ep95.心臓から使う
――ホワイトの繋命の魔力によって起こった夢の世界に現れた、可能の災いディ・スピア。
そしてスピアは、ホワイトに対して自身の魔力の使い方を教えようとしていたのだった………
「っ…魔力の使い方を…スピアに教わるって…」
「どうした?嫌か?」
「っ…そりゃ…嫌だよ…スピアマウンテンの時は私をあんなに滅多刺しにして…サキュアの時はランスさんに本来の魔力を与えて…私を動けなくさせて…酷い事をしてきた人に教わるなんて…」
「ふむ」
スピアが腕を組む。
スピアの身体は小柄だが、実力は本物だ。
何せ…ランスが不可能の災いとしての魔力を取り込むことに成功しなかったら勝てなかった相手だったのだから。
「それに…こんな凄い強い人なのに…正体というか肉体というか…私より小柄で…肌が綺麗で…ちょっと美人で…声も可愛くて…」
「それ、もしや私の事を褒めてないか?」
「でも言葉遣いが悪くて…自分より大きな存在なのに人の事を小娘と言ったり…背が小さくて子供」
「やっぱり貶してるな、貴様」
スピアがホワイトを睨む。
「…何れにせよ嫌だ…スピアに教わる事なんてない…!」
「ふむ、そうか」
スピアが目を逸らす。
「せっかく脳で処理して魔力を使うのではなく、心臓で魔力を使う方法を教えてやろうと思ったんだがな」
「…!」
「まぁでも、知りたくないなら貴様に用はないな。さらばだ――」
「っ…待って…!」
ホワイトがスピアの腕を掴む。
「なんだ小娘。教わりたくないんだろう?」
「その…心臓で魔力を使う方法っていうの…教えて…!」
「ふむ――」
スピアがホワイトの真剣な目を見る。
スピアが呆れた顔をしながらも、ホワイトの誘いに乗る。
「まぁいいだろう。さっきの症状を見る限り、どの道今貴様は目覚めた所で現実の貴様は頭を強く打っているのがほぼ確定だろう。そのままの状態では現実に戻った瞬間に頭の回転が回らず…そのまま敵に攻撃され、死亡コースだ。小娘、貴様は回復の魔力を持っているな?」
「っ…そうだけど…」
「頭を強く打ってる場合、頭から魔力を使うのはほぼ不可能だ。心臓から魔力を使い、頭を治す。幸いなことに脳は損傷してない。脳も心臓も損傷してなければ、お前みたいな回復魔力の持ち主なら生命維持は可能だ。試しにやってみるか?心臓で魔力を使う方法だ」
「っ………やってみる…」
「ふふっ、やはり貴様は面白い小娘だ」
スピアが微笑する。
「まず、普段通りに魔力を使ってみろ」
「えっと…こう…?」
ホワイトが魔力で自身の身体に回復魔法をかける。
「そうだな。その魔力の元は脳から出してるのだよ」
「脳から…あ…そっか…確かに…考えながら…頭に流れが来ている感じで魔力を使ってる…回復をしたいっていう思いで…」
「そうだ。魔力を使おうと思って使うから脳で魔力を使う。では今度は心臓から使って見よ」
「っ…いきなりそう言われても…そんなのやった事ないからできないよ…!」
「考えずに魔力を使うんだ。意識的にではなく、無意識に使う感じだ」
「無意識に…こうかな…――」
ホワイトが回復魔法を発動する。
その瞬間、スピアがホワイトの頭を叩く。
「いたっ…!?」
「雑念を払え、小娘。今のは脳を使ってるぞ」
「頭を叩く事ないでしょ…!こっちは頭打ってるんだよ!?痛いんだよ!?」
ホワイトが大きな声を出してスピアに怒りを見せる。
「すまん。だがいらぬ雑念があるな。貴様…瞑想はしたことあるか?」
「瞑想…お母さんやお父さんと一緒に魔力の修行って感じでちょっとやった事あるような…」
「ならばその出来事をまず思い出してみろ。そして、その出来事みたく感覚でやってみるのだ」
「っ…瞑想をしてた時の感覚を…」
「心臓に目線を向けろ」
