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白と悪魔と  作者: りあん
第三部 繋がる命と共存の悪魔
92/271

ep90.娘の幻覚

 ――サキュアのエルの家にて…


「…恩人さん」


 エルが寝ている男の頭を撫でる。

 恩人と呼ばれた男はぐっすりと眠っており、でもどこか悲しい表情を浮かべていた。


「きっと良くなるから。それまで私が…世話してあげるから」


 エルがそう言うと、扉から音がする。


「恩人さん、あなたにお話があります…!」

「…ん」


 エルが扉を開ける。


「…あ、ラッシュ師団の――」

「こんにちは、エルちゃん。あなたの恩人さんはいるかしら?」

「あぁ…うん。今は寝てるけど」

「寝てる…恩人さんはロングスリーパーなのね」

「そうなのかな?でも普段から眠そうな顔をしてるの」

「普段から眠そうな顔…?」


 シェールが首を傾げる。


「…家、入っていいかしら?」

「いいよ。ラッシュ師団の人達だから」

「では、失礼するわ」

「失礼する」




 ――記憶を失った男の寝ている部屋に着く三人。


「…おはようございます、恩人さん」

「…ん」


 男が目を覚ます。


「君達は…ラッシュ師団の」

「そうです。団長のシェールです」

「シェールさん」

「サキュアの復興が終わって、あなたの事について知りたくなったの」

「俺の事が…そうですか」


 男がそう言うと、エルがシェールの口元を見る。


「………」

「そうです。あなたの事について聞きたい事が…っ!?」


 シェールの唇にエルが口付けする。


「っ…!?」


 三人が驚いた表情をする。


「ちょっ…何してんだお前…!」


 ロキがエルの腕を掴む。

 エルがシェールの口から離れる。


「あ、ごめん。サキュアの復興を終わらせてくれて…感謝の気持ちで…それで――」

「っ…エル…ちゃん…」

「私達の中では、感謝の気持ちのキスは当然だから…」

「…そうなのね、分かったわ。けれど…女の子にキスされるのは初めてだわ」


 シェールが顔を赤くする。


「副団長さんもありがとう」

「…まぁ。俺は当然の事をしただけだと思ってるから…別に」

「副団長さんもキスする?」

「…いや、いい」

「そっか。まぁ別にいいや」


 エルが微笑む。


「それでシェールさん、俺に聞きたい事って」

「えぇ…そうね。えっと…あなたの名前について…聞きたいの」

「俺の名前…?」

「…あれ?」


 ロキが疑問に思う。

 本来この場で言うべき言葉は「あなたはソレイユさんという名前に聞き覚えがありますか?」といったように、本人の名前について直接聞く言葉のはずだった。

 それなのにそれ以外の言葉を言ったシェールにロキが疑問を感じていた。


「シェールさん…?今はあの名前をこの人に…」

「…いいえ、それよりもこの人の名前の確認が先よ」

「え…?えぇ…まぁ」


 ロキが腕を組む。


「…それで、あなたの名前は…何か思い出せましたか…?」

「俺の名前…ですか。俺の名前は…」

「アルシエル――」


 エルが呟く。


「え?」

「アルシエル、この人の名前だよ。どうやら昨日ラッシュ師団の皆さんがサキュアを復興している間に思い出せたみたい」

「アルシエル…それがあなたの名前…?」


 シェールが男の目を見る。

 男が目を光らせる。


「…そうです。俺の名前はアルシエル――」


 アルシエルが立ち上がる。


「そして…一人の娘がいる事も思い出しました」

「一人の娘…?」

「あぁ。幻覚ではあったけど…アレは間違いなく俺の娘だ。娘もそう言ってた…」

「幻覚…娘…?それはどういう…?」

「よく…夜中に目が覚めるんだ。そして幻覚を見る…最初は怖かったが…何度も同じ少女の幻覚を見たんだ。そして…その子が私があなたのたった一人の娘と言っていた…それで怖さは吹っ飛んだんだ」

