ep84.喪失の恩人
――数時間前…現在復興作業中のサキュアにて…
「シェールさん、少し報告が」
ロキがシェールの元へ走る。
「うん?何かしら?」
「その…サキュアのとある家から違和感のある魔力反応がありまして…」
「違和感のある魔力反応?まさか…スピアの?」
「いや…スピアの時とは違う魔力で、その…どちらかというとホワイトに近いって言うか…」
「ホワイトちゃんに近い?どういう事かしら?」
シェールが首を傾げる。
ロキの言う通り、サキュアの住民の中にホワイトに近い魔力反応があった。
「…俺もよく分からないですが、心の読めるシェールさんだったらもしかして…と思って」
「なるほど…案内してくれるかしら?」
「勿論です、こちらに」
ロキがシェールを案内する。
「ここです」
「ここ…見た感じは普通の家だけれど」
シェールが家を眺める。
「特に何か魔力で細工されてる形跡もなし…」
「…ぱっと見はそうですよ。けれど…ちょっと扉に近付いてみてください」
「ふむ…?」
シェールが家に近付く。
少しだけ魔力の気配を感じ取っていた。
「…確かに、少しだけど魔力の反応があるわ。ホワイトちゃんとも似てる気もするし…それに、なんか…暖かい感じがする」
「…ですよね。俺も何か違和感を感じて…」
「調べる価値はあるわね。えっと…インターホンは…あった」
シェールがインターホンを押す。
「ごめんくださーい」
「…はい」
扉が開くと、そこにはエルが立っていた。
ラッシュ師団がサキュアに来た時…ジンにキスをした少女だ。
「あら…ホワイトちゃんとかと同じくらいの年齢の…」
「…お姉さん、もしかして今サキュアの復興に手伝ってくれてる人?」
「そうよ。私はシェール、今はラッシュ師団の団長をやってる者よ」
「ラッシュ師団…そういえば…」
エルがシェールの服を見る。
「似たような服を着た人と会った気がするね。確か…女の子二人とジンがいた気がする」
「あら、既に会ってたのね。そうなるとスピアの件の時かしら…?」
「ジン?」
ロキが腕を組む。
「お前…ジンの事を知ってるのか?」
「忘れる訳ないよ。彼と過ごした…誰も救われない非情なる過去を…」
「非情なる過去?」
「こっちの話。それよりラッシュ師団がここに来るって事は住民の安否確認みたいな感じ?」
「え?えぇ…まぁそれもあるけれど…一番はこの家からの魔力反応が私達の団員と似たような魔力を感じてね。それで気になって訪ねてみた訳よ」
「なるほど…」
「でも…あなたからじゃないわね」
シェールがエルの目を見る。
「確かエルちゃんって言ったかしら?」
「え、どうして私の名前を?」
「シェールさんは魔力で人の心を読むことができる。その魔力で人の名前を知る事くらい造作でもないんだ」
「へぇ、便利な魔力だね。敵にいたら凄い厄介そう」
「それで一個質問なんだけれど…この家に回復に関する魔力を扱える者が住んでる…もしくは出入りとかはあったかしら?」
「回復…」
エルは回復という言葉を聞いて心当たりがあった。
「ついでにその魔力に加えて、暖かい感じがする人…っていうか…なんていうか…」
「暖かい感じ…団長さんなのに結構ザックリだ…ポンコツな団長さんだね」
「うっ…」
「それの事なら…家入ってもいいよ」
「え…?」
「たぶん…来てもらった方がわかるかも」
エルはそう言うと、家の中に二人を案内する。
「…?」
「シェールさん、とりあえず彼女についていきましょう」
「え?えぇ…そうね…」
シェールとロキがエルについていく。
「…お邪魔します」
「連れてきたよ、恩人さん」
エルがそう言うと、部屋にはシェールと同じ年齢くらいの謎の男が座っていた。
謎の男、金髪の長い髪にボサボサの髪。
背は少し高く、シェールやロキよりも高い身長。
そして若々しい見た目。シェールと同じくらいの年齢の顔。
「ありがとう、エルさん」
「この魔力によって暖かい感じ…あなたは…」
「俺の名前は…分からないんだ…」
謎の男が頭を掻く。
謎の男は記憶喪失だった。
「恩人さんはね、記憶喪失なの。自分の名前すらも思い出せない状態で…私の事を救ってくれたから今は恩人さんって呼んでる」
「…なるほど。んと…」
シェールが腕を組む。
シェールは謎の男が左腕に多く巻いている包帯を見る。
「その左腕…怪我でもされたんですか…?」
「この腕は…怪我をしている訳ではないんだけれどね、あまり見せたくはないんだ…」
「…そうですか」
シェールが謎の男を見る。
