ep73.幼き神
「っ…!」
スピアがナギサの剣を避ける。
「どうしたの?私の攻撃を受けたら魔力が使えないってなると、やっぱり動きづらいかしら?」
「チッ…貴様なんぞ…魔力が戻ればいつでも潰せるというのに…!」
「…その小物みたいな台詞、好きだよ」
ナギサがスピアに攻撃し続ける。
「っ…」
「あたしだっているのよ!」
ミカがスピアに近付き、剣を振る。
「っ…邪魔をするな…!」
スピアがナイフを振り、ミカの足に攻撃する。
「っ…!」
「ミカちゃん…!」
ミカの足に切り傷ができる。
「大丈夫…です…!」
「ミカ…!」
ホワイトがミカの傷を回復する。
「ミカ…大丈夫…!?」
「…平気。まだ立てる」
「ふん、立てた所で今の切り傷で毒を…っ…!」
ロキがスピアの身体を銃弾で撃ち抜く。
「俺の攻撃…忘れてないか?」
「チッ…!」
スピアがそう言うと、大量のナイフを浮かせ、すぐさま飛ばす。
「ルド…!」
「おう…!」
ルドが巨大なシールドを展開し、ナイフを守る。
「クソが…!」
「今よ、ジン君…!」
「はい…!」
「何っ…!?」
スピアがジンの方を向くと、ジンが右手に炎の魔力を最大まで込めていた。
「…ぶっ放す」
「っ…辞めろ…その魔力を使えばオアシス諸共…!」
「…この街の人には申し訳ないけど…それでも…!」
「っ…!」
「燃え尽きやがれ…!!」
ジンが放つ巨大な炎がスピアに向かって飛ぶ。
「っ…!」
巨大な炎の影響で爆発が起こる。
「っ…!ルド…!」
ルドがシールドを展開しようとする。
「っ…ホワイトさん達の方への展開が…間に合わない…!」
「うぅっ…うわっ…!」
「ホワイト…!」
爆風で吹き飛びそうになるホワイトをミカが掴む。
ミカがもう片方の手に持つ剣を地面に刺して飛ばないように固定する。
「しっかり…!」
「ミカ…!」
「っ……くっ……」
ミカが足の痛みに苦しむ。
「この手を離さないで…!」
「っ…!」
辺りが爆風で覆われる。
「…ホワイト!」
「はぁ…はぁ…ミカ…ありがとう…」
「大丈夫…ゲホッ…」
ミカが咳をする。
辺りに砂煙が舞っていた。
「舞い上がってた砂を少し吸っちゃった…ゲホッゲホッ…」
「ミカ…しっかり…!」
「そんな事より…スピアの方!」
「っ…!」
ホワイトとミカがスピアの方を見る。
「……!」
スピアの全身が黒く焼けて倒れていた。
そして、スピアの後ろにあったオアシスの水が全部なくなっていた。
「水を全部…蒸発させてる…!」
「……あぁ。でも今ので…魔力の限界が…」
ジンがその場に倒れそうになる。
「っと…」
「…ロキ」
ロキが倒れそうになるジンの肩を持つ。
「すまないロキ…」
「…いいや、よくやった」
「安心するのはまだ早いよ皆…!」
ナギサが声を上げる。
「っ…!」
「……クソが」
スピアが声を発する。
身体が黒く焼けたスピアが血を吐く。
「っ…!」
「やっぱりまだ…!」
スピアが拳を握る。
「……はははは」
スピアが笑いながら立ち上がる。
「っ…!?」
「あの状態でまだ立てるの…!?」
「……驚いたよ、ジン。貴様の魔力は絶大だ。まるで悪魔みたいだな」
「っ…スピア…!」
ジンがスピアを睨む。
「っ…あぁ…全身が焼けるように痛い…いや、焼けてるから痛いのか…はははは……」
スピアが上を向く。
そして、スピアが腕を広げる。
「…よくやってくれたよ、悪魔よ」
「…何だと?」
「…私の思った通りになったよ、ゲホッ…」
スピアが咳をする。
「思った通り…だと…?」
「っ…!」
ナギサがスピアに近付き、スピアの首元に剣を差し出す。
「可能の災いディ・スピア…あなたを処刑する…!」
「私の思った通りの活躍をしてくれてありがとう、ジン…!」
ナギサの動きに構わず、スピアがジンに感謝をする。
「…何を言ってるんだお前は…?」
一体何の感謝なのか、ジンには到底理解できなかった。
「っ…!」
ナギサが剣を振り、スピアの首を斬る。
スピアの首が斬られ、血が飛び散る。
スピアの身体がその場に倒れる。
「ナギサさん…!」
「……」
ナギサの顔にルキの血が付く。
ナギサの目からハイライトが無くなっていた。
スピアの首は斬り落とせなかったが、大量に出血していた。
「…魔力の影響か、斬り落とせはしなかったけど…この入り方的に即死…ね」
「ナギサさん…」
「ナギサ…!」
ルドとロキがナギサに近付く。
