ep96.連鎖する思い
――ホワイトの前で倒れるナギサ。
腹から零れる血が、地にある砂を赤黒く染める。
そしてその範囲は、少しずつ広がっていく。
「なかなか相手しててしんどかった相手だったね。けれど今ので終わりね」
「っ…そん…な………」
「この尻尾には悪魔族特有の猛毒が仕込まれているの。この尻尾に刺されたら…悪魔界の恐ろしい魔力によってできた猛毒で人間は一瞬であの世行きよ」
「っ………!!」
ホワイトが涙を流す。
「ナギサ…さん…!!しっかり…して………」
「っ………ご…め………」
ナギサが目を閉じてしまう。
「っ…!!」
「さてと…アルシエルさんの洗脳が解けちゃったのは想定外だけど…戦えそうなのは一人だけだし…大丈夫か。ふふっ――」
エルが舌を出す。
「ナギサさん…!しっかり…して……!!」
ホワイトがナギサの元に走り出す。
ナギサは出血が止まらない状態だった。
「っ………」
ホワイトがナギサの身体に回復魔法をかける。
「しっかり………して………」
「無駄だよ、ホワイト」
エルがホワイトの背後に回り込む。
「っ…!」
エルがホワイトの口を右手で塞ぐ。
「うぐっ…」
「…ねぇ、ホワイト、悲しい?」
「っ………!」
ホワイトがエルを振り払おうとする。
「ほらほら、暴れないの。どんなに君が頑張っても…君がこの手を振り払えても…今目の前にいる人は助からないよ?」
「っ…………」
ホワイトの目から再び涙が出る。
倒れているナギサの血をホワイトは眺める事しかできなかった。
「ホワイトは特別に生かしてあげるよ。ホワイトも人間として素質があるみたいだし。そうだなぁ…女の子だから流石に私とは子どもは作れないし…そうだ!君にいい悪魔族の男を紹介してあげるよ!その悪魔族の男は凄いよ?」
「っ………!?」
「大丈夫、最初は怖いかもしれないけれど、段々と慣れてくるよ。まるで魔力みたいに…ね…?」
エルがそう言うと…
ホワイトが抵抗を止める。
「………」
「…あれ、結構潔いんだね」
エルがホワイトから手を離す。
「………」
ホワイトがその場から動かなくなる。
「…ホワイト?もしもーし?」
エルがホワイトの目を確認する。
まるで放心状態しているかのような顔だった。
「あれ…?もしかして絶望しすぎて立ったまま気絶してる?あれ?」
エルがホワイトの口に触る。
「全く動かない。どういう――」
その瞬間、エルの腹に剣が刺さる。
「がはっ…!?」
エルが吐血する。
「っ…!まさか…ホワイト……!?」
エルがホワイトの手を見る。
だが、ホワイトの手は動いていなかった。
「ち…違う…この剣…まさか後ろから…!?――」
エルが振り向く。
「っ…!?なんで…生きて………」
エルの後ろにはナギサが立っていた。
ナギサがエルに強く剣を刺す。
「っ…!」
「………よくも…ホワイトちゃんを…泣かせたね………ゲホッ…」
ナギサが吐血しながらエルに剣を強く刺す。
「うぐっ……!」
「よくも………!!」
「うるさいっ…!!」
エルがナギサに殴りかかろうとする。
「っ…!」
ナギサが剣を抜き、距離を取る。
「うぐっ…!」
エルが腹を押さえる。
エルがナギサの腹から出た血だまりを見る。
「っ…その出血量で…どうして…動けるのさ…!?」
「………私の水の魔力で血液の流れを安定させただけ…だよ。ゲホッ…」
「ナギサさん………!」
ホワイトがナギサの方へ瞬時に移動する。
「しまっ…!」
「急に姿が見えなくなるから………」
「………大丈夫、まだ…戦える。けれど…結構しんどい…かも」
ナギサが腹を押さえる。
ナギサの腹から出血した血が地面に垂れる。
「っ………」
ホワイトが回復魔法をかける。
「っ…身体の損傷が酷い…すぐには治せない………」
ホワイトがナギサの傷を見て絶望する。
「…大丈夫。今のこれで…だいぶ動けるようになった…!」
ナギサが剣を構える。
「…ふん、だからって、その出血量で私に勝てる訳がない。悪魔族である私に…」
