ep82.魂を奪う教師
――エストレージャ魔力学校の研究室の前に立つホワイトとミカ。
「…で、この中に先生の言ってた先生がいると」
「うん…サザナ先生曰く危ない人らしいけど…」
「危ない人ねぇ…」
ミカが腕を組む。
ミカがロキやジン、ナギサの顔を思い浮かべる。
「まぁラッシュ師団やカルム師団も危ない人結構いたよね?」
「え…?」
「例えばジンとかロキとか。後はナギサさんも正直危ない人ではあったよね」
「否定できないのが困るよ…」
「その人らと比べたらヤバくはないんじゃない?仮にも先生やってるくらいなんだし」
「そ…そうだよね!そんな危なっかしい人が先生やってる訳ないもんね!」
ホワイトが扉を開ける。
「ごめんくださ――」
ホワイトが言葉を続けようとすると…
目の前で爆発が起こる。
「っ…!?」
「ホワイト、危ない…!!」
ミカがホワイトに飛び付く。
ホワイトの上に乗るミカ。
「いたた…ホワイト、大丈夫…?」
「…そういうミカこそ……大丈夫?」
「大丈夫。それよりいきなり爆発が起きるなんて――」
「ゲホッゲホッ…あぁまた失敗かよぉ……」
「……!!」
ホワイトとミカの前には猫背で長髪の眼鏡をかけた男が立っていた。
「また新しいビーカー買わねえとなぁ…」
男がビーカーの破片を拾う。
「…あ?」
「あ…」
ホワイトと男の目が合う。
「その顔……その魔力の感じ…さては……ホワイト?」
「ひっ…バール先生……」
「あ、え、知り合い?」
バール先生と呼ばれた男がミカとホワイトを見下ろす。
「知り合いも何も、一応元々は教師と生徒って関係なんだがなぁ俺達」
「あ…ご無沙汰してます……お元気……そうって訳でもないですよね……」
「あぁ、また失敗したよ研究がなぁ」
「…ホワイト、本当にこの人が先生?」
「…一応…?」
ホワイトが苦笑いしながら首を傾げる。
ミカがバールを見つめる。
「一応ってなんだよ一応って。教員免許見せたろか?あぁ?」
「…いや、そこまでしなくても」
「そこの嬢ちゃんはお初だなぁ。バールって言うぜぇ、よろしく。一応魔力研究会の賞もらってるバケモンだ」
「自分でバケモンって言うんですね…あたしはミカって言います」
「………」
ホワイトがバールを見つめる。
「どうしたホワイト?バケモンを見たような目しやがって」
「…いや、バール先生…在学中の頃と比べてだいぶやつれたなぁって…」
「あぁ?」
「前はもっとスラっとしてた理科系のカッコいい人だった気がするのに…」
「まぁここらで研究してばっかだからなぁ。最低限の食事しか取ってねぇしなぁ」
「ちゃんと食事取らなきゃダメですよ、先生」
「うるせぇ、小娘が大人の心配すんなぁ」
バールがホワイトの頭を軽く叩く。
「いでっ…体罰ですよ先生…」
「んな事より、元生徒のお前が来るって事はただ世間話をしに来た訳じゃねぇだろ?」
「…そうです。バール先生に頼みがあってきました…!」
「頼みねぇ」
バールがそう言うと、振り向いて歩き出す。
「ちょっと先生?どこ行くんですか?」
「ちょっと待ってろ、お前が欲しいのはこれだろ?」
バールはそう言うと、大きめの瓶をホワイトに差し出す。
「これは…?」
「夢を見なくなる薬だ、サザナの姉御も悪夢に襲われてた時に使ってた薬だぁ」
「夢を見なくなる薬…」
バールがホワイトに瓶を渡す。
その瓶の中には紫色や緑色で混ざった液体が入っていた。
「寝る前にコップ一杯分飲めばその日は夢を見なくなる。何ならぐっすり眠りやすくなる副作用付きだ」
「ぐっすり眠りやすくなる…」
「何本もあるからお前にやるよ。元生徒だしなぁ」
「…ありがとうございます」
「ついでにこれもやるよ。後これも」
バールが何個もの瓶をホワイトに渡す。
「えっ…えっと…え…?」
「詳細は瓶にシールで貼ってある。例えばそいつは、一時的に火の耐性ができる薬だ。例えば爆発に巻き込まれてもほぼ無傷でいれるし、どんなに燃やされそうな炎を浴びても耐え抜く事ができる」
「火の耐性…」
「まぁそんな事、戦闘でもしなきゃ早々起こらねえと思うけどなぁ」
バールが頭を掻く。
