーい! いま先輩の肝油ちゃん(マンタのマスコット)だ! 羊毛で作ってあるバニな! もしかしていま先輩が作ったバニか?」


 いま先輩が作ったマスコット像で記念撮影したり。


「オルァ! 出てこいゾンビ……やめてやめて、クリーパーはダメバニぃ!」


 森でモンスターに襲われたり。


「こんな所にお豆腐ハウスが? 『あひる警察 派出所』? いやいや、どう見ても派出所じゃないですやん! お豆腐屋さんにした方がいいバニよ!」


 あきらかにクオリティが低い先輩の建築物でゲラったり。


「ばにらぁっ! なにしてくれてんだオメェー!」


「げぇっ! あひる先輩!」


「あひるの派出所に『お豆腐屋さん』って看板付けたのお前だろ! ご丁寧に額縁(アイテムを飾ることができる)に白コンクリート(白ブロックなので、お豆腐に見える)飾っていきやがって!」


「いやいや、どう見てもお豆腐屋さんじゃないですか! ばにーらは親切で!」


「うるせえ! ○ねぇえええええ!」


「ヒェッ! ちょっ! 斧で殴りかからんでもろて!」


 悪戯した先輩に見つかり(サーバー内にいるのを知ってて、あえてプロレスをしかけてみた)、斧で追いかけ回されたり。


「……いやいや、あひる先輩ってば弱すぎでしょ。そもそも石斧だけの裸装備で、鉄鎧のばにーらに勝てるとでも?」


『ahiru: vanira onegai item kaishu shite oite...』


「しょうがないバニですなぁ……」


『vanira: kashi hitotsu desu yo』


 追いかけ回してきた先輩を撃退したり。


 数々の撮れ高を叩き出し配信は絶好調。

 気がつけば、人気ゲームの配信と同じくらい同接数が伸びていた。


 これは私にマイクラの才能があるのか。

 それともマイクラというコンテンツが凄いのか。

 あるいは、私に狩られたあひる(先輩)のおかげか。


 なんにしてもあひる先輩のアイテムを返さねばならない。

 私はリスナーに教えてもらい、彼女のマイクラサーバー内の住居へ向かった。


 そしてそれが、今回の騒動の始まりだった――。


『ahiruがログアウトしました』


「あれ? あひる先輩? ログアウトしちゃったバニか?」


 システムメッセージにあひる先輩のログアウトが表示される。

 私にアイテムを持って来させてサーバーを抜けるなんて。


 ふざけているようで礼儀や上下関係には厳しいあひる先輩。

 彼女が私を置いてサーバーを去るのは考えにくかった。


 するとDiscordの方に連絡が入る――。


「『すまんバニラ。PCの調子が悪いからマイクラ落ちるわ。悪いけれど、家の中のチェストにアイテム入れておいて?』バニか? 人使いの荒い先輩バニねぇ!」


 PC不調なら仕方ない。「分かりました、チェストに入れておきます。今日は突発なのに、プロレスしてくれてありがとうございました。これからもよろしくお願いしますm(__)m」と、お礼も兼ねた返信をすると、私はあひる先輩の家に入った。


 派出所と違って、こちらは気合いの入った木造ハウス。

 しっかりと床にはカーペットがしかれている。しかも二階建て。

 全体的に建築センスが高い。


(動画見て作ったのかな。けど、すごい情熱バニ。あひる先輩、さっきのプロレスの時も操作上手かったし、マイクラの適性あるのでは……?)