「…娘さんの幻覚を…夜中に何度も…?」


 シェールが首を傾げる。


「あぁ」

「…それでエルちゃんがいつも眠そうな顔をしてるって言ってたのね」

「…そうですね」

「シェールさん」


 ロキがシェールの横に立つ。

 ロキはアルシエルの言葉に疑問を感じていた。

 幻覚に娘、あまりにも不思議な事が多すぎた。


「…何かおかしくないですか?」

「…えぇ。私もそう思ってたわ。思ってたけれど…」

「けれど?」

「…ずっと魔力でこの人の思考を見ているけど…この人が嘘をついている感じは…全くないの」

「嘘を…ついてない…?」


 ロキが首を傾げる。

 シェールは既に魔力を使ってアルシエルの心を読んでいた。発言が嘘であればシェールにすぐバレる。

 だが、アルシエルは一切の嘘をついていなかった。


「そう…本当に幻覚を見ているらしいの」

「…なるほど。でも何度も見るってなると…」

「えぇ…もはやそれは幻覚ではなく、現実になっている可能性はあるわ」


 シェールがアルシエルの目を見る。

 緑色の瞳…だが少し曇りのある目…


「えっと………アルシエルさん、その娘さんの幻覚を最後に見たのはいつかしら?」

「最後に?最後にか…そういえば、昨晩は謎の夢を見た後に娘の幻覚を見たよ」

「昨晩に…」

「謎の夢…とは?」

「さぁ…夢だから詳しくは覚えてないけど…俺の事をお父さんと言ってた子が夢に現れたよ」

「お父さんと言ってた子が現れた…?」

「あぁ。でも…俺の娘はその子じゃない。きっとあの子は何かおかしかったんだ…きっと…」

「…その夢に出てきた子について聞いてみても?」


 ロキがアルシエルの目を見る。


「えぇ、構わないですが」

「例えば…その子の身長が自分より低かったとか…目付きとか魔力の気配とか…」

「それは…」


 アルシエルが考え始める。

 だが、アルシエルに夢の内容など鮮明に覚えられていなかった。


「…ごめんなさい、夢だから何も思い出せないです」

「っ…そこをなんとか…思い出して欲しいんです…!」

「ロキ君」


 シェールがロキの肩に手を乗せる。


「シェール…さん…?」

「これ以上の模索は良くないわ…それより…あの人と言う確信が一気に薄くなってしまったわ…」

「っ…でも…!」

「これ以上模索したら…恩人さんもとい…アルシエルさんにも悪いわ。アルシエルさんを見守っているエルちゃんにも悪いし…」

「それも…そうですけど…」


 ロキが拳を握る。

 あと少しで分かるかもしれない…それなのに分からないのはロキにとってもどかしかった。


「っ………」

「…ごめんなさい、アルシエルさん。寝ている所に突如訪ねてしまって…」

「いえいえ。俺も寧ろのんびり寝ているのは良くなかったです、起こしてくれて…ありがとうございます」

「…失礼するわね」

「…待ってください、アルシエルさん」


 ロキがアルシエルの目を見る。


「…もしものために…俺と連絡先を交換して下さい」

「連絡先を…?」

「えぇ…もしものためです。アルシエルさん…アンタにもしかしたら何れ助けを乞いたい場合がある。アンタの回復魔力は強力だ。だから――」

「…いいですよ。ラッシュ師団の方々には俺と話してくれただけでなく、エルさんの故郷であるサキュアの復興までもしてもらいました。連絡先を交換しておいても損はないです。いざとなったらラッシュ師団の皆さんを回復させに行きましょう」

「…ありがとうございます」


 ロキとアルシエルが携帯を取り出し、連絡先を交換する。

 連絡先の名前にはアルシエルと記されていた。


「………」


 エルがロキの目を見る。


「……ロキ君、そろそろ行きましょう」

「…はい」

「…失礼するわ」

「えぇ、またいつか」


 シェールとロキが家から出る。


「チッ………」


 エルが舌打ちをする。






「…ダメ…か」


 シェールがため息をつく。


「…あの人は記憶喪失ではあるけど…少しずつ記憶が戻っている…自分の名前と…自分に娘がいる事を思い出して…もう…ダメね」

「…ですね。ホワイトの親父さんの名前はソレイユだから…アルシエルさんとは別人だ。でも…髪がボサボサで左腕に包帯を巻いているという点は該当する…凄く若く見えたから50歳には見えなかったが…」


