五話
「皆、話したいことがあります」
ダイキは生徒会で皆が集まったとこで声を上げる。
これから仕事をしようとしたところに何の用だと視線を向ける。
「前にも言ったけど父さんは警察なんですけど、これ以上は探らなくて良いって言われて」
その言葉に生徒会のメンバーは苛つきを覚える。
仕事を要求しておいて、急にいらなくなったと言われるのは腹が立ってしまう。
「それよりも自分の身の危険を感じて欲しいみたいで。警察の巡回も増やすから危険な目に合ったら声を上げて欲しいみたいです」
こちらの身の安全を案じての意見に生徒会のメンバーは複雑な感情を抱く。
有難いのか実力不足だと言われて不満なのか。
「っし!」
逆に嬉しそうなのがディアロだった。
これでバイトに集中できると思いもある。
何よりも学生にさせる仕事ではないと思っていたからだ。
本当は軽く手伝うだけで良かったかもしれないが、今回の事件はその軽くでも危険だった。
「君は友人が襲われても何とも思わないのかい?」
「え?でも対策なんて一人で帰らずに何人かで固まって帰ろうぐらいしかないじゃん。集団下校でもするの?俺は一人で帰るつもりだけど」
案の一つとして集団下校があると聞いて良い案だと思ったが一人で帰ると言うディアロに冷たい目を向けてしまう。
何で何人かで固まって帰ろうとしないのか理解できない。
「面白そうだからですよ」
それを問いかけたら、そんな答えが返ってくる。
何が面白いのか本当に理解できない。
「それじゃあ、俺は先に帰りますね。パーティを開くかどうか知りませんが出来れば読んでくださいね」
それだけを言ってディアロは生徒会室から出ていく。
その後に残ったのは生徒会のメンバーだけだった。
「………どうする?」
「そうだね。取り敢えず事件の解決の目途はまだまだ立たないから学校全体で一人で帰らないように注意することしか出来なんじゃないかな」
「そうですね。それじゃあ、まずは先生たちに提案しに行きませんか?私たち同じ学生よりは先生から言った方が従ってくれるかもしれませんし」
生徒会のメンバーがそれぞれ意見を出し合う。
これ以上危険だから無理に関わるなと警察に言われれば不満はあっても従うしかない。
こちらの身の安全を心配してくれて言っているのだし、自分達が率先して守っていれば他の生徒も従ってくれると考えている。
「とりあえず私たちは生徒会のメンバーで固まって帰ろうか?」
生徒会長の言葉に頷く生徒会メンバー。
そしてディアロについて文句を言い合う。
「なんで、あんなマイペース何だが……」
「自分の実力に自信があるんだろう」
「まぁ、二年生相手にも反応できない速度でアイアンクローで持ち上げたりしましねぇ」
「意外と暴力的だなぁ」
ディアロが一人で帰るのは襲われても反撃できる自信があるのだろうと想像する。
実際に先輩を鍛え上げた話も聞いたし、聞き取りで先輩相手でも反応させずにアイアンクローしたこともあった。
それを知っているから、あながち大丈夫だろうとも考えてしまう。
それでも学校の生徒として従ってほしいが。
「取り敢えず職員室に言ってお願いしよう。先生から学校のルールだと言えば従ってくれるかもしれないし……」
正直、ディアロ以外にも一人で帰ろうとする生徒はいるかもしれないが、ディアロも含めてそこは自業自得だとあきらめるしかなかった。
「なるほど。よくわかった。こっちからも生徒たちに注意を呼び掛けて置く」
生徒に話しておくつもりだったが教頭先生がいたから予定を変更して教頭先生にお願いする。
教頭先生から教師全体に伝えてもらうつもりだ。
「それにしても警察の方から安全のために手を引いてほしいのか………」
教頭先生の言葉に信じてもらえないのかと落ち込む生徒会のメンバーたち。
その様子に教頭は慌てる。
「信じてないわけでは無いですからね!?ただ、警察からも危ないと言われることを任せてしまったことに反省しているだけです。申し訳ありません」
そういって教頭は頭を下げる。
生徒会のメンバーたちは教頭が頭を下げたことに慌てて顔を上げるように頼む。
「大丈夫ですから頭を上げてください!」
「そうですよ!俺たちも最初は、こんなに大事になるとは思っていなかったんですから!」
「全くです。むしろ、これまで以上に犯人を捜してくれと言われないだけありがたいです」
