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一話

 誰も入らないような路地裏に一人の男が入っていく。

 目的はある店の中に入ること。

 魔法を使っているのか、その店は復讐心を持つものしか見つけられず入ることもできない。

 男はその噂を頼りに探していた。


「ここか………」


 そして見つけた。

 男は探していたが本当に見つけるとは思っていなかった。

 探していたのも、それしかもうやれることは無かったからだ。


 その店の名前は『復讐相談事務所』と看板が下げてあった。



「すいません」


「はい、どちらさまでしょうか」


 店の中に入り男が声をかけると返事が返ってくる。

 ただ男か女か若いのか老いているのか目の前にいるのに何もかもが分からない。


「あぁ、すみません。余計な恨みを買わないように魔法を使って誤魔化しているんです」


「なるほど……」


 殺人相談なんて事務所を開いているのだ。

 当然のことかもしれないと男は頷く。


「それで、貴方はどんな理由でここに来たんですか?」


「そんなもの決まっている!!」


 店の前に掛けられた看板と復讐者しか来れないようにしている癖にそんなことを言う事務員に男は怒りをぶつける。

 のんきなことを言われて平然といられるほど冷静じゃない。


「そういわれても、どんな復讐を望んでいるのか知りませんし、どんな理由で復讐をしたいのかもわかりませんからね」


 事務員の言葉にそれは……と少しだけ男は落ち着く。

 思い出すのは娘が苛めで精神を壊した姿。

 声を掛けても反応をしてくれない姿を思い出してしまう。


「あぁ、言わなくても結構ですよ。私はただ相談に乗って提案をするだけですから」


 男は口にしたくもないから、そういってくれたことに感謝する。

 そして手に持っていた写真を見せる。


「復讐したいのはこの四人だ」


 それらは娘を苛めていた女の子の写真。

 己の出来る範囲で探し見つけたものだ。

 良い噂を聞かないために、おそらくは間違ってはいないだろうと考えている。


「うん?あぁ………」


 事務員はその写真を見て笑う。

 この四人は見覚えがあった。

 だからこそ、面白くて笑ってしまう。


「何がおかしい!」


 男は急に笑った事務員に怒りをぶつける。

 当然だ。

 急に笑われて不機嫌にならない方がおかしい。

 もしかして関りがあるのかとも思ってしまう。


「あぁ、すみません。この四人に対して他にも復讐したい者たちがいたな……と」


「………な」


 自分以外にも、この四人を恨んでいてこの店に来た者がいると聞いて男は喜ぶ。

 もしかしたら協力して確実に復讐できるのかもしれないと。


「どうしますか?何人かいますが、この店に集まりますか?こちらから連絡して都合を聞くことも出来ますが?」


 事務員の言葉に是非と頷く。

 そして早速、自分の連絡先を書いた紙を渡してその日を心待ちにして店から出て行った。

 復讐の中身は他の恨んでいる者と話し合って決めるつもりのようだ。




「あははははははは!!!」


 男か女か。

 若いのか老いているのかもわからない。

 そんな存在が男が見えなくなったのを確信してから嗤う。


「まさかまさかまさか!!こんな風に巡るのか!!」


 本当に愉快そうに嗤う。

 復讐がまた新しい復讐を呼ぶのかと思うと、もはや嗤うしかない。

 あの男が復讐をしても、それが理由で復讐が新たに生まれると思うと嗤いが止まらない。


「うるさい!!」


 そんな事務員に怒りの声と同時に頭に衝撃が奔る。

 ぶつかったものを確認すると、それは柔らかいボールであった。

 それでも踏んだら転んで怪我してしまいかねないと拾う。


「なんでそんなに笑っているのよ!」


 投げた相手は可愛らしい少女だった。