「さ、他に用がないなら帰った帰った。俺は研究で忙しいからなぁ」
「…一つ聞いていいですか?」
ミカがバールを見上げる。
猫背とは言えミカより身長が高い男。
そんなバールに一切怯まずに見上げるミカ。
「あぁ?なんだ嬢ちゃん?」
「その、今は何の研究をしてるんですか?」
「あぁ…不老不死の研究だ」
「不老不死の研究?」
「あぁ。魔力の根源の件で話題になったスピアマウンテンの鉱石に宿ってる魔力や、老けるまでが遅い月神の族や太陽神の族の魔力を元に研究してるんだが、どうも上手く行かなくてなぁ」
「…不老不死になりたいんですか?」
「まぁ不老不死になれりゃ、こんなクソつまらん人生も多少は楽しくなるだろ?」
「…そういうもんですかねぇ」
ミカが腕を組む。
「うるせぇ、まだ生まれたばっかの若い嬢ちゃんには分かんねえよ。命は長い方がお得だろ?」
「…まぁそれは」
「…バール先生、ありがとうございます」
「あぁ?」
「この薬…大事に使います」
「あぁ、まぁこんな薬くらいなら余裕で作れるから足りなくなったら教えなぁ?連絡先も交換しとくかぁ?」
「あ…じゃあ一応」
「あいよぉ」
バールとホワイトが携帯を取り出す。
「…そういやお前、兄貴いたよな?」
「え…あ…えっと…――いや、今はいません。お兄ちゃんは…ネオカオスによって…」
「…そうか、悪い事聞いちまったな」
バールが察するかのように頭を掻く。
「…そういう先生も、お兄ちゃんがいるって…」
「いねぇよ」
「え…でも私が在学中の時は兄がいるって…」
「なんでそんな昔の事覚えてるんだお前はぁ、思ったより変な女だなぁ」
「気になります…!」
「うるせぇ、あれは作り話だ」
「作り話!?」
「教師の間じゃよくある事だ、架空の話を本当のように話すような授業はよくある。まぁ授業内容に嘘はねぇがな」
「っ…そう…ですか」
「さ、連絡先も交換した訳だし帰った帰った」
「…せっかちな人だなぁ」
ミカが小声で呟く。
「…バール先生、ありがとうございます」
「あぁ、もう来るなよ」
「酷い…たまに来ますよ」
「だから来るなって」
バールが頭を搔く。
「そういやホワイト、お前にひとつ言いてえ事あるんだがぁ」
「なんですか?」
「自分自身の夢ってさぁ、主導権は自分にあるんだし何しても自由じゃねえか?」
「…どういう事ですか?」
「いや、分かんねえならいいんだ。じゃあな。もう来るなよ」
「…?」
――外に出るホワイトとミカ。
「さてと…薬も貰った事だし…旅続けよっか」
「薬ねぇ…そういえば夢を見れなくなるだとかなんだとか言ってたけど…悪夢にでも悩んでるの?」
「え?」
ホワイトがミカの目を見る。
「繋命は夢を介する必要があるって話だったけど、もしかして…」
「っ…」
ホワイトが息を詰まらせる。
「…夢を介さなくても使える特訓をしたいって訳?」
「あ…えっと…うん、そうだよ」
ホワイトが嘘を吐く。
「ん、そっか」
「後は…生きている人とも繋命で会えるくらい魔力を強くしたい」
「生きてる人ともねぇ…でもそれができるとお父さんとも会えるようになるもんね」
「そう…だから…」
「ホワイト」
ミカがホワイトの肩に手を乗せる。
「焦らず、ゆっくり強くすれば大丈夫よ。きっとあなたのお父さんは生きてる」
「ミカ…ありがとう」
「ん」
ミカが微笑む。
「…でもさ、ホワイト。他の手掛かり…あるの?実家もほぼもぬけの殻だとすると…いよいよ当てがないんじゃ…」
「…確かに。うーん…」
ホワイトが腕を組む。
「なんか…ないかな…」
「まぁ時間はいっぱいあるわ。もう少し悩んでもいい気はするわ」
ミカがそう言うと、ミカの通信機に連絡が入る。
「ん、シェールさんからだ。出るね」
ミカが通信を繋げる。
「シェールさん、どうしました?」
『あ、繋がった。ミカちゃん、休暇は楽しめてるかしら?』
「…おかげさまで。相変わらず手掛かりは少ないですが…」
『そう、それは良かったわ。ところで…休暇中のミカちゃんに一つ頼みがあるんだけれど…』
「…なんでしょう?」
『今、基地にはあまり強い人が配備されてなくて…あなたみたいな人が一人でも基地にいたら留守を任せられるかなぁって』