「………そう見えるのか」
生徒たちに無茶を押し付けるように見えていると言われ教頭はショックを受ける。
生徒会のメンバーたちは、余計なことを言ったアクアを責めた目で見る。
「すいません。そんなつもりではなかったんですが」
アクアの謝罪に気にしなくて良いと今日とは伝える。
教頭という立場だからこそ授業をする機会も少なく生徒と関わることも少ない。
お互いにどんな人物か知らないのだ。
誤解をされていても、しょうがないと思える。
「いいさ。それよりも気を付けて帰るんだよ」
教頭は気にしていないと生徒会のメンバーたちに伝え、無事に帰れるように注意した。
自分達で言っているように集団で下校するように。
「はい、これ」
遊園地でレイは事務員にペアカチューシャを渡される。
それを見て周りの客たちを見て黙って受け取り頭に着ける。
「よし。それじゃあ早速、ジェットコースターに乗るわよ」
事務員は手を握られて連れて行かれる。
その姿は普段と違い一切隠していない。
もし他のバイトがいて見ており正体を叫ばれたらバレて捕まる。
未成年だろうが関係なく、それだけあくどいことを事務員はしている。
「そういえば今更だけど本当に大丈夫なの?」
正体を晒して事務員と一緒に歩いていることにレイは冷や汗を流し始める。
自分で行ったこととは言え、これはかなりヤバイんじゃないかと。
捕まって事務員と会えなくなるのは嫌だ。
「なんとかなるんじゃない?今のところバイト同士で顔が割れているのはお前だけだし。それでも遊園地にお前と一緒にいる=俺の素顔と短絡的な結論を出すとは限らないし」
それもそうだとレイは納得する。
そして少しだけ嬉しそうにする。
「私たちのことを信頼してくれているんだ?」
「別に?」
信頼してくれているとからかうつもりで言った言葉が即答でいていされたことにレイは表情が固まる。
それなのにどうして一緒に遊園地に来たのか分からない。
バレて捕まってしまっても構わないのだろうか?
「バレても良いの?」
「面白そうだし。脱走とかできるか知らないけど面白そうだなって……」
牢屋など警察を舐めている発言にレイは冷や汗を流す。
いくら事務員が強くても牢屋に幽閉されれば逃げれないはずだ。
そんなことは試してほしくないと止めてくれと懇願する。
「じゃあ、お前も普段からちゃんと姿を隠してくれ」
「ごめんなさい……」
そうしたら事務員から正論が帰ってきてレイは謝ることしかできなかった。
レイ自体が正体がバレる危険そのものだった。
自分が一番、事務員を捕まえられる原因となっていることに反省する。
「ちゃんと次の日からは顔を隠します……」
「何度も言っているけどな」
それも本当のことだから何も言えなかった。
「…………ゲームの話だと誤魔化すしかないかな」
「どうしたのよ?」
ディアロは遊園地の真ん中で逮捕とか脱走とか話してしまってヤバいかなと思う。
願うことなら監視カメラが有っても収音装置までないことを祈る。
そして誰かに聞こえてもゲームの話だと誤解してほしいと思っていた。
もしかしたら騒音で聞こえていないことも祈る。
「なんでもない。それよりもお前って絶叫系が好きなのか?」
一番最初にこれを選んだことからレイは絶叫系が好きなのかと事務員は想像する。
「そうよ!」
それに対してレイは楽しみだと声を上げて肯定する。
スリルがあって楽しいのだと笑顔だ。
周りの者たちはスリルがあって楽しいと言うレイに笑顔で頷いている。
「ならお化け屋敷も好きなのか?」
スリルがあって楽しいかという疑問にレイは顔を逸らす。
周りにいた客も頷いたり顔を逸らしたりと様々だ。
正直、レイよりも周りの者の反応を期待して質問したが返答は様々だった。
「………別にジェットコースターとは違うスリルだし」
それもそうかと事務員は頷くとジェットコースターに乗れる順番が回ってきた。
レイの隣に座りジェットコースターが動き始めた。
「あぁ~。楽しかった!」
事務員はジェットコースターに乗った後、疲れたように座り込む。
正直、速度は大したことのないように感じたがさかさまになって落ちないかとドキドキした。
そんな心配は必要ないとわかっているが、どうしても不安になってしまう。
「そうか。俺はもう乗りたくない」
「嫌よ」
弱音を吐いた事務員にレイはニヤリと笑う。
初めて弱点らしきものを見つけたのだ。