「心臓に…目線を…」
「そして、脳は使わない事だ。何も考えずに使え」
「…難しい…」
ホワイトが目を閉じる。
「っ…!」
ホワイトが回復魔法を発動する。
その魔力は…まさに『心臓から使う』ものだった。
「…お」
「…え」
ホワイトがスピアの目を見る。
「できたじゃないか」
「え…今ので…いいの…?」
「あぁ」
「っ…」
ホワイトが胸を押さえる。
胸の痛みに襲われるホワイト。
「これ…凄く…心臓に負荷がかかる………」
「最初は誰だってそうだ」
「それに…これを無意識にする事なんてできない…っていうか、スピアは一体この魔力をどのタイミングで使ってたの…?」
「かつては脳をやられたら心臓で、心臓をやられたら脳で魔力を発動してたな」
「そう…なんだ………」
ホワイトが拳を握る。
「…スピア」
「ん?」
「…ありがとう」
「例には及ばん。但し…貴様とはいつか果たしたい約束がある」
「約束…?」
「再び現世に蘇ったら…今度こそ貴様からその魔力を奪って見せよう。それが私からの貴様への約束だ」
スピアがニヤリと笑う。
「っ…!そんな事…」
「勿論、ただで奪われてはくれるなよ、小娘?」
「…そもそも…スピアが復活するのはそもそもお断りだけどね…!」
「ふん、行ってくるがいい」
スピアが腕を組む。
「スピア…ありがとう………」
ホワイトがその場から去ろうとする。
スピアの目はどこか、ホワイトを応援しているような目だった。
――ホワイトが目を覚ます。
「はぁ…はぁ…うぐっ…頭が痛い…」
ホワイトが頭を押さえる。
「そうだ…頭を打ったから頭が回らないんだ…えっと…こういう場合は…」
ホワイトが目を瞑る。
「っ………!」
ホワイトが魔力を発動し、頭の傷を治す。
スピアに言われた心臓から使う方法ができた。
「…できた…!これだったら――うっ…」
ホワイトが胸を押さえる。
心臓への負担が大きかった。
「心臓が…ドクドクする…初めて心臓から魔力を使うからだ…落ち着け…私の身体………」
ホワイトがそう言うと、ホワイトの目の前にはナギサとアルシエルが戦っていた。
「っ…!ナギサさんと…お父さん………」
ホワイトが二人の動きを目で追う。
アルシエルとの戦いで、ナギサは窮地に立たされていた。
「っ…ナギサさんが…死んじゃう…!」
ホワイトが立ち上がる。
「っ…!」
「最期に名前を聞くくらいなら、してやる――」
アルシエルが左腕に力を込める。
「………ゴホッ…」
ナギサが吐血する。
「…言葉も発せないか――」
アルシエルがナギサを見下ろす。
「…終わりだ――」
アルシエルが拳を振ろうとする。
「辞めて…!!」
ホワイトが咄嗟に飛び込み、アルシエルの拳を繋命剣でガードする。
「っ…!」
「ホワイト…ちゃん…」
「ナギサさん…!」
ホワイトがアルシエルを剣で振り払う。
「っ…!君はさっきの一撃で…頭を打ったはず…なのに…!」
「ナギサさん…今治します…!!」
ホワイトがナギサの元に駆け寄り、腹に回復魔法をかける。
「っ………」
ナギサの腹の傷が回復していく。
「あ…凄い…一気に治っていく…」
「…マジか」
エルがホワイトとナギサを見る。
「アルシエルさんのあの一撃をくらって…傷が治り切ってる――」
「はぁ…はぁ…っ…熱い………」
ホワイトが胸を押さえる。
ホワイトの身体全体は心臓の動きが早くなり、高温になっていた。
「…ホワイトちゃん…?」
「っ…しっかりして…私の身体…心臓…はぁ…はぁ…」
「…なるほど、心臓から魔力を使う手法かぁ。それ凄いよね。でもリスクも大きいでしょ?それに…こっちには洗脳してるジンもいるんだよ」
「っ…!ジン君…!!」
苦しい状態が続くホワイトの身体。
