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白と悪魔と  作者: りあん
第二部 可能と不可能の根源
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ep78.繋がる心

 ――その後、可能の災いディ・スピアを撃ち滅ぼしたランス達は、ラッシュ師団の基地で報告を行った。

 可能の災いを討ち滅ぼし、長き戦いが終わった。

 そしてランスは自身が不可能の災いの力を得て可能の災いを討ち滅ぼした事も打ち明けた。自身が不可能の災いの力を得てしまっている事、右目と左腕を失っている事からランスはラッシュ師団団長を降りる事となった。団長には代わりにシェールが務める事になり、副団長はロキに移った。


 この件による死傷者もいた。元ネオカオス四天王の一人、完璧のフェクトはランス含む団員をサキュアにワープさせた際に魔力と身体に限界が来た故に暫くカルム師団の基地で診る事となった。また、元ネオカオス四天王の一人、暗殺のルキはカルム師団団長ナギサによってスピア諸共斬首され、首からの多量出血により死亡が確認された。


 これにてネオカオス残党を引っ張れる者は遂にいなくなり、またネオカオスの残党にもラッシュ師団基地へ直接自首しにいく者まで現れた。

 回収されたルキやジハの死体はラッシュ師団の団員によって回収され、ネオカオスとの長き戦いは真の意味で遂に終わりを迎えるのであった――




 ――数日後…ラッシュ師団の基地の入口前にて…

 ランスがラッシュ師団から去ろうとしているところだった。


「ランス君…本当に行っちゃうの…?」

「…あぁ。もしかしたら俺はもう…この世にいてはならない存在かもしれないしな」

「…そっか」

「ランスさん…本当に…本当に…」


 ホワイトが泣き始める。


「…ホワイト。お前はその泣き虫な所…治してくれよな」

「っ…だって…別れだなんて…そんな…悲しいですよ…!」

「…そうだな。俺も悲しい」

「…団長…思えば俺は…団長に舐めた口を利いてばっかりだったな」


 ジンが拳を握り締める。


「そうだなジン。お前は…舐めた態度ばっかりだったな」


 ランスが笑い始める。


「…悲しいけど、団長の今後の健康を祈ってる」

「…ミカ、ありがとな」


 ランスの言葉を聞き、ミカが目を逸らす。


「ロキ、副団長としてシェールを頼む」

「…分かってるよ」


 ロキが頭を掻く。

 シェールがランスに近づく。


「…ランス君。行く当ては…あるの?」

「…ひとまずはジンがホワイトを生き返らせるという願いを叶えた女神族がいるとされるウィッシュマウンテンに行く事にする。まずは不可能の災いを取り込んだ…いや、本来の魔力が戻った俺がこの世にいてもいい存在なのかどうか…聞いてみる事にする。女神族なら何かしら分かる事もあるだろう。まぁ本当にいるならば…だが」

