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《サイレントオーは計画経済、ダークロードが旧支配勢力を焼き払ってゼロから造り上げた理想郷とされている。旧王国を打ち倒しセントラルガルドを統一した皇帝は、王族や貴族・豪商などの尽くを処刑若しくは全財産を取り上げて国を平らにした。

 奴隷を解放し、身分階級を無くして平等にし、国が安定・形になるまではエリートから没収した財産を使って配給制にする。苦しいながらも神暦1181年頃から約10年という長い年月をかけて大陸の勢力構造を一新した皇帝は、今日に至るまで340年以上も続く大帝国を造りあげたのだ。》

 1月4日の午後1時過ぎ。

 レヴィシアと銀の夜明け団一行は、【サイレントオーの首都アンサーフェッシュ】の隅にある、外来地区に集まって次の作戦準備を進めていた。

 バレット号を襲撃した翌日と翌々日、その2日間は戒厳令が敷かれて軍隊やら検問所が展開されたり、諜報機関がテロリストを探し回るなどと大騒ぎだった。その所為で彼女らは首都に中々近づけず、中に入れたのは騒ぎが落ち着いて来た3日目の今日。

「いつ見てもつまらない都市だな」

「全くだ息が詰まりそうになる」

 格差を作ってはいけない、競争をしてはいけない、華美な装飾は禁止とする。神と契約して不老不死になった皇帝は、自ら質素倹約を国民に示して見せ、争うことの無意味さ求める事の愚かしさを常に説いてきた。

「全てが四角い鉄面皮で統一規格、どこに住んでも同じ家」

「地震・津波は怖くない頑丈さだけが取り柄の建物だ」

「飢える事はないが」

「満たされる事もなく」

「投資が無ければ株もない」

「全てを偉い皇帝様とリーダー(管理者階級)が決める理想郷」

「安心・安定で国民は怒れないけど」

「娯楽や賭け事は多くが規制・禁止ときたもんだ、あーつまらないつまらない」

 大陸の外にある国は自由なので戦争や格差はあるが、楽しみもあるのだとレヴィシアは今は亡き先代の団長とか副団長からよく聞かされる。綺麗な服とか美術品やら宝石を子供の頃に見せられて、いつかは自分で……と思うもサイレントオーでは手に入らない。

「服や宝石を買わずにパンと水だけを買いなさい」

「余ったお金は全額寄付しなさい、お金が手元にあるから余計な事を考えるのです。労働には正当な対価ってもんがなぁーーーー」

「皇帝やリーダーが質素倹約なので」

「庶民は遊びを知らず治安の良さは世界一、あーつまらないつまらない」

 サイレントオーの各都市は4つの層に分けられる、【皇帝から始めてリーダーと国民及び外来層(国・都市や町の外から来た人)の4種類だ。】分けられているが階級による生活の差はあまりない。

 人はそれぞれ住む場所が決められており、それは基本的に仕事の内容によって決めらるのだが、業績とか国への貢献度によってもある程度は上下する。

「家とか老後を心配しなくていいのは凄い事なんだぞ」

「楽だよなぁほんと、つまらないつまらない変化が無くてつまらないっと」

 娯楽が余りなく質素倹約の住みにくい管理社会だが、代わりに伸びる物もある。

「真面目な国民が作り上げる軍隊は最強だ、魔神も恐れて近づけない」

「神様だって寄り付かない、正義を説くことが出来ないからな」

「悪魔を支配し」

「天使や精霊を従えて目指すは」

「世界統一」

「世界は醜いもので溢れているのに、何故みんな理解しようとしないのか?」

「面白くないからに決まってる」

「闇帝に従わない他の国は?」

「どうなるんだろうな、つまらないつまらない世界なんてもう嫌だ」

 団長のレヴィシアともう1人、副団長の赤座・新政は外来人用のホテル7階のバルコニーで簡素な木のテーブルに座りながら雑談をしていた。


 《レヴィシア達がいるバルコニーは外気を遮断するガラスに覆われていて、薪ストーブで暖かくしながら都市を眺められるちょっと贅沢な作り。ホテルの高い所から見下ろす都市の風景は、白い着物を着ているかのような美しい白の世界。》