そしてエルの隣には洗脳されたジンが立っていた。
「…エル…好きだ――」
「っ…ジン君…そん…な…!」
「君が寝てる間に君の愛しのジンは私の手中に収まっちゃった!今は私の事を最愛の恋人と認識し、君の事は恋人関係を横取りしようとする悪い女と認識しちゃってるよ!あははっ!」
「っ…なんてこと…!」
「ホワイトちゃん…惑わされちゃダメ…エルはそうやって心を掌握しようとしてる…話に乗ってはいけない…怒りや悲しみを押さえて…!」
「っ…はぁ…はぁ…」
ホワイトが胸を押さえる。
心臓の痛みが続く――
「ホワイトちゃん…」
ナギサがホワイトに水の魔力を付与する。
「ナギサ…さん…?」
「…さっき熱いって言ってたでしょ。その魔力で少しでも…その熱さを冷ませればと思って…」
「っ…!ありがとう…ございます…」
ホワイトがゆっくりと呼吸を整える。
「…ホワイトちゃんは意識を失っている最中に何か得たみたいね」
「…はい」
「ホワイトちゃん、今なら奴等の動きに…対応できる?」
「…はい…!」
ホワイトが魔力で繋命剣を再び作り出し、構える。
「…おっけ。とはいえ…エルの使うあの匂いをまずはどうにかしないといけない…。ソレイユさんもジン君もあの匂いに乗っ取られてしまってる。あれを振り払う方法は――」
「エルにダメージを…与えるとか…?」
「洗脳を解くならそれもありだけど…君が気を失っている間…エルは分身の魔力を使ってた。本物を見分ける方法も現状は分かっていない…だから本物を捕らえるのは難しい…!」
「っ…じゃあどうすれば…!」
「私の水の魔力を応用すれば…二人の匂いを払える…気がする。ホワイトちゃんはその隙を作って欲しい」
ナギサがホワイトの耳元で囁く。
「分かりました…!」
ナギサとホワイトが別れて走り出す。
「ん…?」
エルが二人の行動を見て目を細める。
「回復手段を持つホワイトが…一人で動いてる…?」
エルが左手で炎を作り出す。
「馬鹿だなぁ、補助役と攻撃役は一緒じゃないと…意味ないでしょ…!」
エルが炎をホワイトに飛ばす。
「っ………!」
ホワイトが炎をかわす。
「お父さん…!」
ホワイトが繋命剣をアルシエルに向けて振りかかる。
「…ふん、さっき俺に吹っ飛ばされた子が…俺に立ち向かってくるだと?」
アルシエルがホワイトを目で追う。
「ばかばかしい…!」
アルシエルが剣を避ける。
「一度敗北した者に勝とうなんて無理な事――…いない…!?」
アルシエルが動きを目で追おうとするが、既にホワイトの姿は見えない。
アルシエルが瞬時に辺りを見渡すが、背後ががら空きだった。
「っ…!」
アルシエルが後ろを見るが、時は既に遅かった。
ホワイトが剣の柄でアルシエルの背中を攻撃する。
「ぐっ…!!」
「お父さん…目を覚まして…!」
ホワイトが涙を零しながらもアルシエルに呼びかける。
「お父さん…お父さんとうるさい…!君なんか…君なんかが…俺の娘なわ…け――」
アルシエルの目から涙が出る。
まるでホワイトの魔力を見て成長を感じて…涙していたかのように。
「…その目…その魔力の気配――」
「あっつい………!!」
ホワイトがアルシエルの左腕を掴む。
高温の左腕…ホワイトは苦しんでいた。
だがそれでも、ホワイトは手を離さない。
「っ…!?俺の左腕に触るなんて…自殺行為以外の――」
「…お父さんの左腕…昔よく触ってたから…耐えれる…!」
ホワイトがアルシエルの動きを止める。
「っ…!いくらなんでも…俺と君とじゃ身体の大きさが――」
ホワイトがアルシエルの腕を縛るように掴む。
「ぐっ…!」
「私だって…ラッシュ師団の団員な以上…ちゃんと訓練してきてる…これくらいの体術だって…できるようになったんだよ…!!」
「っ…君は――」
