ep71.災いの力
――ジンとエルの唐突な口付け。
これはきっと何か理由がある、若しくは間違ってしてしまった。
そのどっちかだと思われていた二人の接吻。
エルはジンに口付けをし続ける。
「ちょっ…何すんだよ…」
ジンが顔を赤くしながらもエルを振り払う。
ジンも年頃の男だった。少女にキスされれば、ジンと言えど照れてしまう。
「良かった、無事で…あの後死んじゃったのかと思って…ずっと…ずっと心配してた…」
「…話が見えてこない…何だお前は…」
「っ………!」
ホワイトが顔を赤くしながらジンの方を見る。
「かつて私をサキュアに連れて行ってくれようとしてくれたのがジン…君だよ。覚えてないの…?」
「…覚えてない。そもそもお前とは初対面だ…だから…」
「私は覚えてる…例え数年経とうと…君との事はずっと忘れなかった…」
エルはジンの事を覚えているかのように話すが、ジンの記憶の中にエルは存在しなかった。
「ジン君…その子と知り合いなの…?」
「知らねえよ…そもそも初対面ってさっき…ッ!」
エルがジンの口の中に舌を入れる。
「…!?」
ホワイトが顔を赤くしながら二人を見つめる。
「ゲホッゲホッ…辞めろ…」
ジンが咳をする。
「…事情はよく分からないけど、なんとなく分かった事がある」
ミカがそう言うと、ジンの胸倉を掴む。
「ちょっ…何すんだミカ…」
「…アンタ最低ね」
「は…?」
ミカがジンを睨む。
「ホワイトという子がいながら…アンタって奴は…!」
「誤解だ…!そもそもエルなんて女…俺は知らねえ…!覚えて…ねぇ!」
「…そっか」
エルが目を逸らす。
「…ジン君」
ホワイトが顔を赤くしながらもジンの方を見る。
「ホワイト…これは誤解だ…これは…」
「…私、エルと話がしたい」
「ホワイト…?」
「エルにスピアの事と…ジン君との事…教えて貰いたい」
ホワイトがそう言うと、エルがホワイトの方を向く。
「ホワイトって言ったね」
「…うん」
「そのスピアって人かどうかは分からないけど、ルキって名乗ってた人なら会ったよ」
「…!」
「本当か…!?」
ジン達が驚く。
「私もルキって名前には聞き覚えがあるからよく覚えてる。かつてジンと一緒に行動してた仲間の一人だったよね」
「っ…どうしてそこまで…!」
ジンがエルの方を睨む。
ジンはルキがかつての仲間だったという事すら知りえていた。
ジンが強く疑問を持つ。
「お前は俺の何なんだ…!?お前は一体…何者なんだ…!?」
「ちょっとジン君…!?落ち着いて…!」
ホワイトがジンの服を引っ張る。
「…すまない」
「…ふーん」
エルがホワイトとジンの方を見る。
「今はホワイトと付き合ってるんだね」
「違っ…まだ付き合ってなんて…」
「…そうだ」
「ジン君…!?」
「…今はこいつと付き合ってる。悪いが…俺の事は諦めてくれ…」
「ジン…君…」
「…そっか」
エルはそう言うと、目線を下に向ける。
そしてエルは、ルキに会った時の事実を伝える。
「…ルキと名乗った人はオアシスの方で別れたっきり。そこからは出会ってない。けれど、オアシスの水に込められている魔力に興味津々だった。だから今はそこにいるかもしれない…」
「そうか、助かる。行くぞホワイト、ミカ…」
ジンが先頭に立ち、歩き出す。
「ちょっ…ジン君…!」
ホワイトがジンについていく。
「………」
ミカがエルの方を一瞬見る。
エルはずっと下を向いていた。
「…後で色々話そう。今はルキに用があるから…それが終わったら…ね」
「…うん」
ミカがジンとホワイトについていく。
「…………」
「…良かった」
エルが走る三人を見えなくなるまで見つめる。
――オアシスに着く三人。
「このあたりか…!」
ジンが辺りを見渡す。
「スピア…何処に行った…!」
「ジン君…」
ホワイトがジンを見つめる。
「…ねぇ、この水」
「ん…?」
ミカがオアシスの水を手で掬う。
魔力に溢れた水…ミカの手がバチバチとする。
「…この水、魔力に満ちている。もしかしたらスピアはこれを狙ってここに…」
「水…?」
