ep77.災いの終着点
――ランスがスピアと戦い、ホワイトがその間に回復。
この戦いは不可能の災いを持ってしても仲間想いの青年と、仲間を助けたいと言う一心の少女がいなければ…始まってすらいなかった。
そして今まさに、ランス達はスピアに矛を向ける。
「っ…!貴様…!!」
スピアが腕を振る。
「っ…伏せろ皆…!」
「…さっき見てた」
皆がスピアの攻撃を避ける。
「っ…!」
「奴はあの頃より強大だけど…なんか負ける気がしないよね」
ナギサが剣に水の魔力を宿す。
「…家を飛ばされた時は正直厳しかったが…あの攻撃なら俺のシールドでも防げるな」
ルドが手に魔力を宿す。
「団長…皆に指示を」
ミカがランスの方を見る。
「ミカとジンとロキは前衛を…ホワイトは前衛の回復を頼む…!」
「了解…!」
「ナギサとルドは…お前達に任せる…!」
「分かった」
「…はいはい」
「っ…!貴様等…黙って私に支配されていればいい物を…!」
スピアが目を赤く光らせる。
そして、左腕から巨大な炎を作り出す。
「炎なら俺の得意分野だ…!」
ジンが炎の魔力を込める。
「貴様等全員…燃え尽きろ!」
「させねぇ…!」
スピアとジンの炎がぶつかり合う。
「っ……!貴様…!」
「っ…正直魔力の強さじゃ奴に負けるが…でも…!」
「…ありがと、ジン」
ミカがスピアに近付く。
「っ…!」
ミカがスピアに銃剣で斬りかかろうとする。
スピアがシールドを展開して防御する。
「ふん…貴様等が束に…!」
スピアが背中から魔力を感じ取る。
「…俺だ。そういえば…自己強化の魔力…見せてなかったからな…!」
ロキがスピアの背中を殴る。
「っ…貴様等…!!」
スピアが腕を振り、ミカの方に攻撃する。
「っ…!」
ミカの目の前にシールドが展開される。
「っ…!防がれる…だと!?」
「…さっきの奴より…防ぎがいがあるな」
ルドがミカの目の前にシールドを展開していた。
「っ…だが貴様等なんぞ…」
「私忘れてない?」
ナギサが薙刀でスピアの左側から攻撃する。
「っ…!」
「当たった。そして…」
スピアの左腕から出た血がナギサの薙刀に吸収される。
「っ…!」
スピアの展開してたシールドと炎がゆっくりと消える。
「血液と魔力を奪った…!」
「っ…こんな物…無理矢理魔力を発動させれば…!」
スピアが目を光らせる。
「っ…!?」
「…スピア」
ランスが青白い左目でスピアを睨んでいた。
「っ…そういう事かよ…ランス…!!」
「今だ…皆…!」
「うおおおおおお…!!」
皆の魔力を込めた攻撃が一斉にスピアに当たる。
「………」
スピアがボロボロになりながらも立っていた。
「ぐっ…!」
ランスが右目を押さえる。
「ランスさん…!」
「っ…まずい…!」
ランスの魔力が途切れる。
一瞬の隙を見つけたスピアがすぐに魔力を発動する。
「っ…早く回復させねば…!」
スピアが咄嗟に魔力で傷を回復させようとする。
「ホワイト…少し回復をくれ…」
「っ…!はい…!」
ホワイトがランスの身体に回復魔法をかける。
「ありがとう、良し…!」
回復された事により、魔力の維持ができるようになるランス。
ランスが再びスピアを青白い左目で睨む。
魔力を封じられるスピア。
「っ…!!また魔力を……!」
スピアの腕から血が出る。
ランスがスピアに向かって歩き始める。
「ランス…さん?」
「…終わらせてくる」
「………もしかして…」
ホワイトがランスの方を見て震えていた。
「…ホワイト。時には殺しが必要な時もある。…それが今だ」
「っ…でも…」
「お前が一度死にかけているのだ」
「っ…」
「お前だけじゃない。ナギサやフェクト…さっきの攻撃に巻き込まれた他の団員達もそうだ…奴は…殺しを経て支配に走る…そういう奴だ。それに…奴は太古の時代に大量虐殺をしてきた…だから…」
「………」
ホワイトが拳を握る。
ホワイトの嫌いな殺しという手段。
だが必要な殺しは、ある。
それは今だった。
再び人殺しになってしまう事を。
決心するホワイト。
「…分かりました」
「すまない」
ランスがスピアの方に寄る。
「っ…ランス…貴様………!」
「可能の災いディ・スピアよ」
ランスが残った左目でスピアを見る。
「…なんだ不可能の災いヴィ・ランスよ。殺したきゃさっさと殺せ…!」
「お前はあの時の俺の言葉を覚えてるか?」
「あの時…どの時だ…?」
「太古の時代に言った言葉…」
「…そんなのとっくに忘れたさ。何せ長く魔力の根源として封印されてたのだからな…」
「だからもう…支配するのは辞めよう」
「っ…!」
スピアがランスの言葉を聞いて驚いた表情をする。
「っ…貴様まさか…!」
「最初から俺は不可能の災いの魂や魔力に飲み込まれてないと言ったが…アレは嘘だ」
「嘘…だと…!?」
「俺は…魔力と本来の魂をこの身に宿して全てを思い出した。そう…あの時言った言葉と共にな…」
「っ………!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――太古の時代…
「はははは…私達こそ災い…人類全てを支配できる力…それに服従されし弱者…これこそ人間のあるべき姿だ…!」
「…スピア」
炎の中、ランスがスピアを見つめる。
「ランス…貴様も分かるはずだ。お前が不可能の災いの魔力で世界を支配する事こそ、あるべき姿なのだよ」
「スピア!」
「…なんだ貴様、デカい声を出して」
