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 嫌だ嫌だあんなのと戦うなんて絶対に嫌だと、武闘派のグリーチンは思っていた。サイレントオーが造られてからずっと、帝国の大司祭をしているグリーチンはジルの正体が直ぐに分かるも話す機会がなく、話してはいけないような雰囲気なので黙っている。

「あれと戦わずに逃げないかお前ら?」

「そんな恥ずかしい真似が出来るか!」

「高い金を払ったんだぞさっさと魔王を呼びだせ!」

 グリーチンは魔神王に命じられた監視役にして、有事には首都アンサーフェッシュを守る最後の砦になる、高位の中でもかなり上位に入る魔神族。その彼は条件を揃えれば魔王を呼び出せる資格を持った大司祭なのであるが、素直に嫌だと思った。

 グリーチンは魔神獣も呼び出せるが、戦略兵器を呼びだして戦わせると都市が灰になってしまうのでそんな怖い話はできない。

 (魔神獣でも無理な相手を魔王で倒せとか冗談ではない……)

 もっと詳しく話を聞いていればよかったとグリーチンは後悔する。変な神に付き纏われて困ってるどうにかして欲しいと泣きつかれた時は、調子に乗り高額を吹っ掛けてしまったけど彼は今もの凄く後悔していた。

「金は返すから頼む、お前ら俺に逃げていいと言ってくれ……」

 《彼は魔界の極北に国があるブルーサタン族、肌は青白くて目は銀色、法律が好きで規則正しい生活をする冷酷な悪魔達は、サイレントオーに相応しい種族になる。

 アイスグレーの髪で横を刈り上げたベリーショート、その顔に付けた白仮面の下はどんな表情なのか? 無様なのは嫌なので背筋を但し気品さを醸し出すも、本音では背を向けて直ぐ逃げ出したい位に怯えてしまっていた。》

「久し、いや。お前は誰なんだ名を名乗れ」

 (こう言う神なんだよな、いやだいやだいやだ……)

 ジルはグリーチンをよく知るが敢えて知らない振りをした。事情があるし、知らない事にしておくとグリーチンはジルへ挑むしか方法が無くなるのである。

「お、俺はだな……」(くそっこうなったらーーーーーーーーー)

 背中の翼を羽ばたかせ突如としてグリーチンは飛び上がった、彼が目指すのは静寂の水晶の天辺。さっさと魔王を呼び出してジルの相手をさせたら、その隙に自分は逃げてしまおうと言う腹積もりである。

 その様子を10m下から見上げているローブ姿の男は一言、「俺から逃げられると思うなよーーーーーーーーーー」と声を掛けてあげた。

 (読まれてるだと! いやだいやだいやだぁーーーーーーー)

 グリーチンはレヴィシアや猛雷と同じく、闇帝と一緒にジルに鍛えて貰った事があるのだがその過激さに耐えられず、一度本気で逃げ出したトラウマを抱えている。その師匠と呼んでもいい相手は覆面越しであるものの、自分へ笑いかけている様に見えてこういう時の師匠は本当に達が悪いんだと彼はよく知っていた。

 (バカ共が俺を巻き込みやがって、あれには関わりたくないんだ早く早く……)

「偉大なる魔神王セブラゴン様の名を借りて、我グリーチンがお願い申し上げる!」

 六芒星並んだ大水晶の中央に飛んで行き、大司祭が魔法石を持った両手を挙げつつ召喚を始めると、水晶が光り始めて同時に空中へ魔法陣が描かれた。

「太陽よりなお赤き者、夜の世界を紅蓮に染めたる覇者にして、黄金の斧を振る勇ましき姿は女神の如し。激しき炎は神をも殺し幾千もの命を喰らい、幾万もの命をひれ伏させて堂々と聳えたる偉大な魔王よ、我が意、我が契約に基づき愚かなる者への血の償いを求めて今ここに汝を召喚する! 出でよ魔王ラ・カーラーーーーーーー」

