革命の戦乙女
嘗て一人の英雄がいた。
神の力を得て不老不死になったその者は、百を超える戦争に参加し千を超える首級を上げてとある国の立役者となった。その者はその後も長きに渡って戦い続けかの国を強大な王国へと発展させるも、ある時全てが嫌になる。
嫌になったその者は王国を守り続けてきた聖剣を投げ捨てると、破壊の剣へと持ち替えて王国を壊し自らが理想とする国を造る事にした。
【死は全ての人に訪れ、死は全ての者を平等にする。我は傲慢と堕落を世界から等しく消し去り、富む者と富まぬ者全てを平にし、全ての命の平等に扱う者である。
我を崇めよ、我を崇めて求めるのを止め純粋なる力を磨くのだ。?我れは闇帝?我はこの世の全てに平和と平等を広げて、寒くも暖かくもない真なる理想郷を築き上げる者である。】
※1
神暦1531年1月1日、捧げの日。
無音の帝国にとって1月1日は特別な日。
年に一度、ダークロードへ【黒の花嫁】と貢物を捧げて恩寵を授かり、帝国の更なる発展と今年1年の安泰を願う聖なる儀式の日だ。
「万歳、万歳ーーーーーーーー」
「ダークロード様、万歳ーーーーーーーーーーーー」
《黒の花嫁として捧げられるのは世界各地から選抜され、【サイレントオー】にある黒の花嫁養成機関【黒ユリ園】にて大切に育てられた6人の花嫁達。その18歳になった花嫁達は闇帝専用の列車に乗せられると昼間の線路を走り始める。
銃弾のように鋭くシャープな外見をした【25式バレット号改】、此れは魔法の炎で水を沸かして走る。闇帝の専用列車なので装甲が厚く改造され、先頭車両と客車に装甲車の計3両編成にて、首都にある闇帝の城【オルタナム城】を目指して進む。
車体の色は闇帝だけに許された深黒色、特別調合された塗料は光を受けると煌めいて中へ引き込まれそうな、黒色よりも更にダークな色。装甲と防御システムせいで車体重量は通常の倍以上になりスピードは落ちるが、その存在感は他を圧倒してさすが闇帝の専用列車だなと皆、恐れ戦き平伏してしまいそうになると言う。》
「退屈だなぁふわぁーーー」
「欠伸なんかすると近衛部隊長にどやされるぞ」
「こんな所まで一々見たりするもんかよ」
話をしているのは列車の最後尾にある後部デッキに乗った兵士達。車内と違ってここに壁はなく1月の気温と時速80?で吹き付ける、強風に耐えながら彼らは列車の後方を見張っている。
兵士の武器はミスリルソードとベルトで背負った7?魔導ライフル。火薬に頼っている下級兵士と違って、特別訓練を受けている近衛とか上級兵士は魔法も得意だ。
《7?魔導ライフル:旧時代のライフルとほぼ同じだが、ライフル弾に若干の魔力を乗せる事により弾道を安定させて貫通力を増した突撃銃の事》
彼らの後ろ屋根の上ではガトリング砲を備えた銃座が周囲を見張り、物々しい厳戒態勢を維持しながら魔導機関車は走り続けている。
「こっちは問題ないぞそっちは大丈夫か?」
「こちらも問題ない見えるのは木ばっかりだな」
花嫁の養成所から闇帝の城まで約60?、1時間弱の道のりだ。10分程を過ぎて列車が深い森に入った頃、早くもやる気を無くしたのか後部デッキにいる、2人の兵士のうち右側の1人は肩から力を抜いたり体操を始めたりする。
「だらけ過ぎだろお前」
「闇帝の列車を襲うようなバカな奴なんていやしない、気楽にいこうぜ気楽にさ」
《丸みを帯びた兜を被り全身鎧を着てと、列車の外にいる彼らは銃がある時代に中世時代の騎士ような恰好をしているが、銀色に光り輝くミスリルの鎧はライフル弾位なら弾き返せる程の強度がある高級装備。
豪雪を掻き分けるように進むバレット号改の外は氷点下。この2人とか列車の外にいる兵士達はみな鎧の下に毛皮の服を着るが、それでも寒くて体が凍えてしまいそうになり士気が下がったり眠くなったりする。》
