ep97.共存の悪魔族
「え…悪魔族と…私達の家族に…縁があるって…どういう…?」
「ホワイト、それは後だ。それより…今はこの契約の悪魔を止める――」
その瞬間、ソレイユがエルに叩き付けられたジンを抱える。
まるで光の動きかのように…ソレイユは動いていた。
その動きは誰にも見えなかった。
ただ一人ソレイユだけが理解していた。
「っ…!?」
「早っ…!?」
そして…ホワイトの傍にジンが置かれる。
「…!」
「ホワイトの親父さん…。まるで…光みたいな速度だった」
「まぁ…君達とは魔力の練度の差が違い過ぎるからね」
ソレイユが驚愕するジンの目を見て笑う。
「っ…もしかして…煽ってます…?」
「いいや、君はまだまだ強くなれるっていう表明さ」
「っ………精進…します」
ジンがそう言うと、ソレイユがエルの方を見て拳を握る。
「お父…さん…」
「ジン君、だったっけか」
「…ホワイトの…親父さん…」
ジンがソレイユの背中を見る。
「…ホワイトを頼む」
ソレイユはそう言うと、エルに突っ込む。
「っ…!」
砂埃が舞う程の素早い動き。
エルが腕でソレイユの拳をガードする。
「お父さん…!」
「ソレイユさんっ…!!」
エルが尻尾を使い、ソレイユに刺そうとする。
「このっ…!」
「ふん…!」
ソレイユがエルの尻尾を避ける。
「っ…!」
「この尻尾を刺せば…君は俺に勝てる。俺に猛毒の耐性はないからな…」
「…弱点の暴露?アルシエルさんって結構洗脳しやすかったから馬鹿なんだと思ってたけどやっぱ馬鹿だったんだ…!」
「…あぁ、俺は馬鹿だよ――」
ソレイユがそう言うと、エルから距離を取る。
「俺は…記憶喪失で自分の娘すらも忘れてしまった…大馬鹿者だ――」
ソレイユが左腕に魔力を込める。
「だからこそ…!」
ソレイユが咄嗟にエルに近付く。
「っ…!?」
ソレイユがエルの尻尾を左腕で掴む。
「尻尾を掴ん――」
ソレイユが左腕から熱を放出する。
「ぐああっ…!!」
エルが苦しむ。
「俺は…償わなければならない…!!」
ソレイユがエルの尻尾を左腕で燃やそうとする。
熱に苦しみ続けるエル。
「熱い…!熱い熱い熱い…!何この熱さ………まるで……太陽………!!」
「っ…!!」
「このまま…燃やしてやろうか…?」
「っ…!」
エルが力を振り絞り、ソレイユに回し蹴りをする。
「っ…!」
ソレイユが蹴りをかわし、距離を取る。
「うぐっ………」
エルが尻尾を押さえる。
ソレイユの出した熱がエルの中にある猛毒を消し去っていた。
「っ…今の熱で…尻尾の中の猛毒が………溶けてる………」
「強い…強すぎる…!」
ジンがソレイユ実力の高さを見て驚愕する。
今ジンが見ているソレイユこそ、ホワイトの父親。太陽神の族の力を有した人間――
ソレイユはその太陽神の族の中でも…最強とも呼べる男だった――
性格に反して強すぎる魔力量と戦闘力――
「これが…ホワイトの親父さんの力……太陽神の族の中でも…特に強い…。何だこの人は………!」
「…そうだよジン君…お父さんは…凄く強い。一族として太陽の魔力を授かっている以上…太陽に関係する力を最大限使える…。さっきの瞬間移動も…太陽光…光の速さを模した動き――」
「っ………反則…だろ………」
「…正直…娘の私でも…反則って思うよ…」
「どうした、契約の悪魔?」
ソレイユがエルを指で挑発する。
「っ………アルシエルさん…なんでそれを…そんな力を…記憶喪失している最中に…使えなかったの…?どうして…記憶が戻ってからそんな力を…!」
「…さぁね。俺もよく分からない。記憶を失ってたのは本当だし…娘であるホワイトを酷く傷付けてしまったのも本当だ」
「お父さん…」
「っ…強い人間に悪魔族との間に子どもを作らせる目的を…もう少しで果たせそうだったのに…!!」
エルが拳を握る。
「こんな…こんな強い奴が…人間にいたなんて………!!」
「…人間舐めるなよ、悪魔族。君達悪魔族は…人間を舐めたからかつての時代で敗北を期したんだろう…?」
「っ…知ったような口を…!!」
「君はかつての悪魔族のやり方を好んでるみたいだけど、悪魔族の長は果たして君のその勝手な行動を許すかな?」
「っ…!!」
エルがソレイユを睨む。
「…アルシエルさん、あなたは強いよ。強すぎるよ。だからこそ…」
エルがソレイユに一瞬で近付く。
「一緒に来て欲しいッ…!!」
エルがソレイユに掴みかかる。
エルも契約の悪魔としての誇りがあった。ソレイユを捕らえ、自分との子どもを産んでもらう。