ジンがオアシスの水の方へ近付く。
「…本当だ、魔力に満ちている」
「この魔力…!」
ホワイトが水を見て何かに気付く。
女神族の力を一部持つホワイトには一瞬で気付けた。
「間違いない…この水…女神族の加護みたいなのがある…!」
「え…?」
「なんだと…?」
「この気配…この感じ…癒しの神様や他の女神様と会ってるから分かる…この水そのものに女神族の加護が…!」
「加護…か」
ジンが手で水を掬う。
「…この水が、もしかしたらこのサキュアを維持しているのかもな――」
「素晴らしい考えだな」
三人の後ろからルキに憑依したスピアが現れる。
「可能の災い…!」
「ルキ…!」
「スピア…!」
「やれやれ、呼び方は一つに絞って欲しい物だよ」
スピアが頭を掻く。
スピアが三人を見つめる。
「えっと…スピアマウンテンで背中を滅多刺しにした小娘と、腹に猛毒のナイフを刺した小娘と…貴様は誰だ?」
「…俺は」
「あーいやいや、名乗らなくていい。貴様がジンだな?この身体の記憶に眠っていた奴だ。かつて仲間だったが今は敵対関係の…」
「…それ以上喋るな」
ジンがスピアに銃を向ける。
「…やれやれ。その水の奥には私の本来の肉体がある。私はそれを回収したいだけなのに…何故邪魔をする?」
「回収したら…どうするつもりだ…!?」
「貴様達…いや、この世界に生きる全ての生き物を支配し、私達の理想の世界を作るのが私の目的だ」
「っ…なんて奴…!」
ミカが銃剣を構えながら通信機を操作する。
「団長…スピアと接触した…!オアシスにいる…!」
「了解した。サキュアの民を安全な場所へ避難させる。それまで…持ちこたえてくれ」
「…了解」
ミカが通信を切る。
「…今持ちこたえてくれとか聞こえたが、気のせいだよな?」
スピアがミカを睨む。
「…持ちこたえるのがあたし達の仕事。そして…あたし達には持ちこたえれるくらいの実力がある…!」
ミカがそう言うと、ホワイトも麻酔銃を構える。
「…ほう。あの時の滅多刺しの女も…戦う事を覚えたか」
「っ…スピア…あなたはナギサさんの事を殺そうとした…だから許さない…!」
「動機が不純だな。本当はあの時殺せるはずだったんだが、結果として貴様はあの戦いを生き延びたじゃないか。あの戦いを生き延びてのんびりと生きていればいい物を…」
「っ…!」
「ここで持ちこたえるなんて安い考えをした事…後悔させてやろう…!!」
スピアはそう言うと、ナイフを大量に浮き上がらせる。
「来る…!」
「このまま死ね…!」
スピアが三人に指を指す。
そして、ナイフが三人の方へ高速で向かう。
「っ…!」
「横にかわして…!」
ミカがそう言うと、三人は横に走ってかわす。
「ほう」
スピアが走る三人を目で追う。
「ちょっとはやるみたいだな」
スピアがそう言うと、ジンが銃から火炎放射を撃つ。
「おっと」
スピアが魔力でシールドを展開する。
「お前の武器は…銃がメインだな」
「…だったらなんだ?」
「楽勝だ」
スピアはそう言うと、ジンに高速で近付く。
「っ…!」
「その銃を落とせば私の勝ちだ」
スピアがジンの持っている銃を蹴り飛ばそうとする。
「っ…!」
ミカが銃剣でスピアの足を止める。
だが銃剣の刃はスピアの身体に一切傷を付けれなかった。
「ミカ…!」
「っ…刃が入っている感じがしない…!」
ミカの言葉にスピアが不敵な笑いを見せる。
スピアがミカから距離を取る。
「攻撃する際に足に魔力を付与して正解だったな。してなかったら斬り落とされてたところだったな」
「ミカ…助かった…」
「…大丈夫。それより…次来る…!」
「…!」
スピアが大量のナイフを浮き上がらせる。
「させるか…!」
ジンが銃で火炎放射をナイフに向かって撃つ。
ナイフが魔力を失って落ちる。
「小賢しい…!」
スピアがジンに再び近付く。
「だが、その様子だと近距離戦には向かなさそうだな」
「…!」
スピアがジンに殴りかかる。
だが、ジンがその拳を銃で受け止める。
「っ…力が強い…!反則級かよ…!」
スピアの力にジンが押され…
