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【二部完結】VTuberなんだけど百合営業することになった。  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第7章 だっだっだ うぉおぉ 大乱闘! スマッシュDスターズ
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第48話 突撃、隣のVTuber(後編)

「しかし立派なお家ですね。いったい何部屋あるんですか?」


「バスルームにトイレ、配信用の部屋に寝室、あとはダイニングキッチン。間取り的には2DKだから、そんなたいしたものじゃないのよ」


「いやいや、ひと部屋当たりのデカさが違いますよ。うちも間取り的には3LDKですけれど、こっちの方が断然広い。あと、お庭があるのがやっぱり良いですね」


「でしょ。夜になると照明が入って綺麗なのよ。それでいてリビングからしか見えないのもポイントが高いわ」


「お、空調が業務用じゃないですか! これだと年中快適ですね!」


「電気代はかかっちゃうけどね」


「システムキッチンも最新型だ! 便利な中置きタイプ! あと、人造大理石シンクなのもグッド! これだと水垢が目立ちにくいんですよね!」


「そうそう、そうなのよ! って、ちゃんと毎日掃除してるからね?」


「あ、お酒がいっぱい飾ってある! ずんだ先輩ってば、意外と飲んべえなんだ! これはいいこと知っちゃった! うそ、山崎25年だ! はじめて見ましたぁ~!」


「もー、勘弁してようみ」


 饒舌にべらべらと喋り散らかすうみ。

 お前はお宅訪問したタレントか。


 美月さんに招かれてダイニングキッチン。

 そわそわと落ち着かないうみを椅子に座らせる、いつも私たちが晩酌しているテーブルで配信前ミーティングをする。


 ホーローのマグカップに注がれて出て来たのは淹れ立ての紅茶。

 茶葉から煮出した香り高いアッサムティーだ。エメラルドグリーンを薄めたような缶に入ったそれは、イギリス王室御用達なんだそうな。


 紅茶を飲む時にはいつもこれを出してくれる――ということはない。「これはとっておきだから」と、いつもはTWININGSの缶入りの茶葉だ。

 うみが来たからって、美月さんてば見栄を張っているのだ。


「えぇ⁉ なにこの紅茶⁉ すごく香りがいいですケド⁉」


「そうでしょそうでしょ……ふふふふ」


 得意満面に微笑んで美月さんが紅茶をすする。

 まぁ、こういう子供っぽいというか、お茶目な所も美月さんの可愛いところだ。

 ほっこりした気分で、私は正面に座る『氷の女王』あらため『フローズンドリンク(たぶんオレンジ味)の女王』を眺めた。


 隣り合って座る私とうみ。

 そして、美月さんとりんご先輩。


 正面で向かい合うのは美月さんと私。このポジション――いつも宅呑みで自然にとる位置――だけは、どうしても譲ることはできなかった。


 別にだからどうなるってわけでもない。

 けど、ちょっぴり幸せ。


「それじゃ、この後の配信なんだけれど……」


「あ、そうだ! ずんだ先輩の配信部屋、すごく気になってたんです! リビングに配信設備がないのを見ると――やっぱり配信部屋を別に用意してるんですよね!」


「あぁ、うん、まぁね……」


 うみの食いつきに美月さんが歯切れの悪い返事をする。

 何をそんなに心配することがあるのだろう――なんて思ったが、ふと彼女の特殊すぎる配信環境が頭を過った。


 いざという時のため、配信用PCと機材を二台揃えている美月さん。

 私としては「夢のよう&配信者魂を感じる」すばらしい部屋だけれど、一般人からしたら「なにこれ?」というかなりオタッキーな部屋だ。

 人に見せるのは勇気が要るかもしれない。


 すると、なぜかここでりんご先輩が会話に割って入ってきた――。


「それなんだけれどね、うみちゃん、ばにらちゃん」


「りんご先輩?」


「ずんさんの配信部屋ってけっこう狭くてさ。二人くらいなら余裕でコラボ配信できるんだけれど、四人でやるとなるとちょっと窮屈かなって」


「え⁉ それじゃもしかして、ずんだ先輩の家だとご迷惑でした⁉」


「いやいや、そんなことないよぉ。Nintendo64のコントローラーを、4個持ちしてるのはずんさんだけだから。ずんさんの家で配信するのはマストだよ」


 そんな美月さん頼りで、よくコラボ配信をしようとか言い出したなぁ。

 それだけ信頼しているのか、それとも考えなしなのか。なんにしても、りんご先輩の無計画さがちょっと鼻についた。


 そして――しれっと「美月さんの事情」を「知っているアピール」してくるのも。


 なんだろう?

 私に対する当てつけかな?

 そんなの私も当然のように知っていますが?

