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【二部完結】VTuberなんだけど百合営業することになった。  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第二部 百合営業している先輩とその親友が、なぜか私にちょっかいをかけてくる件について
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第40話 VTuberですが百合営業相手の記念ライブで大トリを務めることになった件について

「みんなぁー! 今日はずんだの3D生誕ライブに来てくれてありがとぉー! 長くなりましたが、これが最後の楽曲だよぉー! どうか聞いてください――」


 プロジェクタが3D撮影スタジオのスクリーンに、ライブ会場の映像を投影する。

 会場内は美月さん――青葉ずんだのファンたちでひしめいている。彼女のイメージカラーであるイエローグリーンのペンライトを握りしめ、ファンたちはクライマックスの楽曲発表を待っていた。


 嵐の前の静けさとはまさにこのこと。


 一方、3D撮影スタジオでも、出番を終えたゲストとスタッフが、一時間ぶっ通しで歌い続ける美月さんに心配の眼差しを向けていた。


 アニソン&戦隊ソングが主軸の激しい選曲に、モーションキャプチャースーツは汗に濡れ、美月さんの息は完全に上がっていた。モーションをリアルタイムで補正することで、舞台のファンにその疲労は伝わらないが、もういっぱいいっぱい。

 そんなヘロヘロの状態でも姿勢を崩さないのは、やはり元女優だ。


 ファンに「最高のステージを見せる」というプロ意識が伝わってくる。


 それはもう――私の胃が痛くなるくらいに。

 だって、すぐ隣に立っているんですから。


 うみの「はやくやれ! ずんだ先輩、しんどそうだろ!」という視線。

 同期からの発破に、3D撮影スタジオ中央の撮影ブースに立つ、私こと小嶋花楓――川崎ばにらはマイクをオンにした。


 ライブ会場に川崎ばにらの3Dモデルが現れる。

 ステージに背を向けて出現した彼女は、青葉ずんだの方を振り返ると、胸の前で腕を組んで仁王立ちのポーズを取った。


 これだけの演出のために、二日もかけて猛特訓したのはいい思い出だ。

 注文が細かいんじゃ――ずんだ先輩もすず先輩もうみも!