どうせ何も問題は起きない適当でいいだろうとだらける1人と違って、2人目の兵士は仕事はしっかりこなそうと周囲に注意を払った。
「真面目な奴だなお前」
「俺は出世したいんだ、子供も生まれたし手柄を立てたいんだよ」
「手柄ねぇ……」
「テロリストが列車を襲うなら森を抜けた草原かも知れないな」
「草原より河に掛かった橋じゃないか?」
「ああなるほど。後20分程か気を引き締めないといけないな」
「疲れるだけだから程々にしとけよ」
「美味そうな女達だねぇ」
「黒の花嫁に手を出したら闇帝に殺されちゃうよお姉ちゃん」
《先頭車両の次にある客車は、黒色に塗られた長テーブルをセットを中心に、シャンデリアや楽団用の演奏席にワインセラー等まで、天井から床まで黒一色で統一されている豪華な車両である、これは普段の話。
客車は寝台車や食堂車とセットで、闇帝が旅行を楽しんだり客を持て成したりする車両だが【捧げの日】だけは特別。黒の花嫁を運ぶために余分な車両を切り離し、設備もその殆どを降ろした客車の中は、壁と床だけの殺風景な空間になっている。》
「まるで棺桶じゃないかこれ」
「私たちが言うのも変だけど闇帝ってほんと趣味が悪いよねぇ。部屋中どこもかしこも黒ばっかりで魔神族の私達より陰険って感じ……」
物を片付けて広くなった車内に6つの長い箱が並べられていた。それは一見すると棺桶のようにも見えるが、中に入っている18歳の少女達はまだ生きており、静かに目を閉じて安らかな寝息を立てている。
その箱は木製でなく黒曜石、黒く艶やかな色をした箱の中には黒ユリが寝具のように敷き詰められ、その中に?いウェディングドレスを着た花嫁達が収められているのだ。
「少しぐらい味見しても……」
(口付け位ならばれないわよね? 黒ユリ園で強化・調整された少女達の、生気はとても濃厚で美味しいらしいし……)
「ダメーーーーーーーーーーーー、黒の花嫁に手を付けたら闇帝にこうだよ」
見目麗しい少女達をもっと近くで見ようと、体を屈めて顔を近づけていく姉のリリスを引き留めたのは妹リリィ。下級が多いサキュバスの中でも、彼女達は戦闘力が特に強くて上位になれた悪魔である。
《[羊のような巻き角が頭の両側に付いている、黒よりの赤と桜色の髪をした姉妹。悪魔の翼があってウェーブが掛かった髪に金の瞳、豊満な体つきにレオタード、革の手袋にヒールブーツと両刃なミスリルの戦斧を背負っているのが姉。
服装は似ているが赤色でミドルヘヤーに銀の瞳、棘の付いたミスリルハンマーを背負っているのが妹でサキュバスらしく2人とも美人だ。》
「こうって何よ?」
「こうだよこう!」
話しながら綺麗に磨いた爪のある左手を、首筋に当てた妹はスッと引く。
「首ちょんだよ首ちょん契約書に書いてあったでしょ」
「そう言えばそうだったわねぇ」
魔界から召喚された時に見た闇帝の顔をリリスは思い出し始めた、大剣を立て掛けた黒塗りの玉座に腰掛けて自分を見下ろしてきた皴深い老人の顔を。
「どうしたのお姉ちゃん?」
花嫁を見つめながら固まって動かなくなった姉の顔を、妹は下に回り込みながら覗き込んでみる。張り付いた表情に焦点の合わない目、体が少し震えて何だか汗ばんでいるようにも見えるが……
「お姉ちゃん!」
体を揺すられて正気に戻った姉は、妹に視点を合わせると「どうしたのリリィ何か用かしら?」と聞いてみる。
「何かじゃないよ何かじゃ」
「えっとその……」
玉座から闇帝が姉に向けた眼力は一言で言うと怖かった。人間如きが……と思ったリリスは見返そうとするが、その迫力で有無を言わせずに膝まづいた彼女は、闇帝に頭を下げると言われるがままに契約を結ばされてしまったのである。
「闇帝に逆らうのは良くないか」
「真面目に仕事しようよお姉ちゃん」
「真面目にって……」
サキュバスからもっとも縁遠そうな言葉を聞かされて姉は苦笑した。噂には聞いていたが魔王すら退けるダークロードは、それ程の物なのかと彼女は思い返しつつ、花嫁を収めた黒箱からそっと離れる。
