俺を助けた奴は、有難く思うがいい!
【注意】
※本作の主人公は「クズ」です。
我々がいる世界とは違う世界。
いわゆるファンタジーなどに出てきそうな剣と魔法の世界だった。
これは、そんな異世界のお話である。
極寒の雪原地帯。
吹雪は荒れており、しっかりと防寒をしていないと最悪死に至るであろう。
ある時、防寒服を身に纏った現地の人間が脚を若干雪に埋まりながらも歩いていた。
どこかへ行こうとしているのか、もしくは家に帰ろうとしているのかは分からない。
とりあえず、吹雪の中を歩んでいた。
すると現地人は不思議なものを目の当たりにする。
それは氷の塊だった。
しかしただの氷の塊ではない。
なぜなら氷の中に人影のようなものが見えたからだ。
現地人は深く考えはせず、本能に従いながら微力ながらもその氷を横にして転がしながら運び始めたのだった。
現地人は小屋に着き、家の中に氷の塊を転がしながら入れた。
そして自分も小屋の中に入るとすぐに扉を閉めたのだった。
部屋には大きな氷の塊がある。
現地人はすぐに暖炉にある薪に火をつけて部屋を暖め始めた。
普通なら「手遅れ」だと思い諦めるところだが、現地人は僅かな希望を捨てず助けようとするのだった。
それからしばらくのことだった。
部屋の中は暖かくなってきて、氷の塊はどんどん溶け始める。
そして全て水と化した後、お風呂で溶けるたまごのおもちゃの如く中から一人の男が現れた。
現地人はすぐさま男の安否を確認するために揺すり始める。
男は立派な服装で、言ってしまえば「戦士」のような姿をしていた。
しばらく揺すっていると、男は目を覚ました。
そして身体を起こして周りを見渡し、現地人を見る。
寒さのせいか、もしくは元からそうなのかは分からないが、男の顔色はとても悪かった。
そして人相も悪かった。
それはともかくとして、意識を取り戻した男を見てホッとする現地人。
しかし直後に男の口から出た言葉に驚愕することになる。
「おい、ここはどこだ。」
なんと第一声が上から物を言うような「タメ口」だったのだ。
当然現地人は目を丸くさせている。
「俺は雪の道を走っていたハズだぞ。」
遠慮なく会話を進める男。
どうやらタメ口で通すつもりらしい。
現地人は諦めて男に先程のことを説明し出す。
すると男も納得した様子だった。
「なるほどな。 つまりは貴様が俺を助けたと言うわけか。」
「貴様」という二人称が気になるが、現地人はなにも言わずに頷くだけだった。
すると男は立ち上がる。
現地人はお辞儀をして感謝の言葉を言うのだと予想をしていた。
・・・しかし実際は違った。
「ありがたく思え。 俺を助けることができたことを!」
そう意味不明な言葉を述べた。
流石の現地人も口を開けてポカーンとしている。
しかし男は現地人に構わず、家の外に出ることができる入口の扉に向かう。
「さてと、こんなボロっちい場所からはおさらばだ。」
信じられないことだが、そう言いながら扉まで歩いたのだった。
現地人はフリーズしてしまった。
しかしやはり男は後ろを向いて遠慮なく現地人に声をかける。
「なぁ。 雪原地帯を抜けるにはどっちに行けばいいんだ?」
相変わらずタメ口である。
しかしこの短時間で現地人も慣れてしまったのか、黙って雪原地帯を抜けることができる方向を指した。
普通ならここで感謝の言葉がもらえるハズであろう。
だが男は命の恩人に一切感謝の言葉を言おうとはせず、前に向き直して無言のまま扉を開けてそのまま外へ出ていった。
しかも一切現地人を見ようとはせずにだ。
嵐でも去ったかのような感覚に襲われる現地人。
聞こえるのは外の吹雪の音のみだ。
なんと、男は入口の扉を開けたまま出て行ったのだ。
男の氷が溶けて床が濡れている。
さらに入口から吹雪が入ってきて床をさらに濡らす。
現地人は色々なことが起きて頭が働かず、ただ足の力が抜けて地面に座るだけだった。
男は雪原地帯を抜けて、緑輝く大地に出るのだった。
そう草原に出たのだ。
防寒なしで雪原地帯を抜けるなど、普通なら自殺行為だろう。
だが、なぜかこの男は大丈夫だった。
確かな理由は全くない。
だが、なんとなくな理由はあるにはある。
それは、この男が「勇者の元仲間」だったからというモノだ。
この男の名は "ダリス・ガルベルト" 。
元々は勇者の仲間として共に旅をしていた。
・・・そう、「していた」。
今は勇者たちとは行動をしていない。
なぜなら「追放された」からだ。
この物語は勇者のパーティを追放された男「ダリス・ガルベルト」の復讐劇である・・・。