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【二部完結】VTuberなんだけど百合営業することになった。  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第1章 え、私があの怖い先輩と「百合営業」するんですか?
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第5話 せやかて、ばにら。お前本当はやりたいんとちゃうんか……?(後編)

「で、どうしたの?」


「何から話せばいいやら……」


「社長室にずんだ先輩と一緒に呼び出されてたね。どうせ金盾配信についてなんか言われたんでしょ? お説教かな? それとも、褒められたのかな?」


「それが予想外の話でさ」


 片づいたテーブルに突っ伏すうみ。

 お冷やが入ったグラスの縁をなぞりながら、彼女はそっけない素振りをしつつ私の話に耳を傾けてくれた。こういう所が、なんか大人だなっていつも思う。


 社長室でのあらましを私はうみに説明した。


 社長から直々にずんだ先輩との「百合営業」をするよう言われたこと。

 ずんだ先輩が社長に断固として「NO」を突きつけたこと。

 社長から「ずんだ先輩のコラボNGを解いて欲しい」と頼まれたこと。


 順を追って話すと長くなるもので、気がつくとアイスティーが注がれたグラスは空に、チーズケーキは下に敷かれているシートだけになっていた。


 お冷やだけで長居するのも気まずくて店員さんを呼ぶ。

 グリーンティーをふたりで注文した。


「なるほどなぁ、ずんだ先輩と『百合営業』か……」


「ただでさえ『百合営業』ってだけでも気が重いのに、相手があのずんだ先輩だよ。うみ、頼むから代わってよ」


「押しつけんなや。それに私にはもう愛する人がいるから」


「愛する人て」


「すずちゃんでしょ、いくたんでしょ、うさぎにしのぎにえるふ! あ、もちろん、ばにらも大切な俺の子猫ちゃんだゾ?」


「うみのハーレムに入った覚えなんてないんだが?」


「寂しかったんだろばにら。さぁ、俺の胸で泣きなよ。今日だけは、お前が俺を独り占めしていいんだぜ」


「すみませーん、お兄さんお会計!」


「待った待った、冗談だってば!」


 ふたり揃ってグリーンティーを啜る。

 うみに話してすっきりとした私は、晴れ晴れとした気分で窓の外を見下ろす。


 気がつけば大通りが人で賑わっている。


 依然、悩みは悩みのまま。「百合営業」の結論は何一つとして出ていない。

 けれど自分なりに心の整理はできたみたいだ。


「で、どーすんのさ? やるの『百合営業』?」


 グリーンティーを飲み干したうみがグラスの中の氷を突きながら私に問いかけた。

 それに――私はゆっくりと首を横に振る。


「しない。やっぱり私は『百合営業』なんてできない」


「気にすることないと思うけどなぁ」


「それに、ずんだ先輩も嫌だって言ってるし」


「そうかなぁ? りんご先輩とは、ほぼ『百合営業』みたいな関係じゃん?」


「いや、『りんずん』は別格でしょ! 個人勢時代から絡んでたわけだし! というか、そもそも『百合営業』するならあのふたりがやるべきで――」


「なるほど。つまり、ばにらは『りんご先輩』に遠慮してんだ?」


「それは――」


「それとも『ゆき先輩』かな?」


 うみの鋭い問いに、私は言葉を失った。


 ストローに口づけてうみが溶けた氷を啜る。

 しばらくして彼女は顔を上げると、許しを請うような笑みを私に向けた。


「ごめん、やっぱなし。ばにらの選択を私は尊重するよ」


「……ありがと、うみ」


「けど、もしばにらが腹をくくったなら、その時は」


「お! うみがおるやんけ!」


 真剣なうみの言葉を遮って快活な言葉が2階に響く。

 せわしない足音と共に「その人」は私たちのテーブルに駆けてきた。


「おーい! ラジオの二期決定だって! やったね!」


 眩しいくらいに白く染め抜かれたベリーショート。

 耳にはシルバーの太いイヤリング。

 そして、その髪とアクセサリーでは絶対に入学できない都内有名女学校の制服。

 茶色いローファーがキュッと甲高い音を立てた。


「おや! 今日はばにらちゃんも一緒だ! やっぱりラッキーついてるね!」


「どうも、すず先輩」


「すずちゃんで良いよ! ばにらちゃんの方が年上なんだからさぁ!」


 やって来たのは事務所の先輩。


 現役JKでVTuber。

 さらに初期のDStarsを支えた1期生筆頭。

 そして、うみのラジオでの相方。


 お狐系騒がしVTuberの「生駒すず」だった。


「あれ、すずちゃんも事務所に呼ばれてたの? てっきり、一緒に説明受けてないから、今日は予定が合わないのかと?」


「いやー、うっかり昼間に配信入れちゃってさ! 告知もしちゃってたから、今日のミーティングはそれ終ってから行きますって!」


「お前、本当に高校生かよ? 調整能力えぐない?」


「高校生だよ? 通信だけど! 見た目はJK、中身もJK! 純度100%の現役女子高校生(合法)VTuber! 生駒すずとは私のことだぜ、バーロー!」


「すずちゃん、工藤が出てるぞ。それおっさんしかやらんネタや」


「せやかて工藤。今のVTuberのメインリスナーは10代~30代やからな。古のニコニコネタを知らずして、VTuberは名乗れへんのや。日々、勉強やで」


「そんな勉強しなくていいから……」


 年下の先輩VTuberに説教している途中で急にうみの顔が青くなる。

 唇をキュッと結ぶと彼女があわてて席から立ち上がった。


 それは、彼女の長い社畜生活で染みついた反射的なもの。

 何度もそれを見ているので、このあとの展開はなんとなく分かった。


 何もなければ配信第一。

 あまりの配信頻度に「実はすずちゃん4人いるのでは説」が出るほどの配信の鬼。そんなVTuberの鑑のような人が、喫茶店で時間を潰すわけがない。


 おそるおそる私が振り返るとそこには――。


「あらー、うみにばにらちゃんじゃない。ほんと3期生は仲良いね」


 すず先輩と個人勢時代からの知り合い。

 DStarsに「特待生」として引き抜かれた元個人勢VTuber。


 焦げ茶色のショートヘア。ブラウンのワンピースの上から、カーキ色のストールを羽織ったゆるふわな大人コーデ。私たちより少し年上で既婚者。

 大人の女性の魅力あふれる――「秋田ぽめら」先輩。


 そして。


「なんでアンタがここにいるのよ」


「……ず、ずんだ先輩」


 ぽめら先輩と同じ「特待生」。DStarsゲームチームのメンバー。

 DStarsの「氷の女王」こと――「青葉ずんだ」先輩。


 迂闊だった。

 事務所職員やメンバーがよく使う喫茶店でダベってる場合じゃなかった。

 一刻も早く家に帰るべきだったんだ――。


「ぽめら先輩ぁい! ずんだ先輩ぁい! おつかれさまでぇすぅ!」


 うみのやたらに気合いの入った挨拶が店内に響く。

 そんな中、私は冷たい視線を向けてくるずんだ先輩から目を逸らした。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 苦手な職場の先輩とプライベートでばったり遭遇。

 やたらリアルな塩対応に胃痛を覚えたつつドキドキした方は評価よろしくお願いいたします。m(__)m

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