「少しいいかな?」
「なんだい?」
姉妹が黒箱から離れると、それを待っていたかのように話し掛ける1人の男がいた。赤く燃える暖炉の側に立っている男は白ずくめで、白の革ズボンと長袖の上から、耐刃・防弾に優れたベヒーモスの革鎧セットを着ている50代前半の男。
黒は闇帝やリーダーのみが使う覚悟の色であり、その下にいる軍人は忠誠心・道徳を示すために白を基調にした服や装備で統一されている。
ハーフメイルなのは全身鎧では車内だと動けなくなるからで、腰に吊った剣はミドルでなくミスリルのショートソード。背中に7?魔導ライフルを背負うが余り使わず、10?の魔導リボルバー(MB銃、ミスリルブレイカー)をよく使う。
「テロリストは本当にバレット号改を襲撃してくるのか?」
「近衛の癖に自国の情報部が信用できないと?」
「そういう訳じゃないんだが……」
もう少し軽装でもよさそうだが体の大きい男は、フルフェイスの兜を被って物々しい雰囲気を醸し出していた。リリスが顔を下に向けると、男の後ろで壁に立て掛けられた【15式ロケット砲】が幾つか目に入る。
15式ロケット砲の弾頭は人工ダイヤで、魔法石を使わない火薬式かつ旧型と威力に不安があるものの、安定性が高く安価であり車内のような狭い場所では、最新型よりも扱い易いと人気がある兵器である。
「文句を言う割にはしっかり準備してあるじゃない」
「まぁそうなんだが、そうではなくてだな……」
「はは?んおじさん達、私達の事が怖いんでしょ」
《白い装備に入った黒の斜め線が近衛である証、それに騎士長を表すブラックホースの階級章が付いて近衛部隊長になる。》近衛の第2部隊長である彼と兵士達は、(俺達だけで守れるのになぜ魔神族なんか……)と不満があるも、闇帝の命令なので渋々承諾。
「客車の守りは私達だけでいいわ、軟弱な人間とか居ても邪魔になるけよ」とか調子づいた事を言うサキュバス姉妹を、そうはさせないと複数人で見張っている状態なのだ。
「魔神族を召喚して守らせる程に、今回は危険なのかと言う話をだな……」
「ふーーんそうなんだ」
身長150?以上と小柄で、お姉ちゃん程じゃないけどと隊長に近付いた、少女体型のリリィは腕を掴むと逞しい男にすり寄せて行く。
「どういうつもりだお前?」
「そんなに怖い顔をしないでよおじさん。仕事が終わったら遊んであげるから今はこれで我慢して……」
「ふざけるな淫乱魔族め!」
怪しげな匂いと共に魅了しようとするサキュバスを、振りほどいた隊長は腰からショートソードを抜いてリリィに突き付ける。
「私の魅了魔法がなんで通じないのよ」
「残念だったなサキュバス! 俺は結婚してるし貧乳は嫌いなんだよ」
「貧乳って言ったーーーーーーーーーーーーーーーーー」
午後4時を過ぎて客車が何やら騒がしくなってきた頃、最後尾のデッキで後方を見張っている2人の兵士もまた何やら準備を始めている。
「そんな物を持ち出してどうするつもりだお前?」
「どうってテロリストへ撃つに決まってるだろうが」
空が曇り始めて雪が降りそうだなぁとかのんびりする右側のと違い、テロリストを倒して手柄を……と考えている左側の兵士は、後ろの装甲車に入ると15式ロケット砲を持ち出してきたのだ。
「もうすぐラ・ミューティス河に掛かる鉄橋だからな、準備しておかないと」
「橋にテロリストがいるとは限らないんだぞ」
「念のためだよ念のため、お前も準備をしておいた方がいいぞ」
「俺もか? やれやれだな……」
やる気は無いが友達?に言われるので右側の兵士も仕方なく、装甲車に戻るとロケット砲を抱えて後部デッキに帰って来た。
「2人で手柄を立てようぜ」
「手柄はお前にやるよ子供がいるんだろうが」
「いい奴だなお前」
