表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/754

第43話 DStars 夢のVTuberタッグバトル(前編)

 打ち上げは深夜四時過ぎまで続いた。

 そこから徐々に人が寝落ちし始め、気づけばみんな思い思いの場所で眠っていた。


 すず先輩とぽめら先輩が同じクッションで肩を寄せ合い眠る。

 ゆき先輩とあひる先輩が取っ組み合うようにカーペットに転がる。

 もみじ先輩はといえば、ローテーブルにもたれかかり「はみょん」と寝言を呟く。

 いく先輩が部屋の隅で体育座りのまま船を漕ぎ、うみはそんな彼女にすがりつくようにうつ伏せで気を失っていた。


 私と美月さん――そしてりんご先輩も、ソファーの背もたれを倒してベッドにし、そこで眠りについた。先輩二人は、ライブの疲れもあってかすぐに寝てしまったが、私はなかなか寝付くことができなかった。


 次に目を覚ましたのは翌朝の10時過ぎ。

 あひる先輩が既に起きており、部屋の片付けを黙々と行っていた。すぐに手伝おうとしたが「いいっていいって、もう終わるから」とやんわり断わられた。


 部屋からは既に何人か先輩たちが居なくなっている。

 聞けば、ぽめら先輩を迎えに彼女の旦那さんが来たらしく、彼の車でゆき先輩ともみじ先輩、すず先輩は帰ったんだそうな。


「ばにらはどうする? 電車で帰る? それともうみが起きるまで待ってる?」


「えーっと、どうしようかな……?」


「ずんだとりんごは、今日は一緒にショッピングに行くらしいから。いくは、あひるが家まで送るから。ばにらの好きにして大丈夫だよ?」


「……そう、なんですね」


 ショッピングの話は初耳だった。


 本当は美月さんが起きてから、タクシーで一緒に帰ろうと思っていた。

 けど、りんご先輩との約束があるならそれはできない。


 ソファーに寝転がっている美月さんを見る。

 彼女は私に背を向けて、りんご先輩の肩に手を伸ばすようにして眠っていた。

 りんご先輩はといえば、そんな美月先輩の手から逃げるように、貸し出しのブランケットにくるまっている。


 ただの寝相だ。意味なんてない。

 けど、なんで――。


「……ばにら?」


「え? あ、はい?」


「どうしたんだお前? なんか、ちょっと顔怖いぞ?」


 あひる先輩の心配そうな声で我に返る。

 私はソファーから立ち上がると、「顔洗って来ます!」あわてて部屋を出た。


 共用部の廊下を駆けてお手洗いに。

 人工大理石の洗面台に立てば、酷い顔をした女が鏡に映っていた。

 酒も呑んでいないっていうのに。


「どうしちゃったんだろ、私……」


 自分でも自分がおかしいことには気づいている。

 美月さんとりんご先輩が喋っている時に、胸に抱くこの感情はなのだろう。


 嫉妬ではない。

 羨望でもない。

 もっと漠然とした不安。


 配信者なんてやっているのに、この気持ちを言葉にすることができない。


 とりあえずお湯を出して顔を洗う。

 ペーパータオルで顔を拭けば、酷い顔はいくらかマシになっていた。

 ただ、涙袋の赤みが取れるのには、少し時間がかかりそうだった――。


◇ ◇ ◇ ◇


「ばにらちゃん、それは嫉妬だね。りんご先輩にずんだ先輩を盗られちゃう――っていう感情から来るものだよ。『I’s』と『いちご100%』で恋心を学んだ、ザ・恋愛マスターの八丈島うみが言うのだから間違いありません」


「……相談するんじゃなかったバニ」


 帰りのタクシーで、私はうみに洗いざらい自分の心境を吐露した。


 駆け引きも何もない。

 タクシーが出発するなり、私は心から信頼する同期に助けを求めた。

 誰かに聞いてもらわないと心がもう保たなかった。


 後部座席に隣り合って座るうみは、当初こそ面倒そうな顔をしていた。だが、結局は生来のお人好しを発揮し、真剣に私の話に聞き入ってくれた。


 その上でのアドバイスが、この浅い回答である。


 流石に私も落胆するよ。

 単なる嫉妬なわけないでしょ。


 私が美月さんとりんご先輩に抱いているのは、もっと特別な――。


「もっと特別な感情に違いないとか思ってるんでしょ? それ違うから! ごくごく一般的なジェラシー! 女子高校生とかが高二くらいでやらかす奴! 仲良しグループの中で、一人の子を独占したくなる甘酸っぱい青春の過ちだから!」