そしてエルが話し始める。
「恩人さんは回復の魔力を扱える。たぶんだけど…どんな人よりも回復の技術に優れてる。私だって…恩人さんに内臓の損傷を治して貰った…」
「内臓の損傷まで…!?というか…内臓の損傷してたって…あなた一体何を…」
「…それはいつか話すよ。今言える事は…恩人さんは…捕まってボロボロだった私を助けてくれて…しかもサキュアまで連れてってくれた…記憶を失っているのに…こんな私を助けてくれて…」
「っ…なるほど…」
「それで私をサキュアに連れてきてくれたお礼に…私のこの家に住ませてあげてるの。私としても…今のサキュアでもし怪我した人が現れても…恩人さんがすぐ助けてくれるから…」
「恩人さんは、サキュアのお医者さんって所ね」
シェールが微笑む。
「…申し遅れました、私はシェール。今はラッシュ師団の団長をやっています。こちらは副団長のロキ」
「シェールさんにロキさん…いい名前ですね」
「ふふっ、お人が宜しいんですね恩人さんは」
「とんでもない…俺なんて…記憶がない以上は人当たりを良くしないと助けてくれる人ができないですからね…」
謎の男が微笑む。
ロキが謎の男の目を見て確信する。
「シェールさん、この人…」
「えぇ…もしかしたら…」
「そうなると…シェールさんはこっちの方に?」
「そうなるわね。サキュアの復興に関しては…私が抜けても大丈夫なはず。ロキ君に指示を任せるわ」
「承知しました」
ロキがそう言うと、シェールが謎の男に近付く。
「恩人さん、私にあなたの記憶を取り戻すお手伝いを…させてくれないかしら?」
「記憶を戻す手伝い…?」
「そうです。ラッシュ師団として、あなたを助けたいのです。あなたの記憶を戻して…得れる事があるかもしれない…」
「…嬉しい限りです。俺のためにそこまでしてくれるなんて…」
「もしよろしければ…」
「勿論」
謎の男が微笑む。
微笑みを見てシェールも笑顔になる。
「それで恩人さん…あなたが記憶を失った後の出来事…少し教えて欲しいです」
「ふむ…分かりました」
「ロキ君はひとまず持ち場に戻って。私はこの恩人さんの記憶に関して探りを入れるわ」
「承知しました、じゃあ行ってきますね」
ロキが部屋から出ようとする。
「ねぇ、待って」
エルがロキの腕を掴む。
「…なんだ?」
「ジンは何処?」
「ジン?サキュアの復興に取り掛かっているが…どうかしたか?」
「ジンに会いたい。会わせてくれない…?」
「まぁ、減る物でもなさそうだし俺はいいが。シェールさん、いいですか?」
「構わないわ。ロキ君、その子の面倒を見るの宜しくね」
「承知しました。よし、行くぞエル」
「うん」
ロキとエルが部屋から出る。
そして、シェールは基地の留守が手薄な事を思い出す。
「…あ」
「どうされました?シェールさん」
「今もしかして基地の方…あんまり強い人配備してない…?」
シェールが考え始める。
「それだとまずい…ごめんなさい、ちょっと席を外しますね」
「えぇ?あぁ…はい」
シェールが部屋から出る。
その後、シェールが通信機を使い、ミカに連絡を取る。
『シェールさん、どうしました?』
「あ、繋がった。ミカちゃん、休暇は楽しめてるかしら?」
『…おかげさまで。相変わらず手掛かりは少ないですが…』
「そう、それは良かったわ。ところで…休暇中のミカちゃんに一つ頼みがあるんだけれど…」
『…なんでしょう?』
「今、基地にはあまり強い人が配備されてなくて…あなたみたいな人が一人でも基地にいたら留守を任せられるかなぁって」
シェールがミカとの通信を続ける。
――家から出るロキとエル。
「…そういや、エル」
「何?」
「お前の恩人さん…?なんで左腕に包帯なんて巻いてるんだ?」
「………」
エルが黙り込む。
「エル?」
「恩人さんはあの腕をあまり見せたくないって言ってたから…私からは何で巻いてるかは言えない」
「そうか。じゃあ直接あの人から聞くしかないか…けれど…あまり人の事情に突っ込み過ぎるのも良くないよなぁ…」
ロキが腕を組む。
ロキがエルを横目で見る。
「それと…なんでお前はジンにそんなに拘るんだ?あいつがお前に何かをしたような経歴はないって聞いた。それなのに…何故だ?」
「それは…ジンが初めての相手だったから…」
「初めての?初めてって…何がだ?」
「私の依頼を…初めて受けてくれた人だから…」
「依頼を…ねぇ。さてはジンの殺し屋時代の話か…」
ロキが上を向く。