スピアの拳にジンの銃が浮き上がる。
「っ…!」
「終わりだ」
「…って思うよな」
ジンはそう言うと、右手から炎の魔力を作り出し、スピアに向かって撃つ。
「…!」
スピアはすぐに気付き、炎の魔力を避ける。
「…危ないなぁ」
「…今、避けたな」
「ジン…」
ミカがジンの近くに寄る。
「フェクトから得た情報はやっぱり正しいみたいね」
「…あぁ。スピアの持つ可能の災いとやらの力は確かに強力な物が多い。だが一つずつしか扱えない。ナイフを浮かび上がらせたり、シールドの展開、足や拳を強化…全部できるけどそれぞれどれか一つしかできない」
ジンとミカは予めフェクトに確認していた。
スピアとのまともな戦闘経験があるフェクトから情報を得れば、対処も思い付くと。
そして、スピアは一つずつしか強力な魔力を扱えないという事を。
「…そうね。そしてこれは推測だけど…あの様子だと今のスピアの身体強化には限度がある。もしも可能の災いとやらが歴史通りの無茶苦茶な効果だとしたら…既にジンの銃や腕も…あたしの銃剣や腕も吹き飛んであたし達は負けてる…!」
「…あぁ。だとすると…本調子ではないって事か」
「…そう。そして、その本調子を得るために本来の肉体を得る…それが奴の目的…」
「その肉体を得るために、オアシスの水を吸収しようとしていた…って事か」
「恐らくは…」
ミカが銃剣を構える。
「それなら団長やナギサさん達が来る前にある程度削っておけば…」
「勝てる…!」
ジンがスピアに銃を向ける。
「…ははは。やるようだな、二人とも。いや…三人か」
スピアが高笑いする。
後ろ側にいるホワイトをスピアが睨む。
「小娘とジンしか戦ってないように見えて…その後ろにいる小娘が二人の回復を行っている…!僅かな傷すらも回復して万全な状態で戦おうとしている…いい事だな」
「っ…!」
スピアが肩を触って鳴らす。
スピアの身体に魔力が満ちる。
「…だが、私にも感覚が戻ってきた」
スピアはナイフを浮き上がらせる。
「今…!――」
ジンが銃で火炎放射を撃つ。
「…で、浮き上がらせた瞬間に攻撃しようとか考えるよな」
スピアはそう言うと、魔力でシールドを展開する。
「…!?」
「くたばれ」
スピアはシールドを展開しながらナイフを飛ばす。
「っ…!避け…」
「っ…すまんミカ…ホワイトをたの…」
ナイフの嵐がジンに襲いかかる。
ジンが諦めかけていたその瞬間…
ナイフが全て撃ち落とされる。
「…!」
「…なんだと?」
「この魔力の気配…!」
ホワイトが顔を上げる。
「ナギサさん…!」
ナギサがスピアの浮き上がらせたナイフを全て剣で斬り、撃ち落としていた。
「…ごめん、待たせたね」
ナギサがホワイト達の元へ寄る。
「俺もいるぞ」
「俺も」
ロキとルドが走ってホワイト達の元へ寄る。
「ロキ君…!ルドさん…!」
「三人共…よく耐えてくれた」
ルドがそう言うと、スピアの方へ向く。
「…小娘が増えた上に…男までも湧いただと?」
スピアが六人の方を見て睨む。
「…久しぶりね、スピア。ずっと…君に会いたかった」
ナギサがスピアに剣を向ける。
「私は会いたくなかったよ、カルム師団とやらの団長よ」
「ふふっ。私の事、覚えてくれて嬉しいよ」
「…あの時より自信満々だな、この私の前に立っていると言うのに」
スピアがナギサを睨む。
「…もう怯えてる場合でもないの。それに…今はホワイトちゃんやミカちゃんだけじゃない。ジン君やロキ君、ルドもいる。守りたい物がいっぱいいる状態…」
「…ふん、足手まといとでも言いたそうだな?」
「違うわ」
ナギサがそう言うと、水の魔力を剣に込める。
「守りたい物が多いからこそ…戦い甲斐があるって物よ…!!」
――皆が武器をスピアの方へ向ける。
後書き~世界観とキャラの設定~
『エル』
…サキュアに住む少女。ミカも感知できるほどの強い魔力の気配を持っている。
そして…ジンに会って早々ジンに対して口付けをする。
どうやらエルは過去にジンと会っているが、ジンはそのことについて忘れてしまっているようだが…?