何度も乗らせてみたいと考える。
「それにしても本当にジェットコースターは人気だな」
事務員の視線はジェットコースターに乗る列で並んでいる者たち。
人が溢れかえっていて人気だと言うことがよくわかる。
もう一度乗ろうと並ぶだけでかなりの時間を使ってしまいそうだ。
「そりゃ遊園地といったらジェットコースターだし」
「俺はもう乗りたくない。並んで待っているだけで時間を食いそうだし、それより他の所を回った方がましだ」
事務員の言葉にレイは苦笑する。
それも遊園地の楽しみなのにせかっちだなと。
「それじゃあ次はアレに乗るわよ」
レイが指差したのは、また絶叫系の遊具だった。
そこにも多くの者が並んでいる。
絶叫系は誰にでも人気なのかもしれない。
結局、最後にはこの遊園地にある絶叫系のほとんどを制覇した。
「楽しかった~!」
レイは事務員と一緒に絶叫系に乗って満面の笑みを浮かべる。
その姿には事務員も満足する。
「ねぇ。また一緒に来るわよ」
レイの誘いに事務員も頷く。
絶叫系に乗ってハラハラしたが楽しかったのは否定できない。
また来たいとも思ったが乗るまでに並んで待つ時間がもったいなくて事務員は悩む。
もっと待つ時間が少なかったら何度でも来ようと思えた。
「来週とかはどう?」
「嫌だ」
楽しそうに笑いながら言うレイに事務員は拒否をする。
レイも何で?と言いながら詳しくは聞いてこない。
断れるのがわかってて言っているのだろう。
笑顔で事務員に話しかけている。
「そういえば、今回の事件って後どのくらい続くの?」
「そろそろ終わるんじゃないか?」
今、起きている事件のことについてレイは事務員に質問する。
その質問に事務員は楽しそうに嗤いながら答えた。
事務員は朝、起きると学校をサボって四人の女子生徒を探す。
何となく今日は面白そうなことが起きると思ったからだ。
手に後でネットに残せるようにできる機材を手にして街中を走り回る。
「………今回の事件、手を出した?」
「そんなわけないでしょ。確かに見ていただけの連中もムカつくけど、他の奴らが手を下しているみたいだし」
「私たちの獲物を奪われて何をしたいんだが!」
「私たち相手以外にも手を出していたんじゃない?」
「………それもそっか」
四人の女子生徒は話しながら歩いている。
今はまだ何もされていない。
だけど学校からはまだ距離があり、そして近くには事務員に相談していた四人の女子生徒への復讐者たちがいる。
今から事件が起きるのかとワクワクしながら事務員は見ている。
「………で」
「だから……」
「おぉ!!」
四人の女子生徒が曲がり角を曲がろうとした瞬間に全員がトラックの中に引き込まれた。
その手際の良さに思わず事務員は感心の声を上げる。
そして連れ込んだトラックが走り出した後を付いて行く。
当然、事務員は自分の足で追いかけていく。
身体能力を上げる魔法はあるが、それでも普通は追いつけないのだが事務員は関係ないとばかりに余裕で追いつき後を付いて行く。
「止まった?」
そしてトラックが止まった先には誰もいない廃工場。
何でこんなところに連れてきたのか事務員は首を傾げる。
誰かの家の中に連れ込んで監禁するんじゃなかったのかと思い出す。
そしてネットに映像を残すために準備をして撮り始める。
生放送だ。
「………っくそ!こんな明るい時間でなければ家に連れ込めたのに!」
あぁ、と事務員はその言葉を聞いて納得する。
トラックに連れ込んだ四人の女子生徒を家に無理矢理にでも入れるのはマズい。
こんな明るい時間だと誰に見られるものか分かったものじゃない。
最初にトラックに入れた瞬間も誰かに見られたかもしれないが全員が顔を隠して一瞬で終わらせていたから多分、大丈夫だろう。
「はぁ!」
トラックの中にいる女子生徒を運ぼうとしたのか再度、トラックの中に入った一瞬後吹き飛ばされていた。
しかも気絶しているのか動かない。
「アグレッシブだなぁ」
事務員はその姿を見て再度感心する。
出てきた少女たちは全員が縛られていたのか紐が身体にいたるところに張り付いてあり、口を塞いでいたがガムテープをその手ではずしていた。
そして事務員は女子生徒をさらった者たちに冷めた視線を送る。
事務員からすればさらってから、ここまでくる間に女子生徒たちは拘束を抜け出していたと想像できるからだ。
