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四話

「うーん」


 レイはバイト中に首を傾げて考え込む。

 内容は最近の学校での被害者が多い事件のことだ。

 復讐として事務員が相談に乗って協力したことは知ってはいるが想像よりも被害者が多い。


「どうしたんだ?そんなに考え込むなんて気になるから教えてくれないか?」


 そんなレイに事務員は声を掛ける。

 バイトに集中していないことに不満は持つが、あまりにも悩んで集中が出来ないのなら相談に乗ろうと決めたからだ。


「その私の学校の事件の被害者が多くて。こんなに苛めをしていた者たちが多いなんて信じられなくて……」


 レイの言葉を聞いた事務員はそういうことかと納得する。

 もしかしたら転校することも考えているのかもしれない。

 そうしたら、どこに行こうか迷っているのかと予想する。


「あぁ、あれは模倣犯もいるからね。普段からの恨み辛みをこれ幸いとぶつけている者もいるよ。犯人は別の者に押し付けようとしてるんじゃないかな」


「「「は?」」」


 事務員の言葉にレイの他にもバイトをしている者たちからも声が上がる。

 もしかしたらレイと同じ学校に通っている者もいるのかもしれない。

 レイの通っている学校の被害者と聞いて反応する。


「最初の主だった四人の復讐者は主犯にやり返して、これ以上はする気は無いみたいだしね」


 じゃあ何で被害者が増えているのかと言いそうになって模倣犯と言っていたのを思い出す。

 それでも被害者が多いと、どちらにしても恨みを買っている生徒が多くて、やはり転校した方が良いと思う。


「それにしても、本当にイケメンだからとか幼いころの復讐とかで行動するなんてね。レイも顔が整っているし被害にあうかもしれないね」


 そんなことで!と反応するバイトたち。

 それが本当なら全く安心できない。

 そしてレイは事務員から顔が整っていると言われたことよりも自身の身の危険に体を震わせる。


「あと苛めを無視したり気付かなかったりするだけで復讐対象になるから気をつけろよ」


 事務員の言葉に誰も安全じゃねぇとバイトたちは思う。

 一切、非が無くても復讐相手にされるとかたまったものではない。


「マジですか……?」


「マジ。出来る限りマントでも身に着けて隠れていた方が良いんじゃないか?」


「「「ありがとうございます!!」」」


 渡されているマントの性能を思い出して大声で感謝をするバイトたち。

 認識をされにくくなるマントのお陰で覚えのない復讐から身を守れる。

 恐ろしいが、ここでバイトをしてよかったと思える。


「そういえば事務員さんって復讐とかされないんですか?いつも、この事務所にいるわけじゃないし。外にもマントを着けていたら買い物もできませんし」


 言っていて思い出したが事務員は普段から姿をマントで隠しているから正体になんてバレるわけがない。

 この仕事で闇討ちで復讐されることはないと安心する。


「襲ってきても反撃できるからバレても問題ないんだけどね。いざとなったら雲隠れしたりすれば良いし。そうなればバイトも全員辞めさせることになるな」


 事務員の言葉にそれは嫌だと口々に告げる。

 危険だし犯罪にも関わっているが、それでもバイトの給料がかなり良いのだ。

 他のところなんて考えられない。


「本当にバレないように気を付けてください!俺たちも気を付けますので!!」


 雇い主である事務員にも注意を呼び掛けるバイトたち。

 お金がそんなに惜しいかと少しばかり苦笑する事務員。

 やはり金が人を従わせる武器になるなと思う。


「わかってるわかってる。お前らも気を付けろよ」


 事務員の言葉にバイトたちも頷く。

 真剣なその表情に事務員は苦笑を深めた。




「………ねぇ。ちょっと良い?」


