第21話 逆転優勝こそ対決動画の華(後編)
プレイ順は、後発組がステージ内容を把握できることから、現在の総合ポイントが高い順で行われることになった。
「あっ、ちょっとぽめら先輩! そっちの亀を止めてください!」
「無理無理無理! こっちは蟹を相手するので手一杯だから!」
「ちょ、こっち来んな亀! 清楚な私とぽめら先輩に近づくんじゃねえぇっ!」
「あぁっ! ファイアボールきちゃぁあぁっ!」
イキった割には赤チームはそれほど得点を伸ばせなかった。
10ステージもいかずに残機が尽きてゲームオーバー。接地している敵をひっくり返す「POW」ブロックも残して、なんとももったいないプレイだった。
うみは「まぁ、最後だし、ちょっとみんなに希望を持たせてあげても、いいかなと思って」と道化を演じていたが、どうみてもいっぱいいっぱいだった。
続いて、問題の緑チーム。
「しのぎ、お前に亀はまかせた」
「あひる先輩……?」
「あひるは、この『POW』の下で、いざっていう時にスタンバっておくから。だから、全部しのぎが敵を倒してくれ。大丈夫。あひるが『POW』を叩くから」
「分かりました! じゃあ、それで!」
ジャンプしながら移動できないあひる先輩は、まさかの『POW』下に陣取る作戦に出た。しかし、残念ながら『POW』は使用制限回数がある。
あっという間に3回を使い切ったあひる先輩。
彼女を守るために無茶をして、残機をガンガン減らすしのぎ。
ふたりは、一分も保たずにゲームオーバーとなった。
あひる先輩はしのぎの胸で泣いた。
事務所で一番でかいと言われているしのぎの胸を彼女は涙で濡らした。
そんなあひる先輩を眺めるしのぎの顔が、「変な性癖に目覚めたヤベー女」みたいに見えたけれど、それはきっと気のせいだ。たぶんきっと気のせいだ。(白目)
続いて、思いがけない健闘を見せたのは青チームだ。
「すず先輩そっち亀行きます」
「はい、倒したー! あ、えるふちゃん、フリーザー!」
「はい処置!」
「ナイス処置! いやー、やるねぇえるふちゃん!」
自称経験者だと豪語しただけあり、ふたりのプレイは見事の一言。
どころか、十年来の友人のように息の合った協力プレイを見せつけてくれた。
ステージも10を超え、敵の移動スピードも速くなってくる。
いったいいつまで続くのだろうか。もしかして全クリするんじゃないか。
そんなことを思わせるほどの見事なふたりのプレイは、ステージ22というなかなかの高ステージで終了した。
「いやー、えるふちゃんやるね。『マリオブラザーズ』で、生駒のスピードについてこれたのは、君がはじめてだよ」
「いやいや、たまたまですって」
「今度、生駒たちも併走配信しよう!」
「いいですね! 負けませんよ!」
すっかり企画そっちのけで仲良くなったすず先輩とえるふ。
なんか意外だなと思ってしまった。
さて、これで青チームが1位に躍り出た。
私たちがこのゲームで1位を獲ればそのまま優勝。
2位なら青チームの優勝。
3位なら赤・青チームが同点優勝になる。
黄チームの順位でがらりと結果が変わってくる。
注目が集まる中――私たちはゲーム機の前に座る。
「さぁ、ずんださん、ばにらさん、準備はよろしいですか?」
「オッケーですバニ!」
「おらよ! やってやるでな!」
「気合い十分ですね。それでは――最終ゲーム黄チームスタートしてください!」
Bちゃんのかけ声で私たちは一斉に動きだす。
操作方法は、二日前にプレイした「スーパーマリオブラザーズ」と変わらない。
あの時の感覚を思い出せば行ける――。
「ほら、さっそくきたでなばにら!」
「ほんとだ! 蟹さん!」
「ずんだが下から叩いてく動けんようにするから、ばにらが蹴って倒したって」
「いやバニよ。蹴る前に復活したらどうするバニか」
「いや、そこは作業分担でしょ⁉」