もしかしたら、わざとさらわれたんじゃないかと思う。
「もしかして私たちに無理矢理、売春させた奴らの親ども?」
「は?」
「そんなことを言っても親たちは何も知らないんじゃない?」
「それもあり得るか」
女子生徒たちの会話に何を言っているんだと困惑する。
だが無意識にでも、ある可能性を除外していた。
それは自分達の子供が外道行為をしたことを。
「………事務所に来た時も思ったけど、やっぱり知らないのか?四人とも自分たちの子供に何をされたのか?」
それを知っていたら復讐は止めていたのかもしれないし、だから何だと変わらないのかもしれない。
事務員は知っていた、どうだったのだろうと想像する。
「意味がわかならい「意味がわからない!?私たちはあんたらの子供たちに無理矢理売春されたのよ!しかも目の前で私たちを犯した男から金を受け取っていた!そんな日を何日も過ごさせて!私たちは子供も産めなくなった!!」……なにを言って」
事務員はそれを久しぶりに聞いてそういえばと思い出す。
それを聞いて男であるからか辛さは理解できなかったが辛そうな表情に同情した。
相談所で聞いたから、その場にいたバイトの女子が慰めてくれて助かった。
男の子もいたが深く同情するように労わっていた。
「だから、貴方たちにも復讐する……!」
本人だけではなく、その家族にも復讐するつもりらしい。
事務員はすっかり本人だけで済ませると思っていた。
だけど実際は違い、そのことに笑みを浮かべる。
「ふざけるな!そんなこと信じられるわけないだろ!」
震えながら否定する相手の親たち。
証拠はあるのかと口々に叫ぶ。
「あるわよ。この場に持って来てないけどね」
「えいっ!」
両者の言い合いの最中に場に合わない掛け声と一緒に崩れ落ちる音が響く。
そちらを見ると、いつの間にか移動していた女子生徒の一人が鉄棒を振り下ろしていた。
そのすぐ下には頭から血を流して倒れている大人がいる。
「いつまで喋ってんのさぁ。こいつらのせいで、あんな目に合ったんだよ。さっさと殺そう?」
その言葉に事務員は確かにと頷く。
親たちが子供たちを犯罪に走らせないように育てればこんなことにならなかった。
理不尽かもしれないか、否定することも出来ないだろう。
それにしても倒れている大人は頭から血が流れて全く止まる様子が無い。
このまま放っておいたら死ぬだろう。
それを無視して事務員は殺し合いを始めようとする両者をネットに挙げながら面白そうに見ていた。
「死ねぇ!!」
大人たちは魔法を使って女子生徒たちに攻撃する。
全員が火の魔法を使って攻撃していた。
その姿に事務員は爆笑する。
「全員、火魔法を使うのかよ!!たしかに一番、威力は高いだろうけどさぁ!!」
他の魔法を使わないことに納得と同時にバカだと思う。
確かに最も威力が高いが最も目立つ。
警察が直ぐに駆けつけて止められるだろう。
「それはつまらない」
だから事務員は簡単に気付かれないように周り散った火を殺し合っている本人たちにはバレないように消し、何も異常が無いように周囲を隠す。
すこしでも長く、この殺し合いを見てみたい。
「あなたが死になさいよ!」
大人たちが魔法を使って攻撃していくのと違って女子生徒たちは武器を持って物理的に攻撃している。
鉄棒を始めとしてハンマーなどといった武器を手にして大人たちを殴っていた。
「あがっ!」
「おぼっ!」
殴られて優位なのは女子生徒たち。
数の差があるが確実に当てて行って大人たちの数を減らしている。
「油断していたのか?……自分達なら年下の子供相手なら楽勝だと思っていた?」
その結果に少しだけ事務員はつまらなく思う。
女子生徒たちは素直に凄いと思っているが大人たちは情けなく見える。
かなりの数の差があるのだ。
それなのに女子生徒たちが優位のなのは攻撃が当たっても一切ひるまないからだ。
服は焼け焦げ、素肌が見えている。
その素肌もいくらは痛々し気に火傷をしている部分もある。
たいして大人たちは一撃ごとに怯んだりする。
「先輩たちの方が復讐心は上だなぁ。本当に復讐したいなら相打ち覚悟で攻撃すれば良いのに」
それすら思いつかないなら本当に復讐したいのかと思う。
相談所に来れたから、そうだとは思うが残念だ。
全員が来たわけではないし、他の者たちに期待するしかない。
「あぁぁぁぁぁ!!」
「おっ!」