 召喚魔法の詠唱が進むと静寂の水晶が赤色に変わり、天辺に括り付けられた血染めのドクロと金貨の入った袋が燃え上がる。彼の魔力を受けた魔法陣からも炎が上がり、空高く燃え上がった炎は一つに纏まると人の形に変わって行った。

「あーーーーーーはっはっはっ……」

 暫くして炎が消え始めると、甲高い女性の笑い声に合わせてその姿が現れだす。


「魔王ラ・カーラ様の戦斧、神器フレアデスに焼かれたい愚か者は誰だい? 覚悟おし」

 《勇ましい声と主に出現した魔王は、サイレントオーの住人達にとって刺激が強過ぎるて即逮捕されてしまうような姿をしていた。金のビキニに高いヒール、金色のアンクやブレスレットにはダイヤとか高そうな宝石が付いている。》

「なぁジル私は思うんだが……」

「あんな恥ずかしい格好でよく戦場に出て来られるよな」

「魔王は鎧を着なくても平気なのか?」

「それはだな……」

 《魔王クラスとかには、マジックメイルと呼ばれる特殊な防御魔法がある。マヴェールを数段分厚くしたような魔法で、この鎧はオリハルコンよりも強固かつ全身を覆えて軽く動きやすい、透明なので見せたい部分を自由にできるのが最大の利点。》

「……魔力消費がバカでかいから人間にはお勧めしない魔法だ」

「彼女は露出狂なんだな」

「誰が露出狂だってーーーーーーーーーーーー」

 魔王が耳がいいのか上空からレヴィシアの呟きが聞こえたらしく、下にいるレヴィシアへ怒鳴ったラ・カーラはその隣に立っている男を見つけてしまう。

「彼奴はどこかで見た事があるような……‼ そこのお前どこに行くつもりだ!」

 側で動いた気配を察した魔王はその方向へと振り向いた、赤い瞳その視線の先に居たのは背を向けて飛び去ろうとする高位魔族のグリーチン。

「私を呼びだしたのはあんただね?」

「その通りで御座います」

 嫌で嫌でしようがないのだがバレたので仕方なく、振り返った大司祭は自己紹介をしながら右手を腰の辺りに当てつつ頭を下げた。

「なぜ逃げようとするグリーチン、無責任だとは思わないのかい?」

「それはその……」

 《邪蛇族ラ・カーラ、その正体は赤い鱗に覆われた大きな蛇。人間に変身した彼女は褐色肌に蛇の尻尾が付いて豊乳と、ビキニがよく似合う大人の女性である。蛇のように目が鋭くて凛々しい顔、長くウェーブの掛かった髪はもちろん赤色だ。》

「なんとか言いなグリーチン!」

 まるで蛇に睨まれた蛙の如し、神に怯えつつ魔王にも睨まれて縮み上がっている彼が可愛そうに見えたので、「そんなのは放っておいて魔王らしく戦いに集中しろーーー」とジルは上空に向けて言ってあげる。

「そんなのって、それはあまりにも……」

「クソ生意気な男だねぇ ――――! あっお前はーーーーーーーーーーーーーーー」

 改めて地上を見下ろしたラ・カーラはジルの正体に気が付いた、そして

「グリーチン! あんたは私にあんなのと戦えって言うのかい!!!」と怒り出す。

「しょうがないじゃないか! 成り行きでこう……」

「1人が怖いなら2人纏めててでもいいぞぉ、掛かって来いーーーー」

「魔王に向かってよくもこのぉ……」

 《【神器フレアデス】元聖神族の邪蛇族ラ・カーラが聖神ルーザから授けられた伝説の武器であり、此れで聖神族を斬り殺すのが彼女の生甲斐にして復讐になる呪いの斧。

 黄金に輝いていた等身大の戦斧は黒く塗られ、吸って来た血の分だけ更にどす黒くなったんだとラ・カーラは自慢する。両刃の戦斧の中心にある魔法石は、赤龍の瞳と呼ばれていて炎魔法の威力を数倍に高めてくれるそうだ。》