 《郷に入れば郷に従えという訳で彼女は、帝国産の綿で作られた灰色のロングスカートに長袖の服を着て、日差し対策(顔を隠す意味もある)につば広帽子を被っている。》

 【華美な装飾や色とかは人心が乱れる原因!  服装規制法】

 【スカートは丈は膝より下で露出は絶対ダメ! 好色禁止法】

 法律に違反して警察に連行された人は、服やアクセサリーを没収された上に(外来人でも容赦なし)、罰金を取られて既定の服装に着替えさせられる。

「ここがこの辺りのホテルで一番豪華な部屋なんだとよ」

 外来地区のホテルは全て政府の管理下にあり、4号店は他より幾らか設備がよくて値段も高い。その最上階にあるスイートルーム乙、甲は国王とか政府高官用なので民間としてはここが最高級のホテルになる。

「スイートは他よりセキュリティが緩めだから選んだんだが」

「「一泊20万Rリムも取る癖に……」

 酷い所だなと部屋の方へ顔を向けつつレヴィシアは溜息をついた。

 《高いだけあって広いがそれだけ、バルコニーから繋がるリビングは10畳と広いけど絨毯は柄のない白一色の羊毛。白い壁に絵画は掛かっておらず、観葉植物は花の咲かない緑の葉っぱだけで、照明の電飾シャンデリアは支柱が灰色で明かりの数は最小限。

 ここから左右へ幾つかの部屋が分かれるが、リビングが此れなので他は推して知るべしと言う質素な作りである。》

 【建築物装飾法に逆らう建物は全て取り壊されて土地は没収されるのだ。】

「ぼったくりだろこれ、他の国なら大クレームだぞレヴィシア」

「質実剛健、嫌ならサイレントオーに来るなが闇帝様の方針だったか。ワインセラー位はあってもいい気がするが……

「資産家にはそれに相応しい節度と、対価を要求するのが我が国の方針です。【嗜好性物品規制法の金粛条文】により、資産家の方は酒類やタバコが通常価格の3倍となり、飲み過ぎないように制限を付けさせて頂きます。だってよ」

「使い切れずに余ったお金は、どうぞ恵まれない人に寄付して下さい」

「そんなに金持ちが嫌いなのかこの国は」

「黑い話は星の数ほどある訳だが……」

「つまらないつまらなさ過ぎて嫌になる」

「頭を押さえると物価の上昇を抑えられるとか聞いたけど」

「つまらないつまらない、規制される生活なんて俺は嫌だからな!」 

 先日の戦い振りから一転、淑女らしく慎ましい振る舞いを強制されて、今にも暴れだしそうな銀の長髪をしたレヴィシアの前に座るのは中年の男。

 《【赤座・新政あらまさ34歳、若くして第2級魔導士になれた元陸軍将校。】

 魔法使いや魔導士とは元来、自由な存在であり趣味の為なら国と喧嘩し、テロリスト扱いされても平然と突き進むような変わり者。やりたい事をやらせてくれない、欲しい物があるのに手に入らない、自分はこんなに賢くて強いのに他の国だと……

 そうやって不満を募らせていた頃に闇帝の命令を受けて、先代団長である【革命の父ライア】の討伐に向かった新政は、逆に説得されてしまい特S級テロリストとしてサイレントオーへ刃向かう事になる。》

 《服装は囚人服のようだと彼が言う通りに、灰色のズボンにスニーカーと長袖のシャツに簡素な腕時計だけ。黒髪で帝国では禁止される男の長髪を堂々と後ろに纏めて、時々女性に間違われたりする美形な男は巷で少し人気がある。》

「見ろよレヴィシアこの街並みを、建物は全て同じ形をしてるんだぜ」

 不満をタラタラ言い合いつつ、部屋から再び都市へと顔を向けた新政は、まるで仇敵を見るように都市を睨みつけていく。《それらは長方形の家を分割した統一規格であり、他はどんな理由があっても認められない。

 住むには少々不便な所だが、画一化された都市風景は観光客に受けがいい。》

「家を飾ることに意味は無いんだったな」

「壁に塗るペンキの色まで規制されちまうんだぞ、やってられるかってんだ」

「みんなが同じ物を作って使い、平等に分配すれば格差のない理想郷になる」

「お前はどっちの味方なんだレヴィシア!」

「怒らないでくれよ新政。にしてもだ……」

 《贅沢な造りだった前ヴェルラ王の城とその首都を更地に戻し、そこへ規則正しく家を並べて造ったのが首都アンサーフェッシュ。百数十万人が済むこの首都は六角形型をしていて各角に防衛塔が建つという強固な造りになっている。》