 彼女の意外な一面に驚きながら家の中を見学。

 二階にある、空のラージチェスト(少し大きな道具箱)に、回収したアイテムを入れると、なにげなく私は窓から外の景色をうかがった。


 すると――。


「……なんかいるバニなんですけど?」


 あひる先輩の庭をうろつく囚人服スキンのアバター。

 あんな不審なガワのVTuber、うちの事務所にいただろうか。


 いや――居たな。

 つい最近、脱獄という名の復帰を果たした泥棒猫が。


 ズームMODを使って顔をうかがうと赤いショートボブに猫耳が目に入る。

 マイクラの仕様に合わせて、ドットになっているけれど間違いない。

 あひる先輩の家の庭をうろつく不審人物は――津軽りんごだった。


 どうするべきか迷うことコンマ1秒。

 美月さんのこともあり絡むのなんてごめんだったが――あまりにも香ばしい撮れ高の匂いに、私はチャットをりんご先輩に送った。


 これもVTuberの血の宿命。

 面白い予感に私たちは逆らえないのだ。


『vanira: nani shite run desuka? neko senpai?』


『doroneko: vanira chan? tyoudo yokatta! tetsudatte!』


『vanira: tetsudau?』


『doroneko: voice chat surune?』


 こちらの都合などおかまいなしに、りんご先輩がDiscordで通話してくる。

 通話に出ながら私は彼女のいる庭先に出た。

 ぴょんぴょんと飛び上がるりんご先輩のアバター。


 そして、その声が私の配信に流れ込む――。


「やっほ~! バニラちゃん、こんな所で会うなんて奇遇だねぇ~!」


「あ、どうもバニ。もしかして、りんご先輩も配信中ですか?」


「そうだよぉ~! マイクラ実況1日目ぇ~! 今ねぇ、どこに家を建てようかなって、迷ってた所なんだぁ~!」


「ここ、あひる先輩の家の庭ですけど?」


 既に人が住んでおりますが?


 そんなニュアンスで言うと、スンとりんご先輩が静かになった。


 分かった時の沈黙じゃない。

 これはろくでもないことを言う前振り。


 私は知っているんだ。

 美月さんの研究していると、りんご先輩とのコラボ動画も見ることになるから。

 彼女がどういう性格で、どういう配信を面白がり、この手のサンドボックスゲーでどういうプレイをするかを――。


「ばにらちゃん――『パラサイト』って知ってる?」


「有名な韓国映画バニな?」


「じゃあ、『借りぐらしのアリエッティ』は~?」


「スタジオジブリの映画バニな?」


「ここまで言えば、勘のいいばにらちゃんなら、もう分かるよねぇ~?」


「ぜんぜんさっぱりわからないバニですバニな」


 あえて私はすっとぼけた。

 撮れ高とりんご先輩の切り抜きのためにわざとらしくスルーした。


 さりげなく私はあひる先輩の家を背景に、りんご先輩のアバターが中央にくるよう、カメラワークを調整する。


 切り抜かれた時に画になるように。

 サムネイルが造り易いように。


 そんな私の心遣いを察したのか、絶妙なタイミングでりんご先輩は言った。



「あひるちゃんの家の地下に勝手に住もうと思ってぇ~!(ドヤ)」



 なんてろくでもないことを思いつくんだ、この泥棒猫は!


 さてはこいつ――マインクラフトの天才か!



「よかったら、ばにらちゃんも作るの手伝ってよ!」


「う~ん! 先輩に頼まれたら、ばにーらも協力しないワケにはいかないですな!」



 美月さん云々は横に置いて、私はりんご先輩に協力することにした。

 だってこんなの、どう考えても面白いに決まってる。


 私はVTuber。

 面白い展開を前に、私情を挟むことなど許されなかった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 百合営業相手を質に入れても撮れ高をとる。それがVTuber。

 というのは置いといて、どんなにプライベートで因縁浅からぬ相手でも、配信が面白くなるなら協力するところは、流石は企業勢VTuber。ちゃんと社会人をしているばにらちゃんなのでした。あと、あひるにもちゃんとお礼を言ってる。


 このばにらとりんごの絡みがいったいどんな嵐を呼ぶことになるのか! 宿敵同士が手を取り合うのは王道展開だけれど――「ちょっと早すぎない?」という方は、ここは黙って評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m

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