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白と悪魔と  作者: りあん
第二部 可能と不可能の根源
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ep70.砂漠の秘境

 ――砂漠の秘境サキュアにて…


「…ここがサキュア」


 ルキの身体に憑依しているスピアがサキュアの中を歩いている。

 外に人はあまりおらず、レンガなどでできた古い家が何個もあった。


「あまり人はいないみたいだが、ここで暮らそうと考える物好きには丁度いい場所ではあるか」


 スピアが辺りを見渡す。


「私の本来の身体は何処だ?」

「なんだ、旅人か?」


 スピアの近くにサキュアの住人が現れる。


「あぁ?なんだ貴様…じゃなかった、あなたは?」


 スピアが言い直す。


「俺は名乗る程の者じゃねえ。ここはサキュア、砂漠の秘境とも呼ばれる街だ。今はとある人のおかげである程度栄えるようになったが、今でもなおここを砂漠の秘境と呼ぶ者が後を絶えないんだよ」

「ほう、とある人…」


 スピアが腕を組む。

 住人がスピアの服装を見つめる。

 ルキの服装…殺し屋とも見えれば旅人とも見える装備だった。


「旅人…って柄の見た目だな、嬢ちゃん」

「…まぁ、多少は。欲しい物があってここに来た」

「そうか。まぁゆっくりしてくれ。ここには旅行でもなかなか来てもらえない場所だからな…」

「…ふむ。まぁ見ていくとしよう」


 スピアが住人と別れ、歩き始める。


「…アレは、監視塔か?」


 スピアは監視塔を見つける。


「監視塔…砂漠に住まう魔物とかを警戒してたのだろうか」


 スピアが腕を組む。


「塔の一番上…」


 スピアは塔の一番上に人影がいるのを確認する。


「…!」


 監視塔の一番上には少女が剣を床に刺して立っていた。

 その少女からただならぬ魔力の気配を感じていた。


「…なんだ、あいつは。ただならぬ魔力を感じる…」


 スピアが少女を見ながら呟く。

 だが、スピアには目的があった。自分の本来の身体を手に入れると言う事を。


「…だが、別にあいつはどうでもいい。今は私の肉体を優先だ」


 スピアはそう言うと、監視塔を後にする。



「今のは…」


 少女が監視塔からスピアを見下ろす。

 スピアのただならぬ魔力に少女も気付いていた。


「旅人…ではないな」





 スピアがオアシスを見つける。


「おぉ。このオアシスは…とても魔力に満ちているな」


 スピアは手で水を掬う。

 手で掬っただけだが、その水はとても魔力に溢れていた。


「…この量だけでもまずまずの魔力量。全部吸収して私の物に――」


 スピアが考え始める。

 だが、フェクトの魔力も吸収した今の身体では魔力を吸収するのは不可能だった。

 これ以上吸収してしまうと、決壊しかけない。スピアはそう考えていた。


「…いや、今のこの身体ではこのオアシスの魔力を全部吸収するのは不可能だ。まぁ、私の完全な肉体を取り戻してからでもいいだろう」


 スピアがそう言うと、スピアが水の底から魔力を感じ取る。


「…!この魔力の気配…」


 スピアがオアシスの水の底を覗く。

 綺麗な水だったが底が見えなかった。


「間違いない。この奥に…水とは別に魔力が感知できる。しかもこの水…深い」


 スピアが魔力で透視能力を使う。


「…見つけた」


 スピアはオアシスの底に眠っている人型の魔力を感知する。


「…間違いない、アレこそ…私の肉体!」


 スピアはそう言うと、オアシスの水の中に潜り始める。


「っ…!」


 スピアは違和感を感じ、水から出る。

 スピアの身体が震える。スピアは一つの考えに至る。


「…身体中に痛みを感じる…なるほど…女神族の仕業か…!」


 スピアが水を見下ろす。


「水には直接入れない…ならばこの水を無理矢理にでも吸収――」


 スピアが言葉を続けようとすると…

 スピアの首元に剣が現れる。


「っ…!」

「何してるの…?」


 スピアの後ろには監視塔にいた少女がいた。

 スピアの首元を今にも斬ろうと立っていた。


「このオアシスが気になって水の中に入ってみたかったのよ」


 スピアがルキの口調を真似て話す。


「この魔力が満ちた水に飛び込むなんて、おかしな人ね」


 少女がスピアの首に剣の刃を近付ける。

 スピアは剣の刃を手で掴む。


「辞めて、死んでしまうでしょ?」

「女の子ぶってもダメだよ。君…その身体の持ち主じゃないでしょ」

「何故そんな事が言えるのかしら?私はルキ、旅人よ」

「ルキ…か」


 少女がスピアの首に剣を近付ける。

 スピアの手は剣を押さえ続けて出血していた。


「ちょっと待って、名前を言っただけでしょう?」

「ルキって名前には聞き覚えがあってね…」

「っ…そういう事かよっ…!」


 スピアは口調を戻し、少女の腹に肘で攻撃する。


「っ…!」


 少女が剣を離す。


