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白と悪魔と  作者: りあん
第二部 可能と不可能の根源
78/271

ep76.可能と不可能

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆」

 ――数分前…


「俺はスピアを止める。奴を倒し…この戦いに終止符を討つ」

「…そう」


 シェールがランスの手を握る。

 シェールはランスが心配だった。

 可能の災いディ・スピアとの戦いは必ず熾烈を極める。

 恋人には死んでほしくない、そう思っていたシェール。


「シェール?」

「…大丈夫だと思うけど、死なないで」

「分かってる、死にはしない」


 ランスがもう片方の手でシェールの頬を触る。

 シェールに心配をかけまいと、彼女の頬に触れる。


「…ランス君」

「行ってくる、皆を頼む」

「…そっちも、皆をお願いね…」

「あぁ――」

「…そうだ、ランス君。こんな時だけど…聞いてくれる?」

「なんだ?」


 シェールがランスの耳元に寄る。


「あの四人とナギサちゃんの事…」

「あいつらと…ナギサが?」

「さっきホワイトちゃんに直接回復してもらうためにナギサちゃんが会議室に行ってたでしょ?その時の彼ら…目付きというかが違って…」

「そういえば、そうだったな」


 シェールはミカ達が不可能の災いの件を聞かされた後の目付きに違和感を感じていた。

 そしてそれは、ランスもまた気付いていた。


「…そう、それで怪しいと思って彼らの心を読んでみたの。四人は普通の思考をしてて…特に問題はなさそうだった」

「そうか。…四人?そうなるとナギサの心が何かおかしかったのか?」

「…いいや、ナギサちゃんじゃない。ホワイトちゃんよ」

「ホワイトが?」


 あの時会議室にいた四人の中でただ一人、ホワイトだけが思考を読まれないとしようと意識していた。

 それが逆にシェールに思考を読まれてしまっていた。

 そしてその内容は、ランスが『不可能の災い』の正体である事だということ。


「…何やら、ランス君がスピアとかつて暗躍してた不可能の災いの正体だったとしても…恩人だから救う手立てを見つけないと…って考えてたみたいなの…」

「…!」


 ランスが驚いた表情をする。

 だがランスにも心当たりがない訳ではなかった。

 ナギサとの恋人時代…あの時見えた幻覚は、ランスにとって疑惑だった。

 だが今は確信に変わっていた。


「私は正直あなたが不可能の災いだなんて嘘だと思ってる…けど、その顔…何か心当たり…ある…?」

「…無い訳では無い」

「…もしかして本当にあなたは不可能の災い…!」

「………」


 シェールの問いに答えれず、ランスが黙り込む。

 肯定もしなければ、否定もしない。沈黙。


「…否定、しないんだね」

「…心当たりはある」

「ランス君…」

「…俺は、昔何か大罪を犯している予感はしてたんだ。ある日俺の手に血が大量に付いた幻覚が見えた」

「大罪…血が付いた幻覚…」

「最初は気のせいだと思ったんだ。だが…何度か同じような幻覚を見るようになり…いつしか確信に変わっていった。俺は…過去に大量殺人でもしたんじゃないかって…」

「っ………」

「それに俺は…」