《先程にもましてやる気を出した兵士が乗る、魔導機関車の蒸気はとても綺麗。石炭も空気も使わない魔法の炎で走る機関車の、天井にある煙突からモクモクと排出される白い煙は水分だけで構成される。
湯を沸かすタンクの下に炎の魔法石を放り込む釜があり、国家資格である5級以上の資格を持った魔導運転士が管理する。SLと基本的に構造は変わらずその車体は、銃弾のような形をした分厚い装甲板に覆われているのだ。》
「何か見えないか? テロリストはどこに隠れてやがるんだ……」
森を走り抜けたバレット号改は草原地帯へと入った、付近一帯は2m以上も深く雪が積もっている広大な銀の世界。90tと通常の魔導機関車よりも重いこのバレット号は雪が大得意であり、その重量とスノーブロウで線路に積もった雪を掻き分けつつ、オルタナム城を目指して高速で走り続けて行く。
「――――どこにも居ないぞ畜生め、こそこそ隠れず出てきやがれってんだ」
両側にあった森が無くなると吹き付ける風が更に強くなり、体が冷えて来るが興奮している兵士は気にしない。肩に担いだロケット砲を向けつつ雪原を見渡している彼は、寒さを忘れる程の集中力でテロリストを探している。
「橋で仕掛けて来るなら、後部車両にいる俺達には見えないかも知れないな」
「あっくそう!」
肩のロケット砲を降ろした兵士が前を見ようと、後部デッキの端へ近寄った正しくその時だった。ブォーーーーーと汽笛が鳴り響くとバレット号は戦闘体勢に入る。
「なんだ、一体なにがあった!?」
バレット号の車体全体が突然、透明な膜に覆われる、これは何かに衝突する時や敵の攻撃を受けそうな時に、展開される魔法の盾・Eシールドだ。
「ちくしょーー前からだったのか!」
「正気か彼奴!」
叫んだ左側にいる兵士は後部デッキにある梯子で、屋根に上ろうとするが右側の兵士が驚いたのは彼の行動ではない。
「どう言うつもりだ! うわーーーーーーー」
何を考えたのか急に動いたその兵士は、もう一人の兵士に飛び掛かるとそのまま時速80?以上で走る魔導機関車から、雪原の上へと彼を突き落してしまう。
――――25式バレット号改がラ・ミューティス河の西側、鉄橋にやって来る少し前。予定通り午後3時30分に鉄橋の麓へと終結したテロリスト達、【銀の夜明け団】は黒の花嫁たちを奪うために魔導列車を襲撃する準備を始めた。
《高級装備のミスリルアーマーやベヒーモスの革鎧が無く、雪原に合わせた白尽くめの戦闘服に旧式ライフルや近接武器、手榴弾で武装した10人の戦士達。その中に混じっている一輪の花、男くさいテロリスト達の中にあって雰囲気に似合わない、騎士然とした彼女が組織のリーダー【アテナイ・レヴィシア】。
銀の夜明け団は、神の啓示を受けて国民のために立ち上がった戦乙女、レヴィシアを中心に闇帝を倒して民主化を目指そうと言う反乱軍になる。
【銀とは彼女の長い銀髪の事、夜明けとはそのまま意味だ】》
「みんな皆準備できたか?」
「俺達はですが、レヴィシア団長は本当に1人でやるつもりですか?」
「バレット号改は私に任せろと言っただろう」
《彼女が着ているのは鎧はシャープで余り飾らないが、グリーブから胴体にヘルメットまで全てが革命を表す赤色。各所に付いた魔法石が風魔法で敵の攻撃を阻み、ミスリルより強固なオリハルコンで作られた魔法鎧【クリムゾンウィル】。
神の啓示を受けた時に魔法の剣と共に授けられた、これ等はレヴィシア専用の装備で他の人が使おうとすると、神の炎に身を焼かれると言われる曰くつきの装備である。》
「黒の花嫁達を逃がす準備はどうなってる?」
「あれを見て下さい」
自分の周りに集まっている戦士達の1人が指差した方向、河辺には一隻のディーゼル船が停泊していた。民間の小型船らしい船は塗装が剥げて船体に傷があり、ひび割れた窓には板を張って塞いだりとか、今にも沈んでしまいそうな雰囲気がある。