 血を思わせる赤い髪をツインテールにして同年代の平均位の身長とスタイルをしている。

 ただ顔が異様に整っていた。


「…………」


 見惚れるような顔をした少女に事務員は顔を嫌そうに歪める。

 この店にいる癖に素顔を隠していないことに不快になる。

 素顔を晒しているということは正体がバレてしまうということ。

 それを嫌っていて全く正体を分からないようにしているのに少女からバレてしまうと不機嫌になる。


「何よ。その顔………。ごめん、忘れてた」


 誤ってくるが事務員は殴りたくなる。

 本気で謝罪をしているように見えるし、こういうミスは今回が初めてだが気をつけてほしい。

 店の中にいる間ぐらいは徹底的に隠してほしい。


「本当にごめん。今度、何か奢るから」


「いらない。それよりも徹底的に隠せ。じゃないと……ね」


 奢りを否定して事務員は最後に少しだけ笑って見せる。

 ただ、その眼には険呑な光が宿っていた。


「………ごめんさない。今から、ちゃんと気を付けます」


 少女がマントを被ると話していた事務員と同じように、容姿が分からなくなる。

 声も変わっており直前まで見てなければ誰だが分からない。


「それじゃあ掃除をよろしく。それと今日の分の給料は差し引くから」


「は?」


「凄むな。それを着け忘れていたら差し引くと言っただろうが」


「………わかったわよ」


 給料を差し引かれることに怒りを見せるが理由を聞いて少女は納得する。

 そして自分のミスに心底後悔していた。




「ふぅ」


 誰にも見つからないように隠れて少女は帰路に着く。

 身に着けているマントは黒く夜闇に紛れて見つかりにくい。

 それだけでなく魔法を使って認識されにくいお陰で警察にも怪しまれて事情聴取を受けることが無くなる。

 何よりも煩わしいナンパもされなくなる。


「今日も疲れたわね」


 部屋の中に入って少女はベッドに倒れ込む。

 殺人相談事務所では意外と掃除する物が多い。

 殺すときに使う道具も偶に購入して貸し出すこともあり、終わった後に処分のために渡しにくる依頼人もいる。

 それをまた貸し出すということもある。

 それらの道具が多いのだ。


「それにしても………」


 店員の僅かに見えた険呑な光を宿した眼を思い出して顔を赤くする。

 あの確実に自分の命が握られている感覚にゾクゾクと震えてしまうのだ。

 他にも働いている者がいるが自分だけが正体を知っているということに他の働いている者に優越感を覚えてしまう。

 ちなみに店員は一人だけで他はアルバイトという形になっており、金払いもかなり良い。

 ただし金払いの良い条件として正体がバレるようなことをすると、その日の分の給料が無くなってしまう。

 中には殺されて臓器販売された者もいるという噂だ。


「はぁ。普段からもっと関わりたいなぁ」


 それでも、と少女はあの相談所から離れる気はない。

 むしろ店員の手で自ら殺されるのならご褒美だとすら考えていた。

 殺されないように行動しているのは、ただ単にその方が店員といられるという理由だけ。

 自分だけを見てくれると言うなら殺されるのも悪くないと考えている。


「レイちゃん?帰ってきたの?」


「あっ、お母さん」


 部屋の中へと声を掛けてくる母親に少女はドアを開けて迎え入れる。

 帰ってきたのは自分だと示すためだ。

 家の中に入ったときに声を掛ければ良いと思うかもしれないが怪しい誰だか分からないマントを着けて家の中に堂々と入る方がヤバイ。

 それに認識されなくなるのはマントを着ている本人だけでドアを開けたりしたら勝手にドアが開いたと幽霊騒ぎになりかねない。


「いつものことだとはいえ、帰ってきたら教えてくれれば良いのに……」


「あはは。ごめんなさい」


「………それにしても好きな男の子が出来たなら連れてくれば良いのに」