「ナギサさん…!」
「!?」
ナギサがアルシエルに向かって走り出す。
「その甘ったるい匂い――」
ナギサが右手から水を勢いよく出す。
「…流してやる」
アルシエルの顔に強い水流がかかる。
「ぐおっ…!?」
「っ…お父さん…!!」
「なんだこの水の勢いは…なんだこ……こは………」
ナギサの右手から出した水が止まる。
「っ………」
「お父さん…!」
「がはっ…ゲホッ…鼻に水が………」
アルシエルが倒れそうになり、ホワイトが受け止める。
「お父さん…お父さん…!!」
「うぅ…君は…一体…」
「しっかりして……!」
ホワイトが必死に呼びかける。
「うぐっ…――」
アルシエルが意識を失う。
「っ…お父さん…!!」
「ホワイトちゃん…後ろ…!」
「え………」
ホワイトの背後に分身したエルが現れる。
「エル…!」
「アルシエルさんを…返せ…!!」
分身のエル達がホワイトに長い爪で攻撃しようとする。
「っ…!」
咄嗟に前に出たナギサが剣で分身のエルを斬り続ける。
「ホワイトちゃん…早く君のお父さんの記憶を…!」
「ナギサ…さん…!でも………」
「繋命の魔力で…無理矢理にでもお父さんを…説得させるの…!」
「っ…そんな事…」
ホワイトが一つの考えを思い付く。
「あっ…」
「早くしなさい…!」
ナギサがそう言うと、ナギサの背後からジンが現れる。
「っ…!ジン…君…!」
ジンがナギサの背中に銃弾を撃つ。
「ぐっ…!」
「ナギサさん…!!」
銃弾はナギサの右胸を貫通する。
「がっ………」
「…チャーンス――」
エルがナギサに瞬時に近付く。
そして…悪魔の尻尾でナギサの腹を突き刺す。
「っ…!?」
尻尾がナギサの身体を貫通する。
「…ゲホッ…」
ナギサが吐血する。
「ナギサ…さん………!?」
ナギサがゆっくりと倒れる。
「………ホワイト……ちゃ………ゲホッ…」
ナギサがその場に倒れる。
ナギサの血が地面に大量に垂れ続ける。
「あ………嘘………」
ホワイトの前でまた、誰かが死のうとしていた。
――兄の次は………自分がかつて助けた者…ナギサだった。
後書き~世界観とキャラの設定~
『魔力を使う』
…本来魔力は脳を介して使うのだが、頭を強く打つなど脳が安定しない場合においては魔力を上手く使う事ができない。
そこで対策として脳を介さず心臓から魔力を使う事で無理矢理魔力を使う事ができる。スピアはその無理矢理でかつての時代を生き残った猛者である。
ホワイトはスピアに教えてもらったそれを使う事により、心臓から回復魔法を使う事で頭を回復させたが慣れていないせいで心臓への負担が大きかった。
心臓への負担が大きいと言う事は、当然寿命にも影響を与える手法なので緊急の時以外ではあまり使われない。
『ホワイトの鍛錬と身体の性質』
…少し臆病な部分が多いホワイトだが、ホワイトもラッシュ師団の団員と言う事もあって戦闘能力はそこそこある。自分より身体が大きい相手にも体術を発揮できるくらいのフィジカルはある。
また、ナギサの動きに合わせて敢えて放心状態になるフリをし、ナギサはエルに不意打ちする事に成功。戦闘における心理戦でも少し成長を見せた。
また、太陽神の族の父であるソレイユから生まれた影響か、身体が全体的に熱に強くなっている。ホワイト曰く、ソレイユの熱すぎる腕には何度も触れた事があると言う事。
『エルの尻尾』
…契約の悪魔エルの持つ悪魔の尻尾は悪魔界の恐ろしい魔力によってできた猛毒が仕込まれており、これを人間が喰らってしまえば魔力によるフォローがない限り数分で死に至る。
ナギサは自身の魔力で血液の循環を操作できるので毒が効かない体質だが、そもそも尻尾の刺突の時点で大きなダメージを受けてしまった。