「かなり傷んでいるようだが大丈夫なのかあの船は?」
「近くの貧乏漁師から買ったボロ船ですが動作に問題はありません。ちゃんと予備の燃料も積んであるので心配しないで下さい」
「そうか……」
《銀の長髪に均整の取れた凛々しい顔立、細身だがよく鍛えられた体つきで大の男にも力負けはしない。戦場では真っ先に敵陣へ飛び込んで敵をなぎ倒す、その勇ましい戦いぶりはダークロードの再来、炎爆の戦乙女などと噂されるレヴィシア。
【美人は美人なのだが男嫌いでもよく知られ、自分に近付いて来た男とか団員達を戦闘訓練と称して尽く打ち倒してきた、21歳のうら若き乙女である。】》
(少々不安はあるがまぁ大丈夫だろう)と、ボロ船から顔を逸らしたレヴィシアは回りにいる戦士達を整列させるとその前に立って命令を下す。
「まず確認だが我々、銀の夜明け団に帝国を倒せる程の力は無い……」
《400歳を超える闇帝ラクレス・ローそれ自体が万夫不当の化け物で、それに7億4000万の国民と属国を合わせた8億人が付いている。此れに悪魔や魔神だのが加わるともう永遠不滅と言って、差し支えない程の大帝国がサイレントオーなのだ。
帝国はラクレス・ローの直轄領と州(闇帝が州長を決まる)で構成され、それに皇帝が大陸を統一する時に協力した属国が加わっている。》
「そこでだ……」
赤い鎧を身にまとい顔を上げて声高に話すレヴィシアの、強い意志と使命感に満ちた物言いに白尽くめの戦士達はじっと耳を傾ける。
《銀の夜明け団は帝国を倒すために幾つかの目標の掲げていた。
1、【ダークロードの抹殺。】
2、【∞E機関の破壊】、此れが無くなると国が維持できなくなる。
3、【黒の石板の破壊。】
魔神王との契約書であり、闇帝が魔王や悪魔を自由に使役できる理由。
石板の破壊はダークロードの抹殺と同意義なのでどちらでもよい。
昔は銀の石板もあったそうだが今は行方不明だ。
4、【護州石の強奪。】
帝国首都と中心に4つ造られた守護州にはそれぞれ
魔神獣と呼ばれる魔神が作りだした怪物がいて護州石の所持者が命令できる。
魔神獣は一匹で8万を越える軍隊を倒せる程に強いので、ぜひ手に入れたい所。
5、革命に応じて共に立ち上がってくれる属国や味方を探すこと。
6、【聖教騎士団・コアナイツと協力する。】
サイレントオーは魔神族と仲のいい帝国なので、コアナイツを始めとする光側とは 非常に仲が悪く、異教徒として弾圧・排除してきた歴史がある。
帝国を追い出された光側は海外に散って再起の時を狙っているそうだ。》
「後はそうだな……」
「基本はそれ位でいいでしょうレヴィシア団長、作戦に関する話を始めて下さい」
「そうか? この作戦には新人も居るから一応説明したがこれ位にしておくか。この作戦の目標である……」
《黒の花嫁とは∞E機関で、膨大な魔力を生み出すのに必要とされる生贄、人柱のこと。この∞E機関と人柱のおかげでサイレントオーは、資源争いとは無縁のまま今まで大いに発展し続けてきた。》
「黒の花嫁を奪われたからと言ってだな……」
∞E機関が直ぐに止まる訳ではないが、闇帝がその威信にかけて育てあげ厳重な警備で城に運ばれる彼女達を奪えれば、闇帝の威信は地に落ちて革命の狼煙としてこれ以上にない程の宣伝になるだろうと。
「横恋慕作戦の重要性については理解して貰えただろうか?」
「もう少しまともな作戦名は無いのかよ」
「NTR作戦の方が格好いいと思うな」
「奪うと言う意味ではその方が正しいかも知れない」
「独身男の夢ってやつか? 花嫁達はみな18歳の処女なんだろ」
「6人も居れば1人ぐらい……」
「止めないか汚らわしい! 私は女なんだぞ」
「男勝りなレヴィシア団長を女性扱いする人なんか居ませんて」
「確かにな」
「違いないははははは」
「ほぉそれはそれは……」
