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【二部完結】VTuberなんだけど百合営業することになった。  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第5章 届け! これがVTuberの全てをこめた「クリア耐久配信」だ!
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第33話 兄貴と私と同期と先輩(後編)

 その後も、多くのDStarsメンバーが応援に駆けつけてくれた。

 朝型メンバーの起床時刻と被ったのもよかったのだろう。


「おはよー! お母さんVTuberの秋田ぽめらでーす!」


「おはようございます、ぽめら先輩!」


「おはようございますバニ! お子さん、大丈夫だったバニか!」


「うん! 旦那がちょうど修羅場抜けたから、今は面倒見てくれてるよ! それより――おい! そこのおっきな子供たち! 徹夜でゲームなんてしちゃダメでしょ!」


「「ひぃん!」」


 ぽめら先輩からお叱りの凸電を受け。


「おっす! 君の隣の悪友系VTuber! 羽曳野あひるだよ!」


「あひるてんぱーい! 来てくれたんですねー!」


「あひる先輩。おはようございますバニ。大丈夫だったバニか」


「うん! あひるは朝方だからね! 今も朝雑談しようとしてた所! そしたらさぁ――なに、耐久配信とかなにやってんの?」


「いやぁ、なんかラジオ終わってから盛り上がっちゃって」


「お互い、退くに退けなくなっちゃって」


「もしかして徹夜って――コト⁉」


 これまた朝配信のために早起きしたあひる先輩から凸電を受けた。

 あと、ちゃんと飯を食うように念押しされた。


 他にもうみの人脈でいろんな先輩たちが凸しくれる。

 このコミュ力お化けは、いつの間にここまで人脈を広げていたのだろう。

 あらためて彼女の対人能力のすごさに驚かされる。


 配信開始直後の「いつか私を倒す!」という宣言は案外冗談ではないのかも。

 今後、この同期生が、自分の後ろを脅かし、あるいは前に立ち塞がる――なんて予感を私は胸に抱いた。


 そんな中「3期生」のボイスチャンネルに一斉に人がやってくる。


「やっほー! うみ、ばにら、頑張ってる?」


「ふたりともぉ、深夜からおつかれさまぁ~! 頑張れ太郎だよぉ~!」


「ふたりでなに面白そうなことしてるの! うさぎも混ぜろ!」


「えるふ、しのぎぃ、うーちゃん!」


「おっ、3期生全員集合だ! 何も言わないのに集まる! これが3期生の絆! くぅ、こいつらと同期で本当によかったわ……!」


 同期の3人が応援に駆けつけたのだ。

 思いがけない3期生集合にチャンネルは大盛り上がりだ。

 しかも、誰が音頭を取るでもなく、自発的に「みんなで凸しよう」となったらしいからたまらない。


 うみも言ったが彼女たちが同期で本当によかった。

 これぞ、3期生の絆だ――。


「いやほんと、ばにらがここまでやるとは思ってなかったわ。こいつ、シューティング苦手だって言うからさぁ、完全に私が勝つと思ってたのよ」


「舐めんな! ばにらはこれでもゲーム配信で数字稼いでんだよ! むしろ、プレイしたことあるのに不甲斐ないうみが情けないバニよ!」


「はいはい、ふたりともせっかくの休憩なんだから、落ち着いてもろて」


「あと少しでゴール。どっちが勝つか、ドキドキ太郎だね」


「決めた! 今日は学校サボってうさぎもそっち行く! 私もゲームする!」


「「「「そこは勉強しなさい現役大学生」」」」


「ぴぇん!」


 同期生だからこそできる気を使わない会話。

 そんな会話を経てメンタルもフィジカルも十分に回復した。


 同期がDiscordから抜けると、私とうみは、いよいよ雌雄を決するべく、液晶ディスプレイをにらみつける。


 両者ともに4面。

 話によればここを超えれば最終面だ。

 はたしてどちらが先に、ラスボス――「ボ帝ビル」を倒すのか。


 だが、その前に申しわけなさそうな顔でうみが俯いた。


「……来ないな、ばにら」


「……なにバニか?」


「ごめんな。もしかすると、私の作戦は失敗だったかもしれない」


 配信に乗らない小声でのやりとり。

 流石に徹夜でゲームをしているのだ、多少の無言時間は許してもらえた。


