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六話

「皆さん、何でスマフォをいじって……」


 最後に職員室に来た教員は自分以外の全員がスマフォを見ていることに酷く驚く。

 全員が同じことをしていることに何があったのかと疑問だ。


「まずは黙ってみんなと同じ動画を見てくれ」


 教頭の言葉に聞くよりも直接、確認した方が早いと頷き確認する。

 そこにはこの学校の女子生徒が殺し合っている姿が映っていた。


「彼女たちは今、どこに!?」


 殺し合っている生徒を助けなければと最後に来た教員は声を荒げる。

 他の教師たちは、こえを見てよく落ち着いてられるなと不満を持つ。


「わからない。だから、とりあえず警察に連絡して探してもらっている。君も知らないよな……?」


 知っていたら、この動画を見て何処にという言葉は出ないはずだと考えての確認。

 そして、それに教員は頷く。


「今日は全校生徒を帰らせて教師だけで探しますか?」


「そうですね。他の生徒たちを不安にさせてしまうかもしれませんが良い案だと思います。では、まずは部活動などを無しにして帰らせましょう。その後に全員が帰ったのを確認してから手分けして探すことにしましょう」


「「「「「ハイ!!」」」」」


 職員室にいた教員たちは教頭の指示に返事をして、それぞれ職員室から出ていく。

 目的は当然、担当の教室へと向かうためだ。

 クラスを受け持っていない教師たちは生徒たちがちゃんと帰るか確認のために玄関へと向かっていく。

 何人かはグラウンドへと向かったり、校門へと向かっていった。




「…………遅れて『あなたが死になさいよ!』………まだ見てたのか。取り敢えず、今日は学校は休みだ。部活も無しでちゃんと家に帰ること」


 教師の言葉にえぇ~!と生徒たちは不満だと声を上げる。

 学校が休みになるのは嬉しいが部活も無いとなると不満が出てしまう。


「良いから帰れ。隠れて学校に残っていても見回りをするからバレるからな。動画の場所を探して歩き回るのもダメだからな」


 教師の言葉に残念そうにする者、当然だという顔をする者、様々な表情をする。

 当然だという顔をする者はともかくとして、残念そうな顔を浮かべた者に厳しい視線を向けながらチェックする。

 動画でも見て分かるが殺し合っているのだ。

 そんなところに守るべき生徒までいたら何もできなくなってしまう。


「ほら、わかったらさっさと帰れ。寄り道もするんじゃないぞ」


 その言葉を最後に教師は教室から出ていく。

 そこで、ようやく生徒たちも帰る準備を始める。


「レイさん!どこか寄っていかない?」


「先生たちが寄り道するなって言ったじゃない」


 帰る準備を終わらせた女子生徒の数人がレイへと集まる。

 そして寄り道をしようという相手に白い目を向ける。


「いいじゃない。別に殺し合っている現場に行ったり探したりしなければ良いんだし。多分、寄り道ぐらいは皆するわよ」


 それはそうかもしれないけど、とレイは思う。

 それでも寄り道を一緒にするのは拒否をする。

 目的は分かっているからだ。


「ディアロとのことは話さないからね!」


「うっ」


 目的がバレたことに数人の女子は顔を背けたり呻いたりする。

 その間にレイは鞄を持って教室の外へと出る。

 他のクラスにも見られていた可能性は十分にある。

 その者たちに捕まりたくないと急いで学校から去ろうとする。


「廊下は走るな!」


 教師の注意も無視をしてレイは走る。

 後ろから自分を引き留めようとする声から全力で逃げるために。




「それにしても可愛かったなぁ」


 レイを追いかけていた女子たちは、追いかけていた途中のレイの顔を思い出して頷く。

 顔を真っ赤にしていて可愛かった。


「まさか、あのレイさんに好きな人がいたなんて………」


 その言葉に頷き、安堵している者も多い。

 レイは自分よりも容姿が優れているから狙っていた男を奪われるかもしれないと警戒していたが違う男を狙っていると知ったものたちだ。