つい口を滑らせてしまった1人の戦士を睨みつつ、すっと赤い籠手を着けた右手を空に上げたレヴィシアはそこに炎の魔法を作りだす。
「あーーーーえっとその……」
「焼くのは1人だけにして下さいよ団長」
「作戦前だから犠牲は最小限にしないとな」
「お前らなぁーーーーーーー」
白い戦闘服で整列していた10人の内、1人を除いた9人は波が引くようにざーーーっと下がって行き、残った1人はレヴィシアの強さを改めて思い知る事になった。
「これは私が最も得意とする上級魔法でな……」
「知ってます知ってますから!」
《魔法【フェニックスガルーナ。】
合成魔獣技術を使って造られた、不死鳥と黒鬼蛇を掛け合わせて作ったキメラに似せて、数百年前にある天才魔導士が作り出した魔法である。長さ2m以上もある蛇のような胴体に鳥の翼が生えた炎の塊で、一度目標を決めると魔力が尽きるか迎撃されるまでどこまででも、敵を追い掛けて行くと言う凄い魔法なのだ。》
「小さな家位ならこれ一つで灰にできる程の威力があるんだ」
「だから知ってますってば!」
「今から此れをお前に放とうと思うのだが、私はどうすればいいと思う? お前は優秀だからこの程度の魔法はへっちゃらかも知れないな」
北風になびく銀髪が炎に照らされて赤く色づき、(綺麗な髪だなぁ)と見とれたらそれを感じ取ったレヴィシアの機嫌は更に悪くなり、本当に焼かれては堪らないと口を滑らせてしまった男は両膝をついて頭を下げる。
「レヴィシア団長を笑ってしまって、申し訳ありませんでしたーーーーーーーーー」
「分かればいい。やるのが遅いから本当にこの魔法で、お前を焼いてしまおうかとか考えてしまったぞ。全く困った団員達だな……」
土下座した戦士から顔を逸らしたレヴィシアは、他の9人も順番に睨みつけて行きそれぞれが目を逸らしたり、口笛を吹いたりと一通り終わった所で話を元に戻す。
「作戦内容は分かっているなお前ら?」
「分かっています」
「よし説明してみろ」
「レヴィシア団長が闇帝の魔導機関車、バレット号の動きを止めた後に、線路の回りに伏せていた俺達が列車を襲撃して花嫁を強奪。首尾よく奪えたらそこに停泊させてある漁船に全員で乗りこんで急いで逃げる、以上で合っていますでしょうか?」
「その通りだ。作戦は単純だがバレット号には近衛部隊が乗っているし、装甲車も連結されているから襲撃する際には十分気を付けるんだぞ」
「了解しました。所で団長……」
「なんだ?」
「団長は本当にお一人であの巨大機関車を止めるつもりですか? バレット号は重武装ゴーレム並みの装甲だと聞いているんですが」
「諄いぞお前ら、その件は私に任せろと何ども言っただろうが」
「しかしですね……」
「任せろと言ったら任せろ! 話は終わり解散だ、それぞれ作戦で指定された場所に行って私が動くまで隠れているんだぞ分かったな?」
「了解しました、此れより作戦行動を開始します」
レヴィシアの話が終わると戦士達は敬礼してから散開し、線路の両側で雪の上に伏せたらはその時が来るのを待つ。隠れる戦士達に対して一人だけ、派手な格好をしているレヴィシアは兜を被ると、線路の上へ仁王立ちとなってバレット号が来るのを待ち受けた。
――――。
「正気か彼奴!」と叫んだ兵士は、側にいたもう一人を雪の上へと突き落す。
装甲の塊で戦車砲もものともしない闇帝の機関車は、線路上に障害物を発見すると汽笛を鳴らしつつ防御機能を発生させた。車体の各所に設置された魔法石が光ると、車両全体を包み込むようにEシールドが発生して更に強固になる。
「線路に立つな! 邪魔だどけーーーーーーーーーー」
機関車の運転手が先方に見つけたのは、線路上に仁王立ちしつつ剣を掲げて魔力を込めているひとりの誰か。雪深い中でも直ぐに見つけられたのは、鎧と掲げている剣が派手だからでその剣からは、バレット号へ見せつけるように大きな炎の柱が上がっている。