 ロキが腕を組む。


「あの人に関してはまだ気になる事が多い。記憶喪失もそうだけど…でも…きっとあの人は何か関係がある…きっと――」

「…ロキ君」


 シェールがロキの目を見る。


「…あまり深追いしてはいけないよ」

「シェールさん?」

「深追いは時に人を傷付けてしまうわ。程々に…ね」

「え?まぁ、勿論ですが…」


 ロキがシェールの言葉に疑問を持ちながらも、納得する。


「さてと…ラッシュ師団の基地に戻って再度計画を立てないと行けないわね…」

「…シェールさん、俺はもう少しサキュアに残ります」


 ロキはまだアルシエルの事が気になっていた。


「いいやダメよ。あなたは副団長として…団長の私とも連携を取れる範囲にいて欲しいの。せめて基地からすぐに駆け付けれる範囲にはいて欲しいわ。だから…」

「…分かりました」

「うん、お願いね。他の団員の準備ができたら出発するわ」

「…はい」





 ――一方ジンは…


「…やっぱりこの場所は良いな。それにしても…シェールさんに聞く機会が殆ど無かったな…帰る最中…若しくは帰った後に聞くか…」


 ジンが腕を組む。

 ジンはサキュアが気に入っていた。

 記憶にほんのりとしか残っていない場所…そんな場所でも気に入ってしまっていた。

 そして…ジンの中にはランスとシェールへの疑いがあった。


「…シェールさんを疑いたくはないが…俺の記憶が関係しているんだ。いざと言う時は――」

「そこにいたか、ジン」


 ロキがジンの元に駆け付ける。


「ロキ?どうした?」

「出発準備をしている団員を見に来た。…それより、ひとつ頼んでいいか?」

「内容による。用件はなんだ?」

「…お前はまだサキュアに残って欲しい」

「…は?」


 ロキの言葉にジンが疑問を抱く。


「サキュアに残って調査してほしい事がある」

「…待て、俺にだって基地に帰ってやりたい事がある。確かにサキュアは気に入っているが今の俺はもうサキュアに関してはもう用は…」

「…少し耳を貸せ」


 ロキがジンの耳元に寄る。


「なんだよ、お前らしくないなコソコソ話とか」

「…シェールさんがおかしいんだ」

「シェールさんがおかしい?」


 ジンがロキの目を横目で見る。


「あぁ…お前はカルム師団がホワイトの親父さんを探してるのは聞いてるか?」

「あぁ、聞いてる。…何か進展があったのか…?」

「あぁ、特徴に該当する男がサキュアに住んでいるんだ」

「…エルが言ってたあの恩人って奴か。強力な回復魔力を持つが、記憶喪失しているって言う…」

「なんだ、知ってたか。その人がどうやらホワイトの親父さんの特徴に少し該当しててな」

「…ほう。その人がソレイユさんかもしれないと」

「それで…その人相手にシェールさんが名前を聞く素振りをしたんだ」

「名前を聞く…割と普通じゃないか?」

「…いや、シェールさんは元々はその人に名前を聞くのではなく、その人本人の名前を言うつもりだったんだ」

「…えっと、どういう事だ?」

「…その人にソレイユさんかどうかを直接聞こうとしてたはずだったんだ。だがシェールさんは恩人さんがソレイユさんかどうかは聞かず、彼の名前を聞いてた」

「…は…それって…やり方が目的から少し遠ざかってないか…?」


 ジンが驚いた表情をする。


「…そうだ。あの人はどの場においてもきっと最善の選択を取るはず…それなのに…少し遠回りをした。その結果…ソレイユさんかどうかの確認はできなかった。しかも恩人さんは…アルシエルという名前を名乗った」

「…アルシエル。その名前…」


 ジンが上を向く。

 アルシエルと言う言葉にジンは聞き覚えが無い訳ではなかった。

 だが…


「聞き覚えがあるのか?」

「…いや、気のせいだ。似たような名前の人間の事かもしれん。シェールさんは…そのソレイユ…じゃなくてアルシエルって人に気を使ってた説はないか?」

「…いいや、あのシェールさんが無理に気を使う訳がない。問い詰めれるかもしれない状況の場合は問い詰めようとするはずだ」

「…それもそうか。そうなると…」

「…あぁ、分かるか…?」

「お前も考えは一緒か?」

「かもしれないな。俺の予想だが…」


 ロキが腕を組む。



「――シェールさんは、洗脳されている可能性がある」

後書き~世界観とキャラの設定~


『アルシエル』

…恩人と呼ばれた男が思い出した名前。そして一人の娘もいる事を思い出した。

夜中によく目が覚め、娘の幻覚をよく見るらしいが………

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本編のスピンオフである
悪魔に堕ちて悪魔と結婚した太陽
も連載中!
是非こちらも御覧ください!
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