「都市だけでなく城まであんなにしなくても……」

 【他人にやらせるのだから自分もやらなければならない。】

 首都の外にドンと構えるオルタナム城は、四角い積み木を積んで造った様な質素な造りをしていて、色は真っ黒と不気味さのある城。高い防御力と安い建築費を両立させた合理的な城なんだと、闇帝はよく周囲に自慢しているそうだ。

「闇帝が牢獄に住んでいる」と笑った外国のある大使は、八つ裂きにされてしまいそれが戦争の原因になったと言うのは有名な話。》

「ほんと恥ずかしい城だな世界中から笑われてやがる」

「並みの魔法ではびくともせず、城塞ゴーレムの主砲にも耐えるとか噂されているな」

「褒めるんじゃないレヴィシア! こんな酷い国は革命を起こして俺が倒してやるぞ」

「そんなに怒鳴らくても……ん?」


 誰かが扉を叩いて来るので返事をして入るように促すと、白のメイド服を着て頭に接客係として許されるリボンを付けたメイドが、白色の戦闘服に身を包んだ3人の兵士と並んで部屋の中に入って来た。

「どうした何かあったのか?」

「大変申し訳ありませんがお客様」

「国家侮辱罪とスパイ容疑でお前達を逮捕する、AFG本部まで大人しく来て貰おうか」

 《AFGとは闇帝が大都市を護らせる為に作ったスパイ防衛組織、アンサーフェッシュガーディアン(AFG)の事。AFGは軍隊並みの装備が使えて警察を自由に動かせる恐ろしい人達の事である。》

「えっ」

「なんだと」

「普段は警察が対応するのですが今は時期が悪いものでして、その……」

 《メイドの横に並んで立つのは警察官ではなく重火器を持った鎧姿の軍人、AFGの証として右胸にゴーレムの顔をした階級章が付いている。》直ぐに逃げる事を考えるレヴィシア達だったが、戦いになる可能性を考えつつ慎重に動くことにした。

「1月1日起きた大テロ事件は知っているな? 今は厳戒態勢中なのだ。厳戒態勢中だと言うのにお前らはペラペラとこの国を侮辱した、その罪により逮捕する」

「バルコニーの外で堂々とか丸聞こえだったぞ」

「こんな酷い国は革命を起こして俺が倒してやる、そう聞こえた気がするんだが?」

「新政」

「悪かったよ調子に乗り過ぎた」

「お前らは若しかして……」

「違う! 私達はテロリストなんかじゃない」

 バルコニーの椅子から立ってリビングに戻ったレヴィシアと新政は、その中央で武装した兵士達と向き合った。兵士へ近付くのには訳がある、魔法に自信はあるが2人は丸腰なので距離の開いた状態のまま、ライフルを使われると面倒なのだ。

 レヴィシアと新政はAFGに謝ったりして、この場を何とか誤魔化そうとするがそのような話を聞いてくれるような組織ではない。

「お前達がテロリストかどうかはAFG本部で決める。嘘を付いても無駄だぞ、魔法や薬を使うとか真実を語らせる方法は幾らであるんだからな」

「それはやり過ぎだと思うのですが」

「メイドは黙ってろ! もうお前に要はない下がって仕事に戻るんだ、分かるな?」

「御免なさいお客様」

 兵士に睨まれたメイドはレヴィシア達に頭を下げると、逃げるように部屋から出て行って兵士達は腰に吊り下げた手錠に手を伸ばす。

「どうあっても私達を連行するつもりか?」

「それが仕事だからな」

「金で話を付けると言うのはどうだ?」

「怪しい女だな」

「AFGは金で動かない」

「そうだろうな。新政……」

「ちっこうなったら」

「あのーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

「「「「「!!!」」」」」

 いきなり兵士の後ろで聞こえる調子の外れた声、睨み合っている5人の中でただ1人はこの声に覚えがあったので(まさかなぁ……)と思った。


「なに者だ貴様!」

 さすがはAFG、不意の声に反応して飛び退いた彼らは、背負った突撃銃を抜くと2人が怪しい男に向けて残りはレヴィシア達へ即座に向ける。

「随分と恰好が違うようだが、お前は若しかしてジルなのか?」

「ジルってこの前話していた奴か?」

「そうだ。変人だがやたらに強い女の敵だ」

「助けて貰った恩人に対して、感謝の一言ぐらいあってもいいと思うんだが」

「誰が貴様なんかに!」

「勝手にしゃべるな! 黒尽くめの男、お前も闇帝侮辱罪とスパイ容疑で逮捕する」

「闇帝侮辱罪? ああこれは拙かったな……」

 《頭からフード付きの黒いローブを被って纏い、着ている服も分厚い布で黒一色。靴は硬そうな黒革製で、足から指先に顔に至るまで布を巻いて隠しているという、いかにも疑って下さいと言わんばかりの格好でジルは立っていた。》