《【聖剣レヴォリューションレッド】、レヴィシアが神から啓示を受けた時に鎧とセットで授けられた魔法の剣で、オリハルコン色に輝く刀身から鍔元から剣先まで炎が立ち昇るような柄のある幅広の長剣である。
この聖剣は炎魔法を使うと威力を倍加させる特性を持つ。》
「はぁーーーーーーーーーーー、イグニスソード!」とレヴィシアは、聖剣を両手で握って掲げるとありったけの魔力を注いで、炎神の力を借りた大魔法でバレット号を迎え撃とうと構えていた。
(私はあの闇帝を倒すんだ、魔導機関車ぐらい止められなくてどうする!)と、強い意志で迫りくる鉄の塊を睨みつけた彼女は、接触直前で線路から少し右に動くと聖剣を水平に構えてバレット号に叩きつける。
「だりゃーーーーーーーーーーーーーーーーー」
両足を開きつつ前後にずらし身体強化魔法も使って衝撃に備え、魔法の炎で縦横数倍に拡大させた長剣でレヴィシアは、バレット号を上下に分割していった。もっとも強固な先頭車両の先端から始めて黒の花嫁達が乗っているその次へ。
(花嫁達は黒箱の中で寝ている、私の剣はそれより高い位置だから大丈夫だ!)と、重量でへし折られそうな両腕を必死に堪えつつ、客車を両断しながら考えたレヴィシアは装甲車両へと差し掛かる。
何だかグッと重さが増した気がするが先頭車両ほどではなく、「これで終わりだーーーーーーーー」と魔法剣を振り抜いた彼女は、その中に乗っていた近衛部隊ごと闇帝が誇る魔導機関車を真っ二つにしてしまうのだった。
「こんなの非常識だ!」と叫んだのは、剣で斬られた敵ではなく雪に伏せていた戦士。
「此れを知ってたら止めたのに!」と、同じく叫んだのもテロリスト。
機関車を両断できたレヴィシアの高い能力には、素直に称賛を送るべきだが彼女は一つ見落としていた事実がある。機関車は止めたがまだ惰性で動き、彼女の後ろで分かれながら走って行くそれには火が付いていた。
彼女が斬ったのは普通の機関車ではなく、軍・用・車・両。軍用であるなら戦闘に備えて火薬やら魔法石、兵器とかが大量に搭載されている訳で、やり切れたーーーーーと少し気を緩めている彼女の後ろで大爆発になる。
「はううっあ、あーーーーーーーーーーーーー」
爆風で押し倒されそうなのを堪えつつ、何事だと振り返った彼女の前には、燃えながら鉄橋の下にある河へ落ちて行くバレット号の上半分があった。
(どうしようあれ……)
バレット号の残骸、下半分も燃えながら線路の上を走って行き、(黒の花嫁達は死んじゃったかなぁあははは)とレヴィシアは不安になって来る。
「やり過ぎだーーーーーーーー」
「事前に説明しとけ団長ーーーーーーーーー」
その彼女の横を口々に声を上げつつ次々に飛び抜けて行く夜明け団の戦士達。彼らは地上を走ってはいない、フライグ(F)ボードと呼ばれる空を飛べる魔法の板に乗ってバレット号の残骸を追い掛けて行った。
(次はもっと考えて行動しよう)とレヴィシアは少し反省。近衛兵とかはどうでもいいのだが、犠牲になったかも知れない黒の花嫁達には申し訳ない気持ちで一杯に。
しかし団長である彼女には迷っている暇などない。両手を組みつつ神に祈って心の区切りをつけたレヴィシアは、先行した団員達を追い掛けようと近くに置いておいたFボードに両足を乗せて浮かび上がる。
「無茶苦茶するなあいつ」
バレット号に乗っていた数十名の第2近衛部隊は壊滅してしまった。床と車輪だけになった列車の残骸に乗りつつ、鉄橋を超えて進む車体が止まってくれるのを待つのは最後尾で右側に立っていた男である。
レヴィシアの攻撃に対して彼は床に伏せただけ、最後尾から先頭が見える筈はないがどうしてかそれを知った男は、適切な方法にて巨大な魔法剣を避けたのだ。
(俺しか残っていないなら黒の花嫁達を助けてやらないと)
「レインスコ……ん?」