「…!」


 スピアが右手にナイフを持ち、振り向いて少女の首を斬ろうとする。


「危な…」

「…!」


 少女は剣でスピアのナイフを押さえる。


「…今の動き、私にも見えなかった。何者だ?」

「私はエル…ここサキュアで皆を守ってる」

「エル…いい名と魔力の気配だ、殺すのは惜しいな」


 スピアがナイフを引っ込める。


「私の魔力の気配が分かるんだ」


 エルが剣を納める。


「あぁ、まるで限界を感じさせないような膨大な魔力…そして何より、異質だ。欲しい…」


 スピアが舌で自身の唇を舐める。


「あげないよ」

「そいつは残念だ」

「…私の魔力はあげない、あげたい人がいたから」

「あげたい人か、ばかばかしい」


 スピアが振り向く。


「エルと言ったな。その名…覚えたぞ」

「…次は殺すぞって合図?」

「そうかもな」


 スピアがその場から去る。


「…生きてるかもって希望は持てたから、いっか」


 エルは監視塔の方へ歩き出す。






 ――サキュアに到着するラッシュ師団とカルム師団の一行。


「到着したな」

「うん」

「砂漠の街と言う割には栄えてるね。かつては魔力が殆ど満ちてない限界集落だったみたいだけど」

「スピアを見つけ次第知らせろ。そして…作戦通り討伐だ」

「ちょっと待って団長、それだと街の人に被害が出る可能性がある…被害は最小限にするべきよ」


 ミカがランスの目を見る。

 ミカの言う通り、スピアを見つけてもすぐに戦闘になるだけだった。

 戦闘を始めてしまうと人々に被害が出てしまうのをミカは危険視していた。


「…そうだな。だがどうする…?」

「スピアが人々に慈悲はかけないタイプなのは理解してる…だからこそ、街の人を避難させてから戦闘するのが一番ね」

「それなら私に考えがある。前衛四人でスピア探しに…」


 ナギサが話しながら監視塔を見る。


「…いや、私とロキ君でスピアを探して、ジン君はホワイトちゃんと行動してなよ」

「は?」

「え…?」


 ホワイトとジンが首を傾げる。


「で、ランスとシェールちゃんが一緒に行動して、それからえっとルドは…」

「おい、何を考えてるナギサ」


 ランスがナギサを睨む。


「何?」

「何?じゃねえ。なんのつもりだお前…」

「…なんか、サキュアに用がありそうな人がいそうだからね」


 ナギサがジンの方を見て話す。


「…俺?」


 ジンが自分を指指す。


「可能の災いという存在がここにいる可能性が高い以上、一人でいるには危ないから一番お近づきになりたいホワイトちゃんがいた方がいいかなって」

「えっちょっ…ナギサさん…!」


 ホワイトが顔を赤くする。


「…まぁ、二手か三手に別れた方が探すのが早くて良いか…」

「そういう事」

「ミカ、ジンとホワイトを頼む」

「…分かったよ」


 ミカが頭を掻く。


「ナギサにはルドが付いてやってくれ。ロキ…ナギサの事を頼む」

「了解」

「おう」

「ちょっと、私一応団長なんだけど」

「俺とシェールは二人で行動する。スピアを見つけ次第、俺かナギサに連絡をくれ」

「了解」

「ん」


 一同が三手に別れ、行動する。






 ――ミカがホワイトとジンの前に立って歩く。


「どういう風の吹き回し?」

「…知らん」


 ジンが腕を組む。


「そういえば、ナギサさんはジンの事、サキュアに用がありそうな人って言ってたわね」

「…!」

「どういう事?」


 ミカがジンを見つめる。

 ジンが正直に答える。


「サキュアについて聞き覚えがあるかもしれなくてな…」

「聞き覚えがあるかもしれない…?かもって…何?」

「…俺にも分からない。けれど…今の所見た事はない景色だ」


 ジンが辺りを見渡す。


「…もしかして」


 ミカが一つの考えに至る。


「団長のせい…?」

「…え?」

「前に団長が記憶を奪った…みたいなので揉めた事あったでしょ?」

「…あぁ」

「それなんじゃないかなって」

「…!」

「曖昧なら記憶が操作された可能性がある…でも、もしかしたら何かしらの作用で記憶の一部が戻って…」

「ちょっと待って…!その件は…ジン君にはラッシュ師団の基礎的な記録を与えたって…それで…!」


 ホワイトが大きな声を出す。


「…ホワイト、あなたがもし記憶を団長から操作されたと仮定してみて」

「か…仮定…?えっと…その…どういう…」

「例えば、お母さんを奪われた時の記憶とか…」

「…!!」

「…忘れたくもないでしょ?」

「…うん。悲しい記憶でも…操作されたとしても…絶対忘れたくない…」


 ホワイトが拳を握る。


「…そう、例え記憶を操作しようが奪おうが…絶対忘れたくない物はある。曖昧でも…絶対に頭の中に染み付く…それが、ジンの曖昧な記憶なんじゃないかって」

「じゃあランスさんは…ジン君の記憶を操作して…でもそんな事が有り得る訳…」

「それも後から聞いた話なんだけどさ…ジンがラッシュ師団に入った当時の団長の側近から聞いた情報だと…記憶の削除という言葉を言ったらしくて」