「いやバニ! 責任持って自分で処理してくださいバニ!」
「協力プレイで何を言ってんだオメェ! 優勝するんじゃなかったんか! ばにらのやる気は、そんくらいのもんやったんか!」
「だからって危険な仕事を押しつけないで欲しいバニ!」
「先輩の言うことが聞けないの!」
「理不尽な命令には当然応えられないバニ!」
どっちが蟹(雑魚)を倒すかで揉める私とずんだ先輩。
まったく協力の気配のない私たちの間に、すっとBちゃんが割って入る。
「あのー、おふたりとも。このゲームは、協力プレイするものですので……」
「「Bちゃんは黙ってて!」」
「……はい」
司会のBちゃんを沈黙させて私とずんだ先輩は考えた。
もとより普通の協力プレイなど、我の強い私たちにできるはずがないのだ。
となれば、創意工夫で挑むしかない――。
「普通にやっても、ばにらたちじゃヌルゲーすぎてつまらないバニよねぇ!」
「それ! ずんだもまさにそう思った所よ!」
「どうせやるなら『協力』じゃなくて『対戦』で勝負しないかバニ?」
「どっちが先にヘマして残機が0になるか! 面白い! そっちにしましょう!」
「バーニバニバニバニバニ!!!!」
「デュハハハハハハハハハ!!!!」
協力プレイはやめだ。
我の強いゲーム配信者の私たちは自由に動き回ってこそ真価を発揮する。
対戦プレイをした方が絶対に良い。
あくまで作戦。バチギスってるわけじゃない。
そこには私たちなりの作戦があるのだ。
そしてそれが可能だと、私たちは確信していた。
先日の併走配信でのやりとりで――。
「ぶっ殺してやるぜクソ兎がよう!」
「下剋上してやるバニよ! クレイジーマッドドッグ!」
かくして私とずんだ先輩は、出てくる敵を各自で処理しつつ、対戦相手の邪魔して「マリオブラザーズ」を楽しんだ。
どちらがより長く生き残れるか。
ハイスコアをたたき出せるか。
ガチで「対戦」したのだ。
やっぱりずんだ先輩は、共闘している時より、競い合った方が面白い。
この人と一緒にプレイするゲームはお世辞抜きに楽しい。
「はい! そこまで! そこまでです!」
「待つバニ! まだ、決着はついてないバニ!」
「そうだBちゃん! ばにらを倒すまでやらせろ!」
「もう、青チームのスコアを抜いてます! ゲームオーバーまで続けると、尺がたりなくなるので、ここで打ち切らせてください!」
気がつけば、私とずんだ先輩はステージ25にいた。
協力していないのでスコアがたまるのが遅かったのだろう。
まさかハイスコアに加えて、到達ステージまで更新してしまうとは。
けれど、まだ決着はついていない。
私とずんだ先輩、どちらの腕が上か――。
「続けるぞばにら! どっちが上かはっきりさせるでな!」
「望む所バニ! キャンって鳴かせてやるバニよ!」
「……いいかげんにしなさい!」
無理に続けようとする私とずんだ先輩。
そんなふたりの間に再び割って入ったBちゃんは、ミニファミコンの電源ボタンを押した。
画面から映像が消える。
軽快な8ビット音楽も聞こえなくなる。
「「うぁあああああああああっ! なにするのお母さん!」」
「お母さんじゃありません!」
Bちゃんから、怒りの母リセットを喰らった私たちは盛大に叫んだ。
叫んだけれども、もう「マリオブラザーズ」のステージ25は戻って来なかった。
かくして、会社公式のレトロゲー企画は終った。
勝利の余韻よりも、ゲームを途中で消されてしまった虚しさを胸に残して。
☆逆転優勝 黄チーム(青葉ずんだ&川崎ばにら) 8pt
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
協力(?)して得た「勝利」で深まる絆。
勝利の美酒は二人をどう変化させるのか。
続きが気になる方は、どうか評価お願いいたします。m(__)m