車体が止まったので火を消そうと、右側の男は魔法を唱えかけたが自分の前、客車の辺りで動く2つの人影を見つけたのでそれを止める。そして男は暫く彼女らの様子を見守ろうと影の中に沈んで姿を消した。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「いたたた、誰だか知らないけどよくもやってくれたねぇ」
さすが高位魔族と言うべきか、車内にいたリリスは車体を切り裂きつつ迫ってくる魔法剣を認識すると、妹を床に押し倒して自身も伏せる。続いて範囲型の魔法盾、Eバリヤーを展開した彼女はそれで自分達と依頼対象を包み込んだ。
「怪我はしてないかいリリィ」
立ち上がったサキュバス姉妹は、それぞれ体の確認を始めるが特に問題は無いようだ。
「私は大丈夫だよ。お姉ちゃんはどうなの?」
「体は大丈夫だけど羽が……」
赤髪のある顔を後ろに向けながらパタパタと、白肌に付いている悪魔の羽はどうやら動くようだが、先の方が炎に触れたのか少し焦げている。
「羽が斬られずに済んでよかったねお姉ちゃん」
「全くだよ。この私に傷をつけるとはいい度胸だ、ぶっ殺してやる!」
「ちょっとお姉ちゃん!」
魔導機関車をぶった切るような敵である。妹としては慎重に敵を見定めたい所なのだが激情した姉は、背負っている戦斧を抜くと翼を羽ばたかせて、客車の残骸から勢いよく飛び出して行ってしまう。
(どうしよう、お姉ちゃんを追いかけた方がいいよね? でも……)
妹の前に並んだ6つの黒箱、近衛部隊が壊滅したので今これを守れるのは自分だけ。黒の花嫁を守れないとサキュバス姉妹は、闇帝に首ちょんの刑にされてしまう。
「人間如きが高位魔族を裁くとか! 何様のつもりよーーーーーーーーーー」と、桜色の髪をした小柄な魔神族は黒箱に向かって叫ぶが虚しいだけ。魔神族は力が全て、ダークロードの力は自分達を圧倒しているので嫌々でも従うより他にない。
「うーーーーーーーーーーーーー」
もたもたしているとお姉ちゃんが危ないかも知れない、知れないけど動けない。黒の花嫁を見捨てて逃げると言う選択肢もあるが、闇帝が怖いしどうしようこうしようと悩んでいたら後ろから声がする。
「あの???、もし宜しければお手伝いしましょうか?」
どこからかいきなり湧いて出てくる鎧の男、声に反応して振り返ったリリィは背中にある長柄のミスリルハンマーを抜くと、顔を引き締めて戦闘体勢に入った。
「骸骨兵なんか連れて来てどういうつもりよ」
「それはですね……」
現状を把握した右側の男は黒箱の守りを、自分の後ろに整列した数十体の骸骨兵やらせてはどうかとリリィに提案する。骸骨兵達は鎧こそ着ていないものの、突撃銃やロケット砲とか重火器でそれぞれ武装をしていた。
「あんたなんか信じられるわけ無いでしょ」
両手で振り上げたリリィのハンマーに冷気が宿る、返答次第ではただではおかないとサキュバスは脅すのだが、武器を向けられた男は動ぜずに淡々と話しを続けた。
「こう見えても俺はですね……」
闇帝に雇われた雇兵だとか帝国の2級魔導士などと、男は適当な事を言うがリリィは信用しなかった。信用しなかったがお姉ちゃんを助けに行きたいし、(なにか問題が起きたら此奴に責任を押し付けて……)と考えて、リリィは提案を受け入れる事にする。
「お前に任せて本当に大丈夫なんでしょうね」
「下級とは言え亡者を従える実力者ですよ、テロリスト如きに負けたりはしません」
「お前の名前は?」
「ジル・ブライアンです」
「そうそれじゃ後は任せたからねジル、黒の花嫁達をしっかり守るのよ!」
「お任せ下さいリリィ様ーーーーー」
悪魔の翼を羽ばたかせて飛び去って行く美少女を、ジルと名乗った男は骸骨達と共に手を振りながら見送った。
「これでよしと。次は……」
黒の花嫁達の守りを骸骨達に任せたジルは、またしても自身の影へ沈み込むようにその姿を消していきやがて見えなくなる。