ep75.不可能という絶望
――スピアの放った青い電撃は、天を貫く。
そしてそれは別世界への扉を開けてしまう程の、膨大な魔力。
「っ…!」
魔力の余波で風が起こる。
「っ…!ランスさん…何が…!?」
「ホワイト…!少し伏せてろ…!」
「っ…!あの青い光…」
ホワイトが青い光を見る。
「まさか…不可能の災いと同じ力の…!?」
青い電撃は突如次元を切り裂くかのように天にヒビを入れる。
「っ…!?ヒビが入った…!?」
「ランスさん…あの光…脳内世界で見た不浄の檻と呼ばれる場所の物の色と…一緒です…!」
「不浄の檻…?ホワイト…なんだそれは…?」
二人がヒビを見上げる。
「その…不可能の災いの魂を封印しているという女神族の世界…それが不浄の檻です…!」
「…女神族の世界…?まさか…!」
天にできたヒビからは、ホワイトが女神界にいた時の世界が少しだけ見えていた。
「ククク…こっちの世界から女神族の世界への入口を無理矢理こじ開けた。そして…不浄の檻に閉じ込められし不可能の災いを…呼び戻そう…!」
天にできたヒビから、手が生えた巨大なヒルのような化け物が現れる。
その化け物こそが、不可能の災いの魂が肉体を持って具現化した物だった。
「っ…!なんだアレは…!」
「あれこそ不浄の檻に住まう化け物…そして不可能の災いの魂だよ…!」
「っ…何…あの気持ち悪い生き物…」
ホワイトの身体が震えていた。
「あれが…不浄の檻に封印されていたというの…!?」
「そして…お前だよランス」
スピアがランスに指を指す。
「………!」
「お前こそが不可能の災い本来の肉体…」
スピアがランスに近付く。
「…俺が不可能の災いの…肉体?」
「ランスさん…逃げて…!!」
「シェールが言ってたのって…そういう…」
「ランスさん…!!」
ホワイトがランスの方へ走り出す。
「…そうか、俺があの時見た幻覚って…」
ランスが天を見上げる。
天にはヒルのような化け物の見た目をした不可能の災いの魂がランスを向いていた。
「…過去だったのか」
ヒルのような化け物がランスの方へ落ち始める。
「ランスさん…!っ…!」
ホワイトが危険を感じ、ランスから距離を取る。
「……ごめんな、皆……」
ランスがヒルのような化け物の口の中に飲み込まれる。
「ランスさん…!!」
ヒルのような化け物は青白く光り出し、辺りを照らす。
「っ……眩し…い…!」
――青白い光が晴れる。
ホワイトが目を開けると、目の前にはランスが立っていた。
「……ランス…さん………?」
「………成功だ」
スピアがニヤリと笑う。
ホワイトはランスの身体からとてつもない魔力の気配を感じていた。
「っ……化け物がいない…それに…目の前には…」
ホワイトがランスに近付く。
「ランスさん…だよね………?」
「…ホワイトか」
ランスがホワイトの方を見る。
「っ……!」
ランスの目は青白く光っていた。
そして、身体全体も服が変わっていたりと変化が起きていた。
「その目は………」
「…本来の魂を得て、思い出したよ。俺の本当の役割を…」
「ランスさん…何を言って…」
ランスがホワイトを睨む。
「っ…!?」
ホワイトの身体から震えが止まる。
そしてそれは…ホワイトの震えだけでなく、動きそのものが止められている事を意味していた。
「なっ…何…これ………身体が動かない…!?」
「……不可能の災い…この力でお前の動きを封じた」
「っ…まさか…本当に…ランスさん…嘘………」
ランスがスピアの方へ振り向く。
ランスは『不可能の災いヴィ・ランス』という人間の神に…生まれ変わってしまった。
だが、不可能の災いと称するにはまだ魔力が足りなかった。
そう…ランス山脈にある魔力の根源である。
「…スピア、俺の本来の魔力は何処だ?」
「あぁ?…あぁ、そうか。貴様…魂と肉体と魔力で分断されてたんだったな」
「っ…!フランさんとメアリちゃんが言ってたあの時の話と…一緒…!」
「貴様の魔力ならここだ」
スピアが赤い魔力の塊をランスに見せつける。