「…深くは聞かないよ」


 シェールがランスに抱き付く。

 シェールはランスを『不可能の災い』として見るのではなく、一人の人間として見ていた。


「シェール?」

「…過去に大量殺人をしたとか…そうだったとしても今のランス君は…皆の安寧を守る為にラッシュ師団の団長として戦っているから…」

「…シェール」


 ランスがシェールを抱き返す。

 そしてランスは、決意する。


「…もしも俺が真に不可能の災いだとしたら…俺は争いが不可能になる世界を作りたい」

「………!」


 シェールがランスの顔を見て涙する。


「…もし本当に俺が不可能の災いならば、奴は俺に本来の魔力を与えようとするはずだ」

「…そうだね」


 ランスは既に不可能の災いを逆に奪い取ることを考えていた。

 だがそれは当然、危険な行為であることも承知していた。


「…魔力に負けない自我を保つつもりではいるが…もしもの時は頼む」

「…うん」

「…行ってくる」


 ランスがシェールから離れる。

 ランスがその場から去り、皆の元へ向かおうとする。

 そんなランスを言葉で止めるシェール。


「ランス君」

「どうした?」

「…皆を守る団長に…なって…!」

「………分かった」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「…俺達の反撃の時間だ…!」


 ランスがスピアに殴りかかる。


「っ…!」


 スピアがランスの拳を手で受け止める。


「ホワイト!シェール!俺が食い止めているうちに皆を頼む…!」

「うん…!」

「っ…はい…!」


 シェールとホワイトが倒れている皆の元へ寄る。


「ホワイトちゃんの魔力があれば…皆の重傷もきっと治せる」


 ホワイトがミカの元へ寄る。


「…シェールさん、ミカのお腹に…岩が刺さって…それで……」

「…なるほど。それなら…」


 シェールがミカに刺さっている岩を持つ。


「っ…何をして…」

「岩を抜いたと同時に…瞬時にミカちゃんを回復して。下手したら…大量出血でミカちゃんが死んじゃう。けれど…これしかない…!」

「っ…!」


 ホワイトが汗をかく。


「ミカちゃん…かなり痛いだろうけど…耐えて…!」

「…ホワイト…シェール…さん………」


 シェールが少しずつミカに刺さっている岩を抜く。


「っ……!!うぐっ…ぐっ…!!」


 ミカが強烈な痛みに苦しむ。

 強烈な痛みに苦しむミカを見てホワイトが涙する。

 ホワイトが回復魔法をかけるのを…我慢する。


「ミカ…少し耐えてて…お願い…!」

「っ…ぐっ…はぁ…はぁ…」

「ミカ………シェールさん…早く岩を抜いて……!」

「っ…そう言われたって…結構難しいのよ…!少しでも勢いをつけ過ぎたら…ミカちゃんが………」

「っ…!」


 シェールの顔から汗が垂れていた。

 シェールもまた焦っていた。

 人を絶命から救うのが自分になるだなんて、シェールからも想像もつかない事だった。


「っ…!今よ…!」


 シェールがミカに刺さっていた岩を抜き取る。


「がはっ…」

「っ…!」


 ホワイトが同時にミカに回復魔法を強くかける。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 ホワイトの頭から汗が多く流れていた。