「ナギサさん…あなたが…あなたがやる必要なんてなかった…女性のあなたの手を汚す訳には…」
「…この人は…いや、この化け物は私を庇ったホワイトちゃんを傷付けた…だからこそ…私が処刑するべきだったの」
「っ…」
「…けれど、これで終わりね。ネオカオス四天王のルキって子も諸共斬っちゃったけど…いいわよね?」
ナギサがホワイトの方を見る。
ホワイトがナギサの目を見て恐怖を覚える。
「っ………」
「…いいわよね?」
「………はい」
ホワイトが小さく頷く。
「…良かった」
ナギサが笑顔になる。
ナギサの目にハイライトが戻る。
「…ルキ……」
ホワイトが倒れているルキの顔を見る。
ルキは首から出血し続けており、息の根も止まっていた。
「…身体は燃えてる…首も斬ってる…スピアはほぼ死んだも当然ね。憑依されていたルキは気の毒だけど…」
ミカがルキの顔を見下ろす。
「…ジン君?」
ナギサがジンの方を見る。
「…なぁ…ナギサさん…」
「何…?」
「…その…おかしくないですか…?」
「…私が?確かに私は今までは殺しを躊躇ってたけど…ある日を境に殺しを…」
「そうじゃない…スピアの言葉…」
「スピアの言葉…?」
ナギサが首を傾げる。
「…奴の言葉、思った通りになったって一体…」
「思った通り…?でもスピアは今こうして首を斬られて死亡…魔力の気配もないし…」
ナギサの言う通り、首を斬られたルキ…もといスピアの身体からは息も感じられず、魔力の気配もなくなっていた。
ホワイトがナギサに近付く。
「ナギサさん…顔に血が…」
ホワイトがハンカチでナギサの顔を拭う。
「…ありがと、ホワイトちゃん」
「それにしても…水を全部蒸発させるなんて…」
ミカが水のあった場所を見る。
オアシスは完全に枯れきっていた。
「でもまぁ…スピアに全部吸収されるよりかはマシか…」
「…皆、よくやってくれた。ありがとう」
「ルドさん…こちらこそ…」
安心しきったのも束の間…
事態は突如、急変する…
「ほう、ルキは内頚動脈をやられたか」
ナギサの背後から謎の女の声がする。
――高く、透き通るかのような少女の声。
――だがその声から連想できる、死の幻覚。
「っ…!」
ナギサがすぐさま振り向こうとする。
だが、謎の圧力で振り向けなかった。
ナギサですら怯むような圧力。
彼女の全身に恐怖が襲っていた。
(な…に…この…圧力…!)
「…!」
「なっ………」
ジンとロキがナギサの後ろの方を見て驚いた表情をする。
「貴様は殺さないでおいてやろうという約束、果たせなくて済まなかったな」
ナギサの後ろにはとても長い白髪の謎の少女が立っていた。
目は赤く小柄で10歳くらいの少女…細身だが栄養が満ちている肉付き。
その少女は裸身を晒し、大事な部分を長い髪で隠すように立っていた。
しかしその少女からとてつもない圧力を感じる。
そして…その喋り方には…既視感があった。
(女の…子供…!?)
ジンがそう思っていられる余裕もこの空気にはない。
謎の少女はルキを見下ろす。
「ならば貴様の魔力…私が貰い受けよう」
謎の少女はルキの身体を髪で包み込もうとする。
魔力を貰い受けるという言葉の通り、ルキの魔力を奪おうとする。
「っ…!」
ロキがすぐさま銃を構え、少女に向かって銃を撃つ。
だがロキの身体を一瞬で貫くかのような痛み。
「っ…!?」
ロキの右胸を謎の魔力が貫通して攻撃していた。
「がはっ…」
ロキが吐血する。
謎の少女の持つ、謎の魔力。
衝撃波を飛ばしたのか、何か玉を飛ばしたのか、それすらも分からない。
ただ、高速で強靭な何かがロキの右胸を貫通していた事だけは分かっていた。
「っ…!?」
「ロキ君!?」
ホワイトがロキの傍に寄る。
「がっ…はっ…はぁ…はぁ…クソッ…」
ロキが出血する右胸を押さえる。
「ロキ君…しっかり…!」
ホワイトがすぐさま回復魔法をかける。
「前の身体として使ってたが…やはりいい魔力だ。今後の私に必要だ」
「前の身体…?それにこの魔力の気配…まさか…スピア…!?」
ジンが謎の少女に銃を向ける。
「察しが良くて助かるよ、ジン」
謎の少女がジンを睨む。
この少女こそ、スピアだった――
少女の姿で高い声。傍から見ても子供にしか見えない也――
だがそんな見た目でも神に等しい存在…いいや、神だった――
この姿こそが――
『可能の災いディ・スピア』と言う存在だった――