「…そう」


 シェールがランスを抱き締める。


「…待ってるから」

「おう」

「何十年も…何百年も…何千年も待ってるから…」

「何百って…人間の命はそう長くないぞ?」

「…命が尽きても、心は繋がっているから」

「…そうだな。右目も左腕も失ったが、なんだろう…いつか右目でお前達を再度見れる気がするし、左腕が戻ってお前達を…また指示できる日が…来る…かもな………」


 ランスが左目で涙を流す。


「…ランス君も泣くんだね」

「お前達のためなら泣けるだけだ」

「優しいんだね、ランス君」

「…じゃあ、またな」


 ランスが歩き始める。


「ランスさん…!」

「…ホワイト?」

「ランスさん…私…絶対…」

「…あぁ、全て言われなくても分かってる。頑張れよホワイト」


 ランスがホワイトに背を向けながら右腕で手を振る。


「はぁ………」


 シェールが息を吐く。

 シェールは自分が団長として務まるか不安だったのだった。


「…私に団長、務まるのかなぁ…ランス君がいたから副団長として頑張れたけど…ランス君いないとちょっと…」

「シェールさん…」

「実質恋人と疎遠になるような物ですからね…そんなの…」

「あ」


 歩いているランスが何かを思い出し、シェールの元へ走る。


「…ランス君?」

「そうだ、お前に渡したい物があった。左手貸せ」

「左手?えっと…腕を斬ってあなたに取り付けろって事…?」

「何を言ってるんだお前は。そんな物騒な事言わねぇ。と言うかできないだろう」


 ランスがシェールの左手を掴む。

 そして…


「これだよこれ」

「…!」


 シェールの左手の薬指には指輪がはめられていた。


「…その、なんだ。俺がもし帰ってこれたら…言いたい事がある」

「ランス君…!」

「それまで…他の男の手に渡るなよ」

「…分かった」

「じゃあな」


 ランスが再び歩き出す。


「…シェールさん?今何されてたんですか?」


 ホワイトがシェールの元へ寄る。

 シェールが手を隠す。


「…内緒。うふふっ」


 シェールが笑顔でホワイトの方を見る。


「さてと…これから忙しくなりそうね。ラッシュ師団もまだまだやる事があるわ」

「…そういえばナギサさんやルドさん、カルム師団の人達は?」

「カルム師団の皆さんなら、もう彼らの本来の基地に戻ってるはずよ。魔力の根源を追って漸くその正体が分かったけれど、まだまだ調べる事はあるみたい」

「そう…なんですね。ナギサさんにもう一度顔を合わせるべきだった…」

「ホワイトちゃんがナギサちゃんに?」

「…まだ色々お礼を言えてなかったので」


 ホワイトが髪をいじる。


「そっか。そういえば…ホワイトちゃん達って一応休暇だったよね?」

「え…あ…はい…」

「そういえば…!」


 ミカが何かを思い出す。


「団長…あたし達休暇だったはずなのにかなりの功績をあげたんだからもう少し報酬と言うか何か…なかったのかしら?」

「ちょっ…ミカ…!」

「言われてみれば」

「一理あるな」

「ジン君にロキ君まで…!」

「皆意外と現金ね。まぁ…ランス君のあの身体の状態じゃ、ちょっと厳しそうにも見えるけど…」

「シェールさん…」

「まぁ、あなた達への報酬は私がちょっと考えるわ。そうね…団長室にあるランス君のヘソクリでも探してみようかしら」

「あの人ヘソクリ…あるんですか?」

「あら、私の魔力をお忘れで?」

「そうだ、この人心を読み取る魔力あるんだった…」

「シェールさんが本当に味方で良かった…」


 ジンとミカが汗をかく。


「シェールさん。いや、シェール団長」

「…その呼び名、ちょっと恥ずかしいわね。今まで通りでいいわよ」

「…そうですか、じゃあシェールさん、ラッシュ師団の次なる目的は何になるんですか?」

「そうねぇ…」


 シェールが考え始める。

 スピアによって壊れた場所は多かった。その中でも…


「…ひとまずすべきことがあるとしたらサキュアの復興…ね」

「あ…」

「ジン君が枯らしたオアシスとか…スピアが荒らした街とか…」

「…サキュアか」


 ジンの目付きが変わる。


「シェールさん、サキュアの復興…手伝わせてください」

「ジン君?いいけれど、どうしたの?」