「お姉さま! 『アレ』を歌うわ!」


「えぇ、よくってよ!」


「「『トップをねらえ! ~FLY HIGH~』!!!!」」


 クライマックスに選んだアニソンが流れ始める。

 最高潮を迎えたファンたちが雄叫びのような歓声をあげた。


 80年代ロボットアニメの金字塔。後に続くロボットアニメーションの流れを決定づけた大傑作。レトロゲー配信者「青葉ずんだ」のファンが知らぬはずがない。

 そこに輪をかけて私たちの関係性――ビジネス百合の先輩・後輩が、彼らの興奮をこれでもかと煽ったようだ。


 会場を彩る光に、私のイメージカラーのアクアブルーがごく自然に混ざる。


 かくして、『青葉ずんだ生誕祭ライブ』の最終曲は、ファンたちの興奮と熱狂、最後の「ずんばにてぇてぇ!」というコールにより幕を閉じた。


 熱唱を終えて美月さんが私の方を振り返る。

 顎先に滴る汗をファンから見えない角度で拭うと、彼女は私に近づいた。


「というわけで! 最後のゲストはこちら! 川崎ばにらちゃんでしたー!」


「みんなーこんバニー! DStars3期生の川崎ばにらバニー!」


「……DStars3期生の?」


「なにバニ? ばにーら、なにかおかしなこと言ったバニか? いつもの配信の挨拶をしただけバニですけれど?」


「違うでしょばにらちゃん? 私たちは大切な百合営業相手なのよ? 三期生と百合営業のパートナー、いったいどっちが大事なの?」


「誕生祭ライブの締めでする話じゃないバニ!」


「はい、もう一回!」


「……えー、『ずんさんの百合営業相手』の川崎ばにらです」


「二人合わせて『ずんばに』でーす! いぇーい! ぴぃすぅぴぃすぅ!」


 会場からドッと笑いが沸き起こる。

 3D撮影スタジオでも、ハイテンションなずんだ先輩のMCに笑いが起こった。

 巻き込まれたこっちとしては、たまったもんじゃないけど――大切な百合営業相手に、文句を言えない私なのだった。


「ほら! ばにらちゃんも一緒にぴぃすぅぴぃすぅ!」


「いやですバニ! 恥ずかしいですバニじゃん!」


「おやおや、先輩の言うことが聞けないのかな?」


「だからずんさん! ライブの終わりにやることじゃないバニ!」


「……待ってばにらちゃん?」


「……なんですかずんさん?」


「いつから『ずんさん』って呼んでたん? また呼び方変えたの? なんで?」


「どうでもいいバニですじゃん! ほんと、この人面倒くさいバニぃ!」


 私の名前は小嶋花楓。

 職業はVTuber。世界一のチャンネル登録者数を誇る、DStars3期生『川崎ばにら』の中の人をやっている。


 そんな私は数ヶ月前、金盾(チャンネル登録者数100万人)達成に浮かれて根回しなしの凸待ち行い、『15分間誰もやってこない』という配信事故を起こした。


 人気絶頂のナンバーワンVTuberにあるまじき大失態。

 めでたい配信のハズなのにコメント欄はお通夜に突入。

 もう枠を閉じようかと半べそかいていた所に、颯爽と駆けつけてくれたのが、今私の前にいる『青葉ずんだ』――の中の人こそ湯崎美月さんである。


 それまで一切絡みがないどころか『コラボNGの氷の女王』と恐れられていた彼女の登場に、私は内心ビビり散らかした。

 しかし、始まってみれば配信は『質(V用語で質が良いの略)』の一言。

 お通夜からの大盛り上がりで、同接数記録更新の大成功となった。


 それで話が終ればよかったのだが――。


「青葉ずんだ、川崎ばにら。君たちにはこれからしばらくふたりで活動してもらう。つまり――『百合営業』をして欲しい」


 予想外のシナージを見せた私たちに事務所は注目。

 社長直々に『百合営業』の辞令を言い渡されてしまったのだ。


 まぁ、そこからなんやかんやあって(一番大事な所)、当初の関係からは想像できないほど仲良くなったり、私がバカで美月さんの地雷を踏んだり、周りの支えで復縁したりして、今も順調に『百合営業』をさせていただいております。

 プライベートでも仲が良く、今では週一(多いと週三)で晩酌する仲です。


 これがはたして『営業百合』なのか『ガチ百合』なのか。

 ばにーらはオタクだけど、そっち方面には詳しくないので分かりません。


 ただ、美月さんが大切な人ってことは間違いないです。


 そんな先輩の誕生祭ライブで、大トリを勤めさせていただいた訳ですが――。


「けど、ばにらちゃんに『お姉さま』って呼ばれるの、気持ちよかったかも」


「え、ちょっと? なに変なこと言い出すんです?」


「もう一回! もう一回、ずんだのことを『お姉さま』って呼んでみ?」


「いやですバニ! なにその気になってるバニですか!」


「言ってよ! 言って! ばにらちゃん! ワンモアセイ!」


「ずんだ先輩! それよりほら、そろそろ記念グッズの告知とかを――」


「言え(圧)」


「……はい、お姉さま(スン)」


「やーん! ばにらちゃんかわいい! ずんだがぎゅってしてあげる!」


「だから! この後の予定を考えてもろて!」


 これが『百合営業』かと久しぶりに戦慄しております。

 3D撮影スタジオ内をぐるぐると逃げ回る私とずんだ先輩。そんな二人の3Dモデルがフェードアウトして、会場はしばし暗闇に包まれた。

 と、ここで前撮りしてあった『誕生祭記念グッズの販促映像』が流れ始める。


「はーい、ずんださん、ばにらさんおつかれさまでした!」


 事務所スタッフのBちゃんが本番終了の声をかける。

 メンバー&スタッフが一段落にほっと息を吐く。


 同じく息を吐いて立ち止まった私は――後ろから近づいて来た美月さんに抱きつかれた。演出ではなかったのかと驚く私の頭に、すりすりと彼女は頬ずりする。

 ドキドキとお互いの心臓が高鳴っているのは、きっとライブのせいだろう。


「おつかればにら。歌もダンスも、ばっちりできてたわよ」


「あ、ありがとうございます! それより大丈夫ですか? 疲れてませんか?」


「これくらいなんてことないわよ。アンタと違ってジムで鍛えてるから」


「……むぅ」


「けど、ちょっと疲れちゃったから、ばにらちゃんで休ませて貰おうかな~?」


 そう言って私にぐっと体重をかけてくる美月さん。


 容赦ねえ。

 これ本気で甘えに来る時の奴や。

 あと――ぺえ(V用語でおっぱいの意)の感触がスーツだからやばい。


 私のことを離さないずんだ先輩。

 メンバーの前ということもあって離れようとしてみるが、生きるのに最低限の筋力しかないばにーらには、体幹つよつよの美月さんを引き剥がせないのだった。


 あぁ、今日も美月さんいい匂いがする。

 言うて、私もお揃いのシャンプーのハズなのに。


 私と美月さんでなにが違うの――。


「あー、ばにらちゃんいけないんだー! こんな所で、ずんだ先輩とイチャイチャして! ずんばにてぇてぇだからって、リアルでイチャコラしちゃいけないんだぞ!」


「うみ……よかったら代るか?」


「うんうん、今日もばっちり百合営業してるねぇ。ずんだをここまでたらし込むとは、やるねぇばにらちゃん! このDStars特待生、海の生駒の目をもってしてもこのガチ百合展開は読めなかった!」