「…!?」

「記憶の…削除…!?」


 ホワイトとジンが驚いた表情をする。

 記憶の削除…かつてジンがラッシュ師団に入った時、ランスはそう言っていた。

 そして…その削除した記憶の中にジンがサキュアに行ったという記憶があったとするならば…


「…まぁ、そういう事だとあたしは推測してる」

「俺が忘れたくない記憶…か…」


 ジンが自身の右手を見る。


「…俺はそれを、鮮明にしたい」

「…でも、なんかおかしいね」

「…何かあったか?」

「だって…ナギサさん…まるでジン君の考えが分かっていたかのような口ぶりだったから…」

「…え?」

「ナギサさん…自分は勘が良いって言ってたから…」


 ホワイトが不安な表情をする。


「何者なんだ、あの人は…」

「とりあえず…情報が欲しいわね。監視塔があるからそこに行ってみましょ。スピアを見た事がある人がいるはず」


 ミカが監視塔の方へ歩き出す。


「あっ、待ってミカ」

「…」


 ホワイトとジンがミカを追いかける。




 ――監視塔の前にて…


「うわ…大きい」


 ホワイトが監視塔を見上げる。

 自分の何倍もある監視塔を見上げ、ホワイトは感化されていた。


「まぁ…あたし達の身長と比べたら大きいように見えるのであって、他の所とかと比べると小さい方ね」

「え、そうなの?」

「ウィッシュ城下町の監視塔…見た事ある?」

「…ないかも」

「そっか。あそこはここより数倍くらい大きい」

「え…そんなに…!?」

「街全体を見渡す必要があるからね。でもここは…街がそもそも小さいからこの高さでいいの」

「なるほど…」

「…とはいえ、あんまり使われてない感じするわね」


 ミカが監視塔の壁を触る。

 監視塔は少し古びていた。そして、微々たる魔力を感じていた。


「使っていたとしても…複数人は使っていないはず。人が上にいそうな感じも今はしないわ。塔から魔力は多少感じ取れるけど」

「…うーん」


 ホワイトが塔の上を見上げる。


「…私、登ってみたい」

「…まぁ、ホワイトが言うなら。ジンもいい?」

「着いていく」

「そう、良かった」


 三人は監視塔の階段を登り始める。






「ねぇ、ジン君…」

「ん、どうした?」

「その後…何か思い出せた?」

「…いや、何もない」

「そっか…」


 ホワイトがジンの服を掴む。


「どうした?」

「…なんとなく…」

「そうか」

「………」


 ミカがホワイトとジンの方を見て黙り込む。


「もうすぐてっぺんかな?」

「そうかもな…お」


 ジンが扉を見つける。


「…!」


 ミカが何かに気付く。

 ミカの身体に感じる魔力の気配…それはスピアの時と違う魔力だった。


「魔力の気配…?でもあの時のと違う…」


 ミカが銃剣を持つ。


「ミカ…?」

「気を付けて…この先誰かいる…!」

「…!」


 ジンが銃を持つ。


「あっ…えっと…」


 ホワイトが麻酔銃を持つ。


「通信機もすぐ使える状態…いざと言う時は…戦闘よ…!」

「っ…!」


 ミカが先頭に立ち、扉を開ける。


「…!」

「?」


 ミカの目の前にはエルが剣を床に刺して立っていた。

 エルはミカの方を向く。


「えっと…お客さん?」

「あ…えっと…」


 ミカが銃剣を下ろす。


「…ごめんなさい、人探しをしてたの」

「そっか。その様子だと敵意はなさそうだね」


 エルが微笑む。


「私はエル。ここサキュアで皆を守ってる」

「サキュアを守ってる…あたしはミカ。こっちがホワイト」

「エルさん、こんにちは…」

「エルでいいよ。年齢も一緒くらいだろうし、ね?」


 エルが微笑む。


「で、こっちがジン」

「…ジンって言う。宜しく」

「ジン…?」


 エルがジンの方を見る。


「…なんだ?」


 ジンがエルの目を見る。


「エルと言ったわね。ここに怪しい人物来てないかしら?」

「えっと…とりあえずここだと狭いから、下降りよっか」

「あっ…うん」


 四人は監視塔から降り始める。




 ――監視塔の下にて…


「さてと…話の続きをしましょう。ここに怪しい人物は来てないかしら?」


 ミカが聞くが、エルは構わずジンの方を見続ける。


「…なんだよ」

「ジンなの?」

「…あぁ。それがどうした?」

「…今も殺し屋やってるの?」

「いや、やってないが…って…え?」


 ジンが首を傾げる。

 ジンがかつて殺し屋だったという情報をエルは知っていた。

 そして、エルは確信した。


「…そっか。生きててよかった」

「…?ちょっと待て、どういう…!?」


 エルがジンに口付けをする。


「…!?」

「は…!?」


 ホワイトとミカがその光景に驚く。


 口付け、それは恋人同士でもなければしない行為。

 ――その行為をエルは簡単に、ジンに対してやってのけてしまった。


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