「う……」


 レイは誰にも言ってないのに何でバレたんだと身を固くさせる。

 流石、母親というべきか隠し事が出来ないと落ち込む。


「別に好きな男の子と一緒にいたいからと遅くなっても文句は言わないから、招待してね。お父さんにも黙ってあげるから」


「まだ恋人じゃないし……」


 レイの反論に本当に好きな男の子がいるのかとニンマリと笑う。

 ナンパされているところをよく見かける可愛い我が娘が好きな相手が出来たと安心する。

 我が娘だからこそ見る目があると思っていた。


「別にいつも遅くなっているのは、あいつと一緒にいるからではないし」


「バイトが一緒なのね?」


「もう出て行ってよ!」


 レイの言葉にバイト先が娘が好きな子と一緒なのに母親は気づく。

 そしてこれ以上聞かれたくないと部屋から追い出された。





「なんでバレているのよ……」


 母親に好きな人がいることがバレていることにレイは頭を抱えてしまう。

 普段通りに生活していたのに分かった理由が謎だ。

 ベッドに倒れて見悶えてしまう。


「明日も学校でも会うのに……」


 このままでは学校でも出会ったら顔を赤くしてしまう。

 ただでさえ毎日の様に惚れた姿を思い出してしまうのだ。

 強さは美しさだという言葉を何度でも理解してしまう。


「…………顔を見ても赤くしないように落ち着かないと」


 他のアルバイトにはレイが店員の正体を知っていることは知れ渡っている。

 そして惚れていることにもだ。

 顔を隠していない店員の前で顔を赤くしたらバレてしまう。

 そこまで考えてレイは顔を青くする。


『君のせいでバレたのか。………消すか』


 ハッキリとバレた原因が自分だった場合の店員の言葉が想像できてしまっていた。

 この消すが命をなのか記憶に関してなのか、当たり前のように消せると思ってしまう。

 命を消すのなら、まだ良い。

 だが記憶を消されるとなるとレイは命を失う以上に絶望を覚えてしまう。


 店員なら誰にも気づかせずにやれる。

 あの誰にも気づかせないマントさえあれば殺すのは容易いだろう。

 今も気づいていないだけで近くにいるのかもしれない。

 そう考えただけでゾクゾクと身体を震わせてしまっていた。




「はぁ……。本当に好きな子がいることを隠すつもりなのかしら?」


 母親はレイの部屋から出た後に聞こえる音にため息を吐く。

 自分も好きな相手が出来てからは同じことをしていた。

 それまでは一切興味が無かったのに。

 スタイルは平均だが顔は良いから男の子を落とすのに、たいして苦労はしないはずだと考えている。


「どうしたんだ?」


「いいえ、何も」


 起こしてしまった夫に娘に宣言したように何でもないと誤魔化す。

 可愛がっていた娘に急に男が出来たと知ったら、どんな反応をするのか想像ができない。

 母親としては初めて娘が好きになった男の子に興味があるから家に連れてきてほしい。

 どうしようもない相手だったら夫と協力して別れさせようとは思っているが。


「………そうか。それにしても何でレイはこんなに遅いんだ。もっと早く帰れるように注意するべきか?」


 どうやら娘が帰ってきていたことを察したらしい。

 同時に娘の邪魔をしないように釘を刺す。


「別に良いじゃない。これも経験よ」


「………否定はしないけど、何かあったらでは遅いだろ」


「そのために色々と準備もしてもらっているみたいだし、今は見守りましょう」


 事件なんて、そう起きるものではないとレイの母親は油断をしていた。

 そして、それで納得した父親も同じだった。




「おっはよう!」


「おはよう!」


 朝、学校へと行く時間。

 そしてチラホラと会社へと行く人たちも見える。


「ディアロ!」


「ごっ!」


 その中にぽけっとした人畜無害そうな少年に大柄な男が背中を叩いてくる。