一人の女性が女子生徒の一人に飛び掛かる。
女子生徒はそれを防ごうと女性の頭をハンマーで殴るが全く止まらない。
頭から血を流し歯が折れて口から飛び出しても止まらない。
「っつ!!離しなさい!!」
女子生徒に抱き着き女性は絶対に離さないとばかりに強く抱き着く。
「じねっ!」
「あぁぁぁぁぁ!!」
そして抱き着いたままに火魔法を使って自分ごと女子生徒を燃やす女性。
無理に暴れて離れようとするが引き離せない。
「ネグ!!」
このままで死んでしまうと仲間たちは攻撃を中断してネグと呼ばれた仲間の元へと向かう。
途中で邪魔をするものがいたが、それらを無視して急ぐ。
後ろから背中に攻撃をされても全く止まらない。
「あぁぁぁ!!」
「この離せ!!」
「ふざけないでよ!!人を壊すような真似をする奴の親の癖に!」
「私の仲間を殺さないでよ!」
三人の女子生徒の言葉に必死の思いで殺そうとする女性はだから何だと思う。
女性からすれば全く知らない女の子たちより自分の子供の方が大事だ。
自分の子供のために死ねと考える。
「なんだ、ちゃんと復讐する気の奴がいたじゃん」
事務員はその姿を見て考え直す。
ちゃんと復讐する気で全てをかける者が相手にもいた満足だ。
だが少しだけ残念に思う。
「はっ!」
「何を!………?」
ネグと呼ばれた女子生徒に向かって風の魔法を使う仲間。
下手したら火の勢いが増すだけなのに何をしているんだと思ったが女性の手足を切り落としたことに納得する。
そして女性を蹴って直ぐにネグから離す。
「悪いけど、これで許して」
そして水魔法を使って消化する。
これで火は消したが足手纏いが増えた。
護りながら、この状況を打破するのは難しいかもしれない。
他にもこの女性のように何がなんでも殺しに来るものがいるかもしれない。
「まぁ、これで終わりか」
だが事務員は現在の状況を見て終わりだと判断する。
先程の女性のように行動する気概があるものは一人も見当たらないのもある。
それよりも残った者たちの数だ。
女子生徒たちが一人脱落してしまったとはいえ、あと三人が残っている。
対して大人たちの数は十人もいない。
まだまだ女子生徒たちに復讐したい親たちもいるが今のこの場にはいない。
来れないだろうとも考えいる。
これまでの戦闘状況から勝つのは女子生徒たちだと判断した。
「「「あぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
「うるさっ」
女子生徒たちは気合を入れるかのように雄たけびを上げ大人たちへと向かっていく。
「取り敢えず治療するか」
それを横目に事務員はされにも気づかれずに炎に焼かれたネグを癒す。
焼かれたことが無かったかのように。
これは単純に勝った方へのご褒美だ。
少し早いが問題ないだろう。
現に大人はもう片手で数えられる人数しかいない。
「さてと警察でもあと少ししたら来るかな?」
それまでに逃げないと、と事務員はつぶやく。
ネット配信をしていたから関係のないはずの第三者がいたことは既に理解させられているはずだ。
全てを回収して逃げないといけない。
「ありがとう」
治癒していた女子生徒からそんな言葉が聞こえる。
焼かれているが意識は失ってなかったみたいだ。
それに答えるつもりは全くない事務員はその場から立ち去った。
「あれ?ディアロは?それに何でレイさんに色んな人たちが詰め寄っているんだ?」
ダイキが学校のクラスに入ると朝のSHRまで時間がギリギリなのにディアロは見当たらず、レイが詰め寄られていた。
ダイキがこの時間になったのは単純に朝、起きるのが遅かったせいだ。
「あっ。おはよう。ディアロはまだ来てないよ。それよりも今はレイさんが日曜日にディアロとデートしていたみたいで話を聞こうとしているみたい」
「マジで!?」
「マジマジ。たまたま遊園地で見つけた奴がいたらしくてさ凄く笑顔だったらしいよ」
「へぇ」
友人に恋人ができることに少しの寂しさと祝福したい気持ちが溢れる。
早速、ディアロが来たらからかおうと考えている。
「まぁ、そのディアロは見た感じ平然としていたみたいだけど」
「は?」
「何か見ていた奴からすればディアロは平然としていてレイさんは興奮していたらしい」
それって、とダイキは思わずニヤけた顔をレイに向け、話していた友人も同じように向ける。