そしてそれが…エルの目的である…悪魔族の繁栄に繋がる事を…。
「親父さんっ…!」
「お父さん…!!」
「っ…!?」
エルがソレイユから離れる。
ソレイユの身体からは強力な熱気を発していた。
「…君には俺を連れて行く事は不可能だよ、契約の悪魔さん」
「っ………」
「…君に勝ち目はない、契約の悪魔。諦めて…投了してくれ。殺しは…嫌いなんだ――」
ソレイユが熱気を止める。
エルとの戦闘力の差はまさに月とスッポン――
いいや、太陽とスッポンだった。
ソレイユは…強すぎたのだった。
「………」
エルが顔を押さえる。
「エル…」
「っ…うぐっ…ぐすっ…」
エルが泣き出す。
「…!エル………」
「うぅっ………私はただ………悪魔族のためを思って…行動してたの…」
「………エル」
ソレイユが腕を組む。
「ジンが………あの時殺し屋だったジンが…人間のふりをして…悪魔族としての力を殆ど使ってなかった私なんかを…助けてくれたから………アルシエルさんが…記憶を失っていたソレイユさんが…人間界で…奴等に殺されかけていたところを…助けに来てくれたから…私は………私は………!」
「っ………」
エルが地面に膝を付く。
「…全部…私が………悪い…じゃない………」
――その後…契約の悪魔エルは…一度人間の姿になり、サキュアに住む全ての人間に謝罪をしに行った。
サキュアに住む多く男性を無理矢理洗脳した事を深く詫びた。
その後、ソレイユ本人や、その娘であるホワイト、また過去から洗脳を試みていたジンにも謝り、この件は終了した。
だが、サキュアの人々は意外にもエルを非難する事はしなかった。
――事件から数時間後…
エルの元へ歩くジン。
「…エル、ここにいたのか」
「…何」
ジンが人間体のエルと話す。
「お前は…こんなクソみたいな事をしたのに…なんでサキュアの人達に…悪く言われないんだ…?それもお前の使う洗脳のせいか?」
「…それは違う。現に今のサキュアの人達は洗脳が解けている状態…私は…サキュアを…救おうと思ったの」
「救おうと思った?」
ジンが首を傾げる。
「じゃあなんで洗脳を…」
「救ってから…お礼にって形で皆を利用したの…」
「は…救ってからって…」
「…ソレイユさんに…救ってもらった事は話したよね…その時の頃はまだサキュアは…こんなにも発展してなかった…サキュアは…当時魔物によって街を荒らされ、魔力が殆ど満ちてなくて人々の生気も全くない街だった…ソレイユさんと一緒にここに来て…人間になりすましてた私を皆受け入れてくれた。そして…サキュアにはよく魔物が入り込もうとしてたの。恐らくだけど…前あった可能の災いって奴――の肉体が封印されていたからさ…」
「可能の…スピアの事か」
「たぶんそう。その封印…というか、恐らくオアシスを狙ってなんだろうけど魔物がわんさか湧くようになってたらしくて…」
「…それで魔力も生気も殆どなかったのか」
「…そう」
スピアの肉体がオアシスに封印されている故に魔物が湧き、それはエルの人間のふりをするという生活にも影響を与えていた。
「魔力も生気も失ったサキュアを…彼等を悪魔族としてでなく…人間の姿で守る事にし、後から誰かに悪魔族との間に子どもを作ってもらう…そうする事にしたの」
「…そうか」
「いつしか…サキュアに向かっていく魔物は現れなくなった。私が強すぎて魔物を消し去ってたから…。これが…魔物を倒してた時の剣ね」
エルが剣を取り出す。
魔力に染まった剣…これがエルの人間としての武器だった。
「そうか、お前にとっても…サキュアの人にとっても恩人の関係…だったのか」
「魔物が現れなくなったタイミングで…私は一旦サキュアから離れ、別の街から魔力について学びに向かった。魔力を得てサキュアを救おうと思ったんだ。私本来の魔力では誰かを救う事は難しい。だから…サキュアを救える魔力を手に入れて…帰ろうと思ってた矢先に君と出会った。殺し屋時代の君と出会って…悪魔族の使命を思い出し…それで…」
「…そうだったのか」
ジンが頭を掻く。
「…そうだな、殺し屋時代の俺と、当時のお前が出会って………多くの仲間を失ったよ」
「…ごめん」
「…あの時の仲間を失ったのはお前のせいじゃない。俺達が…殺し屋として弱かったからだ」
「…そっか」
「でも…なんで俺はお前を救おうとしてたって過去を…思い出せないんだ…?お前の名前を…」
「それは――」
エルが言おうとするが、途中で辞める。
エルが首を振る。
「…私には分からない、ごめん。私は…本当は君の記憶には何も干渉してないから…」