 【闇帝侮辱罪とは黒色のこと】で闇帝やリーダー以外、例え外来人であっても黒色の服を着ていると処罰の対象になるのだ。

「そこを動くなよ」

「はいはい」

 手錠を抜いた1人の兵士がジルに近づいて行く。どうぞ捕まえて下さいと殊勝な態度で両手を突き出した彼は、その兵士が側まで来ると右手をスッと挙げて「コントロールマインド」と魔法を発動させた。

「何をするか貴様!」

「騒がない騒がない」

 他の兵士は兵士はライフルを撃とうとトリガーに指を掛けるも、影から伸びてきた骨の蛇がその男に噛みくと痺れて動けなくなる。驚いた3人目も動こうとしたが同じように蛇に噛まれて動けなくなった。

「がは、ききさま……」

「コントロールマインドっと」

 立ったまま硬直する兵士達に向かってジルが魔法を発動させると、兵士達はそれぞれ光に包まれながら項垂れて、催眠術に掛けられたようにグッタリと動かなくなる。

「お前は一体!」

「動くな新政!」

 よく分からないがジルは危険だと判断した新政が、何らかの攻撃魔法を使おうと右手を突き出したその時だった。横に立っているレヴィシアが声を上げて、帽子の下から見るその目が本気だったので動きを止めるとその理由を聞く。

「話しただろ新政、ジルは私と高位魔族による3人掛かりの連携攻撃を、子ども扱いして捕まえた化け物なんだ。丸腰の私達では勝負にならないから手を出すんじゃないぞ」

「話が分かり易くて助かる」

「私は怒っているからなジル、お前は何がしたいんだ?」

「この前も話したが……」

 俺を銀の夜明け団に入れてくれないかとジルは要求するが、団長と副団長は揃ってお前なんか信用できないと断ってしまう。何度かやり取りを交わしたのち「分かった今回も諦める事にする」と引き下がったジルは、手招きをして兵士達を呼び集めた。

「何をするつもりだ」

「何って兵士を洗脳するんだよ。このまま帰したら上司に話してエリート部隊を引き連れて来るから、そうならない様に洗脳して記憶を書き換えておくんだ。AFGに追い回される生活なんて嫌だろ?」

「それはそうだが」

「人の洗脳は1級魔導士でも簡単に出来る事じゃないぞ」

「抵抗されるからな。慣れているから任せておいてくれ」

 おいでおいでと呼ばれた兵士達は、フードを被った怪しい男の前で整列。それからジルは骨の蛇が影の中から持ち出してきた、樫の木に紫水晶が付いた杖を受け取って右手に持つと左手を翳して魔力を注ぎ始める。

「その杖は?」

「オルトロンの瞳」

「なに!? まさか腐邪神の杖とでも言うつもりか」

「そうとも呼ばれているな」

「そんなに凄いのかその杖は?」

「オルトロン伝説って聞いた事ないかレヴィシア? 絵本とか小説では割かし有名な話だったりするんだが」

「聞いた事があるような無いような……」

「オルトロン伝説ってのはな……」

 《とある村の太り気味でモテない領主がある娘に恋をして、その娘を自分へ振り向かせるために村人の殆どを生贄に、魔神と契約を交わして力を授かると言う話。その領主は娘の恋人である騎士に倒されるのだが、【オルトロンの瞳】は魔神と繋がっていて、使うと相手の記憶やら性格を自由に書き換えられるとされる呪いの杖である。》

「その杖が本物なら使うには対価が必要になる筈だぞ」

「普通は洗脳する相手に対して相応しい数の生贄が必要だが、俺は対価が無くてもこの杖を使うことが出来るんだ。

「そんな馬鹿げた話があるものか」

「あるんだなぁそれが」

「その杖は偽物だろそうに決まってる」

「そうかも知れないな。好きに考えてくれさて……」

 ジルが兵士達の前で杖を掲げつつ魔力を送ると、杖に付いた魔法石が光って部屋が紫色の光に染まりだし彼は何やら呪文を唱え始める。

「オネゲーラ、ミエテーラ、カエテーラ、前に並んだ3人だぞオルトロン。ヤッテーラ、カエテーラ、タノムーラ、前に並んだ3人だぞオルトロン。オネゲーラ、ミエテーラ……」