まさかレイの方がディアロに矢印を向けていて、ディアロはそうではないということに協力したくなってしまう。
「よし。ディアロは遅刻するかもしれないが、その事にからかうか」
ダイキはディアロの遅刻を断定するが、それも当然だ。
既に時間はSHRまで一分を切っており、それらしき姿を見ていない。
もしかしたら風邪か何かで休みかもしれないと想像する。
学校が終わったら見舞いに行こうか考える。
「おい!動画を見てみろ!ヤバいぞ!」
いきなり叫んだ同級生に入ってきた先生も驚いていた。
「わかったから、後にしなさい」
「そうじゃなくて先生も見てください!」
先生の注意も無視して動画を見せようとする生徒にため息を吐く先生。
そして軽く見たと思った瞬間に目を見開く。
「これって、この学校の生徒の制服ですよね!?」
その瞬間にどういうことかと騒ぎだしてしまう。
そして、それを確認しようと最初に騒いだ生徒に集まる。
「どこの動画で見れるか教えるから集まんな!………の………だから見てみろ!」
その言葉に教師も含めて自分のスマフォを取り出して動画を見る。
そして確かに、この学校の女子生徒が映っている。
おそらくは三年生であろう四人組にレイは誰にも気づかれずにディアロがいるはずの席へと視線を送りため息を吐いた。
『意味がわからない!?私たちはあんたらの子供たちに無理矢理売春されたのよ!しかも目の前で私たちを犯した男から金を受け取っていた!そんな日を何日も過ごさせて!私たちは子供も産めなくなった!!』
「これって……!」
動画から聞こえる言葉に全員が息をのむ。
「全員、ここで待機!他の先生方と相談してくる!勝手に校外から移動するなよ!!」
教師は生徒たちに教室から移動するなと言って職員室へと向かう。
目的は当然、生徒の見せた動画のことだ。
それを周知させる。
「教頭先生!」
「どうしましたか?」
職員室へと向かうと教頭がまだいた。
早速、緊急で教師を全員呼ぶことを提案する。
「急にどうしたんですか?何か問題でも?」
説明よりも見た方が早いと生徒に教えてもらった動画を教頭に見せる。
そうすると教頭も顔を青くして他の教師を呼び出すことに納得する。
「わかりました。直ぐに職員室に来るように報告します。少し待っていてください!」
直ぐに教頭は放送室へと向かう。
教師全員を職員室へと呼ぶつもりだ。
「わかりました!その間に警察へと連絡をしておきます!」
「頼む!」
教頭が他の教師を呼ぶ間に警察へと連絡することを報告し合う。
少しでも生徒が安全であるようにと祈る。
『えぇ~。教師の皆さんは今すぐ職員室へと来てください。緊急の事態です。生徒たちは教室で待機してください。もう一度連絡します。教師の皆さんは今すぐ職員室へと来てください。緊急の事態です。生徒たちは教室で待機してください。』
生徒たちは突然の放送に何があったんだとざわめく。
わかっているのは最初に教師に伝えたクラスだけだ。
他のクラスが喜んでいる歓声が響いたり困惑でざわめている中、そこだけが静かなことに逆に教師からすれば目立ってしまっていた。
「もしかして、あのクラスに問題が起きたのか?」
「有り得そうだな。今、起きている事件の犯人がいるとか?」
そんな会話をしながら職員室へと入る。
そして職員室には静かだったクラスの担任がスマフォを片手に座っていた。
「おい!」
その姿に怒りが沸く。
軽く叩こうとして近づくと、そのスマフォの画面を見せてくる。
「これを見てください。この映像に映っている女子生徒はこの学校の生徒だと思うんですが?」
「は?」
その言葉に唖然とし、スマフォを取り上げ映像を見る。
たしかに学校の生徒だ。
しかも、もう片方は見たことのある生徒の保護者達。
なぜ殺し合っているのか理解できない。
「これは現在の状況を映っている映像です。既に警察に連絡していますが、どうするか相談したいと思って職員室に集まって貰いました」
職員室でスマフォを開いて待っていた理由に納得する。
たしかに直ぐに映像を見せるなら開いていた方が良い。
見せた方が確かに早いと自分達にもどこの動画を開けばよいか教えてもらう。
「うぉっ!」
それを何度も繰り返し最終的には最後に来た者以外の全員がスマフォを開いていた。
普段から開かない者もスマフォをいじっていて、最後に来たものは非常に驚いていた。