ep86.白の前進
――ラルの街にて…
「数分で行くって…絶対無理なのに…」
ホワイトが辺りをうろうろする。
「…ナギサさんを待ってる間…私ができる事は…」
「やっほ、ホワイトちゃん」
ナギサがホワイトの後ろに現れる。
ホワイトが驚く。
「…!?ナギサさん…!?どうして…!?」
「んー、川を泳いで頑張って来た」
「川を泳いで!?その服で!?結構可愛い服なのに!?」
ホワイトが驚いた表情をする。
「なんちゃって、冗談だよ。ワープ使える人に送ってもらっただけ――」
「あ…でも…ナギサさんだったら有り得るか…水の魔力使ってるし…」
「…あれ、ホワイトちゃん?」
ホワイトが自分だけの世界に入って喋り出す。
「水の魔力を応用すれば川の流れに沿って動くとかもできそうだし…応用できれば出血しても血液の動きを調節する事ができるから延命とかもできるし…それから――」
「ホワイトちゃーん?」
ナギサがホワイトの頬を触る。
「ひっ…!」
「一人で早口で話してどうしたの?」
「え…えっと…ナギサさんがどうやって来たか…考えてて…」
「いや私はワープ…いや、なんでもない」
川で泳いだことにする方が面白いと考えたナギサは真実を伝えるのを辞めた。
「それで…私に頼みたい事って?」
「あ…えっと…その…私の魔力について…少し…」
「君の魔力」
ナギサが腕を組む。
「…そういえば、ここにいるって事は…お姉ちゃんに会ったの?」
「あ…えっと…サザナ先生…ですか?」
「そう」
「あ…会いました。サザナ先生に会って…私の魔力について…少し教えて貰いました」
「…君の魔力ねぇ」
ナギサがホワイトに近付く。
「あ…えっと…?」
「…ほんとだ。なんか違う気配を感じる」
ナギサがホワイトの頬を触る。
「その、繋命ってやつ?」
「…!どうしてそれを…!」
「…スピアに攻撃されて意識を失ってた時…あったでしょ。あの時…微かに君の声が聞こえて。繋命って言ってたから」
「っ…そ…そうですか…」
ホワイトが目線を下に向ける。
「…ナギサさんには…隠せないですね」
「まぁ…言いたくなければそれでいいけど」
「…いや、ナギサさんだからこそ、話せます」
「ふふっ、何それ。でもちょっと嬉しいや」
ナギサがホワイトの頭を撫でる。
「繋命…私が持つ回復の魔力とは別の魔力で…どうやらお母さんから継いだ魔力…みたいなんです…」
「継いだ…みたいか。結構曖昧なんだね」
「…はい。そして…その魔力は夢を介して…死んだ人と会う事ができるんです」
「夢を介して…死んだ人と?」
「…それのおかげで、死んだお母さんとも会えました」
「…お母さんと。凄い魔力だ…」
「後は…力が強くなれば生きている人とも会える…らしいんです」
「生きている人とも…へぇ」
ナギサがホワイトの頬を触る。
「えっと…ナギサさん…?」
「力が強くなったら私とも会えるの?」
「え…?えっと…理論的には…そうかも…?」
「ふーん。…でも、今まで触れてきた人と会えるって魔力って事は…例えば…敵対した相手とかとも出会ってしまうって事よね…」
「っ…そ…そうなります…。しかも…夢の中で攻撃されると…それが現実にも影響が…」
「現実にも影響…?」
「昨晩…ネオカオス四天王の絶壁のメタリーに夢の中でお腹を撃たれ…その怪我が現実にも…!」
「…なるほど」
ナギサが腕を組む。
「さっきの仮眠中にはジハにも出会って…凄く…怖くて…」
「ジハ…ネオカオスの…」
ナギサが拳を握る。
「しかもこの魔力…夢を見なくなる薬を飲んでも…意味がないんです…!」
ホワイトが薬を取り出す。
「ふーん」