 あまりの勢いにディアロと呼ばれた少年は前から倒れてしまう。


「あっ………」


「え」「うん?」「は?」「ちょっ……」


 その様子を見ていた者たちからは大柄の少年を睨みつける。


「やべ……。大丈夫か!悪い!!」


 挨拶のつもりで背中を叩いたら予想以上に威力が出て大柄な少年は焦る。

 転ばせるつもりはなかった。

 怪我は無いかと急いで駆け寄る。


「急に何?」


 そして平然と立ち上がったディアロに安堵する。

 見たところ怪我は無く、そのことにホッと大柄な少年だけでなく近くにいた周りの者たちも安堵する。


「急に叩いて何の用だって?」


 不機嫌そうに質問してくるディアロに大柄な少年は謝罪する。


「悪い。ちょっとした挨拶のつもりだったんだが思った以上に威力が出てしまった」


 反省しているかのような言葉にディアロはジッと男を見てそうか、と納得する。

 どうやら本気で反省していると判断したらしい。


「本当に悪い。………どうせだし一緒に教室に行かねぇか」


「良いよ」


「サンキュ。それで悪いんだけど、今日の放課後相談に乗ってくれないか?」


 相談に乗ってほしいなんて、どうしたんだとディアロは首を傾げてしまう。

 今日もいつも通りの時間までは暇だから、それまでには問題ない。

 それに他の者も相談に来てないからとディアロは取り敢えず頷く。


「本当に助かる」


「気にしなくて良い」


 何度も頭を下げる目の前の少年にディアロは苦笑する。

 そこまで感謝する必要はないのに大げさすぎると思っている。

 だが、周りの視線は大柄な少年に嫉妬の視線を向けていた。

 決してディアロに相談に乗ってもらい感謝することは少なくとも大げさで無かった。




「今度はB組の子が被害者にあったみたい」


「また増えたの?誰が狙っているのか分からないけど、早く犯人を捕まってほしいわね」


「正直、怖いよな」


「何が目的なんだ?」


 教室へと歩いている最中に不穏なうわさ話が聞こえてくる。


「………ふぅ」


 その話の内容に大柄な少年ダイキはため息を吐く。

 本当はこんなことを相談するのは間違っているとは自覚している。

 だけど今一緒にいる少年が頼りになるのは事実だ。

 ディアロに相談するだけでスランプや伸び悩んでいた者の状態が回復したり、個人的な相談でも助けになったと聞いている。

 かくいう自分も相談を受けて貰ったお陰で実力が伸びた。

 だからこど事件について相談するのは気が引けた。

 それは危険なことに巻き込むと言うことなのだから。




「それじゃあ、魔法の授業を始めるぞ」


 学校では色々な知識のほかに魔法について勉強をする。

 知識では数学などを学んでいるが魔法については制御について中心的に学ぶことになっている。

 毎年、誰かしら魔力を爆発させて事件になるのは当たり前の光景になっている。

 それを抑えるための授業だ。


「今日は実際に魔法を使って溜まった魔力を発散させる方法を学ぶぞ」


 魔力を爆発させてしまう原因の一つに、魔力を全く使わないことがある。

 他にも魔力を込め過ぎて機械が爆発することがある。

 この世界では電気などの代わりに魔力で機械を動かしている。

 それ専用の仕事もあるぐらいだ。


「よく使われているのが機械への魔力の充填だな。個人でも出来るがかなり疲れる。余裕があるのなら買った方がかなり早い」


 心底、疲れた表情をする教師に生徒達も頷く。

 どうやら経験があるらしい。


「疲れるだろうが全員、これに魔力を込めろー。今日は実際にどのくらいまで魔力を込められるが実体験してもらうぞ」


 教師の言葉にえぇー、と嫌そうな声が上がる。

 疲れるのは知っている。

 だから必要ないとも思っていた。


「いいからやるぞ。まずは君からだな。出来るところまで、やったら次の人に回してくれ」