「…俺達は本当に災いとして…奴等を支配し…殺し…これでいいのか…?」
「何が言いたいランス?強い力、強い魔力は弱い者を支配する。これに何の間違いがある?」
「……」
「支配した人間も増えてきた。もう少しで全世界を支配できるのだ。そうしたら…」
「もう辞めよう、スピア」
「辞めるだと?」
スピアがランスの胸倉を掴む。
「貴様…何を言ってるのか分かるのか…?」
「…俺達は確かに可能の災い…不可能の災いとして、人間を支配してきた。逆らってくる奴は無理矢理服従させてきた…だが…俺はもう…無理だ」
「無理…だと…?」
「俺は大罪を犯してしまった、もう後戻りはできないとは思っている。それでも…俺はもう辞めたい」
「…!」
「だからもう…支配するのは辞めよう」
「っ…!貴様…!」
スピアがランスを突き飛ばす。
「…あぁ、そうか。私は"可能"の災いだが、貴様は"不可能"の災いだからか。支配は不可能と言いたいのか。貴様の名に相応しいよ…ランス…!」
「…そうか、残念だよスピア」
「…残念なのは貴様だ、ランス」
スピアがそう言うと、目を赤く光らせる。
「っ…!?…何をした、スピア!?」
「…貴様も私の支配下だ、ランス」
「っ…まさか…まさか………!」
「…最悪の事も考えて、貴様の魔力は利用させてもらうぞ、不可能の災いヴィ・ランス…!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…あの後お前は可能の災いの魔力で無理矢理俺を支配した。その後俺はお前の支配下で大量虐殺を行ってきた…。そしてお前は…女神族に封印される寸前にも対策を講じて本来の肉体が腐敗しないように細工をした」
「…そうだよ、その通りだよランス…!」
「…スピア、まだ支配の事…考えてるのか」
「考えているさ…全てはこの魔力の根源と呼ばれし力の元…根源と言うからには支配の道しかない…それに…」
「…もう…辞めよう」
ランスがスピアを青白い目で睨む。
「っ…!?」
スピアが突如首を押さえる。
ランスの魔力でスピアは…今にも死のうとしていた。
「ゲホッ…息が…でき…ランス…まさか…!!」
「…呼吸が不可能になる魔力を与えた」
「っ…辞め…ろ……」
スピアが咳をする。
呼吸のできない魔力に、スピアが窒息し始める。
「ゴホッ…貴様っ…!?」
スピアが吐血する。
かけられた術は、窒息だけじゃなかった。
「いや、違うな。呼吸だけじゃない。生命の維持を不可能にする魔力与えた」
「っ……!」
「…スピア。そのうち俺もそっちに逝く。そっちで会ったら…今度は支配ではなく、別の道を共に辿ろう…」
「っ………」
ランスが苦しむスピアを見下ろす。
スピアが、足搔きとして呟き始める。
「…私は…知りたかっただけだったんだ………」
「…スピア」
「強く生まれた私達が………恐れられてきた私達が………どうやって人と共存するかを………」
「………」
「共存するには支配しかなかった………ただ…それだけ…だった…のに………」
スピアの声が遠のく。
可能の災いディ・スピアは、この言葉を以てこの世から生命を失った。
こうして可能の災い…もといスピアマウンテンにあった魔力の根源は滅んだのだった――
「………」
「ランスさん…!」
「…終わったな」
「ランス君…」
シェールが監視塔の方から現れる。
「シェール…」
「…ミカちゃんの回復をしてた際…あの後逃げ遅れた女の子を見つけたから避難させていたけど…最後の最後に戦いに参加できなくてごめんなさい…」
「…別にいい。俺達で終わった。シェールも…避難の程ご苦労だった」
「…そっか」
シェールがランスに近付く。
「………」
ナギサがランスとシェールを悲しそうな顔で見つめる。
「っ………」
ナギサが右肩を押さえ、ランスの方に倒れそうになる。
ナギサに少し邪な気持ちが宿っていた。
このままランスの方に倒れて、何かいい方向に進まないかと思っていた。
「っ…やば…」
「大丈夫か、ナギサ」
ルドが倒れそうになるナギサの身体を押さえる。
ナギサの邪な気持ちは一瞬で潰えた。
だが逆にナギサは、安心していた。
「……ルド」
「ホワイトさんに治して貰ったからとはいえ…まだ万全ではない。少し休め…」
「…うん、ありがとう…」
ナギサが不安そうな顔をする。
シェールがランスの右目と左腕の惨状を見て涙する。
「ランス君…左腕と右目が…」
「…俺なら大丈夫だ。それよりお前達…お前達の今後に支障がないかが不安だ…」
ランスが残った左目で皆を見つめる。
「…たぶん皆大丈夫。ミカちゃんは内臓を酷くやられていたから心配だけど…」
「…あたしも大丈夫です。…こんなの何度も経験してるので」
「…ほんと、お前は強いな」
「…アンタもだよ、団長」
「ははっ、その通りだな」
ランスが笑い始める。
「お前達が今後支障がなく動けるなら…俺の右目と左腕くらいくれてやる。寧ろ名誉の傷だろう」
「…そうですね。名誉の…傷です」
ホワイトがそう言うと、ランスが歩き始める。
「…お前達、帰ろう。俺達の…ラッシュ師団へ…!」
「…はい」
「…おう」
「…ん」
――ランスは残った右腕で空の彼方に指を指し、残った左目で皆を見つめていた。
後書き~世界観とキャラの設定~
『スピアは本当に絶命したのか?』
…本当に絶命した。そして、スピアマウンテンにあった魔力の根源も失われる事になった。
ランスの右目と左腕を奪うという、大きな大打撃を残しながら…