 その戦斧にレヴィシアとは比較にならない量の炎魔力を宿しつつ、 ラ・カーラは上空からジルへ斬り掛かろうと両手で縦に構えるけど動けない。

「グリーチンあんたの所為だからね、責任を取ってあんたも武器を構えるんだよ」

「ここから逃げると言う選択肢は無いのでしょうか?」

「そんなのは魔王たる私のプライドが許さない!」

「プライドとか戦場では何の役にも立たないのですが」

「ここから逃げたら私はあんたを、地の果てまで追いかけて八つ裂きにするよ」

「仕方がない。ジル様ーーーーーーーーー、今から戦いを仕掛けますがお願いだから俺達を殺さないで下さい。この通りお願いしますーーーーーーー」

「了解したーーー、適度に手を抜いてやるから安心しろーーーーー」

 空中にいる大司祭が身体を90度に曲げて頭を下げる姿を、猛雷や闇鬼衆とか他の兵士やAFG達は目を丸くして見上げていた。(俺達は一体なにと戦っているんだ……)とみんなが皆そう思い、続いて大司祭が発した命令で更にビックリする。

「今アンサーフェッシュに展開している、全ての軍関係者並びに警察・AFGへ大司祭グリーチンの名において厳命する。【何があってもジルには手を出すな!】 命が惜しい者はこの場から直ぐに去れ! 自殺願望者のみこの戦いへの干渉を許可する!」

 (全てという事は俺達も入るんだよな、どうすればいい……)

 魔力に載せて叫ぶ声は遠くまでよく響く、闇鬼衆より大司祭の方が立場は上で【大司祭の命令は闇帝につぐ影響力があるのだ。】その彼から命令を受けた猛雷は、いよいよをもって頭が混乱し辺りを見回しつつ考える。

「どうするお前ら? 俺はどうしたらいいと思う?」

「どうするってなぁ……」

「そんな事を聞かれても困るんですが」

 猛雷と40名弱の闇鬼衆達は顔を向け合いながら悩み、そうこうしていると彼らとは別になる部隊、儀式に客として配置されていた軍人の一人が、「あの〜〜、逃げていいって言うなら素直に逃げていいんじゃないですかね?」と横から提案する。

「……そうだな。闇鬼衆の任務をこれで終了する総意撤収!」

「了解」

 Fボードに乗って逃げ去って行く元仲間達を、複雑な思いで見送りながら(私も逃げたいなぁ)とか元団長は思ったりした。(逃げるってどこへ? 銀の夜明け団はもう無いし副団長は私の敵なんだぞ……)

「私はいつまで拘束されていればいいんだジル?」

「この戦いが終わって闇帝に会えるまでだ、それまで大人しくしててくれ」

「このままだと私は無抵抗で魔王の攻撃を受ける羽目になるんだが」

「へなちょこ魔王の攻撃なんかレヴィシアには通らないぞ、俺を信用してくれ」

 (へーーなーーーちょーーーーこーーーーーー)

 (止めろぉ止めてくれ煽らないで下さいーーーーーーー)

「私がジルを信用しようがしまいが拘束は解いてくれないんだな」

「その通りだ」

「やれやれだ」

 両手は前で骨蛇にグルグル巻きにされている炎爆の戦乙女は、はぁーーーと長い溜息を吐きながら諦める事にする。(何がどうなっている偽人間ってなんなんだ、私が今までやってきた事って……)