 そうして渡されたのは直径10センチほどの魔力充電器。

 こんな小さいものを渡されても直ぐに満タンになると生徒たちは考える。

 そんな考えが浮かんでいるのか分かっているのか教師は笑っていた。


 そして。


「全員、終わったな。これ一つで一日持てば良い方だが、大変だろ」


 教師の言葉に全員が疲労で倒れていながら驚く。

 二十人以上いる全員が魔力を充電したのに一日持てば良い方なんて信じられない。

 しかも、充電器自体は小さいのにだ。


「ちなみに、まだまだ容量は入るぞ。これ一つで一週間は持つからな。ちなみに知っていると思うが新品で売られているこれは満タンで売ってある」


「もしかして魔力を増やして充電する職業に着けば将来は安泰?」


「そうだぞ。これを仕事にしている者たちの給料はかなり高いらしい。お前らも今から目指してはどうだ?」


 給料が高いと聞いて生徒たちの目が光る。

 その姿にいつの時代も変わらないなぁ、と教師は思う。

 この分だと魔力を上昇する方法とかも聞いてきそうだと予想する。

 何故なら、この話をすると絶対にこれまで聞いてきたからだ。




 授業が終わり、ダイキは生徒会室で自分の所属する生徒会のメンバーとディアロを待っていた。

 あらかじめディアロ以外にも先輩たちの教室へと行き来てくれるように頼んだ。

 そして頼み事を思い出し、どう考えても学生がやる仕事じゃないだろうと考える。


「………どうかしたのかい?頼みごとがあると言っておきながら、本当に頼っているのか悩んでいる顔だぞ?」


「うわぁ!!」


 突然、後ろから声を掛けられてダイキは悲鳴を上げる。


「うわぁ!!って……」


 ダイキの反応にクスクスと笑いながら体を震わせるスタイルの良い女性。

 金色に光る髪に聡明さを思わせる青い瞳。

 彼女が生徒会長だった。


「いつの間に!?ずっと扉の方を見ていたんですけど!?」


「さて?君が見逃していただけじゃないかい?」


 飄々とダイキの質問を躱す生徒会長。

 楽し気に笑う姿にダイキは思わず顔を赤くしてしまう。


「ふむ。まぁ、話を聞くのは全員が集まってからにしよう。何度も説明をするのは嫌だろう?」


 ダイキは、この人は本当は全部知っているんじゃないかと思わず白けた視線を向けてしまう。

 自分のように父親から学生からも協力者を募ってくれと言われていてもおかしくない。

 それぐらいの実力はありそうだとダイキは思っていた。





「それで何の用なの?」


「全くだ。つまらないは話だったら帰らせてもらうぞ」


 後から集まった三人の内の二人は後輩の一年が自分達を集めたことに文句を口にする。

 最初からいた生徒会長と後から来た最後の一人は文句を言わずに黙って何の用かと話を聞こうとしていた。


「………実は父から皆さんに最近の事件について調査を手伝ってもらうように言われていて。拒否をするのも受け入れるのも俺に伝えてください」


 ダイキの言葉に全員が顔を見合わせる。

 そして、そういうことならと全員が頷く。


「わかったわ。私は協力するわ」


「俺も」


「私もよ」


「………生徒会のメンバーでないのに良いの?」


 一人の意見を除いて全員が受け入れたことにダイキは複雑な表情をしながら感謝する。

 ディアロの言葉には生徒会長以外が、そういえばと思い出す。

 そもそも学年が違うから知ってもいない。


「そういえば……」


「なんで彼を呼んだの?」


 後から来た二人も生徒会でないメンバーがいることに疑問を傾げる。

 生徒会のメンバーでも呼ばれた理由がわからない。


「そういえば、まだ入学したばかりだから知らないかもしれないわね。彼って、色んな生徒の相談を受けて解決してきた子でしょ?伸び悩んでいた子の相談を受けて実力をかなり上げたと聞いているし」