「その…あの場所には過去にも行ったような覚えがあって…それで…」

「なるほど、分かったわ。休暇は…いいのかしら?」

「休暇の分、報酬くれたらいいですね」

「っ…ジン君たら…」

「冗談です」

「そうなると…ホワイトのお父さんを探すのはあたしとホワイトだけか…」

「…そうだね。ジン君とロキ君は…忙しいもんね」


 ホワイトが落ち込む。


「…待て、別に俺が行けないとは言ってないぞ。副団長として忙しくはなると思うが、お前達の事は大事な友人だし友人として助けたい」

「ロキ君…?」

「待て…その意味だったら俺もだ。サキュアの復興とか…過去の事とか色々分かったら俺にも探させてくれ」

「ジン君…!」

「…ふーん」


 ミカが腕を組む。


「アンタ達…ホワイトが落ち込んだらすぐそういう顔をするよね」

「っ…別に俺は…」

「俺は別に副団長として思った事を言っただけだ」

「あはは…」


 ホワイトが苦笑いする。


「ホワイトちゃんのお父さん、見つかるといいわね」

「…はい」

「私は祈ってるわ。何かあったら私も頼ってね。あんまり頼りないかもしれないけれど…」

「っ…そんな事ないです…シェールさんは私にとって頼りあります…!」

「あら、嬉しい。うふふ」


 シェールが笑顔になる。


「さて、今日は少し外食でもしましょう。私が奢るわ」

「やった、シェールさんの奢りだ」

「皆、明日からまた宜しくね」

「はい!!」





 ――一方…カルム師団の基地に向かっているナギサとルドは…


「はぁ、色々終わったねー」

「そうだな」


 ナギサとルドが平原を歩いていた。

 夕日を見ながら歩くナギサと、前だけを見るルド。


「本当に疲れた、でも基地に帰ったら魔力の根源といい、その他魔力の謎について色々調べないといけない事が待ってるよ…」

「…そうだな。ならなぜ俺達は電車を使わずに歩いてるんだよ」

「ふふ、そりゃ受け入れたくない現実を少しでも遠ざけるため」

「お前なぁ…」


 ルドがため息を吐く。


「それにしても、本当に色々あったよね。まさかカルム師団にまで声が行くと思って無かったし…何よりスピアの登場は驚きだったよ」

「そうだな」

「しかもまさか不可能の災いまで現れて?正直死ぬかと思ったよ…」

「そうだな」

「あの戦いは…誰か一人でも欠けてたら勝てなかった。本当に…大変だったよ」

「そうだな」

「ラッシュ師団との協力関係は今後も続けて、今後も何か情報共有していきたいね」

「そうだな」

「ランスも身体の損傷故にラッシュ師団の団長を辞めちゃったしね」

「…そうだな」

「しかも自分は不可能の災いの力を得てしまったからこの世にいていい存在かどうか迷ってるとか…」

「…だな」

「ひとまずはウィッシュマウンテンの願いの泉の噂を当てにしてるみたいだけどさ、どうだろうね」

「…あぁ」

「それと見ちゃったんだけどさ、ランスが指輪を持ってたんだよね」

「…指輪」

「何やらちょっと高級そうな物だったし、アレなんなんだろうね?」

「………」

「…ね?」


 連続して続く会話。

 ルドがナギサの方を見る。


「…ナギサ」

「どうしたの?」

「…もう、いいだろ」

「何が?」

「…ランスの事――」

「………」


 ナギサの目から涙が出る。

 まるで今まで我慢していた気持ちが溢れたかのように。


「っ………」


 ルドが目を逸らす。


「…ずっと…好きだったの」

「…だと思ったよ」


 ナギサが涙を零す。


「出会ってから…一緒にいた3年間…ずっと好きだった…ランスが急にいなくなってからも…ずっと…ランスの事が頭から離れなかった…」

「…そうか」

「あの後色々調べて…ランスが不可能の災いかもしれないっていう疑いができた後も…ずっと…彼の事が頭から離れなかった…ずっと好きだった…」

「歪んだ…いや、純愛だな」

「彼を救う方法や彼と縁を戻す方法をずっと考えてた…考えてた…シェールちゃんと付き合ってるって知った後もずっと…ずっと…!」

「…ナギサ」

「彼の事が…ずっと好きだった…あんなどうしようもない奴なのに…あんな私に対して毒舌なのに…あんなに………皆の事を思っている奴なのに…あの時も…抑える事ができなかった…」