「掛かって来ないのかお前ら?」

「来ないのかってあんたは丸腰じゃないか」

「ジルと呼んでくれ丸腰が気に入らないなら……」

 そう話したジルは自分の影に手を向けて、呼び出した骨蛇から武器を受け取った。

「此れでいいか?」

「木刀で私と戦うつもりかい? 随分と舐められたもんだねぇ」

「木刀じゃなくて神木刀だ、特別な木で作られた此れは鉄より硬いんだぞ」

 (私を軽く見てる事に変わりはないさね)、ラ・カーラがイライライライラと不満を溜め始めると、戦斧の火力が上がるのでグリーチンは彼女から少し距離を取った。

「分かってるねグリーチン、手加減するんじゃないよ」

「言われなくても手なんか抜きませんよ」

 全力でやっても命が危ないのにそんな余裕は彼にない。

 《グリーチンの武器は腰ベルトにの左右に吊った4本爪のクローで、此れは【極凍神鮫牙】と言うジルから試練達成のご褒美に貰った武器。魔法石を加工して作られたクローは海のように綺麗な青色をしていて、オリハルコンよりずっと固い。》

「生意気に良さそうな武器を持ってるねあんた」

「此れはジル様に頂いた物だ。本気で行きますよジル様! はぁーーーーーーーー」

 武器がそうであるようにグリーチンの魔法は氷系、空中で両足を軽く開いて踏ん張りながら気合を入れて彼が全力を出すと、その体を守るように青白い炎が取り囲む。

「エンチャントアーマーだと!」

 《エンチャントアーマーとは、マジックメイルに魔法を足して強化した魔法鎧の事。ただ守るだけでなく接触するだけで相手を攻撃できるが、魔力の消費も当然増える。》

「あんたは本当に高位魔族なのかい?」

「魔王までは努力次第で人間でも超えられます。闇帝が正しくそうですし、人間に出来るなら俺に出来ても不思議ではありません。神にその必要性を認められればの話ですが」

「ふざけんじゃないよどいつもこつも……」

 (呼びだされた私よりグリーチンは、――――あり得ない私の方が強いんだ!)

 《イライラを超えて怒り出しゴゴゴゴゴと黒血色の戦斧に宿した、炎魔力の出力が上がると続けて「イヴァイタルアックス!」とカーラは魔法武器を発動した。イグニスが炎神ならイヴァイタルは火山の女神で、こちらの方が神格は上。この魔法は炎ではなくちょっと変わった戦い方になる。》

「爆裂魔法を使うとは過激な魔王ですね」(これは拙ったかな……)

「準備はいいかいグリーチン?」

「いつでもですよ」

「私を舐め腐りやがって、そのふざけた頭をぶち割ってやるーーーーーーー」

 (ぶち割ってやるね美人なのに過激だなぁ彼奴)

 上空から突っ込んでくる蛇女に対してジルは、神木刀に氷魔力を流してクリスタルのように硬質化させた魔法剣を作る。

「彼女はめちゃくちゃ怒ってるが大丈夫なのかジル?」

「大丈夫々」

 一緒に来るかと思ったが司祭服を着ている男は、上空に留まったま何やら魔法の準備を始めている。(あの魔法は確か……)

 粘性のある茶褐色の液体に覆われて先が球状になったカーラの戦斧、うぉぉぉぉぉと雄叫びを上げつつ振り下ろされた攻撃に対して、ジルは軽く一振り邪魔なものを払うようにクリスタルソードを横へ振った。

「なにぃーーーーーー」

 戦斧の側面を叩かれたカーラは何かに追突されたような衝撃を受けて、横に飛ぶとそのまま大理石の床の上をゴロゴロと転がって行く。そして「うわぁーーーー」という悲鳴が聞こえた瞬間、彼女はドッカーーーーーンと吹っ飛んだ。

「くっ」さすが魔王と言うべきか、半径数mに渡って穴が掘れる程の爆発が起きると続いて訪れた衝撃に対して、レヴィシアは顔を逸らしながら我慢する。


「カーラは死んだんじゃないか?」

「魔王だしあれぐらいは大丈夫だろ。さて……」

 (知らない相手には遠距離から仕掛けて様子を窺うのが常道だろうに、師匠に正面から突っ込むアホが居るとはな)