「………それにしてもディアロ君かぁ」


 女子たちの何人かは協力しようと考え、他の者達も面白そうだと笑顔を浮かべている。


「くっそ」


 半面、男子たちにディアロは敵意を持たれてしまう。

 美少女に好意を持たれているせいの嫉妬だ。

 何で、あいつなんだと思っている者もいた。


「なんで、あいつなんだ……!」


「さぁ。案外、助けられたからじゃないか?ディアロの奴、普通に俺たちより強いし」


「はぁ?」


 愚痴ったらディアロが自分達より強いと言う言葉に何を言っているんだと顔を歪める。


「知らないのか?あいつは自分達より年上の先輩を鍛え上げて学年のトップクラスにまで鍛え上げたんだぞ。俺も見ていたから知っているし」


 信じられない顔を向ける男子。

 自分達と同じ年齢で年上の先輩を鍛えたとか意味が分からない。

 本当かよ、と疑った視線で問いかける。


「信じられないなら一度、相手してもらったらどうだ?手合わせぐらいなら先生たちも何も言わないだろうし」


 その言葉に何人かの男子生徒が目を光らせる。

 誰もかれもがディアロに一撃を叩き込みたいと思っていた。

 学年どころか学校でもトップクラスの美少女に好かれているなんて羨ましいからだ。

 とはいっても、ほとんどが一撃を叩き込むだけで後はレイに協力したり見守ろうとする者がほとんどだった。




「あぁぁぁぁ!!」


 少女たちの叫び声が聞こえる。


「見つけたぞ!多分、これだ!」


「「「「ハイッ!」」」」


 学校から連絡を受けて教えられた映像を見た警察は少女たちと大人が殺し合っている動画が生配信されていることに絶句し、直ぐに動き出した。

 通常よりも多くの人数を動かす。

 動画からも聞こえてきた理由から簡単には取り押さえられないと判断したからだ。

 そして配信をしている誰かを探すためだ。


「先輩」


「何だ?」


 取り押さえる前に後輩の警官が先輩へと声を掛ける。


「もし怪しいものがいたら問答無用で捕まえるで良いですか?」


「ん?あぁ、そうだったな。忘れていた」


 現場を探すのに集中をし過ぎて配信をしているであろう者について指示を出すことを忘れていた。


「お前ら!この周辺に怪しい者がいたら誰であろうと捕まえろ!配信をしていた奴かもしれないからな!」


「「「「ハイ!!」」」」


 先輩警官の言葉に他の景観全員が頷く。

 どうやら、この中では上の立場にいるものらしい。


「それにしても配信している奴はふざけていますね!こんな悪趣味なものを配信してないで止めるか私たちに連絡すれば良いのに!」


「全くだな!そうすれば探すことなく直接向かうことも出きた!」


 警官たちは配信者へと文句を言いながら現場へと向かう。

 もし見つけたら牢屋へとぶち込む気満々でいる。




「何だ、この匂いは?」


 現場の中へと入り、殺し合っていた者たちを探すと肉の焼けた匂いがしてくる。

 配信を途中まで見ていたから、それが何の匂いかと理解していながらも考えないように頭から追い出す。

 中には吐き気を抑えている者もいた。


「これは………」


 そして殺し合っていた者たちを見つけると全員が倒れ伏していた。

 一人ぐらいは意識が残っていると思っていたのだ。

 しかも殺し合っていた片方の女の子は配信では怪我をしていたのに全員が無傷だ。

 そして片方の大人たちは配信と変わらぬ傷を負っている。


「………胸糞悪い」


 まるで勝者にはご褒美として治療を。

 敗者には与えるものは無しとして治療しなかったかのような現場。

 何様のつもりだと思ってしまう。


「まずは救急車を呼ぶぞ!あとはやじ馬が入ってこないように周囲の警戒とこの場から去ろうとしている者の捜索!もし見つけたら配信者だと思え!」


 先輩警官の言葉にしっかりと頷く後輩たち。

 それぞれの役目を決めて見張りの役や救急車などを呼ぶ役割を決めていく。

 何も言わなくても直ぐに実行に移せるその姿に先輩警官も満足そうに頷く。


「…………もしもし」


 そして先輩警官は何か手掛かりが無いか探し始めた。