「あの時…?」

「久々に皆と会って…ランスが私を疑って…シェールちゃんに確かめて貰ったあの時…」

「…!」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「そう言うお前こそ、何か隠してんだろ?」

「隠してた所で、君に言う事なんて何もないよ」

「シェール、こいつが嘘ついてるか確かめろ」

「え…あ…」

「早く…!」

「……ごめんなさい、ナギサちゃん…」


 シェールは目を瞑る。


「…そんな事で恋人をこき使うんだ。変わったね、ランス」

「お前は逆に変わらなさすぎだ。ホワイトの親父さんの手掛かりになるだろうと思って来たが、こういう事なら会うんじゃなった」

「っ…」

「お前なんかに…会ったのが間違いだった…!」


 ランスの形相が悪くなる。


「お前なんかに…」

「ちょっとランスさん…!」


 ホワイトが割り込む。


「確かに…ナギサさんはちょっと変な人だけど…でも…だからって…そこまで言う必要は…」

「…ホワイト、お前に何が分かる?」

「何がって…ランスさん…おかしいよ…?」

「…あぁ、俺はおかしい。こいつと会ってから…色々おかしくなっちまった…!」

「ランス…さん…」


 シェールがナギサの心を見る。


「…シェールちゃん。今目を閉じてるって事は…魔力で私の心を読んでるって事だよね」


 ナギサが心の声で話す。


「…ランスの事、ずっと好きだった。…いや、今も好き。これからもずっと好き…。この好きって気持ちはランスと出会ったあの頃から…ずっと変わらない…。でも、ランスはきっと…私から離れた事が原因で私に対しての心はもう閉ざしてしまってる。私の事はカルム師団団長として信用も信頼もしているだろうけど、私という人間を思う心は閉ざしてしまってる。でもそれは私に意地悪をしたい訳じゃない。ランスは私を傷付けたくないという気持ちで私への心を閉ざした…ランスは…私に迷惑をかけたくない一心で…!」

「っ…!」


 心の声を聞いたシェールが驚く。


「私には…ランスの彼女にはなれない。でもシェールちゃん…あなたみたいに心を読みつつも優しい言葉をかけれるあなたみたいな人ならば…!」




「…ランス君、ごめん」


 シェールが目を開ける。


「どうだ、ナギサは嘘を…」

「答えられない…」

「…なんだと?」

「ごめんなさい…」


 シェールの目から涙が出る。


「っ…シェール…!」

「…私、先にラッシュ師団の基地に帰ってる。ホワイトちゃんやミカちゃん、ジン君も…早めにね…」


 シェールはそう言うと、カルム師団の団長室から出る。


「シェール…待て…!」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あの時…私があんな事を思ったから…逆にシェールちゃんを追い込んでしまった…」

「…そうだったんだな」


 ルドがナギサの手を掴む。


「ルド……?」

「お前はよく頑張ったよ、ナギサ」

「…ありがと」

「深くは聞かないし、聞かれたくも無いだろうけどさ…俺はお前がカルム師団団長である限り一生お前の味方だ」

「…うん」

「お前が死ぬまで…俺が死ぬまで…お前の味方でいる。絶対にだ」

「…うん」


 ナギサが涙を拭う。


「…うん、ちょっと吹っ切れた。少し時間は必要かもだけど、ランスの事は諦めれそう」

「そうか、それは良かっ…いや、何でもない」

「え?」


 ルドの言葉にナギサが疑問を感じる。


「何でもない。早く帰ろう、俺達のカルム師団へ」

「うん。帰ったらいっぱい仕事をしてもらうよ」

「…それは勘弁してくれ」

「あははっ」


 ナギサとルドが笑い始める。

 ――この日、一つの恋が終わり、一つの新しい恋が始まろうとしていたのだった。





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悪魔に堕ちて悪魔と結婚した太陽
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