第20話 逆転優勝こそ対決動画の華(前編)
最終ゲーム直前のチームのポイントは以下の通り。
赤チーム(秋田ぽめら&八丈島うみ) : 5pt
緑チーム(羽曳野あひる&石清水しのぎ): 4pt
青チーム(生駒すず&五十鈴えるふ) : 3pt
黄チーム(青葉ずんだ&川崎ばにら) : 2pt
うみとぽめら先輩の赤チームがぶっちぎり。
次の試合で3位以下にならない限り優勝確定という状況。
緑チームは次のゲームで1位になっても、赤チームが2位なら同点1位。
青チームも赤チームが2位なら総合得点で負けて2位。
そして、黄チームは次のゲームで1位になっても、赤チームにポイントで勝てない状況だった。
最終ゲーム開始前のアイスブレイク。
動画に「休憩中」の文字を出しつつ、マイクを切ってしばし歓談。
「まぁ、変に白黒つけるより、同点1位の方がいいか」
ずんだ先輩がぼやくように言った。
「勝負事は真剣にやらなくちゃ! 仲良く並んで一等賞なんてダメですよ!」
「……アンタって、ほわほわしてるようで結構シビアよね」
「……はい?」
あくまで勝敗はしっかりと決めるべきだと主張する私に、「分かったわ」とずんだ先輩があきれ顔で頷く。
なにが分かったのだろう?
不思議に思う私の前で「ちょっといいかしら」と彼女がBちゃんに歩み寄る。
「最終ゲームだけれど、今のままだと私たち黄チームの単独優勝があり得ないわ。これだと動画的には面白くないわよね?」
「まぁ、確かにそうですね」
「どうかしら、最後のゲームの得点を倍にするのは?」
「オーソドックスですがいい提案ですね!」
得点2倍なら1位は6点加算。黄チームでも合計8点になる。
2位の得点が4点なので赤チームと緑チーム以外が2位なら単独優勝できる。
冴えた提案にBちゃんはすぐさま飛びついた。
それと同時に休憩終了のアラームが鳴る。
「それでは最終試合をはじめます。ですが、ここで盛り上げるために特別ルールを追加します。最終ゲームの加算点数は――なんと2倍です!」
「えー! せっかく赤チームが勝ち確だと思ったのにー!」
「はい。そうなると場がしらけますよね。最後まで緊張感を持って勝負に挑むためのテコ入れです。これで、黄チームも単独優勝の可能性が見えてまいりました」
「やったバニ! 次こそ1位になって、優勝バニなずんだ先輩!」
「その通り! DStarsで誰が一番のレトロゲーマーか、白黒くっきりぱっちりお見せしてさしあげましょう、でございますわよ!」
「おふたりとも負けフラグ立てるの上手ですね」
「「負けフラグとか言うな!!」」
「さて、最後のゲームは『スーパー』じゃない方の『マリオ』! 『マリオブラザーズ』を協力プレイしていただき、ふたりの得点の合計で勝負します!」
最終ゲームはまさにレトロゲーム企画のトリを飾るにふさわしい名作ゲーム。
さらに、コンビ勝負のコンセプトを最大限に活かすゲームだった。
元祖「マリオブラザーズ」。
土管から出てくる敵キャラを、下からどついて転がし蹴り飛ばすアクションゲームだ。忘れられがちだが、元々マリオは横スクロールアクションゲームではなく、スコアアタックをするゲームなのだ。
シンプルかつ奥深い「マリオブラザーズ」は、リスペクトもこめてマリオシリーズの多くでミニゲームとして移植されている。ファミコン版をプレイするのははじめてだが、ミニゲームならプレイした経験があった。
これなら少しくらいは戦える。
いや――絶対にこれで逆転してみせる。
「それでは最後のゲームを前に、みなさん意気込みをどうぞ!」
まずは1位の赤チームにBちゃんが視線を向ける。
得意満面、すっかり調子に乗っているうみ。
彼女はふふんと鼻を鳴らすと胸を反らせた。
そんなうみの横で、ぽめら先輩が鼻をかきながら苦笑いをする。
「まぁ『ドンキーコング』に比べれば、排水溝の中なんて狭い世界ですよ。軽くひねってやりましょう。ねぇ、ぽめら先輩?」
「あははは、完全に調子に乗ってますねこれ」
続いて、青チームに話が振られる。
「こう見えて、生駒は『マリオブラザーズ』は得意なんですよ! ゲームボーイアドバンスのマリオには、必ず『マリオブラザーズ』のミニゲームが入ってたからね!」
「私もそれやってましたー! これならなんとかやれると思います!」
すず先輩とえるふが経験者だとここで暴露する。
ゲーム機は違うが、これは大きなアドバンテージだ。
けど――すず先輩、アンタ本当に現役女子高校生なのかい? なんでゲームボーイアドバンスなんて古いハードを知っているの?
17歳なら3DSの世代だと思うんだけれど?
続いて、緑チーム。
「うーん、拙者は、ちょっとやった覚えがないですねぇ。あひる先輩ごめんなさい、拙者はお役に立てないかもしれません」
「大丈夫だよしのぎ。あひるたちはここまでよく頑張ったよ。ベストを尽くそう」
「……あひる先輩!」
こちらは既にあきらめムード。壊滅的にゲームセンスがないことを自覚したあひる先輩がそう言うと、素直にしのぎは従った。
どうでもいいけど、なんかふたりとも距離が近い気がする。
いや、しのぎの奴があひる先輩にそれとなく距離を詰めているのか。
しかもなんだ、その恋する乙女のような顔は?
こいつまさか――!
「では、最後に残った黄チーム! 意気込みをどうぞ!」
同期の怪しい素振りに不安を感じた矢先、Bちゃんから話を振られてしまった。
気持ちを切り替えると、私はすっと息を吐いて川崎ばにらの仮面を被る。
「あー、『マリオブラザーズ』? ばにーらたちは、つい先日『スーパーマリオブラザーズ』をやったばっかりバニですから物足りないですな。ねぇ、ずんだ先輩?」
「まったくもって、おっしゃる通りでございます」
「まぁ、軽くひねってやりますよ。ねぇ、ずんだ先輩?」
「まったくもって、ばにーらさんの、おっしゃる通りでございます。この勝負、私たち、負ける気がいたしません。対戦、よろしくお願いいたします」
先日の併走配信を引き合いに出してビックマウスを叩いておく。
すると満足げに頷いたBちゃんが「ありがとうございます」と頭を下げた。
「ほんと、ふたりは負けフラグを立てるのお上手ですね」
「「だから負けフラグじゃない!!」」
かくして、最終ゲーム「マリオブラザーズ」がはじまった。