エルがそう言うと、エルの後ろから足音がする。
「っ…!?」
エルが振り向くと、そこにはジンがいた。
「エル………!!」
ジンが右手に炎の魔力を込め、エルに放つ。
「っ…!」
エルが炎を避ける。
「ジン君…!!」
「……クソッ…なんか…甘ったるい夢を見ていた………」
ジンが片手で頭を押さえる。
ジンの洗脳はナギサの一撃で解けていた。
「…その様子だと、洗脳が解けたみたいだね」
ナギサがジンの顔を見る。
「っ…ナギサさん…その傷…」
「今は大丈夫。それよりも…今はエルを倒す事に専念するよ…!」
「…分かってます」
ジンがエルに銃を向ける。
「チッ…死にぞこないが…!」
エルが二人を睨む。
「ホワイトちゃん…さっきも言ったけど…お父さんから記憶を戻して…!そうすれば…勝機はある…!ソレイユさんの力があれば…!」
「っ…でもそんな事…今瞬時になんて…!夢を介しないと…!」
「その夢を介する方法…ラルの街で得ているはずだよ…!」
「ラルの街で……?」
「早く…私が失血死する前に…!」
「っ…!!」
ナギサの腹から血が垂れる。
「もういい…こうなったら無理矢理にでもジンを連れていく…!ナギサは…ここで殺す…!!」
エルが爪をナギサに向ける。
「っ…」
ナギサがエルを剣で押さえる。
「………お父さん…」
ホワイトがアルシエルを見る。
アルシエルは意識を失っていた。
「…でも…この状況で寝るなんて…無理…だよ…ナギサさんが耐えてくれていても…すぐに寝るなんてそんなの………ラルの街で得た事なんて…せいぜい繋命の秘密を少し聞いて――」
ホワイトが息を呑む。
「…そうだ…寝る方法…確かバール先生に…薬を何個か貰って――」
ホワイトが薬を取り出す。
「…!これ…だ…!!」
ホワイトが薬を飲む。
「っ………」
薬の作用が発動。
ホワイトが一瞬で眠りにつく――
「お父さん…!!」
真っ白な世界でホワイトが辺りを見渡す。
「お父さん…返事をして…お父さん…!!」
ホワイトがそう言うと、ホワイトの後ろにアルシエルが座っていた。
「っ…お父さん…!」
「……君は……さっきまであの場所で戦ってた…あれ…でもなんでだ…?俺はなんでここに…」
「お父さん…!」
ホワイトがアルシエルの元に寄る。
「…お父さん…ソレイユお父さん…」
「っ…ソレイユ…その名前…やっぱりどこかで…」
アルシエルが頭を押さえる。
「あなたはアルシエルなんかじゃない…ソレイユ…私の…自慢のお父さん…だよ…」
「っ………君は一体………」
「お父さん…!!」
ホワイトがアルシエルを揺する。
「お願い…目を覚まして…!元のお父さんに…戻ってよ…!」
「っ………そんな事言われても…俺は君の事を思い出せないんだ…君は……一体………」
「っ…!」
ホワイトが服の中に入れているペンダントを取り出す。
「っ…」
「これを…見て………!」
ホワイトがペンダントを開ける。
ペンダントの中にはリュンヌ、ソレイユ、ブラック、ホワイトの四人が映る家族写真があった。
「っ…俺が…いる………そして…君も………」
「そうだよ…私達は…家族なんだよ………!」
「家族………」
男が写真を見る。
「…もっと…近くで…見せてくれ………」
「っ…勿論…!」
ホワイトがペンダントを差し出す。
男が写真の中のブラックを指指す。
「……この男の子は…誰なんだい…?」
「…ブラック。私のお兄ちゃん。あなたの…長男…」
「…そう…かい」
男が写真を眺める。
「…!この美しい女性…右腕が闇を帯びている様な…この人は…夢で何度も見た事がある…!」
「え…夢で何度も…?」
「っ…!」
男が頭を押さえる。
「あぁ…そうか…そういう…事…だったのか………」
男が…いや、ソレイユが涙を流す。
「…お父さん…?」
「………ホワイト」
「………!」
ソレイユがホワイトを抱き締める。
「っ…お父さん……?」
「………あぁ…ホワイト…ホワイト…なんだな……俺の…大事な娘よ………リュンヌさんとの間に生まれた…心優しい娘よ……」