「言ってないで助けてくださいよ! すず先輩!」


「こーら、その辺にしときなさいずんだ。ばにらが困ってるでしょ」


「ぽめら先輩! やっぱり頼りになるのは、ぽめら先輩バニ!」


「ところでばにら? 石に興味ってあるカナ?」


「この流れで急に怪しい商売はじめます⁉ ダメだ、ぽめら先輩もお疲れでボケ(暴走)モードに入ってるバニぃ⁉」


 収録明けの笑いに包まれる3D撮影スタジオ。

 ここから「さぁ、あとは打ち上げだ! 今日はカロリー消費した分いっぱい呑むぞおらぁ!」――と、うみ辺りがいつもは言い出すのだけれど。


 今日はそうはいかなかった。


 会場から聞こえてくる「アンコール」の声。

 その声に、少し残念そうな顔をして私から離れる美月さん。

 私の髪をくしゃりと撫でると、長い黒髪を後ろでバレッタでまとめた美女が笑う。「いかなくちゃ」と呟いて、彼女は私を残して再び撮影ブースへ舞い戻った。


 私がいない撮影ブースに。


 うぅん――『真の相棒』がいる撮影ブースに。


「……りんご準備はOK?」


「もちろん。今日のためにしっかり調整してきたよ」


 美月さんの隣に並ぶボーイッシュな女性。

 銀色に染めたショートのウルフカット。片方の目を隠し、見えている目はカラーコンタクトで黄色に光っている。左耳はびっしりと銀色のピアスが覆っていた。

 その身体はずんだ先輩と比べれば小柄で平坦だが――見る者を異性同性問わずに黙らせる問答無用の美しさがある。


 ずんだ先輩が『氷の女王』なら、彼女はさながら――『氷の王子』。


「みんなぁー! アンコールどうもありがとぉー! 戻ってきたよぉー!」


「ちょーっと待ったぁ!!!!」


「えっ……⁉ そ、その声はまさか……⁉」


「このアンコール! 悪いけれど……僕がジャックさせていただくよ!」


 アンコールからの突然の舞台暗転。

 緑色を基調にしたステージが一瞬にして赤色に染まる。プロジェクションマッピングで切り替わったステージは、怪盗や秘密結社のような妖しさを見る者に思わせる。


 ステージに映し出される「ERROR」の文字と「赤い林檎の爆弾」。

 爆発音と共に――彼女はステージに姿を現わした。


 赤いショートボブの髪にツンと先が尖った黒い猫耳。

 服装は黒いラバースーツに真紅のパーカー。そして目元を隠すマスク。

 腰にぶら下げるのはガンホルダーと泥棒の七つ道具。


 彼女こそ、DStarsの泥棒猫――。


「津軽りんご参上!」


 DStars特待生『津軽りんご』。

 ずんだ先輩の同期生にして、個人勢時代から親交のあるVTuber。

 そして『りんずん』のカップリングで知られた、ずんだ先輩の相棒だった。


 彼女こそこのライブの真の大トリ。

 親友にして相棒の『青葉ずんだ』のライブアンコールを、こうしてジャックしたのは他でもない。彼女の『配信復帰の宣伝』のためだ。

 長らく喉の発声不良により、病気療養をしていた彼女は、復帰報告の場所に――『親友のライブのアンコール』を指定したのだ。


 そう、今日のライブは『青葉ずんだの生誕祭』であると同時に、『津軽りんごの復活祭』でもあった。


「ずんさん! 悪いけれど、アンコールの最後の曲は――この僕が差し替えさせてもらったよ!」

 

「ぬわぁ、ぬわぁんだってぇっ⁉(棒読み)」


「もうちょい感情こめてもろて。というわけで、アンコールソングは――」



「「『マクロス(フロンティア)』から『ライオン』!!!!」」



 ライブ本番で見せた最大の熱狂をあっさり塗り替えて、ずんだ先輩とりんご先輩は歌い始めた。青葉ずんだのファン――レトロゲーマーならば、高確率で履修しているロボットアニメ。そのロボットアニメの中でも最高峰の知名度を持つシリーズかつ、古参のファンと私たち新しいファンを繋いだ作品。


 作中に出てくるダブルヒロインがデュエットするその曲は――かわいい系のずんだ先輩、カッコいい系のりんご先輩、二人のイメージとぴったりとハマる。


 まさに、真の大トリにふさわしい名曲だった。


 気が付けばライブ会場で揺れるサイリウムは、イエローグリーンとエンジレッドで埋め尽くされていた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 第一部で百合営業カップルとして強い絆を結んだばにらとずんだ。

 そんな二人の間に「ヒロインの親友が割り込んできたらどうなるの?」という、百合コメディとなります。はたして『津軽りんご』は、どのように二人の仲を引っかき回すのか。そして、三人の関係(+α)はどういう形に落ち着くのか。


 なお、番外編の方で年末企画などへの言及がありましたが――その辺りについての整合性はとりあえず置いといていただけると助かります。番外編でいうと「ダンス・ダンス・ダンス」の直後、8月~9月の頃のお話と思っていただければ幸いです。


 再びはじまるVTuber百合営業物語。

 気になった方は、ぜひぜひ評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m

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