スピアは魔力の根源を回収していたのだった。
ナギサがグニールと戦い、ランスと共にラッシュ師団の基地へ帰った後…
スピアはその隙を窺い、魔力だけを回収していた。
魔力の根源の回収ですら、スピアの魔力ならば造作もない事だった。
赤い魔力の塊は溶岩のような見た目をしていた。溶岩そのものが、魔力の根源…
「…何やら物凄く熱い物に見えるが、これはなんだ?」
「貴様の魔力が含まれた溶岩だ」
「…そうか。なら俺に寄越せ」
「言われなくても」
スピアがランスに魔力を与える。
「っ…ランスさん…そんな…まさか本当に…不可能の災いの…本来の肉体だったなんて…」
「…ホワイト」
ランスがホワイトの顔を左目で見る。
「ランス……さん………」
「………俺は本当の役割を思い出したんだ。不可能の災いとしての…本当の役割を…な」
「っ……そん…な………」
ホワイトが涙を流す。
ランスが身体に溶岩に含まれている魔力を取り込み始める。
「っ…ダメ…だよ…ランスさん…その魔力を取り込んだら…本当に…本当に………」
ホワイトが息を切らしながら話し始める。
「元に戻れなくなっちゃう………!!」
「…ホワイト」
ランスがホワイトを横目で見る。
「ランス、何をしている。貴様はもう本来の魂と肉体を手にした今、不可能の災いヴィ・ランスなのだ。今まさに本来の魔力までも得ようとしている」
「………そうだな」
「っ…ランスさん…!」
「魔力が戻ったら、女を殺してやれ」
「っ…!?」
「…そうだな。女を…」
「そんな…!嫌だよ…辞めてよ…ねぇ…ランスさん…」
ホワイトが繋命の魔力を使おうとする。
だが…例え何個の命の繋がりをもってしても、神には敵わない。
「……ホワイト、少し黙っててくれ」
ランスが目を青白く光らせる。
「っ…!!」
ホワイトの魔力が封じられる。
この魔力こそ不可能の災い…ホワイトの魔力の使用をまさに"不可能"としていた。
「ランスさん…!」
「…ククク、ホワイトよ。お前がいくら呼ぼうがお前の知っているランスはもうここにはいない。今このランスは不可能の災いとして本来の力を取り戻そうとしている。まぁ…私と同じようにすぐに魔力を存分に扱えない可能性はありそうだが」
「っ…スピア…!くっ…うっ…動け…私の身体…!」
ホワイトが身体を動かそうとする。
だが、ランスの魔力で身体すらも動かせなかった。
「…動き過ぎると傷口が更に酷くなるぞ、ホワイト」
「っ…ランスさん…辞めて…!」
ホワイトが涙を流しながらもランスを睨む。
ランスの言った通り、ホワイトの傷口から血が垂れる。
「…ホワイト」
「あぁ、そろそろ私達の時代が来るんだな、ランスよ」
「…そうだな」
ランスがスピアの持っていた不可能の災いの魔力を全て取り込む。
「っ…ランス…さん…」
ホワイトが身体を動かすのを諦める。
「………」
ランスが自身の腕を見る。
ランスの身体には魔力が満ちていた。
「………これが、俺本来の魔力か………」
ランスが辺りを見渡す。
「………止まれ」
ランスが近くに舞っていた砂嵐を睨む。
砂嵐はピタリと動きが止まる。
「…おぉ、ランス…凄い…!そうか…それが貴様の魔力…”不可能の災い”!その対象は有機物だけでなく無機物にも効果をもたらす…今まさに…砂嵐の動きを不可能とした…!」
「…正確には砂嵐の時間停止だけどな。奴の時間が動く事を不可能とさせた。…だが疲れるな」
ランスが息を吐く。
ランスにも封印の余波は感じていた。
「っ…ランス………さん……」
「…さてと」
ランスがホワイトの方を見る。
「っ…!!」
ランスがホワイトを睨む。
「っ…身体が……動く……!?」
ホワイトが手を動かす。
「…動かぬかつての仲間をそのまま殺すのも嫌だしな」
「っ…!?」
「………」
ランスがホワイトに近付く。
「…そっか…ここまで………か………」
ホワイトが下を向く。
この場において…誰も可能の災いと不可能の災いに対抗できる術は持たない。
ミカは岩が腹を貫通し重傷。ジンもスピアに飛ばされ、重傷。