 配信者が殺し合っている姿を配信していた場所は誰にも見つけにくい場所のはずだ。

 そうでなきゃ配信者は殺し合っていた両方から攻撃されているはずだ。

 それがなかったということは両方から気づかれなかったということだ。


「この事件を配信していた者はやり手だな……」


 忌々しそうに先輩警官は配信者に対して恨み言を言う。

 配信してないで警察に連絡をしてくれれば、こんな悲惨な現場にならなかった。

 大人たちは全員が五体満足ではなく、どこか身体の一部が失われてしまっている。

 少女たちには怪我が一切ないのも無残さに拍車をかけていた。


「配信していた道具、見つかりましたか?」


「いや。そっちは?」


「いえ、全く。配信していたであろう跡も探していますが見つからないです」


 そうか、と先輩教官はため息を吐く。

 跡すらも見つからないように行動している様子から裏で引いていたのではないかと想像してしまう。

 だとしたら最悪な相手だ。


「入らないでください!!」


「頼む!入れてくれ!」


 配信者に対して黒幕かと怪しんでいると見張りの警官から声が聞こえてくる。

 もう野次馬が来たのかと警官全員が不機嫌になる。


「確認してくれて良い!私たちは配信されていた少女たちの学校の教師だ!頼む!」


 その言葉にどうするか悩む。

 そもそも自分達、警官が事件に気付いたのは学校の教師からの連絡だった。

 一刻も早く確認したいと思って探していたのかもしれない。

 学校の教師だと確認できるのなら許可を出しても良いのかもしれないと考える。


「すみません。証拠はありますか?」


「先輩!?」


 先輩の行動に驚き、教師たちも全員が頷いて、それぞれが証拠を見せてくる。

 何人もいて丁度良いと考える。

 生徒以外にも大人たちを知っているか確認したいと思っていた。


「わかりました。それでは生徒以外にも大人たちについて教えてもらえませんか?大人たちについても少しでも情報が欲しいので」


 警官たちの言葉に教師たちも頷く。

 知っていることがあれば何でも教えるつもりだ。

 生徒たちに意識が集中していて誰に何で襲われているか全く考えていなかった。

 大人たちを見て心当たりがあるか確認する必要もある。


「それでは、ついてきてください」


 そして警官たちの後を付いて行くと教師たちは酷く驚く。

 配信では生徒たちは傷ついたのに今では無傷だ。

 逆に大人たちは怪我を負ったまま。


「私たちが着いた時にはこうなっていました。まるで勝者に報酬を敗者には報酬は無しというように」


 それを聞いて教師たちはとてつもない寒気を覚えて身体を震わせた。

 まるで、この事件を狙って引き起こしたかのような気がした。




「それで大人たちに見覚えはありますか?」


 背筋を凍らせている教師たちに警官は声を掛ける。

 警官達も同じことを考えたが違うのは背筋を凍らせて怯えるのではなく怒りを強く覚えていた。


「そうです………ね?」


 教師の一人は心当たりがあるかのような思い出そうとしている顔をする。

 そして何人かは顔を青ざめていた。

 心当たりがハッキリとあるらしい。

 許可を出して連れてきたことに警官たちはガッツポーズを隠れて作る。


「もしかして事件の被害者の親御さんたち………?」


 その言葉に思い出そうとしていた教師たちも一気に思い出す。

 たしかに病院へと行くことになった生徒たちの親御さんたちだと。

 見覚えがあるのも面談などで顔を見ることがあったからだ。


「何で、この人たちが……」


 そう言いながらも何人かは理解している。

 ここ最近であったが生徒が襲撃される事件の犯人は彼女たちだと。

 そして、その復讐に大人たちが行動したのだと。

 教師なのに生徒を止めることも気づかなったのにも情けなく思ってしまう。


「………何人か起こしましょうか?」


「いや、それよりも病院に連れて行って回復してから話を一人一人聞いた方が良いだろう。先生方もこちらに任せてもらって良いでしょうか?もちろん、そちらにも話は伝えて置きます」