「この身体の私こそが本来の私…可能の災いディ・スピアだ」
「っ…!」
「良い見た目だろ?かつて人間が取っつきやすい姿を作ってみたんだ」
スピアが腕を広げる。
裸身を見せびらかすとんでもない行動に出たかと思いきや、スピアが魔力で生成した服を身に纏う。
何か特殊な布で作られたかのような、ローブの様な、偶像が着ているような服のような――
これが神という者なのか――
「本来の肉体…でもだとしたら…何故…!?」
「まだ分からないのか?あの水の中に…私の本来の肉体が眠っていた。水を蒸発したから引っ張り出せた、斬られる寸前に私の魂を移し、憑依しただけのこと」
「っ…!?」
「本当は水を全て吸い取って糧にする予定だったが…まぁいい」
スピアが目を赤く光らせる。
「潰れろ――」
スピアがそう言うと、スピアの魔力で近くにある家が浮き上がる。
「っ…!」
浮き上がった巨大な家が皆の方へ突っ込む。
皆を潰さんと、襲い掛かる。
「皆伏せ…」
ルドが魔力で巨大なシールドを展開する。
シールドと家がぶつかり合い、辺りに砂が舞う。
「うぐっ……」
スピアが飛ばしてきた家が自分達を潰しにかかったはずだった。
辺りに舞うのは砂ぼこり。
巨大な建造物が空中から落ちれば、吹き飛ぶか潰されるのは当然。
だが、どういう訳か身体が無事だった。
ホワイトの身体は潰されずに無事だった。
砂が舞っている中、ホワイトが立ち上がる。
「ゲホッ…ゲホッ…砂…口の中に入って…気持ち悪い…」
ホワイトが咳をする。
「はぁ…はぁ…」
(頭…痛い…)
ホワイトが額に手を付ける。
「っ…!」
ホワイトの手に血が付いていた。
ホワイトは額から出血していた。
頭から足までボロボロでかなりの重傷だった。
だが瀕死とまではいかない、まだ立てるくらいには力は残っていた。
「頭から出血…してる…そうだ…皆は…!?」
ホワイトが後ろを振り向く。
「…!?」
ホワイトの後ろにはミカが立っていた。
「ミカ…!無事だっ…た……の…!?」
ミカの腹には岩が突き刺さって大量に出血していた。
飛び散った岩がミカの身体を貫いていた。
「…ホワ…イ…ト……ゲホッ…」
「ミカ!?お腹に岩が刺さって…」
「…ごめ………ん……」
ミカがその場に倒れる。
「ミカ…!!」
倒れるミカにホワイトが回復魔法をすぐさまかける。
効力はあった、ミカはまだ生きている。
重傷だがまだ救える、ホワイトはそう思っていた。
「ミカ…しっかりして…ミカ…!」
「………ホワ…イト…あたし…なんかより…」
「…!」
ホワイトが気配に気付き、後ろを振り向く。
「…!?」
ホワイトが見た先には、ルドが立っていた。
そして、それに対立するかのようにスピアが向かい合っていた。
「ルドさ…」
ホワイトが言葉を続けようとするが、その間も許されない。
スピアがルドの腹に殴りかかる。
「ぐっ…!!」
ルドが吹っ飛ぶ。
軽く殴りかかっただけなのに、瓦礫の壁まで飛ぶルド。
この力こそ、災い――
「ルドさん!?」
「あぁ、この感じ…この感じだよ…可能の災いとは…本来こういう物なんだよ…!」
スピアが腕を広げる。
「っ…スピ…ア……」
ホワイトがスピアの方を見て後退し始める。
「貴様はシールドを展開するのは早かったが、流石に家の重量には耐えられず決壊。その瓦礫に巻き込まれ全員にダメージ。いい余興だったぞカルム師団の副団長とやら」
「っ……クソッ……この……がはっ………」
ルドが吐血する。
ルドが気を失ってしまう。
「っ…ルドさん…そん…な…」
「…さてと、次は…」
「っ…!!」
スピアが勝った気でホワイトを見る。
スピアの表情はまるでホワイトを嘲笑うかのように。
スピアがホワイトの方へ歩き始める。
「嫌…だ…来ない…で……」
「貴様だ――」
スピアの拳に強烈な魔力が込められる。
ホワイトに向かって歩くスピア。
――絶体絶命。
後書き~世界観とキャラの設定~
『可能の災いディ・スピア』
…サキュアに封印されていた少女の肉体。
この少女こそ、スピア本人だった。
少女の姿で高い声。傍から見ても子供にしか見えない也…
だがそんな見た目でも神に等しい存在…いいや、神。
この姿こそが、『可能の災いディ・スピア』と言う存在。
可能の災いは、全てを可能にする。
例えそれが、因果を破壊する事でも。
ある時は人を殺し…ある時は人を蘇らせ…
彼女こそ、全てを可能にする全知全能の神である。