「そうか…」
ジンが腕を組む。
エルはジンの記憶に関与していたが、本当の記憶には関与していなかった。
エルは飽くまで、ジンがエルという人間…悪魔をすぐに思い出さないように記憶を操作していただけに過ぎなかった。
それはジンを損させるためではなく、ジンを利用するために…そして、ジンを守るために…。
「もう一つ聞いていいか…?ソレイユさんの事をアルシエルって名付けたが…その名前は一体…」
「あぁ…それは…私のお父さんの名前だった」
「…そうだったのか。…だった?」
「…お父さんは…もうあの世に旅立ったから…」
「…悪い事を聞いたな」
「いいよ…悪い事をしたのは…私の方だから………」
エルが空を見上げる。綺麗な青空だった。
ジンが腕を組む。
「…なんで皆、私を殺さないの?私は…ナギサさんって人を殺そうとしてたのに………」
「…色々あるんだよ」
「そう…」
ジンが上を向く。
「…これからどうするんだよ」
「これからは…サキュアを救えたし、ひとまず悪魔界に帰る事にする。気持ちが落ち着いたら…また人間界に来て…今度は無理矢理ではなく、人に交渉をする」
「そうだな。まぁそれが一番だろ。もっともそうさせてくれる人間は早々見つからないと思うがな…」
「うん…悪魔族と人間の共存の未来は…まだまだ先になりそう…」
エルが頭を掻く。
そして、エルが衝撃的な言葉を発する。
「そういえば…ジンって…殺し屋時代以前にも…会った事あったりする?」
「…え?」
ジンが首を傾げる。
「…いや、俺はお前と会ったのは…あの時が初めてだったと思うが…」
「そう…なんだ。なんか…似てる人を昔見た事がある気がしてさ」
「…昔?」
「今のは忘れて」
「…あぁ」
――一方…ホワイト達は…
「っ…お父さん………」
ホワイトがソレイユに抱き付く。
「…ホワイト。ずっと…2年間もずっと心配をかけて…ごめん………」
「っ…本当だよもう…お父さん………」
ホワイトが涙を流す。
「…おかえり、お父さん」
「ただいま…」
ソレイユが抱き返す。
「………ふふっ」
ナギサが二人を見て笑う。
「…ホワイトちゃん、漸く…漸くあなたの目的が達成されたのね」
「ナギサさん…」
ホワイトがナギサの目を見る。
ナギサは身体中に包帯を巻いていた。
「…ナギサさん…その身体…」
「…大丈夫。君の魔力のおかげで今はすっきり動くよ。後はリハビリすれば大丈夫。内臓だって…君の魔力のおかげですぐ治ったし」
ナギサが腕を動かす。
「良かった…」
「ふふっ」
「…ナギサさん…でしたか」
「ソレイユさん、あなたと会えて私は嬉しいですよ」
「…こちらこそ、リュンヌさんがあの時お世話になったみたいで…」
「いえいえ、私の方が寧ろ…」
「はははっ」
ソレイユが笑う。
「帰ろうか」
「…うん、そうだね」
「私もカルム師団の仕事がこれから山積みになるかもしれないしなぁ…悪魔族とその魔力…目的についても研究してかなきゃだね」
「…ナギサさんは仕事熱心ですね」
「え?いや、結構サボってるんだけどね」
「あはは…」
ホワイトが苦笑いをする。
――その後…ホワイト達はラッシュ師団の基地までゆっくり帰る事になった。
記憶を戻したソレイユはラルの街に帰る事に。ホワイトもラッシュ師団に報告が終わった後、ラルの街に赴く事になった。
――契約の悪魔エルはジンに話した通り、悪魔界へ帰って行った。自身の過ちを見直すため…そして、人間と悪魔族との共存を目指すため…己を見つめ直しに帰って行った。
後書き~世界観とキャラの設定~
『ソレイユ』
…ホワイトの実の父で太陽神の族という種族の一応人間。左腕が光り輝いており、これは太陽神の族特有の現象。普段は男前とは言える程ではなく、寧ろ少しヘタレ寄りな男でホワイトの少し臆病な性格は彼の遺伝。
だが戦闘になるとその実力はとても高く、太陽光のように早く動いてジンを救出、太陽に似た熱を扱ってエルの尻尾の猛毒を無力化をしたりとやりたい放題。だが記憶を失っている間はこの能力は使えなかった。
また、ホワイトの持つ回復魔力もソレイユの遺伝。そしてホワイト以上の回復魔力を持つ。ホワイトはそんな父に憧れを抱きつつ、自分が誰かを助けたいという願いもあって回復魔力を極める事を選ぶきっかけになった人物。
その気になれば可能の災いディ・スピアや魔力の根源によって完全な存在となったジハに並ぶ程の実力を持つが、基本的には力はセーブしている。
そして…悪魔族はホワイトの家族と一応縁があるらしい。