「Iシャークミサイルガトリング!」

 カーラが攻撃する時間も利用して魔法を準備したグリーチンは、自分の横とか後ろに百体を超える氷の鮫を用意し終えていて、それを撃ち出しながら急降下をする。

「正解だぞグリーチン」

「そうですかーーーーーー」

 2人の魔力の差は圧倒的であり、単発では幾ら強化しても勝負にならないから手数でどうにかしようと言うのが、闇帝と組んで修行していた時に出した結論。鮫の形をした氷魔法は中級なので威力はそれ程でもないが兎に角数が多くて、ジルの上下左右から沢山のIシャークが襲い掛かって行く。

「蛇骨式対空砲」

 (若しかして初めてかな?)ジルが戦闘で本格的な攻撃魔法を使うのは、此れが初めてのような気がするとレヴィシアは思った。(此れを魔法と呼べるならの話だが……)

 ジルが唱えると2人を囲むように影が周囲へ大きく広がり、そこから沢山の骨蛇達がニョキニョキと生えてくる。自分の腕位のサイズがある骨蛇達は襲い掛かって来るIシャークの方向へそれぞれ向くと、小さな口を開いてそこから雷魔法を発射した。

「ハッハッハーックション!」

 現在の気温はマイナス10℃なり、少し寒めだが氷の鮫達が撃墜されるとその度に周囲へ氷が拡散して更に気温が下がって来る。その冷たい空気を吸い込んだ彼女はちょっと辛くなったりするのだった。

「クシャミをするとか弛んでるぞレヴィシア」

「ジルが私を拘束するからだろうが!」

「そうだったそうだった」

 そう言ってジルが笑うと、ボウッと赤い鎧を拘束している骨蛇達に火が灯る。ロウソクように弱い炎が骨蛇達に宿ると、周囲が少し暖かくなってレヴィシアの辛さが消えた。

 (ジルはほんと何でも出来るんだな羨ましい)

「余所見をするとか余裕ですね!」

 レヴィシアの方を向いているジルにグリーチンが斬りつける。

 その氷爪をジルがひょいと避けると、同時に地面へ足が付いたグリーチンは後方へと飛びつつ「アイスヴォルフ・デスボム!」を2発、アイスヴォルフ・ツインデッドに造り変えながらIシャークと共に敵へ叩きつけるがその相手は……

「フェニックスガルーナテムス! Fガルーナフォー」

「あしまっ、ちょっとま……」

 自分で言っていた癖に火力勝負にしてしまった大司祭。グリーチンの魔法に対抗して左手を動かしたジルは、10発もの炎の蛇を瞬時に作りだすと翼のある高位魔族へ一斉に叩きつけていく。

「うぉぉぉぉぉ」

 双頭の氷狼は4つの頭を持った羽がある炎の蛇に迎撃され、残った6匹の蛇達は対応し損ねたグリーチンに殺到すると大爆発を起こしてしまう。

「だから嫌だって言ったんだーーーーーーーーーーーー」

 

「……ケホッケホケホジルって強いんだな」と、濛々と上がる黑煙を見ながらレヴィシアは呟いた。(並みのテロリストよりジルの方が遥かに凶悪じゃないか、私はこんな化け物に修行をして貰ったのか)

「神だからな」

「幾ら神だからって、大丈夫なのかグリーチンは?」

「革命で倒そうとした相手をレヴィシアは心配するのか?」

「そう言うつもりじゃないんだが、グリーチンが何だか可愛そうに思えて来るんだ」

「お前に心配されるほど俺は弱くないぞ! いだだだ……」

 さすが大司祭・高位魔族と言った所か、中隊レベルを消し去れる大爆発の動きに追い付いて、両手でEシールドを張ったグリーチンはどうにかそれに耐えきる。ジルの防御魔法に守られたレヴィシアは無傷だが、その周りにある水晶園の観客席とか床は滅茶苦茶になっていて、直すには大掛かりな工事が必要になりそうだ。