 生徒会長の言葉に女子が、そういえばと声を上げる。


「もしかして二年B組の子の実力が急に上がったのも……」


 女子の言葉に生徒会長とダイキは頷き、ディアロ以外の全員が視線を向ける。


「二年B組……?」


 だが肝心のディアロはわかっていなかった。

 本当に彼なのかと二人は指を指すが、二人はため息を吐きながら頷く。


「いや。お前、鍛えていたりしてたじゃん」


「私も見ていたけど忘れたのかしら?」


 二人の言葉にディアロは首を傾げる。


「別に名前は聞いたけど学年とかクラスとか聞いてないから分からないぞ」


 ディアロの言葉に二人はため息を吐き、もう二人は逆に真実だと受け入れようとする。

 流石に二人も偶に噂は聞いたことがあるのだ。

 所属しているクラスという詳細な情報を覚えていない、もしくは知らないことが真実味が増していた。


「この子だよ」


 生徒会長がそう言ってディアロに写真を見せる。

 長い髪をした弱弱しい雰囲気の少女。

 その写真を見て、ディアロは頷く。


「たしかに、その子は鍛えたけど………」


 ディアロの不思議そうに生徒会長を見る目にダイキたちは首を傾げる。

 何か気になることがあったのかと疑問を覚える。


「なんで、その人の写真を持っているんですか?」


 ディアロの質問に確かにと他のメンバーも思い出す。

 特にダイキは疑問を強く思う。

 ダイキ自身がディアロも参加させようと考えたのは今日だ。

 それなのに他の生徒会のメンバーを説得させるための道具を生徒会長が持っているのはおかしい。

 やはり生徒会長もダイキと同じことを頼まれたんじゃないかと疑ってしまう。


「もしかして生徒会長も同じことを頼まれたんですか?」


「そうだよ」


 ダイキはやっぱりと思う。

 そして反対にディアロたちは首を傾げる。

 二人だけでわかり合ったやり取りをしているせいで他の三人が付いて行けない。


「私も有能な者に協力してもらおうと思ってね。それで二年の子の話を聞いて彼も参加してもらおうと思ったのさ」


 なるほどと納得するダイキ。

 他の三人は二人だけで話をされているせいで先程から話が付いて行けない。

 そもそも父親から頼まれたと二人とも言っているが、何の仕事をしているんだと考えてしまう。


「待ってくれ。二人とも何の話をしているんだ?」


「あぁ、ごめんごめん。私の父親は警察でね。多分、ダイキも同じなんだろうね。それで、この学校で起きている事件が難解でね。生徒にも協力してもらおうと考えただけさ」


 生徒会長の言葉に頷くダイキ。

 プロである警察が生徒たちに相談するほどヤバい事件なのかと三人は背筋を凍らせた。



「そういえば自己紹介をしていなかったわね。私は生徒会長のフィンよ。よろしくね!」


 生徒会長のフィンが自己紹介したことにより他の生徒会メンバーも諦めて自己紹介をする。

 本音で言えば目の前にいるディアロも巻き込まれてしまったことに生徒会長とダイキに文句を言いたいが、それだけ危険な状況なのだと飲み込む。

 どれだけ優秀だとしても守るべき生徒なのは変わらないのに。


「はぁ。俺は副会長のフレアだ。これ以上、無理だと思ったらすぐに参加を止めても良いからな」


「そうよ。ダイキもだけど、どれだけ優秀でも一年生なんだから先輩に任せても良いのよ?」


「二人とも優しいねぇ~。………おぉぅ」


 生徒会の二人の言葉にフィンはからかう様に喋るが二人に睨まれた。

 二人からすれば一年生を巻き込むことに何もないのかと苛ついてしまう。

 少なくともダイキも一年生だが、警察官の父に頼まれたらしいから納得するが、ディアロは優秀なだけの一年生なのだ。


「そんなに睨まなくても良いだろう?それよりも会計の自己紹介はしないのかい?」


「………っ。そうですね。私の名前はアクアです。よろしくね」


「よろしくお願いします。俺の名前はディアロです」


 これで全員の自己紹介が終わった。

 そこでフィンは手を叩く。