「これは先生も悪夢に苦しんでた時に使ってた薬で…効果は絶対あります。それなのに…」
「そういやお姉ちゃんそんな事言ってたな…」
ナギサが指を咥える。
「そうなると…見る方法は夢に近いけど、厳密には夢ではないのかもね」
「夢…ではない?」
「私の推測なんだけど、現実にも影響する…夢を見なくなる薬を見ても意味がない…そうなると夢ではなくて別の世界なんじゃないかなって」
「別の…世界?」
「ホワイトちゃん、寝ている時以外で繋命を使ったって事…今までにあった?」
「寝ている時以外…えっと…」
ホワイトがジハの戦闘の時の事を思い出す。
「…そうだ、魔力の根源を得たジハに身体を刺された時…意識が朦朧とする中で見たあの世界…あれは夢と言うよりかは…走馬灯に近い何かだった…」
「それだよ。その出来事は夢と言うよりかは走馬灯に近い現象。でも夢と共通する点は…見ている間は現実世界では殆ど意識がないという点。つまり、意識がない状態に見るのが繋命の世界なんじゃないかな。本当に夢なのだったら、その薬が効果をなさなかったのは夢とは違って、魔力による世界なんじゃないかなって」
「魔力による世界…」
「そう。まぁ…君のお母さんや私のお姉ちゃんが夢を介してって言ってたし、実際に寝るという意識を失う行為から発動はできるみたいだけど、さっきホワイトちゃんが言ってくれた事も加味すると厳密には夢ではないんじゃないかなって予想してみただけ」
「…なるほど」
ホワイトがナギサの目を見る。
「そうだなぁ。どういう原理で繋命が強くなるか分からないんだよね」
「えっと…お母さんは確か…繋いだ命の数だけ強くなるって…」
「繋いだ命の数だけ…歴代の繋命って意味かな。そうなると…現状一番最後の継承者であるホワイトちゃんは繋いだ分が多いから一番強いはずだけれど…」
「…そんな私も…まだ死んだ人に会う事しかできない…生きている人になんて…一度も会えた事がない…!」
「…なるほどねぇ。ホワイトちゃん自身の力が弱い…のかなぁ」
ナギサが腕を組む。
「まぁ別におかしい事ではないと思うけどね。一番最後の継承者だからって一番力が強くなるって訳ではないよ」
「え…えっと…どういうことですか…?」
「コップに例えてみて。そしてあなたの魔力が水だと思って」
「コップ…水…?」
ナギサがコップと2つの違う色がした水を用意する。
「そのコップと水…どうやって用意したんですか?」
「まぁ細かい事は気にしないで。例えばコップにはあなたの魔力と言う水が満ちているけど」
ナギサがコップに水を入れる。
「これに繋命という魔力の水が足されたら…どうなる?」
「え…えっと…水が混ざり合うように魔力が混ざり合って…とか?」
「ホワイトちゃんって結構頭硬い?」
「うっ…たまに言われます…」
「…まぁそれもあるけど、例えば元々500㎖入ってるところにプラスで500㎖入ったら1ℓになるよね?」
「…!まさか…」
ナギサが違う色の水を入れたコップが溢れ出る。
「そう、水はコップに入りきらない。溢れ出るよね」
「っ…!と言う事は…」
「ホワイトちゃんの水…魔力が入るコップは小さい。だから今は繋命という水をちょっとしか入れられない。だからちょっとしか魔力を扱えない」
「っ…」
「君のお母さんやその前の人達が繋命を扱えたのはコップが大きかったから…若しくはコップを大きくするために努力をしたかのどっちか」
「…!努力をしたから…」
「そう。今私が出したコップはほんの一例だからちょっとしたガラスのコップだけど、魔力を入れられるコップは轆轤で作れるコップだと想定してみて」