 美月さんが持ってる実機ハード、全部言えますがなにか?


 気まずそうな顔で紅茶を啜る美月さん。

 そんな彼女に変わり話を進めるりんご先輩。

 自然に話を任されているのも、また私をイラッとさせる。


「というわけで、収録機材をこの部屋――ダイニングキッチンに運んで、ここで収録しようと思ってるんだ。幸いなことに液晶画面もLANケーブルも揃ってるからね。パソコンさえ移動させちゃえば、後はなんとかなるかな~って」


「なるほど! それは名案です! 流石はDStarsの黒幕、りんご先輩!」


「それって褒めてるのぉ~?」


「……まぁ、配信予定時刻まで時間もありますし、別に構いませんバニですけど」


「ばにらちゃんもありがと~。きっと分かってくれると思ってたよ~」


 なんだそれ。

 まるで「私もずんさんの配信部屋の事情を知ってるから、口裏合せてくれるよね?」みたいな言い草だな。


「あれ? どうしたのばにらちゃん? そんな怖い顔しちゃって?」


「……あれ? ばにらどうした? なんでお前、急にそんなジェラってんだよ?」


「別に、ジェラってるわけじゃないですよ。ただ、自分からスマブラ対決を提案してきた割りには、計画性がないというか、行き当たりばったりだなって思って……」


「えへへぇ~。行き当たりばったりでごめんねぇ~」


 満面の笑顔でりんご先輩が誤魔化してくる。

 この人、絶対に悪いなんて思っていない。


 この笑顔に、多くのDStarsメンバーが騙されている(ずんだ先輩を筆頭に、いく先輩、ゆかり先輩)けれど、私は絶対に騙されないぞ。


 キッとにらみ返すと、りんご先輩が「お~こわ」と身を引く。

 すると、なぜだか隣の美月さんが申し訳なさそうに目配せしてきた。


 どういう意図かは分かりませんが――全ての元凶はこの泥棒猫です。

 貴方がそんな顔をする必要はありません。


 うみのスケジュールを確認して、コラボの予定を詰めるくらいなんだから、これくらいのことは予想できたハズだ。高性能なノートパソコンを事務所から借りてくるとか、根回しをしておいて欲しかった。


 とはいえ、間違ってもりんご先輩は先輩。

 表立って噛みつくようなことはできない。


 私は視線を伏せて紅茶に口を吐けると話をうやむやにした。


「それと、FaceRigの調整データがないんだよね。事務所から送ってもらってもいいんだけれど」


「あ、ぜんぜん委員長は立ち絵で大丈夫ですよ!」


「ごめんねうみちゃん。【一人だけ】立ち絵になっちゃって」


「オフコラボですからそういうのはありますって。おっと、カフェインを摂取したら急に下半身が――すみませんずんだ先輩、お手洗い借りてもいいですか?」


「あ、それなら僕が案内するようみちゃん」


 まるで自分の家のように、うみをトイレへと案内するりんご先輩。

 美月さんと二人、ダイニングキッチンに取り残された私は、じとりとした視線を目の前の百合営業相手へと容赦なく浴びせかけた。


 なんの落ち度も彼女にはないのに。


「そんな怖い顔しないでよ、花楓」


「……別に。ずんだ先輩とりんご先輩はつきあいが長いですから。私なんて、最初から入る余地ありませんよね。気にしてなんていません」


「花楓、そのことについてなんだけれど……」


「なになに~? 二人して僕のこともしかして話してた~? もしかして、人の居ぬ間に悪口って奴かにゃぁ~? ひどぉ~い、傷ついちゃうぞぉ~?」


 ゆっくり話す間もなく、ダイニングキッチンにりんご先輩が戻ってくる。


 まったくもう!

 いきなりコラボ配信は決めるし!

 その癖に段取りはグダグダだし!

 我が物顔でうみに美月さんの家を案内するし――!


「……ほんとサイアク」


 そんなこと言う方がサイアクだと分かっているのに、私は呟くのを堪えきれなかった。幸いなことに、ずんだ先輩にもりんご先輩にも気づかれなかったけれど。


 やっぱりうみが言った通りなのかもしれない。


 私――りんご先輩に嫉妬してる。

 絶対にずんだ先輩の相棒として敵わないって分かっているのに。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 主人公じめじめ回。今回はこの調子がずっと続く――ということはありません。

 この章内で、ばにらとりんご&ずんだとりんごの関係について、ちょっと方向性が見えてくると思うので、見守っていただけると幸いです。


 重たい内容だけど、重たくしすぎないようにするのも大事。絶妙なハラハラ感を味わいたい、そして最後はちゃんとハッピーエンドで終わって欲しい――という方は、ぜひぜひ評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m

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