 焦りと、恐怖と、強い魔力の行使による物だった。


「っ…ミカ…!」


 ホワイトがミカを揺する。

 目を瞑るミカ。だが気を失っている訳ではなかった。


「…ホワイト…傷口が痛むから…揺すらないで…」


 ミカがホワイトの手を掴む。

 辺りにはミカの血が大量に落ちていた。

 水たまりのようにたまった血だったが、これでもミカは生きていた。


「ミカ…!!」

「…ゲホッ…」

「…成功ね。よくやったわ、ホワイトちゃん」

「…ミカ、立てる?」


 ミカが立ち上がろうとするが、傷口を押さえる。


「っ…応急処置されただけだから…すぐ動くのは厳しい…」

「っ…ミカ…!」


 ミカの出血は止まっていた。

 だがさっきまで襲っていた痛みが身体中を軋ませていた。


「…ミカちゃんはかなりの重傷ね。そうなると…他の子達を回復させて。ミカちゃんは私が見るわ」

「っ…はい…!」


 ホワイトがナギサの元へ走り出す。


「ナギサさん…しっかり…!!」


 気を失っているナギサ。

 肩と腹に深い刺し傷。

 ホワイトがナギサに回復魔法をかける。


 だが、魔力が途中で消える。


「っ…こんな時に…魔力切れが…!」


 ホワイトの回復魔法は弱くなっており、効力が落ちていた。


「はぁ…はぁ…ど…どうすれば…」


 ホワイトが息切れする。


 だが、ホワイトには手があった。


「…そうだ…繋命を…もう一度使えれば…!」


 ホワイトが目を閉じ、念じる。


「皆の命を…繋ぎ止めたいっ…!」


 その言葉に答えたかのように、ホワイトの手に魔力が宿る。

 『繋命』を宿すホワイト。


「…!来た…!」


 『繋命』が発動できた。

 あの時女神界で鍛えた影響が現れる。


「繋命のおかげで魔力が満ちてる感じがする…今なら…!」


 ホワイトがナギサの傷口に手を当て、再度回復魔法をかける。

 ナギサの傷口が治っていく。


「っ……ホワイト…ちゃん…」

「ナギサさん…!意識が…!」

「っ…そっか私…意識失ってたのね…このままだったら本当に死んでたかもしれないのね…」

「ナギサさん…良かった……」


 ホワイトがそう言うと、ナギサがランスの方を見る。

 ランスはスピアと激闘を広げていた。


「…ランスが、戦ってるのね。…あの魔力は…まさか不可能の…制御できてるの…?」

「…ナギサさん、回復したばかりですけどごめんなさい、他の皆も回復させてきます…!」

「…分かった」


 ナギサが立ち上がる。


「…今の一瞬で殆ど傷が治ってる。ホワイトちゃんの魔力は一体…」


 ナギサが口に付いてる血を拭く。

 そしてナギサに微かに聞こえた、繋命という言葉。


「繋命…どこかで聞いた…いや、感じた事あるような気が…」






 ランスがスピアの拳を押さえる。


「っ…!」


 スピアが蹴りを入れようとする。

 ランスが咄嗟に腕でガードする。


「魔力抜きの力だと…不利か…!」


 スピアが距離を取る。


「…魔力はあるのに使えない…不可能の災いのせいか…!」

「…この力…凄いな」


 ランスが自身の腕を見る。


「だが…下手をすれば皆を傷付けてしまう。その前に…!」


 ランスがスピアを青白い目で睨む。

 そして、黒いバリアをスピアとランスの二人を閉じ込めるように展開する。


「っ!」

「この魔力の領域の中では…俺達は魔力を使えない。この領域で…貴様を殺す…!」

「ふざけた魔力め…!」

「それはお前もだろう…!」


 ランスとスピアの拳がぶつかり合う。


「っ…貴様…!」


 スピアが目を赤く光らせる。

 だがスピアの魔力は発動しなかった。


「これでもダメか!」

「っ…!」


 ランスがスピアの脇腹を殴る。


「がっ…!」


 スピアが吹っ飛び、倒れる。


「っ…」


 スピアがゆっくり立ち上がる。


「魔力が使えないとは…こんなに不便な物なのか…」


 スピアがそう言うと、ランスがスピアの額に銃口を向ける。


「っ…ランス…!」

「…魔力のない気分はどうだ?」

「っ…!」


 スピアがランスの腕を掴む。


「っ…!」


 ランスが銃を撃つ。

 だが撃つ直前にスピアがランスの腕をひねり、銃弾をかわす。


「チッ…!」

「…危ない危ない。…魔力のない気分…か」


 スピアがランスから手を取り、距離を取り始める。


「最悪の気分だな」


 スピアがナイフを取り出す。


「…ナイフ!」

「貴様が共に支配を望まないなら、私が殺す」


 スピアがランスに向かってナイフを刺そうとする。


「…この魔力の不可能な領域で俺をフィジカルで殺そうなんて、無理だろう?」


 ランスがナイフをかわし、スピアの腕を掴む。


「っ…!」

「何せ貴様は小さき少女…だが俺は…大人の男だ」


 ランスがスピアの腕をひねる。


「がっ…!!」

「…この時のためじゃないが、護身術を身に付けて良かった」


 ランスがスピアを地に叩き落す。


「っ…!」


 ランスが銃を持ち、スピアに向ける。


「っ…!」