ジンの殺し屋時代…ロキにも未知数な事だった。
だがもしエルに取ってジンが恩人なのであれば、それも納得が行く話ではあった。
「あっ…でも殺しをしてとかそういう依頼じゃないよ。当時の私はサキュアに行きたかっただけ。それを引き受けてくれるくらいジンは優しかった」
「普通は引き受けない内容なのか?」
「何せ当時の場所からは遠いし…訳あって私は指名手配されたりして危険もいっぱいあったから…」
「指名手配…」
ロキがエルの目を見る。
エルの魔力を感じて少し汗をかくロキ。
「そういやお前から感じる魔力…結構とんでもない感じがするんだよな。もしかして…それか?」
「もしかしなくても、それだよ」
「そうか。…魔力を狙う連中とかそこらへんがお前を追ってたとか、そんな感じか?」
「実際、あの連中らの狙いは分からなかったけれど…そういう感じって事にしといた方がいいのかも。今はもう…滅んだ連中らしいけど…」
「今はもう滅んだ連中…」
「あっ、いたいた。おーい!」
エルが手を振る。
手を振った先にはジンがいた。
「…!?お前…あの時の…!」
「久しぶり、ジン」
ジンが驚く。
驚いたジンを見て、エルが微笑む。
「…何しに来たんだよ」
「…すまん、ジン。断り切れなくて…お前に会いたいだとよ」
「俺に会いたい…また唐突に口付けしたりするとかやめてくれよ…?」
「そんな事今はしないよ、君はもう付き合ってる人がいるんだから」
「…あ…あぁ、そうだな」
ジンがそう言うと、ロキがジンの肩に手を乗せる。
「ジン、少しエルを頼んでいいか?」
「え?あぁ…まぁいいが。どうした?」
「少し調べたい事がある。すまん」
「分かった」
ジンがそう言うと、ロキがその場から去る。
「あれ、ロキは?まさか私のために二人きりに…?」
「いいや、お前にはサキュアの復興を手伝ってもらう」
「えぇ?私も?」
「…シェールさんの人員配置が下手なおかげで人手は足りてるが、人は多いに越した事はない。手伝ってくれ、エル」
「分かった。じゃあ、作業しながらでいいから私とお話をして欲しい」
「…まぁ、構わん」
――一方…その場から去ったロキはサキュアにある宿に入っていた。
本を取り出して読み始めるロキ。
「今は滅んだ連中…人の魔力を狙う…」
ロキが本のページを捲る。
「最近の本にならもしかして…」
ロキがそう言うと…
謎のシンボルが描かれたページを見つける。
「…!見つけた…!全国に指名手配されている名高い犯罪組織…アジト、首領共に不明…。犯罪経歴はネオカオス以上だった連中…名は…『シゼル教団』…!!」
ロキが本を握る。
「そうだ…俺も耳にするくらいにはこの団体の犯罪はヤバかった…金目の物や魔力など、目標を手に入れるためなら子供にさえ手をかける…」
ロキがページを捲る。
「だがシゼル教団はたった一人の謎の男に全てのアジトを燃やされて崩壊…。この事件以降、各地で大規模な火事が何度も起こった…」
ロキがページを捲る。
「…もしや…エルを狙ったシゼル教団がエルを捕らえ…謎の男がエルを取り戻すために全てのアジトを燃やした…」
ロキがページを捲る。
「そしてこの事件以降…各地で起こった大規模な火事…謎の男は恐らくエルを取り戻せなかったことによる怒りで大規模な火事を何度も起こした…。でもその火事は…ラッシュ師団の活躍によって終幕を迎えた…以降大規模な火事は起こらなくなった」
ロキが最後のページまで進む。
「…そうだった。奴との出会いは…あの街の火事だった。ホワイトが身を挺して乗り出し…奴を止めてたな」
ロキが目から涙を零す。
「そっか…ジン…お前は…エルを奪った人間に報復するために…大規模な火事を何度も起こしてたんだな…」
後書き~世界観とキャラの設定~
『恩人と呼ばれる男』
…見た目はシェールと同じ年齢くらいの男。…見た目は。金髪だがボサボサの髪に、左腕に多く包帯を巻いている。左腕は他人にはあまり見せたくないらしい。
そして、回復魔力が使える。かつてエルの内臓の損傷を治した過去があり、記憶喪失な中でもエルを救い、サキュアに連れて行ってくれた人間でもある。それによってエルに恩人と呼ばれるようになる。
『シゼル教団』
…全国に指名手配されている名高い犯罪組織で、アジト・首領共に不明。犯罪経歴はネオカオス以上の連中だったが、たった一人の謎の男に全てのアジトを燃やされて崩壊した謎の団体。
そのたった一人の謎の男は、かつて殺し屋をやっていたジンだったとロキは予想している。