「はぁ」
ミカがため息をつく。
留守を任せる…つまり、ミカの休暇が奪われる事だった。
「…シェールさん、案外計画性なかったりします?サキュアの復興にシェールさんのみならずロキやジンまで向かわせて…今基地に強い人全然いないじゃないですか。ランス団長がいなくなってからあなたが団長になって…あなたは人間としては素晴らしいけど団長としては何か足りてないって言うか…」
『うぅ…ごめんねミカちゃん。でもミカちゃんがいれば留守を確実に任せれるし…お願い…?』
「…いいですけど、給料増やしてくださいね」
『勿論!いっぱいご飯も奢るわ!』
「…承知しました」
ミカも現金な女だった。
大変な事は嫌だが、代償として給料を増やして貰ったり奢られるのならば動く女だった。
「それはそうとシェールさん、サキュアの復興の方はどうですか?」
『うん、復興の方は問題ないわ、順調に進んでいる。ただ…』
「ただ…?」
『一つこっちでも問題があってね…今その問題に立ち会っている瞬間なの…』
「問題に立ち会っている瞬間…?」
『何やら複雑な状態で…色々纏まったらまた話すわ』
「…はい」
ミカが通信を切る。
「…ホワイト、聞いた?」
「うん…隣でずっと」
「…シェールさん、問題に立ち会っている瞬間って言ってた」
「問題…サキュアの復興に関する事なのかな…?」
「…いや、復興の方は問題ないって言ってたからもう一つ別の問題かもしれないけれど…一体なんだろう…」
「うーん…」
ホワイトが上を向く。
「兎に角、一旦お別れだね。ホワイトはラルの街で手掛かりを入手しつつ、お父さん探し…頑張って欲しい」
「うん、私一人でも頑張るよ」
「ん。でも、サザナ先生や…頼りになるか知らないけどバール先生とかはちゃんと頼りにしてね。大人の意見は大事だから」
「…うん」
「じゃ、また後で」
ミカがそう言うと、ミカが駅の方へ向かう。
「…行っちゃった」
ホワイトが一人取り残される。
「さてと………眠いや」
ホワイトがあくびする。
「そういえば…仮眠室使っていいって言ってたっけ。使わせてもらおうかな…」
ホワイトが学校の中へ入る。
――仮眠室の前まで来るホワイト。
「…仮眠室。普段は教師しか使ってはいけないけど、サザナ先生から特別に許可貰ったし…」
仮眠室に入るホワイト。
静かな空間…只一人ホワイトがいる。
「誰もいない。まぁ皆授業してるのか…」
ホワイトがベッドに座る。
「…ねむ…。あ、薬飲まなきゃ」
ホワイトが薬を取り出す。
「えっと…これだ」
ホワイトが薬を飲む。
舌触りは悪くなかったが、味は意味不明だった。
「…変な味する。これ本当に効くのかなぁ…?」
ホワイトが寝転がる。
ふかふかのベッド…魔力学校の仮眠室はあまりにもクオリティが高すぎた。
「………ふかふかのベッド。仮眠室にしては…ちょっと出来過ぎな気もする」
ホワイトが寝返りを打つ。
「………ふぁ」
ホワイトが眠りにつく。
「…」
ホワイトが目を覚ます。
「…あれ」
ホワイトは真っ白な世界に立たされていた。
「…!?この感じ…まさか夢…!?」
ホワイトが辺りを見渡す。
「そんな…薬飲んだはず…飲んだ薬も間違ってないはず…なのになんで…!?」
ホワイトがそう言うと、ホワイトの後ろから声が聞こえる。
「おぉ、なんと素晴らしい世界」
「…!?その声は…!?」
ホワイトが振り向くと…
そこにはジハが立っていた。
「小娘、久しぶりだな。まさかこうして会えるとは」
「ジハ………!?」
ホワイトの目の前に立つジハ。
ホワイトの身体は震えていた。
「――っ…なんで…どうして…夢を見なくなる薬を飲んだはずなのに…!」
後書き~世界観とキャラの設定~
『バール』
…ホワイトがかつて通っていた魔力学校の教師。猫背で長髪の眼鏡をかけた男で、全体的にだらしなさが出ている。
凄く簡単に言えば、ひねくれた理科の教師。そして研究室に普段から籠って実験をしている。ただ、一応授業は持っているらしい…
凄くだらしないが、これでも教師なのである程度の常識はある…かも。