「…………」


 警察からの提案に教師たちは何も言えずに悩んでしまう。

 後は警察だけに任せて、それで終わりにして良いのか。

 教師としての仕事もあるとはいえ、何もする必要は無いのか。


「すみません。話をするときは私も連れて行ってもらえませんか?」


 そんな中、一人の女教師が手を挙げる。

 学校における養護教諭だ。

 普段から保健室に来る生徒も少ないために手を挙げた。


「私なら普段から保健室を使っている生徒も少ないですし問題は無いと思います」


 養護教諭の言葉に教師たちは首を縦に振って頷く。

 確かに大丈夫だろうと考えていた。

 もし、生徒の誰かが怪我をしても応急処置ぐらいなら教師の誰でも出来るという判断もある。


「警察の方々もお願いできませんか。どうして、こんなことをしたのか、こちらも生の声で聴きたいのです。その代表として彼女を同伴させてもらいたいのですが?」


 警察の一人はその案に確かに良い考えだと思う。

 こんなことをした理由さえわかれば学校側も対処するはずだと思ったからだ。

 事件が起きるのを、それで防げるのなら何も悪くない。


「そうですね、わかりました。今後、このようなことが無いように一緒に聞きましょう」


 警察の言葉に頷いて話している間に来た救急車へと怪我をした親御さんたちと女子生徒たちを乗せて病院へと向かった。





「いたんだ?貴方は何をしたの?」


 レイはアルバイト先の事務員へと来て質問する。

 あんな事件が起こったのは目の前の男が関わっていると思っているからだ。


「俺がやったのは映像を撮って配信していただけだけど?他は全部、あいつらの意思だ。まさか突発的に行動するとは思わなかったけどな」


 直感に従って動いて良かったと事務員の男は笑う。

 普段よりも機嫌が良い様子にレイはため息を吐く。

 跡を残すようなやり方をして自分から危険を増やしてどうしたいのか意味がわからない。


「いや貴方、私たちにはバレたら厳しいくせに自分には甘いって酷くない?」


「別にいいでしょう?破滅するのが自分の責任ならともかく、他は許せなくても。それが嫌なら辞めれば良い」


 レイはそんなこと出来るはずがないと悔しそうに拳を握るが、同時に笑顔が浮かんでいる。

 その姿に事務員は行動と顔が一致していないと不思議がる。

 レイもそんな自分に気付いていない。


「さてと面白そうだし全員を辞めさせるか」


 どちらにしても全員強制的に辞めさせるつもりだからレイが悔しがっても意味が無い。

 全員の記憶を消してバイトのことも忘れてもらう。

 あとは趣味でやっていくことに決める。


「………どういうこと?」


 当然、レイは聞き逃さない。

 バイトを辞めさせられるということは事務員に接近する機会も失ってしまう。

 そんなことは認められない。


「なんで……」


「えっ。この相談事務所がバレるのも自己責任にするつもりだからですけど?自分の責任だったら笑えるけど他人の責任だったら許せる気が全く無いし」


「だからって……」


 レイは事務員の言葉に避難の視線と今更という呆れが沸きあがる。

 バレそうな危険があるたびに怒るならバイトを辞めさせれば良いのにと思っていたからだ。

 だけど実際に言われるとショックを受けてしまう。


「お願いだからクビにしないで!なんなら給料はいらないから!隣に置いて!」


 レイの必死の懇願に事務員は困惑する。

 金払いは良くしていたからクビになるのを説得しようとしているのは想像していたが給料もいらないとなると意味が分からないからだ。


「お願いだからぁ………」


 涙を流しなら懇願するレイに事務員はため息を吐く。

 取り敢えずはレイ以外を全員問答無用で記憶を消すことにする。

 一人だけなら裏切られても直ぐに誰が裏切ったか理解できる。


「誰にも言わないならクビにしませんよ」


 事務員の言葉にレイは首を縦に何度も振る。