 仕事の時間が終わりバイトもほとんどが帰ったあとにレイが事務員へと話しかける。

 残っているのはレイだけで何の用かとディアロは振り向く。


「少し話したいことがあるんだけど」


 レイの言葉に事務員は頷く。

 何の話があるのか興味がある。


「ここじゃなくて、どこかの店でしない?」


 レイの言葉に事務員は考え込む。

 マントを脱いで正体を露わにした事務員とレイは普段からは付き合いがあるのが不思議に思われる関係だ。

 ここではダメなのかと疑問を抱く。


「今じゃダメなのか?ちょうど全員が帰ったみたいだし」


「えっと、ダメ?」


 上目づかいで事務員に話しかけるレイ。

 それに対して事務員はそっけなく拒否をする。


「なら、私は普段からバイトのことに関して話したいのよ……。急に休んでしまうことになったら伝えて置きたいし」


 隠し事をしているせいで、やりにくいこともあるのだと伝えるレイ。

 普段から親しくしていた方が、もしもの時も疑問を持たれにくいと伝えていく。


「………分かった。普段からも一緒にいたことがある方が便利だとお前は言うんだな?」


「そうよ」


 レイの言葉に事務員は少しばかり悩む。

 そのせいで正体がバレないかと考えているせいだ。

 だが、同時にレイのような人気がある生徒が事務員が疑われても庇えば何とかなる可能性もあると考える。

 そのことも含めて同意した。

 もし裏切られれば復讐したり、逃げれば良いだけだと考えて。



「思ったよりも良い店だなぁ」


 聞こえないように小声で事務員は店に来て感想を言う。

 もう夜も遅く他の店なら閉まっているのに開いていたから以外だ。

 それにお互いに学生なのに入れてくれたことにも珍しいと思っている。


「そうでしょう」


 事務員の感想に自慢するレイ。

 お気に入りの店が褒められたことが嬉しそうだ。

 自分の見る目が褒められたと感じているのかもしれない。


「それで話って何?」


 店の中に入り席に座ると早速、話の内容を質問する事務員。

 そのことに少しだけ不満を持ちながらもレイは口にする。


「そのさ。普段からも話しかけて良いって言ってくれたけど、まずは設定を考えない?」


「そうだね。どういう風に仲良くなったかまずは考えようか」


「それなんだけどさ。貴方が私を助けてくれたことにしない?事実、そうだし。ただし助けてくれた内容は複数人で囲まれたときに隙をみて助けてくれたことにして。全員を倒して無双した内容よりは良いと思うんだけど」


「…………」


 事務員はレイの意見に閉口する。

 内容に文句は無い。

 文句は無いが具体的な内容がスラスラと出てきていることに驚いたせいだ。

 もしかして、ずっと考えていたのかと想像してしまう。


「あの……?」


「その設定で良いよ。後は日付も決めておくか」


「日付も……」


 レイは事務員の意見に少し引き気味になる。

 設定にこだわると言うか、そこまで考えなきゃいけないのかと。


「同じ学校になったのは最近だろ。それまではろくに関わりが無かったから、そのぐらいは決めた方が良いんじゃないか?」


「………それもそうね」


 事務員の言葉に納得するレイ。

 そして、いつにするか悩む。

 あまりにも前過ぎると、何で今まで関わろうとしていなかったのに急に関わっていくのが疑問に思われそうだ。


「一か月だと長すぎるし、一週間から二週間前か?」


 事務員の言葉に頷くレイ。

 そのくらいなら今まで関わらなかったのも恥ずかしかったからで誤魔化せそうだと判断する。


「それで決定ね。せっかくだし休みの日は一緒に何処かに出かけない?」


 仲良くなることにメリットはあるが、そこまでやるのかとため息が出る。

 学校で話したりするだけでも十分に効果はあるが、それだけではダメなのだろうか?