「なに言ってんの? ウチらもう2……」


「委員長は永遠の17歳ですから! ばにらちゃん! 実年齢のお話はやめましょう! そろそろ徹夜明けの心と身体に効いてしまう年齢だわ!」


「すまんバニ。けど、絶対これは嫉妬じゃ……」


「ばにら? アンタ、もしかしてだけれど――高校時代からボッチだったの?」


「……んなわけないバニよ。ばにーら、普通にカラオケ行ったり、ゲーセン行ったりする友達はいたバニよ。修学旅行もハブられなかったし。本当バニよ」


「その口ぶり。『あぶれ者同士でグループ作ったはいいけれど、根本的な趣味が合わなくて、学校を卒業したら縁が切れちゃった』感じね」


「……なんでわかるの?」


「わからいでか! なぜなら委員長もそうだからです! って、言わせんなこんな悲しい記憶! 中学まで! 高校からはちゃんとした友達を作りました!」


「じゃあ、一人の子を独占したいっていうのは、実体験?」


「いや、それはまた話が違うんだわ。どっちかっていうと、委員長が仕掛けられた側といいますか、排斥されたといいますか。最初に作った仲良しグループでね、妙に百合百合した二人組ができちゃって、それでまぁたいへんなことに……」


「じゃあやっぱり違うバニな。ばにらとずんだ先輩は、ビジネス百合だから」



「ガチ百合じゃろがぁあああああああい!!!! どっからどう見ても立派な先輩・後輩社会人百合じゃろがぁあああああああい!!!! 百合系レーベルから出版されてもおかしくないくらい、乳繰りあっとるじゃろがぁあああああああい!!!!」



 タクシーの中で絶叫するのはやめてもろて。


 運転手さんの咳払いに、私とうみは無言で頭を下げた。

 事務所と専属契約しているタクシー会社さんなので、安心してプライベートの話ができるのだけれど、いくらなんでもはっちゃけ過ぎた。


 反省。


 溜息を吐いてうみがパンプスを脱ぐ。

 ベージュのタイツに覆われた足先をくにくにと伸ばしながら、彼女は「どう言えば分かるかなぁ……」と物憂げに呟く。


「こればっかりは経験してないと理解できないと思うわ。だから、ここで私がどれだけ言葉を尽くしても、ばにらは納得しないんじゃないかな……」


「……そっか」


「ただまぁ、一つだけ言えることは――『束縛』しても良い結果にはならないってことかなぁ」


「『束縛』って?」


「ずんだ先輩に『りんご先輩ともう合わないで!』とか『私だけを見て!』とか、そういうことを求めても、それは結果としてお互いの首を絞めるだけというか……」


「…………そんなこと、言えないバニよ」


「まぁ、そうだよね。そこんところは、安心だよねばにらちゃんは」


 バカにしてるのか慰めてくれてるのか。

 分かんないので、とりあえず私も靴を脱いでうみの足を蹴った。


 夏の名残にうだる東京の街をタクシーが走っていく。

 午前10時の道路は車でひしめいており、阿佐ヶ谷のアパートに着くのにはまだまだ時間がかかりそうだ。


「ちなみに、その百合百合してた友達はどうなったバニ?」


「今はお互い結婚して子持ち。そんでもって、同窓会で一緒になっても絶対に口を利かないの。ひどい別れ方しちゃったから、そりゃしょうがないんだワ。女子校って、そういう所があるからサ……」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 拙者高専(男子率クソ高)の者。女子校の話は創作にござる。(たぶん)

 仲良い二人に遠慮しちゃってグループ崩壊って、小説なんかではよくあるパターンですよね。友人関係って本当に難しい……!


 ばにらの相談にのる健気なうみ。彼女もなんだかんだで友達思いというか、同期愛に溢れているというか。そんな姿にうるりときたら、ぜひぜひ評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