 それを見て事務員はどうなるかな、と楽しそうに嗤った。



「さて、と」


 事務員は早速バイトの全員に来るように連絡する。

 できることなら全員が来てほしいと思っている。

 ちまちまやってやり残しがあるよりは一気に終わらせたいのだ。


「もしかしてバイトの人たちを呼んでクビにするの?」


「そうですけど?……あぁ、ちゃんと君はクビにしないから安心してください」


 事務員からクビにしないと聞いてレイは安堵する。

 これで、これからも事務員の隣にいれると。


「うん?」


 バイトの全員に送ったが何人かは今日でないとダメなのかと確認のメールが帰ってくる。

 どうしても無理な状況はあるものだと、事務員は明日でも良いとメールを送る。

 できれば来てほしいとも送ったが。


「遅れました!」


 最初にバイトの一人が来る。

 ちゃんとマントを被っており正体を隠している。


「なんの用でしょうか?」「何かありましたか?」「あの配信って事務員さんがやったんですか!?」


 それから次々とバイトの者たちが入ってくる。

 レイたちと同じ学校の生徒は全員。

 あとは違う学校の生徒や大人たちもいる。

 大人はともかく違う学校の生徒たちはサボったなと確信する。

 レイたち以外の学校はまだ授業をしているはずだ。


「あの……?」


 何人も事務員の前に集まっているのに何も言わないことに不審に思ったのか一人が話しかけようとする。

 そして一歩進んだ瞬間、全員が崩れ落ちた。

 立っているのは事務員とレイだけ。

 だがレイも何が起こったのか理解していない。


「なに……?何をしたの?」


「全員の、この相談事務所の記憶を消しただけですよ」


 レイは困惑する。

 なぜなら意味が分からないからだ。

 記憶を消すなんて聞いたこともない。

 本当はあったとしても何で使えるのか理解できないからだ。


「私にも使うのかしら?」


「使いませんよ。それよりも運ぶの手伝ってもらえませんか?ここに置いとくのも邪魔ですし」


 どうするのかとレイは首を傾げる。

 殺すかと確認してしまう。

 意識が無い今なら簡単に殺せる。


「殺すなら、もう既に殺していますからね?あとでどこか見つかりやすい場所に捨てるだけですからね!」


 レイはなるほどと納得する。

 たしかに事務員なら、既に殺せていた。

 それに事務員なら見つかっても簡単に逃げられるだろうと確信できる。


「すぐそこの部屋で大丈夫ですよ。それが終わったら今日も掃除お願いしますね」


 事務員の言葉にレイは頷いて一人一人運び始める。

 中にはどうしても重くて運べない者もいるが、それは事務員が運んでくれている。

 それでも人数の多さと一人の重さにレイは汗をかく。


「どうしたのよ」


 その姿に事務員はジッと見たことに気付いたのかレイはニヤつき胸元を広げる。

 そして抱き着けるほどに接近する。


「ねぇ?」


 その間も事務員はジッと見ていた。

 レイも視線に色欲が混ざっていないことに不満になり密着するが顔を赤くもしない。


「運び終わったら飲み物でも飲みますか?汗もかいているし」


「………」


 ジッと見ていて言うことはそれかよとレイは青筋を浮かべる。

 顔もまったく赤くしていないから嘘でないことが分かってしまう。


「レイ?」


「………飲むわ」


 性欲が本当にあるのかと疑い、自分に魅了が無いと言われたような気がしてレイは更に不機嫌になり八つ当たり気味に運んでいく。

 怒りの力は凄まじく、最初は運べていなかった者たちも運んでいく。

 事務員は運べるんじゃんと思うだけ。

 直ぐに飲めるように冷たい飲み物を準備する。


「おわったわよ……」


 そして少しして不機嫌そうに終わったことを報告にきたレイ。

 事務員が運ぶのを途中から全部任せたことに更に怒りをもったせいだ。