ナギサもスピアに刺され、重傷。ルドもスピアに殴られ、重傷。
そして…今まさにホワイトがランスに殺されようとしていた。
「…私は今ここでランスさん…いや、不可能の災いヴィ・ランスに殺されて…そして………」
ホワイトが涙を流す。
「…お母さんとの約束を…果たせないまま………」
ホワイトが目を閉じる。
「………もういいだろ」
ランスがスピアの方を見る。
ランスの言葉を聞いてスピアが疑問に感じる。
「何がだ?」
スピアが首を傾げる。
「…演技は」
「演技?」
スピアがそう言うと、スピアの背中に銃弾が撃ち込まれる。
「っ…!?」
「っ…!?」
ホワイトとスピアが驚いた表情をする。
スピアの背中から血が出る。
「…この銃声……まさか………」
スピアの後ろには…
ラッシュ師団副団長、シェールが立っていた。
「シェールさん…!?」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
シェールが銃を構えながらも手が震えていた。
「…は…クソ…何が起こっ――…!!」
スピアが振り向き、シェールを睨む。
「貴様か…!!」
スピアが剣を魔力で生み出そうとする。
だが…
「……あ?」
スピアは魔力で剣を作る事ができなかった。
「何故作れない?」
スピアが自身の手を見る。
自身の手には魔力が満ちていた。
魔力が満ちているという事は使用できるはずだった。
「…いや、魔力がある感じはする…なのに何故――」
スピアがランスの方を見る。
魔力が使用できない理由…それはたった一つだった。
「…まさか…」
「…そのまさかだよ、スピア」
「ランス…!?」
ランスはスピアを青白い目で睨んでいた。
ランスがスピアの魔力を封じていた。
「どういうつもりだ…貴様!!」
「…どういうつもりも何も……最初から俺は…不可能の災いの魂や魔力に飲み込まれてない…。寧ろ…取り込んだ…!」
「は…!?」
「え…!?」
「…言葉通りの事だ。なぁ、シェール?」
ランスがシェールの方を向く。
ランスは不可能の災いとしてでなく、ラッシュ師団団長としての意識を保ち…
不可能の災いとしてでなく、一人の人間としてスピアを裏切ったのだった。
「少し怖い賭けだったけどね…!!」
「え…怖い賭け…え…え…?」
ホワイトがシェールとランスを交互に見る。
「…えっと…その…どういう…?」
「…ごめんなさい、ホワイトちゃん」
「え…シェールさん…?」
「…けれど、あなたが嘘をつけない正直者だったおかげで…良かった…!」
「えっと………」
ホワイトが考え始める。
そして…一つの考えに至った。
シェールの魔力によってホワイトが心を読まれ…
不可能の災いと言う存在がシェールに伝わり…それがランスに…
「っ…まさか………私の心をあの時…!?」
「…そうよ」
「っ…どういう事だ…!?」
スピアがランス達を睨む。
「…正直俺もよく分からない。だが…今一つ言える事がある」
ランスがスピアを睨む。
「――俺達の反撃の時間だ…!」
後書き~世界観とキャラの設定~
『不可能の災いヴィ・ランス』
…ランスの真の姿。
スピアの可能の災いの力により、無理矢理女神界の入口を開けられ、ランスは魂を得てしまう。
海の奥底に封印されていた肉体、女神族によって封印された魂、ランス山脈に封印された本来の魔力…それら全てが揃い、一つに纏まる。
男性の姿で低めの声。
神に等しい存在…いいや、神。
この姿こそが、『不可能の災いヴィ・ランス』と言う存在。
不可能の災いは、全てを不可能にする。
例えそれが、因果を破壊する事でも。
ある時は人の腐敗を止め…ある時は人を窒息させ…
彼こそ、全てを不可能にする全知全能の神である。
…神でありながら、意思を持つ人間である。
『スピアは完全復活しているのか?』
…肉体を取り戻し、魔力も魂もそこに存在するが復活の余韻か、本来の魔力の20%にも満たない出力しか出せていない。
つまり…叩くのは今である。