「ジルはふざけているのか?」

「いや絵本の通りなら呪文はあれで合っている。あの杖が本物なら次は……」

「願いを聞き届けた〜〜けどタダは嫌ーーーー特別ぅ〜〜〜」

 ジルが呪文を唱えると何もない天井から間延びした太い声が聞こえて、「ひっ」と短く悲鳴を上げた女性は近くにいる男の腕にしがみつく。

「なんだ怖いのかレヴィシア?」

「そんな訳あるか! ちょっと驚いただけだ……」

 オルトロンがジルの願いを聞き届けると、グニャリと歪んだ空間からボタボタボタとゲル状をした黄緑色の液体が振ってきて、戦闘服を着た男達がそれに包み込まれる。

「だっ丈夫なんだろうなそれ!」

「魔法を使う癖にこの程度で驚いてどうする」

「そうだぞレヴィシア」

「私が変なのか?!」

「やり方は知ってるねぇ〜〜どう変えるのーーーー」

「カエテーラ、カエテーラえーーと……」

 少し考えてからジルはこの3人が、部屋に入って来る前からの分を含めた記憶を書き換えてくれるようにオルトロンへお願いする。

 まずレヴィシアと新政を密かに持ち込んだ酒で酩酊状態だった設定に変更。

「それからどうするの〜〜」

「カエテーラ、カエテーラつまらないつまらないと新政が話した部分を、楽しいな楽しいなにカエテーラ」

「ジルはいつから私達の話を聞いていた?」

「最初から全部だな、1月1日に分かれてからずっとお前を見張っていたんだ」

「なんだと」

「ストーカーかよ」

「失敬な。美人を守るのは男の義務なんだぞ」

「きさまーーーーーー」

「冗談は横に置いといて。カエテーラ、カエテーラ……」

 ゲル状の物体はウネウネしつつ、記憶を書き換える度に内側へ光を発射して兵士達に弱い電流を浴びせ続けている。ジルは新政が叫んだ革命で……という言葉を消し、戦闘態勢に入った記憶とか自分に関する記憶も消していった。

「これでよしと。次はだな……」

 オルトロンとの儀式を終える前に骨の蛇を呼び出したジルは、影の中から沢山のワインやブランデーにビール瓶とか、ハムやチーズの塊を取り出してテーブルに並べる。

「何をするつもりだジル?」

「何ってお前らが酒を飲むんだよ。酩酊状態なら多少の暴言は許されるからな、話を聞いていただろうが」

「逃げて行ったメイドはどうするんだ」

「後でちゃんと記憶を書き換えるから心配しなくていい、酒に酔って暴れたお前達を通報した設定にするんだほらっ」

 テーブルからビール瓶を持ったジルはレヴィシアに投げ渡し、続いて新政にブランデーの瓶を投げ渡していく。

「生温いビールか」

「贅沢を言うんじゃないさっさと飲んだお前ら」

 ジルを信用していのか? レヴィシアと新政は顔を向けあって考える。しかし他にいい案がある訳でもなく信用する事にした2人が、適度に酔っぱらった所で儀式を終了させたジルは、「後はうまくやるんだぞと」言い残して影の中に沈みながら消えていった。

「何なんだあの男は」

「私に聞かれても分からないな。それよりも……」

 ジルが居なくなった後もレヴィシアと新政は、バルコニーのテーブルに移動しながら次々に酒を飲んでは摘みを食べて行き、暫くすると床に立ったまま意識を失っていた兵士達が目を覚まし始める。

「何をやっとるか貴様らーーーーーーーー」

「何ってぇお酒を飲んでいるだけですけどぉ」

「皆さんも飲みますか?」

「ふざけるな! その酒はどこから持ち込んだんだ」

「どこって……」

 目覚めてレヴィシア達を見た兵士達は怒りだすけど、酔っ払いだと逮捕にはならず高い罰金を取られるだけでどうにか済ませられる。

「此れだから外来人は駄目なんだ」とか、文句を言いながら部屋から出て行く兵士達を見送りつつ、奴らより厄介なジルをどうするか? また沸いて出て来るんだろうな困ったなぁとレヴィシア達は悩むのだった。

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