 そんなレイにお前の感情なんか知ったことかと事務員は冷たい飲み物とタオルを渡す。


「………ありがとう」


「別に良いですよ。後は掃除したら帰ってくれるだけで良いので。帰るときは報告してくださいね」


「わかったわよ!」


 飲み物と冷たいタオルを渡してくれたことに不機嫌な気持ちも少しは治まったのに仕事を思い出される。

 レイは不機嫌に返事をして掃除を始めた。



「あとは何人来るかな?」


 レイの掃除姿を眺めながら残りのバイトたちが何人来るか想像する。

 できれば全員、来てほしいと考えている。


「…………意味が分からないな」


 事務員は我ながら理解ができないとため息を吐く。

 何で目の前で掃除をしている彼女だけは許してしまったのか。

 本当なら彼女も記憶を消すつもりだったのに。


「それだけ掃除係が必要だったのか?」


 掃除はたしかに面倒くさい。

 料理も手間。

 しかも偶に持ってくるレイの料理は美味い。


「餌付けかな?」


 そう言いながらレイの手料理を思い出すと腹が減ってきた。

 そして失敗したと思う。

 クビにしない条件に手料理を頼めば良かったと。

 それとも手料理を頼む代わりに給料を今までより払った方が良いだろうかと考える。

 クビにした分だけ金も余るから、そのぐらいは余裕だ。


「さっきから何を言っているのよ?」


「給料増やすから料理、これからも持って来てくれません?」


「へっ!?」


 不機嫌だったレイが一瞬で顔を赤くする。

 どうやら言われた内容が予想外のことらしい。


「な、何で?」


「美味しいからですけど……」


「そ……そう」


 結局、答えはどうするんだと事務員はレイを眺める。


「それ……、私が作ってきたやつなんだけど。これからも作ってあげようか?」


「頼む」


 事務員の即答にレイは喜色満面の笑みを浮かべた。




 警察官と養護教諭は病院へと殺し合っていた者たちを運んだ後、起きた者から事情を確認していった。

 学校で顔を見合わせた保護者もいることに養護教諭は暗い顔をする。

 穏やかに話したことがある相手も憎悪に染まった顔をしていたからだ。

 そして女子生徒に対しても同じ気持ちだ。


「大丈夫ですか……?」


 あまりの暗さに一緒にいる警察官も心配して声を掛ける。


「はい。何を言われても良いように覚悟だけはしていきます」


「そうですか。……こちらも他に聞きたいことがあるので、その際は邪魔しないでください。後で聞きたかったら答えますので」


 警察官の言葉に養護教諭は頷く。

 そしてまずは最初の一人の部屋へと入っていった。


「久しぶりですね、先生」


「お久しぶりです」


「こんなに早く先生に見つかるとは、あのアマどもをさらったのを見られていたんですかね?」


 殺し合いの現場が見つかるのが早すぎる。

 まさか一日で見つかるとは思わなかった。

 誰にも見つからないところに運んだと思ったのにだ。


「実は殺し合っていた姿が配信されていました。私たちは貴方たちに協力した者が犯人だと思っています」


「は?」「え?協力ですか?」


「ええ。貴方たちに復讐の協力として関わった者がいるはずです。最近の事件では彼が関わっているものが多いので」


「そういうことですか……」


 忌々しそうにいう男性。

 脳裏には復讐相談事務所の顔を隠した事務員が浮かぶ。

 相談を受けたのも配信するためにしたのかと怒りが沸きあがる。


「できれば、どんな相手なのか?どこで会ったのか教えていただきたい」


「わかりました………。あれ?」


「どうしましたか?」


 男性は答えようとして言葉が出てこない。

 姿を隠していたから分からないが、道も覚えていない。

 気付いたら事務所の中にいた。


「……すみません。姿は隠していてわかりません。ただ、声は少年の者だったと思います」


「そうですか?どこで相談を受けていたのかは?」