「何よ。私はこれでも学校でも美少女だと有名なのに……」


 ため息を吐いたことに不満を出すレイ。

 このままだと、もう一つの内容を話す気も無くなる。


「………一応言っておくけど、バイトの連中は全員が貴方が学生だと想像はついているからね」


 詳しく話す気は無い。

 折角、デートの誘いにため息を吐かれたのだから理由は自分で考えたらよい。


「…………」


 鋭い視線で睨まれるが何をされても答える気は無い。

 例え首を絞められても、体をその腕で貫通されられても同じことだ。


「もしかして仕事の開始時間が学校が終わってからか……」


 今日も学校が終わって事務所に来てから仕事の時間が始まる。

 不定期だが基本が学校が終わってからの時間だから、その気になって調べられたら分かることかもしれない。

 それに、もし学校の開校記念日などの休日だとしたら更に絞りこまれる。

 それらの予想をレイに言っても微笑まれるだけだった。


「…………」


 レイは顔だけは微笑みながら冷や汗をかいていた。

 事務員が特定される原因に直ぐに自分で気づいたからだ。

 本当なら焦らせるつもりだったが、これは失敗だった。

 もしかしたらワザとそうしていたのかもしれないと想像してしまう。


「まぁ良いや。どうせバイトたちにバレても誰も何も言えないし」


「え?」


 事務員の言葉にどういうことかと疑問を持つが何も言えない。

 口元を指で防がれたせいだ。

 そのせいで顔を真っ赤にしてしまう。


「それにしてもバイトたちにはバレそうになっているのか。レイが黙っていれば答え合わせができないだろうけど、どうするかな?」


「なら黙っているから私に配慮してください!」


 ここしかないとレイは脅しにかかる。

 下手に脅そうとしたせいで殺されるかもしれないのを考えていない。


「配慮って?」


「私の買い物に付き合うとか、遊園地に行くとか!」


 レイの発言に事務員はまぁ良いかと頷く。

 荷物運びとか遊びに行くときとかに奢らせようとするぐらいだと想像する。

 あまりにも度が過ぎるなら反撃はするが、そのぐらいなら構わないだろうと頷く。


「わかった」


 事務員の承諾の言葉にレイは輝くような笑顔になり、周囲から向けられる視線に顔が赤くなってうつむいてしまう。

 大声で自分の要望を話したせいで、その内容に微笑ましさに温かい視線が飛んでくる。

 事務員にも、その視線が向けられているが自分のモノでもないのに荷物持ちとか奢りとかすることに意識が割けられていて気づいていない。


「とりあえず今度の休日に一緒に買い物に行くわよ」


「え?」


「買い物に付き合ってくれるって言ったわよね?」


「………わかった」


 レイからの約束に事務員は頷く。

 今度の休日は相談所にいようと考えていたが、レイとの買い物に予定を変更した。




 ディアロは今日も放課後は生徒会室へと行く。

 今日は一年生の調査だ。

 誰と行くことになるのか少し楽しみだ。


「やぁ、ディアロ君。今日は私と一年生の調査に行こうか」


 生徒会室に入ると生徒会長が開口一番に決定事項を話してくる。

 中には生徒会長一人しかいないが他の者たちは既にきて、そのことを伝えたのだろうかとディアロは考える。


「その前にちょっと待ってくれ」


 そう考えていたらフィンは空白の紙を取り出して、それに書き始める。

 内容はディアロと一年生の調査に行ってくるから他の仕事は任せたと書いてある。


「これで十分だね」


「まだ生徒会長しか来てないんですか?」


 満足そうにしているフィンにディアロは思わず突っ込んでしまう。

 生徒会長とは言え他にメンバーに何も言わずに決めて良いのかと。


「それに相談もしないで決めて大丈夫なんですか?」


「生徒会長だから大丈夫さ。さぁ、行こう」