「…!」
ホワイトの目から涙が零れる。
「お父さん………」
ホワイトがソレイユを抱き返す。
「そうか…そうだ…この世界…何度も来たことがある…そういう事…だったのか………」
ソレイユが涙する。
「っ……お父さん…!」
「…ホワイト…今まで…ごめん…な………」
「ううん…そんな事…」
ホワイトが首を振る。
「…でも、喜んでる場合…ではないみたいだね」
「…そう…なの。今現実世界では…ナギサさんが内臓をやられて…それでもナギサさんとジン君が必死で戦っていて…それで………」
「ナギサさんとジン君…お友達の名前か。…分かった、すぐ…目覚めよう。そして…あの悪魔は俺が止める」
ソレイユがそう言うと、真っ白な世界に亀裂が走る。
「…ホワイト、現実世界に戻ろう」
ソレイユが手を差し伸べる。
ホワイトがソレイユの手を掴む。
「…うん」
「今は…皆を救う事だけを考えよう。後で…色々話したい事がある」
「…勿論」
辺りのヒビはどんどん広がり………
「………ゲホッ…」
ナギサが吐血する。
「もう、限界みたいだね」
エルがナギサの目を見る。
ナギサの口から血が垂れ続ける。
「っ………!」
ジンがエルに殴りかかるが、エルが片手で受け止める。
「ジン」
「っ…!?」
エルがジンの拳を掴み、ジンの身体をその場に叩き付ける。
「がっ…」
「私の目的のために、無駄な血は流したくない。ジンやアルシエルさんが私の目的にそのまま協力してくれてたら…今頃ホワイトもナギサも傷付く事は無かったの。ナギサが死ぬことも…無かったの」
「っ…!ナギサさんを勝手に殺すな………!」
「…でも、もう死にそうだよ?」
「っ…!!」
「………うっ…」
ナギサが膝を付く。
「ナギサ………さん………」
「…ごめん………ジン……君……」
ナギサの目が霞む。
「…もう…感覚が…分からなくなってきたの…」
「っ………」
「あ…あぁ………」
ナギサが何かを見つめる。
まるでそこに亡霊が映っているかのように…
「……あ…そこに…来てくれたん…だね…ムツ…ミ………」
「っ…!?」
「…もう、じきに死にそうだね。ナギサには死人の幻覚が見えているみたい。ジン、君だけでも連れて悪魔族の更なる繁栄に協力してほしい。そうすれば…」
「させない…!」
「っ…!?」
ホワイトとソレイユが立ち上がる。
「ホワイト…!?それに…アルシエルさんも…」
「…今の俺はアルシエルじゃない。ソレイユだ…!」
ソレイユが拳を握る。
「…あぁ…ホワイト…ちゃん……成功…したのね………」
ナギサがホワイトの目を見る。
「ナギサさん………」
「………あはは…ちょっと…思ったより限界が来るのが早くて…さ………」
ホワイトがナギサの元へ走る。
「…少しだけ…寝てて下さい………」
ホワイトがナギサの腹に回復魔法をかける。
「…ホワイトちゃん…?」
「…ナギサさんが起きた頃にはきっと…全てが終わってますから…」
「っ………そっ…か………分かった…」
ナギサがホワイトの言葉を聞き、安心したかのように目を閉じる。
「…ゆっくり休んで、ナギサさん」
「アルシエルさん…いや、ソレイユさん。記憶の復活おめでとう」
エルが軽く拍手する。
「ありがとう、感謝するよ」
ソレイユが表情を変えずに話す。
「それで、記憶が戻って早々だけどさ…私と一緒に来てよ」
「………悪魔族の…契約の悪魔エルか」
「ソレイユさんは太陽神の族の中でも凄く強い力を持っている。その力を以てすれば悪魔族の繁栄にも繋がる。だからさ…?」
「…確かに。悪魔族は…俺達の家族にも縁がある存在だ」
「え…?」
ホワイトがソレイユの方を見て疑問を抱く。
悪魔族は家族とも縁がある存在…その言葉に間違いなく疑問はあった。
「悪魔族の繁栄のためにもいつかは協力したいと言った事もあったね」
「あ、そうなんだ。じゃあ…」
「だけど…俺ではないし、今でもない」
ソレイユが拳をエルに向ける。
「――…君は娘と娘の大事な物を傷付けた。君は…ここで俺が蹴りを付ける」