「轆轤…」
「君の魔力が入るコップは…まだ大きく作れる」
「……!」
ホワイトが目を光らせる。
「ホワイトちゃんは…今までは回復の魔力さえ扱えればいいと思ってあまり鍛えてこなかったとは思うけど…魔力の許容量を増やせる方法はある」
「魔力の許容量を…増やせる方法…!」
「そう。勿論人によって限界はあるけど…ホワイトちゃんの魔力許容量の限界はまだ全然遠い。今の状態の魔力の…あと三倍は入るかな」
「三倍も…!?」
今の自分の魔力が後三倍入る…
それは頭の硬いホワイトでもすぐに理解できた、自分にはまだ伸びしろがかなりあると言う事を。
「うん、君を見れば分かる。君は…まだ強くなれる」
「…!」
「ただ…これには少し大きい問題があってさ…」
「問題…?」
ホワイトが首を傾げる。
「いや…魔力を許容するために筋肉ムキムキにならないといけない…とかではないんだけどさ。正直禁忌のやり方なんだよね」
「禁忌の…やり方?」
「そう。世間には出てない情報で、私達カルム師団の中でも私とルドしか今は知ってないくらい秘密にされている事…」
「そんな秘密に…でもなんで…?」
「元々カルム師団で研究してた重要課題だったんだけど…かつてネオカオスからカルム師団にスパイが入り込んでた事があってね…」
「スパイ…!?ネオカオスが…カルム師団に…!?」
ホワイトが驚いた表情をする。
「そう。肉体の魔力許容量を増やす方法を得るために…ネオカオスはカルム師団に入り込んでた…私達の失態だった…」
「っ…ネオカオス…!」
「それのせいかは知らないけどジハの力が強大になってしまった。ネオカオス…ジハだけ飛び抜けて強かったでしょ…?」
「っ…そういえば…ジハだけは繋命の力が無いと歯が立たなかったかも…」
「…そう。奴は…魔力許容量が他の人と比べて大きすぎるの。恐らく…私達だけで得ていた魔力許容量を増やす方法を奴に知られてしまったため…」
「っ…そんな…!」
「今はもうジハはこの世にいないから大丈夫だけど…これをホワイトちゃんに軽々と教えていい物か…ホワイトちゃんは秘密は守れそうだけど、嘘をつくのは苦手そうだし…」
「っ…それは…」
ホワイトが拳を握る。
ホワイトは嘘をつくのが苦手だった。
現に嘘をつくのが苦手で何度も損してきた。そしてそれは今もだった。
「禁忌のやり方って言ったのも…人間は頑張って鍛えても魔力の許容量は早々に増えたりしない。どんなに頑張って増やしたとしても元から2割くらいまでしか増えない…だけどこの方法を使ってしまうと…頑張り次第で一気に増えてしまう。まるで禁忌…私はこれを…魔限突破とか言ってるけどね」
「魔限突破…」
魔限突破…魔力の許容量の限界を突破するという単純ながら強力すぎる禁忌のやり方だった。
そして、ナギサは魔限突破をしている身だった。
「実際に私も魔限突破を少ししてる身なんだよね。私、強いでしょ?」
「…確かに。ナギサさんは凄く強いです…あの時の可能性の欠片も二人…倒せるくらいの実力ですし…」
「ありがと。それで、ホワイトちゃんはこの問題にどう付き合うのかなって思って」
「…それは…」
ホワイトが考え始める。
「さっきも言った通り魔限突破はあなたの魔力許容量を三倍まで上げれるし、その後繋命に関する更なる力に関しても問題なく扱えるようになるとは思う。思うけれど…君にこれに関して秘密裏にして欲しいって事と…君が禁忌のやり方に進んでしまうって事…これが課題になるかな」
「禁忌の…」
「ホワイトちゃんが良い人だからこそ強くなれる方法を勧めてるし、ホワイトちゃんが良い人だからこそ…これをするかしないかはホワイトちゃんに任せる」