 スピアがランスの足に向かってナイフを刺そうとする。


「っ…!」


 ランスが飛んでかわす。

 スピアがすぐさま起き上がる。


「貴様、女を舐めるなよ?」

「その言葉…俺の問題児にも似たような事を言う奴がいたな。そいつもお前みたいに…小柄だ」


 ミカの事を小馬鹿に喋るランス。

 ランスがスピアに銃を向ける。


「そうだな」


 だがスピアも諦めていた訳ではなかった。

 スピアが腕を小さく回して肩を鳴らす。


「だが、魔力が戻ってくるのが感じるぞ」


 スピアが目を赤く光らせる。


「魔力が戻ったところで…お前に魔力は扱えない」

「扱えはしないが、身体には満ちてくるんだよ…!」


 スピアが素早く動き、ランスの近くに寄る。

 スピアの身体には少しずつ封印の余波が消えて魔力が満ちていた。

 魔力が使えなくとも、身体を強くする程の身体中の魔力がスピアを強くしていた。


「っ…!」


 スピアがナイフを振るがランスがすぐさま距離を取る。

 だがこの動きにスピアが着いてきていた。


「…遅い」

「…!?」


 ランスの後ろには既にスピアが立っていた。


「殺す」


 スピアが足でランスの足を払い、転ばせる。


「っ…!」

「これで…!」


 物の数秒程度で起こった出来事。

 スピアがランスの右目にナイフを刺す。


「がっ…!」

「…入った」

「ぐっ…うぐっ…がああっ…!!」


 ランスの右目に想像を絶する痛みが走る。

 スピアがナイフを抜く。

 ランスの右目がナイフで潰れ、血に溢れる。


「がはっ…はぁ…はぁ…」

「視力が片方ない気分はどうだ?」

「っ………クソッ……!!」


 ランスがスピアにすぐさま銃を撃つ。


「おっと」


 スピアが銃弾をかわす。


「目を潰したのに動く…貴様…まさに化け物に相応しいな」

「っ………」


 ランスが右手で右目を押さえる。

 ランスの右手に血が大量に付く。

 そしてランスは、右目の失明により魔力を維持できない。


「…そして、今ので貴様の魔力が切れたみたいだな――」


 スピアがそう言った時には既に魔力の不可能な領域が壊れていた。


「貴様は私と同じ災いそのものとは言え…所詮は不可能。可能の方が…格が上なのだよ…!」

「っ………」


 魔力が自由に使えるのを、スピアは見逃さない。

 スピアが手に魔力を宿す。


「魔力が使えるな。これで…ある程度可能な事が増えた」


 スピアがそう言うと、腕を振る。

 そしてその腕の振りは、まるで剣を模していた。


 見えない斬撃が飛ぶ。

 ランスの左腕が斬り落とされる。

 スピアの魔力によってランスの左腕が斬られ、地面に落ちてしまう。

 実際に触れて斬っていないのに、ランスの左腕を斬り落とす。


「ぐっ…!?」

「この距離からでも貴様の腕を切断する事が可能なのだよ。貴様にこの芸当ができるか?できる訳ないだろう?」

「っ………」


 ランスの斬れた腕から血が大量に出る。


「不可能の災いを失うのは痛いが…私にこの力が戻ったからには世界の支配なんぞ簡単…貴様を殺し、世界を支配してやろう………」

「……ふっ」


 ランスが微笑する。


「…何がおかしい?貴様は右目を潰され、左腕も失った。そんな貴様が私に勝ち目があるとは思えないが?」

「…お前は確かに強力だ。今まで戦ってきた奴の中で一番強い。だが…お前には今まで戦ってきた奴にない物がある」

「ない物だと?」

「…仲間だ」

「……!」


 スピアが驚いた表情をする。

 ランスの後ろにはホワイトが立っていた。


「…ランスさん…皆を…連れてきました…!」

「…よくやったホワイト」


 そしてホワイトの後ろにはミカ、ジン、ロキ、ナギサ、ルドが立っていた。

 皆それぞれ怪我を負っていたが、ホワイトの魔力でかなり回復していた。


「っ…!貴様等…さっきの攻撃で瀕死になっていたはず…なのに何故…今軽傷でいる…!?」

「ホワイトや駆け付けた団長やシェールさんのおかげだ…」

「団長が一人で戦ってるって言うのにあたし達が倒れたままじゃ…団員として示しが付かないでしょ…」

「…不可能の災いだかなんだか知らないが…団長は団長だからな…」

「お前達……」


 ランスが残った左目で皆を見る。


「俺もカルム師団副団長として…お前と共に戦う…!」

「…まぁ、別に私はカルム師団団長として、ラッシュ師団に協力してる身だから手伝ってるだけだよ」

「ルド…ナギサ…お前等まで…!」

「ランスさん…左腕と右目が…」

「…大丈夫だ、これくらい。お前達が来たから…戦える――」


 ランスが右手に銃を持つ。


「――…お前達みたいな仲間がいるから…戦える…!」


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本編のスピンオフである
悪魔に堕ちて悪魔と結婚した太陽
も連載中!
是非こちらも御覧ください!
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