「死ぬかと思いましたよほんと、手加減してくれるって言ったじゃないですか」

「手加減してやっただろうが。ツインテムスの方がよかったか?」

「冗談じゃありません! いだだだだだ……」

 爆発で空いた大穴を飛び越えつつ近付いて来た、グリーチンの服はボロボロで両手から血が流れ出している。手当てが必要かとジルが聞くと彼は自分でやると言い、大司祭は両手に回復魔法をかけながら辺りを見回していく。

「どうしてくれるんですか此れ、水晶園を直すのに掛かると思っているんです」

「被害の半分は闇鬼衆の所為じゃないか、なぜ地下道の爆破なんかしたんだ?」

「その方がテロリストらしいからです」

「無意味だな」

「爆破して空いた穴の下に小型の結界塔を並べて置いて、檻のように閉じ込めてしまう計画を後で追加したのですが」

「無意味だな」

「そうですね師匠なら楽に突破できるでしょう。私はてっきりそこらの聖神族ばかり思っていましたがまさか師匠が相手だったとは……」

 火傷と衝撃で傷ついた両手の治療が終わると、グリーチンは焼け残っていた黒曜石の椅子を引き寄せてそれに座る。するとジルも同じように椅子に座って「私はまだこののままなのか?」とレヴィシアは文句を言った。

「お前を自由にすると何をするか分からないからな。さっきも言ったが本物の闇帝を見つけて話が出来るまで拘束は解けない、辛いだろうがそのまま我慢していてくれ」

「やれやれだ」

「さてだぞグリーチン……」

 ジルとグリーチンは色々と話さなければならない事があった。ジルが干渉を止めてから50年近くの間に帝国で何があったのか、この首都は今どうなっているのか、外交の話やら軍隊の話とか新しい技術の話など、積もる話が長々と続けられていく。

「話の腰を折るようで悪いんだが」

 10分が経ち20分が過ぎてと、立ち続けて段々我慢できなくなって来たレヴィシアは自分の解放を要求する共にある指摘をする。

「みんな何か忘れて無いか?」

「忘れるって何をだ?」

「私は1人足りないと思うんだが……」

「足りないって誰が?」

 こう言いつつ周囲を見回したグリーチンはある事に気が付く、「あぁっ魔王ラ・カーラを忘れてたーーーーーーーーーーー」と。

「そう言えば居たなそんな女が」

「ジル〜〜〜」

「師匠に弾き飛ばされたあと彼女はどうなりましたか?」

「さぁ? 爆炎に紛れて逃げたんじゃないかな」

「そんないい加減な……」

 2人で少し周囲を探索してみたがカーラは見つからず、面倒だけど本格的に探すかとジルがクリアバットを召喚しかけた時だった。

「あーーーーーはっはっは私をコケにした男共、聞こえているかいーーーーー」

 甲高い女性の高笑いが聞こえてどこだどこだと探すと、水晶園の上空に恥ずかしい格好で仁王立ちした褐色肌な蛇女の立体映像が出現する。

「あれは魔法の一種なのか?」

「送映の魔法石から映像を拡大投射している、対になった魔法石同士でのみ映像とか音声のやり取りが出来るんだぞ」

「立体映像の下に魔法石が浮いています、カーラが何処かから操作しているんでしょう」

「私の話をよーーーくお聞き! 私はねぇーーーーーーーーー」

 ……彼女の話を聞いてみんなが思った事。

「逆恨みか」

「最低な女だな」

「呼び出すんじゃなかった」

 私は魔王だ! とカーラは自慢し続いて、貶され見下され酷い男共に私は汚されてしまったんだと彼女は怒りまくるのだった。

「誤解を招きそうな話し方だがジル、カーラは目に涙を浮かべているぞ」

「腕とか身体に包帯を巻いているが痛いのかも知れない」

「自爆を師匠の所為にするとか全くあの女は……」

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