「…ナギサさん」
ホワイトが考え始める。
「もし…魔限突破をしたいなら私に連絡か…或いはカルム師団の基地に来てね。あの情報は秘密裏にしないといけない情報だから…」
「…分かりました」
「うん、待ってる」
ナギサが微笑む。
「ナギサさん」
「ん、どうしたの?」
「その…忙しい中私のために来てくれて…ありがとうございます」
「お安い御用だよ。何せ君には…一度命救われてるからね。あれが無かったら今私はこの世にいなかったはずだし」
「そんな事…!私だって…ナギサさんの仕事の手伝いを…できたら…!」
「うーん…でも君はラッシュ師団だしさ…シェールちゃんの手伝いをしなよ」
「あ…そうだった…」
「じゃ、私は仕事少し余らせちゃったから帰るね。また何かあったら連絡ちょうだいね」
「はい…!」
ホワイトがそう言うと、ナギサがその場から去る。
「ナギサさん…ありがとう…」
ホワイトが胸に手を当てる。
「………」
ナギサがラルの街を歩いていると…
「あら」
「…あ」
ナギサの前にはサザナが立っていた。
「お姉ちゃん」
「ナギサ」
ナギサが腕を組む。
「ナギサがここにいるって事は…カルム師団の件でかしら?」
「いや、ちょっとね」
「ふーん」
「お姉ちゃんはやっぱ先生の仕事?大変だね」
「まぁそうね。今日はちょっと外に出て残業してきた感じよ」
「外に出て残業?先生なのにそんな事もあるんだね」
「まぁ色々あるのよ」
「ふーん」
ナギサが頭を掻く。
「………お姉ちゃん」
「ん、どうしたの?」
「…その、頑張るのもいいけど、自分の身体も大切にね」
「えぇ、勿論」
「子どもできたら私にも見せてね」
「勿論」
「じゃ、私仕事あるからまたね」
ナギサがその場を去ろうとする。
「…ナギサ」
「なに?」
「…死なないでね」
「ははっ、何言ってるのさお姉ちゃん。カルム師団は魔力に関して調べてるだけの団体で基本的に戦闘はしな――」
ナギサが言葉を続けようとすると…
サザナがナギサの腹に手を触れる。
「いっ…」
ナギサが腹の傷の痛みに疼く。
「この怪我、何?」
「…分かってたんだ」
「先生やってる身だし、人の身体をちょっと見るだけで怪我してるとか結構分かってくるのよ」
「…へぇ。叶わないなぁお姉ちゃんには」
「まだ完治してないみたいだけど、どうしてこんな怪我したの?」
「…魔力の根源を追ってた時に…ちょっと戦闘があってね…」
「そう…」
サザナが不安そうな顔をする。
「魔力の事について解明するのがカルム師団現団長のあなたの使命なんだろうけど…自分の命が一番大事よ」
「…うん、分かってる。命は大事にする」
ナギサがサザナの目を見る。
「そういうお姉ちゃんこそ…生徒思いだからこそ命を投げそうだから妹としてはちょっと不安かな」
「ふふっ、やっぱり私達、姉妹ね」
「…お互い気を付けよう」
「えぇ、勿論」
サザナがそう言うと、ナギサがその場を去ろうとする。
「…あ、そうだお姉ちゃん」
「何かしら?」
ナギサがサザナの方を振り向く。
「今溜まってる仕事がお互い終わったら、どっか一緒に御飯でも行こうよ。私の奢りでさ」
「…!」
「約束…だよ?」
ナギサが小指を出す。
「勿論、いいわよ。ただ…奢るのは流石に私よ」
「ふふっ、ご馳走様です。お姉ちゃん」
サザナがナギサと小指を交わし、約束をする。
後書き~世界観とキャラの設定~
『サザナとナギサの関係』
…姉妹の関係。サザナが姉でナギサが妹。教師をやっているサザナに、団長をやっているナギサとそれぞれ別の事をしているが仲はかなり良い。