 それだけを言って先に歩いていくフィンにディアロは慌てて後を付いて行った。




「うーん。誰にも会わなかったね」


 生徒会室から一年生の教室に着くまでに生徒会のメンバーとは誰とも会わなかった。

 おそらくは、すれ違いになったのだろうとディアロは予想する。


「それにしても犯人を推測できているんじゃないかって私たちは予想しているけど、当たっているかい?」


 ディアロは突然に二人で調査に行くことになった理由はそれが聞きたかったからと納得する。

 そして、それに対する答えは決まっている。


「いいえ。全然、見当がつきませんね」


 答えは否だ。

 どうして、犯人が誰だかわかっていると想像されているのか理解不能だ。

 そんな素振りなんて見せた気は無かった。


「………本当にかい?」


 再度の質問にディアロは頷く。

 何度聞かれても答えは同じだ。

 正直、誰が犯人でもおかしくないとディアロは思っている。

 自分を襲ってきたときの人数といい、予想の数倍の犯人がいる。

 あれらが一部だとして、それら全てを特定など出来るわけがない。


「何度も言うけどわかりませんので。犯人を捜すのは警察に任せましょう」


 答える気が全くないディアロにフィンはため息を吐いて諦める。

 同じ学校の生徒を助ける気は無いのかと不満を持って睨む。


「それよりも今は一年生の情報を集めましょう?情報を集めて警察に任せて終わりたいですし」


 それに頷きフィンは何度も犯人を見つけるのは警察に任せるとディアロが言っていることに気付く。

 思い返せば最初から警察に犯人を見つけるのは任せたいと言っていた気がする。

 もしかして自分の手で犯人を捕まえようとしないのは何か理由があるんじゃないかとフィンは想像した。

 そう考えると少しだけディアロへの不満は減る。


「あれ、ディアロじゃん。今日は一年生の調査?」


「そう。一年生で苛めの情報くれない?被害者が復讐するかもしれないし」


「良いけど、苛めの被害者が復讐か。今回の事件ってそういうこと?」


「多分ね。あと苛めの被害者全員が復讐者とは限らないからな?復讐するなと責めるなよ?」


「わかっているって」


 苛めの被害者だから事件に関係あるとは、たしかに限らない。

 その調査もあるからディアロは犯人に関して警察に任せたいと考えているのかもしれないとフィンは想像する。


「それで何か知っていることは無いか?」


「そういえば………」



 ディアロとフィンはそうして様々な一年生から情報を集める。

 一年生からも意外といじめられている生徒が多かった。

 それでも二学年よりは少なく、どうやらこの学校に来る前から苛められていたらしい。


「思ったよりも一年生も多かったですね」


「………そうだね」


 一年生の被害者が多い現実にフィンはため息を吐く。

 二年生も三年生もそうだが、この学校は苛めが多い。

 気づかなかった者、見ていただけの者も復讐対象となるなら、この学校の生徒全員が復讐対象になってしまう。


「苛めの被害者の友達も苛めの加害者に復讐するんですかね?」


 その可能性もあると考えてフィンは頭を抱える。

 苛めの被害者だけでなく、その友人も候補に考えるなら誰が事件の犯人なのか全く分からなくなる。


「可能性はあるんだろうね。私たちじゃあ探すのは難しそうだ」


 フィンも自分達生徒じゃ犯人を見つけるのも難しいと理解する。

 今はまだ学生だから犯人を特定するための技術は少ない。

 警察といったその道のプロに任せた方が確実だ。


 そこまで考えてフィンはディアロを見る。

 容疑者が多いから自分達学生だとミスを多くするかもしれないからプロの警察に任せたいと。

 そうして見たディアロはため息を吐いていた。


「本当に多い。この学校って不良校じゃないのか?それとも、どこの学校もこんなものなのか?」