「それが分からないんです!気付いたら事務所にいて場所も覚えていません!」


 顔を蒼白にして叫ぶ男性に警察官は何も言えない。

 普通は有り得ないと思うが、この件に関しては他の事件で捕まえた者達も同じことを言っている。

 男性も同じかと顔には出さないが残念に思ってしまうだけだ。


「すいません。話は変わりますがあなたの子供が女子に苛めをしていたことは知っていますか?」


 話を変えての養護教諭の言葉に男子はは?となる。

 だからといって、あそこまでするかと思う。

 今も自分の子供は意識が戻らない。

 苛め程度でそこまでする気持ちが分からない。


「ふざけないでください!苛めていたからって、あそこまでするんですか!?今も意識が戻らないんですよ!意識が戻っても前のような生活は出来ないんですよ!」


「そこまで苛めというのは酷いんです。一度、何をされたか話し合ってみてはどうでしょうか?苛められる方も悪いとよく聞きますが、苛めた者が悪くないわけでは無いんです」


「だから何だ!?言いたいことはそれだけなら帰れ!俺は絶対に許さないからな!」


 近くにあった花瓶や物を投げて追い出そうとする男性に養護教諭は逃げ出し警察官も一緒に部屋から出て行った。




「申し訳ありません」


 部屋から出て養護教諭は警察官に謝罪をする。

 余計なことを言ったせいで、まだ聞きたいこともあったかもしれないのに一緒に追い出されてしまったのだ。

 警察官の仕事の邪魔をしてしまった。


「いえ。むしろ金言感謝します。その言葉、署内で広めても?」


「金言ってそんなことは無いと思うんですけど!?」


「いえ、先程の言葉に非常に胸に来ました」


 警察官から褒められて養護教諭は恥ずかしそうに顔を隠す。

 それを見て警察官はにこやかに笑みを浮かべる。

 本当にいい言葉だから恥ずかしがる必要は無いと思っている。


「それよりも他の起きている人のところに行きましょう!もしかしたら元凶らしきものについて覚えている者もいるかもしれませんし!」


「そうですね。一人でも多くのことを覚えていれば良いんですけど」


 警察官は事件の被害を大きくする者について少しでも情報を得られればと思う。

 これまでは先程の男性と同じように声が少年のものでいつの間にか事務所の中にいたことしか得られていない。

 少しでも早く捕まえて被害を小さくしたいし、事件の発生を減らしたい。

 噂を聞いてから確かに事件の数が大きくなっているのだ。

 誘導したのは彼だと思っている。

 ようやく尻尾を出したのだ。

 少しでも手掛かりを見つけたかった。




「全員、覚えていませんでしたね」


「そうですね。それに全員が貴方の言葉に怒りを抱いてしまっていましたね」


 警察官と擁護教諭は今、目を覚めている保護者達へと顔を合わせたが誰もが事務員の姿と場所を覚えておらず、養護教諭の言葉に怒りを露わにしていた。


「………情報を得られれば良かったのですが残念です。被害を大きくしてくる犯罪者を捕まれたのに」


「頑張って下さい。そして捕まえてくれることを願っています」


「ええ」


 警察官から聞いて、彼がいなければもしかしたら事件は起きなかったと思う。

 憎しみや怒りがあっても実際に行動するのは難しい。

 理性や法というモノが邪魔するからだ。

 それなのに行動したのは誘導されたからだと思っている。


「もしかして今の学校の事件も……」


 そして今、学校で調べている事件のことを思いだす。

 あれも苛めが原因で起きていたらしいと生徒会から話を聞いた。

 いじめられていた者たちが結託しても行動するのは厳しいと考える。

 そんな行動力があるなら苛められていないはずなのだ。

 もしかしたら苛めの復讐に関しても関わっているのかもしれなかった。

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