 くしゃりとうみが後ろ髪をかき乱す。

 彼女の指の動きに合わせてポニーテールが荒々しく揺れた。

 ため息ともうめき声とも判別できない音がその唇から漏れる。


「ずんだ先輩。お前が苦戦してたらきっと凸してくると思ったんだ。あの人、お前の配信はいつも見てるからさ」


 これだけしてもずんだ先輩は姿を現さなかった。

 場もしっかり温まっている。出てきておかしくないタイミングだ。

 なにより、この配信を彼女は見てくれているはずだった――。


 なのに音沙汰がない。

 それほど、私はずんだ先輩を傷つけたのだろうか。


 瞳から涙があふれ出そうだった。

 けれど、今は配信中。


「大丈夫。気にしてないよ」


「……ばにら」


「それより、そろそろゲーム再開しよう。リスナーを待たせちゃまずいよ」


(集中しろ『川崎ばにら』。お前はトップVTuberだろう。配信をしているなら、今は目の前のことに全神経を使え――)


 そう強く自分に言い聞かせる。

 コントローラーを握りしめる。


 かくして横並びで再開された「超兄貴」。

 そのまま、ほぼ同時に私とうみは4面をクリアして最終面へと突入する。

 中ボスを倒し、残すはラスボス「ボ帝ビル」のみ。彼が待つ、最終決戦場に向かう狭い通路とそこに押し寄せる敵に、私は大いに取り乱す。


 自機が壁に挟まれた。

 残機は0。ゲームオーバー。

 ステージスタートからまたやり直しだ。


 その横で――。


「いよっしゃあ! ボ帝ビルきちゃぁーーーーっ! ばにらぁ、どうやら先にボスにたどり着いたのは、私のようだな!」


「……うみ!」


 私が越えられなかった場所を越え、うみがラスボスに辿りついた。

 まさか一発クリアはないだろう。いや、しかし、うみはシューティングゲーマー。配信でも東方をこれでもかとやりこんでいる。


 残機は1。

 この条件ならワンチャン勝つ可能性はある。


 負けるのか川崎ばにら。

 ここで八丈島うみに。


 コメント欄に溢れかえる応援メッセージ。

 うみのリスナーが「行け!」「ここで決めろ!」「うみちゃんなら一発でクリアできる!」と、チャンネル主を応援する。

 遠征してきた私のリスナーが「早くコンテニューして!」「まだ挽回できるよ!」「ばにらちゃんならできる!」と、あわてて励ます。


 けれども、私の心は震えない。

 逆境で心を奮い立たせる「何か」がたりなかった――。


『でゅははは! どうも、DStars特待生の「青葉ずんだ」だよ!』


『もしもし、ばにらっちょ? 今、何面におるん?』


『まぁ、やっちゃったのはしょうがないわ。次のゲームで取り返しましょう』


『それ! ずんだもまさにそう思った所よ!』


『私なんかに話してよかったの?』


 コントローラーが手からこぼれ落ちた。

 あわててポーズボタンを押したけれど、それを握る気力が湧いてこない。

 何かが私の中でぽっきりと折れたのを感じた。


 ずんだ先輩からの応援が欲しい。

 あの人から背中を押してもらいたい。


 金盾配信失敗から立ち上がった時のように。

 突発コラボで奮起した時のように。

 公式企画の逆転劇を起こした時のように。


 私の過去を受け止めてくれた時のように――。


「……ずんだ先輩」


 その時、私のスマートフォンが震えた。

 聞き覚えのないコール音。何が起こったのか一瞬分からなかった。

 だって、入れたはいいけど使っていないLINE経由での連絡だったから――。


 そう、つい先日まで「登録者0」だったLINEの着信。

 今も一人しか登録していないトークアプリ。


 私は急いでスマホを耳に押し当てた。


「なにやってんのよ川崎ばにら! ここまで来てあきらめちゃうわけ!」


 聞こえてきたのは思った通りの人物の声。


「……ずんだ、先輩!」


 昨晩、別れてしまったきりの先輩がスピーカーの向こうにいた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 戦意喪失した「川崎ばにら」に「青葉ずんだ」はどんな言葉をかけるのか!

 次回! 耐久配信決着――!


 面白かったら「☆を入れてれ~~!!!!(超兄貴だけに)」、お願いいたします。m(__)m

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