 ディアロのぼやきにフィンは何も言えない。

 正直、ここまで苛めの加害者が多いとフィンも同じ感想を持つ。。

 そして苛めに気付かなった自分も加害者側だとみられているのだと考えて絶望する。

 もし、どこの学校も同じようなものだとしたら人そのものにフィンは絶望しそうになる。



「ただいま」


 ディアロはフィンと一緒に生徒会室へと戻ると自分たち以外の生徒会のメンバーが仕事をしていた。


「ディアロ。それに生徒会長も………」


 何も話をせずに勝手に仕事に行っていた生徒会長に文句を言おうとしたが普段とは違う様子に全員が驚く。

 その理由を知っているであろうディアロに説明を求めようとする。


「どうしたんですか?暗いですよ」


「何があったんだ?ディアロも教えてくれないか?」


「元気出してください」


 その声に説明しようとしたディアロを手で止めてフィンは説明を始める。


「思ったより、苛めが多くてね。それでショックを受けていたんだ」


 フィンの説明にディアロと一緒に調査をした全員が納得する。

 たしかにショックを受ける気持ちはわかってしまう。

 想像以上に多く気づかなかったことには自分達もショックだ。

 少なくとも一年以上は同じ学校で過ごしていたのにだ。


「そんなに多いんですか?」


 ダイキは一年生だから、そこまでショックを受けていない。

 思っているのは二年生や三年生より苛めが多かったのかという不安だ。

 それもショックだが信頼している者たちも苛めていないこと考えているせいもある。


「二年生や三年生よりは少ないんじゃないか?それよりも、もしかしたら俺達も苛めの復讐者になるかもな」


「あぁ。苛めに気付かなかったという理由だろ。父親が警察だから、そういう無関係な相手にも復讐するらしいし」


「そうなったら、やっぱり捕まえられるのか?」


「まぁ。苛めの復讐って本当に暴行罪になるらしいし……」


 一年生の会話に先輩たちは冷や汗を流す。

 ダイキは警察の息子だから分かる。

 おそらくは話を聞くこともあるのだろう。

 だけどディアロは違うはずだ。

 警察官の息子でも法関係の仕事についてある者の息子でもなかったはず。


「それを止めるために苛めの内容とか聞いて保護とかするんだけどな。復讐となると暴走するのが多いし」


「大人しい奴がキレるとヤバいんだな」


 今回の事件は苛めの復讐だからこんな事件になっているのだと考えて頭を抱えてしまう生徒会のメンバーたち。

 自分達の代になって何でこんな事件が起きるのかと恨んでしまう。


「そういえば苛めの復讐者って、やっぱり逮捕されるのか?」


「そこらへんは聞いてないけど、多分そうだろ。そういえば生徒会長、今回の事件が終わってからでも苛めのことに関しては発表した方が良いと思いますよ。苛めのせいで、こんな事件が起きたんですから。苛めをすると復讐されるという警告になると思いますよ」


 当然のように今回の事件を利用しようとしている二人に恐れを抱いてしまう三人。

 上に立つ者としての資質が他の生徒会のメンバーよりも優れているのかもしれない。




「やぁ、お帰り。何か情報は見つかったかい?」


「お父さん」


 フィンが家に帰ると久しぶりに早くから家に帰ってくる。

 そして帰ってきた娘に開口一番に質問をしてくる父親に不満を持って睨む。


「あぁ~。フィン、お前の学校の生徒が被害が多いんだ。お前が狙われないか不安だから許してくれ。どういう理由で狙われているかわかっていないからな」


 父親の言葉にフィンは少しだけ不満を抑えて睨むのを止めて情報を告げる。


「事件の犯人は苛めの被害者だと私たちは思っているよ。もしかしたら苛めの被害者のネットワークで復讐が広がっているのかもしれないね。あとは苛めを無視したり気付かなかった者も復讐対象になるみたい」