「これからは何日間かは分からないけど協力し合うのだから親睦会を開かないかい?お互いにどういう相手か知る必要があるだろう?」


「…………そうですね。それじゃあ先輩方、今日は仕事をしないで何処かに遊びに行きませんか?」


 フィンの提案に最初に頷いたのはディアロだ。

 確かにと頷く。

 相手がどんな相手かも全く分からずに協力するのは厳しいだろう。

 一日やそこらならともかく何日間かかるか全く分からないのだ。

 しかも年齢は違うが同じ学生。

 お互いのことを知る必要がある。


「………良いのか?」


「そうですよ。警察に協力を求められたんですよね?」


「今日からやった方が良いんじゃ?」


 当然ながら賛成した二人以外からは文句が出る。

 だが、ディアロは否定する。


「そのプロ相手が学生に協力を頼むのがおかしいと思うんですが?どうせ口ではともかく、そこまで期待していないと思いますよ」


「そうそう。一日ぐらいは大丈夫さ。初めて会う新顔もいるから親睦を深めてきたと言えば納得するはずさ」


 二人の言葉にそんなものかと冷や汗を流す三人。

 それにしても、ため息が出る。

 ディアロとフィンの二人は今日、初めて会話をしたらしいが息が合っている。

 もしかしたら同じ考え方をしているのかもしれない。


「さてと、それじゃあ行こうか。今日は私の奢りだ。なんでも頼むと良い」


 そういってダイキの腕を組んで連れて行くフィン。

 その姿に一名、鋭い視線を向けるが一瞬で視線を戻す。

 そのことにニヤついていた者が二名いた。





「それじゃあ、食べようか」


 学園の近くのファミレスで次々と料理が運ばれてくる。

 あまりの量の多さにディアロとダイキは目を丸くし、フレアとアクアはため息を吐く。


「取り敢えずダイキは慣れろ。お前も生徒会の一員だから、打ち上げの時にフィンの食事の量はよく見ることになるからな。フィンはかなりの大食いだぞ」


 フレアの言葉にアクアは首を何度も縦に振って頷き、フィンは不機嫌そうに顔をしかめる。


「他の奴らが食べていないだけだろう?見てみろ、ディアロ君なんて結構な勢いで食べているじゃないか?」


「うん?奢りだから遠慮せずに食べたけどダメでしたか?」


「気にしなくて良いさ。最悪、父の金から引き落とすからね。危険な事件に学生を巻き込むんだ。このぐらいは文句を言わないだろう」


 それなら遠慮なくとディアロはガツガツと食べていく。

 その食べっぷりにフィンも気が良くなる。


「君もそんなに食べるのか……」


 フレアたちは目の前の二人の食べっぷりに見ているだけでお腹が膨れそうになるのを感じていた。


「そんなに食べて太らないんですか?」


「動いていれば太るはずがないだろう?私は食後も落ち着いたら動くようにしているし。多分、ディアロもそうなんじゃないか?」


 アクアからの質問にフィンはそう答え、ディアロにも話を振ると首を縦に振る。


「正直、食べないと腹が減ってしょうがないです」


「わかる」


 どれだけの運動をしているのかと呆れてしまう。

 特にフィンは生徒会長としての仕事もあるのに、そんな暇はどこにあるのか不思議だ。


「ほらほら、もっと質問や話をしにきなよ。行儀が悪いかもしれないが食べながらでも良いじゃないか」


 フィンの言葉に少なくともダイキよりも付き合いがあるアクアもフレアも次々とフィンに質問していく。

 どうやら本人に直接聞いて良いのか悩んでいたが、それも含めて質問している。

 いろいろと溜まっていたものがあったのだろう。


「すっげー、質問の量。ディアロは何か聞きたいことは無いのか?」


「急に質問しろと言われても思い浮かばないよね」


「………そうだな。俺もお前に何か質問しろと言われてもなぁ……」


 二人は目の前の先輩たちが親睦を深めているのを眺めながらテーブルの上にのってある料理をつまんでいた。


「これもう、お互いのことを知るための親睦会ではなくて先輩たちの親睦会だよな」


「それな」

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