「…………それが事実だとしたら誰が襲われてもおかしくないな」


 フィンからの情報に良く調べたと称賛を送るより先に絶望してしまう父親。

 それが事実なら誰が襲われるか本当に分かったものではない。

 無差別襲撃犯と変わらない。


「これだから苛めはなぁ。この事件が終わったら学校で苛めの撲滅に力を入れてくれないか?学校の生徒会長なんだろ」


「わかっているよ。丁度、今日はその話もしてきたし」


 そうかと嬉しそうにする父親。

 仕事が減ると家に早く帰って家族といられるから、そうして欲しいと思っている。


「あと悪いけど、その内容についてある程度形になってから相談に乗ってくれない。現職の人にも相談した方が安心できるし」


「良いよ。その時は生徒会の友達も連れてきてくれ。少し会ってみたいし」


「別に良いけど。他の子も連れてきて良い?今回、生徒会のメンバーとは違うけど一人だけ特別に協力してもらっている子がいて」


「特別……?」


 特別と聞いて目を光らせる父親。

 どういうことかと視線で問いかける。


「うん。一年生の役員が信頼していて、私も有能だとは知っていたから特別に許可したのよ」


 そういうことかと納得する父親。

 娘の特別と聞いて彼氏かと想像した。


「そういえば生徒会の一年生の父親も警察官みたいだけどお父さんは知っている?」


「名前は?」


「ダイキ・フルドっていうんだけど………」


 フルド……、フルド……と何度か声に出して思い出そうとする父親。


「あぁ、あいつか。そういれば息子が今年、高校生になるって聞いたな。まさか娘の後輩になるとは」


「知り合い?」


「まぁな。職場での後輩だ。今度、同じ年ごろの子供を持つ親として話しかけてみるか」


 父親は自分達と同じように子供たちも先輩後輩となっていることに面白さを感じていた。



「父さん。お帰り」


 ダイキは家へと帰るとご飯を食べて学校の課題をこなしながら父親の帰りを待っていた。

 そして父親が帰って来たのを察するとすぐさまに玄関へと向かう。


「ただいま。急にどうしたんだ?事件のことでも何か進んだのか?」


 父親からすれば息子が自分から話したことがあると突っ込んでくる理由はそれしかないと考えて口にする。


「そうだけど。時間はある?」


「わかった。ちょっと待ってくれ」


 直ぐにでも話をしたいとダイキと一緒にリビングへと行き荷物を置く父親。

 夫が帰ってきて息子とリビングで話そうとする姿に妻は驚く。

 聞こえてきた内容から仕事に関係ある話をするらしい。


「後にしなさい」


 取り敢えず息子と夫の頭を叩いて止める妻。

 そのことに睨まれるが、逆に睨み返す。


「取り敢えずシャワーにでも入って夕食を食べてからにしなさいよ。その後なら時間は自由に使えるでしょ」


 妻の言葉に頷いて夫は息子に待ってくれてと頼む。

 息子も妻の拳が痛かったのか黙って頷いていた。




「それで父さん、情報のことなんだけど」


 父親はシャワーを浴びて、ご飯を食べながらダイキの話を聞く。

 行儀が悪いが事件について少しでも早く聞きたかった。


「多分、苛めの被害者が事件の犯人だと思う」


「………そうか」


 その言葉を聞いて思わず頭を抱えてしまう。

 苛めの復讐は大抵が暴走をしてしまう。

 そのせいで被害が多くなるのだ。

 しかも多く苛めていた主犯だけでなく周りにいた者たちも巻き込む。

 無視や気付いていなかった者にも牙を向くのだ。


「多分、学校だと全員が復讐対象になるかも……」


「そうか……」


 やべぇなと父親はダイキの言葉に思う。

 息子が襲われてしまうのは不安だと今のうちに転向させるべきかと考えてしまう。


「調べたところ、通っている学校で苛めの被害者が結構多くて絞り込めない。苛められた友達の復讐のことも考えると、お手上げ」


「そうか……」


 父親は見つけられないと言う息子の言葉に納得する。

 もともとできればという気持ちだったのだ。

 文句は無い。


「ねぇ、ダイキ。転校しない?」


 そんな話を聞いて母親も黙っていられなかった。

 その内容が事実なら学校にいること自体が危険だ。

 転校させたいと考え、父親もそれに頷く。


「いや、多分。この事件に触発されて他の学校でも被害が出るかもしれないし、多分どの学校も変わらないよ」


「「は!?」」


 どういうことかと声を上げる二人にダイキは説明する。

 今回の事件で苛めの復讐だと知られ、他の者も触発される可能性があること。

 この学校に進学する前から苛められていて別の学校に行った者がいるなら、そのものに対しても復讐するかもしれないと。


「………有り得るな。気付かなかった者にも復讐する気なんだ。転校しても変わらないか」


「そんな……」


 何をやっても意味が無いと言うことに絶望する母親。

 他の二人もため息を吐く。


「あなたは警察でしょう。本当にどうにもならないの……?」


 母親の言葉に父親は黙って頷くことしかできない。

 そのことにも母親はショックを受けてしまう。


「俺たちが出来るのは事件が起きた後に捕まえることだけだからな。いつも後手に回ってしまう」


 父親もため息を吐く。

 これでは結局誰も守れないと。

 本当なら被害に合う前に助けれれば最高なのだが、被害者に合うのはいつも被害に合った後だ。


「取り敢えずは襲われそうになったら大声をあげて逃げるから安心してよ。恥ずかしいとか言ってられないし」


「そうよね。ちゃんと助けの声をあげられるわよね?」


 男の子だから悲鳴を上げるのは恥ずかしいと思うし実際に出来るとは思えない。

 それでも四六時中べったりといるわけにもいかないから信じるしかない。

 出来るのは無事で帰って来るのを祈るだけ。


「警察でもこれまで以上に街中を巡回するように言っておく……」


 より安全を図るために巡回をこれまで以上に増やすよう提案することを父親は言う。

 妻を安心させるためでもあるが同時に自分を安心させるためだ。


「………にしてもだ。よく調べられたなダイキ」


 同時に話の内容を少しだけ変える。

 息子を褒めることで暗い雰囲気をわずかでも飛ばすつもりだ。


「え……うん。実際に思いついたのは同じ学年の友人だけど、俺たちは裏付け調査をしただけで」


「思いついたのも凄いが、裏付けをとったのも十分、凄い。俺たちなんて誰が何の目的で襲っていたかなんて分からなかったしな」


 父親が褒めてくれたことにダイキは嬉しくなる。

 危険だが更に犯人を特定することに力を入れようと決意してしまう。


「………一応、言っておくが本当に危険だからこれ以上は探らなくて良いからな?手伝ってもらった生徒会の人たちにもそう言って良いから」


 父親の言葉にダイキは何故という視線を向け、母親は安堵の息を吐く。


「自分の身の安全を最優先して行動してくれ。お前まで被害にあったらショックを受ける。だから頼む」


 父親に真剣な顔で頼まれ頭を下げられたことにダイキは頷くことしかできなかった。

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