ep68.かつての団長達
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――数年前…
「やっぱここの風、気持ち良いなぁ」
ナギサが海の前に立って潮風を感じ取っている。
「あれ?」
ナギサが浜辺で何かを見つける。
そこには男が倒れていた。
「誰か…倒れてる…!」
ナギサが倒れている男に近付く。
傷が多く、出血もしていた。
「っ…傷だらけ…血も出てる…!」
ナギサが男を触る。
「誰か…!誰かいませんか!?」
ナギサが大きな声で叫ぶ。
――近くの海の家で左手に黒い手袋を付けた男によって手当てされる男。
「息はある、傷口も塞いだ。暫くは安静にさせてね」
「っ…この人…助かりますか…?」
「大丈夫だよ、この人も助かる。偶然俺が居合わせて良かったね」
「良かった…」
ナギサが安堵する。
治療をした男が去ろうとする。
「…あの…あなた…名前は…」
「名乗る程の者じゃないよ。それじゃ、俺はこれで」
男はナギサの方に手を振り、家を出る。
「…起きるかな」
ナギサが寝ている男の頬をつつく。
「…んあ」
男が目を覚ます。
「…!起きた…!」
「っ…!」
男はすぐさま起き上がり、ナギサの腕に噛み付く。
「いだっ…!?」
「っ…!」
ナギサが男を振り払う。
「いったいなぁ…犬じゃないんだから噛み付かないでよ…」
「…ここは…何処だ…」
「ここはカコウの街の近くにある海の家だよ。君、浜辺の所でボロボロで倒れてたんだよ」
「カコウの…街?」
「もしかして聞いた事ない感じかな?」
「…あぁ」
男が頷く。
「君、名前は?」
「…ランス」
「ランス…あの山の名前と同じ…」
「あの山…?」
「あっ、私はナギサ。カコウの街で修行中の身だよ」
「カコウの街で修行中…。そもそも俺はその名前を知らない」
「そう。となると…この辺の人ではない感じか。浜辺にいた所を考えると…流れ着いた感じ…?よく生きてたね」
「…」
ランスがナギサの顔を見る。
「ねぇ、君って何者なの?起きる前までの記憶とか、ある?」
「記憶…」
ランスが頭を抱える。
「俺は……何者なんだ…?でも…何十年も生きているような感覚が…ある…」
「何十年も?でも君…どこからどう見ても私と同じくらいの年齢にしか見えないけど」
「…だけど、薄っすらとそんな感じの記憶があるんだ…」
「へぇ」
「なんなら…何百年もそういう感じの記憶が…」
「何それ、変なの。冗談きついなぁ」
ナギサが笑い始める。
「…嫌な記憶なの?」
「…分からない。薄っすらと…記憶が半分くらいない感覚なんだ…」
「そっか。行く当てはあるの?」
ナギサがランスに近付く。
「…ない。俺は、どうすればいいんだ?」
「ふーん。ならさ…私と一緒に過ごさない?」
「…は?」
ランスが首を傾げる。
「私さ、ここで修行中の身って言ったじゃん?一人暮らしでちょっと肩身狭いんだよね。だから、君が家にいるだけでもちょっと有難いって言うかさ。君が行く当てないんだったらさ、私の家に居候してもいいよ」
「…居候…いいのか…?」
「うん。行く当てが見つかったら勝手に出てもらってもいいし、行く当てが見つからないままなら私の家にずっといていいよ」
ランスは迷っていたが、行く当ては全く無かった。
ランスが決心する。
「…お前がいいなら、そうしたい」
「よし、決まりだね。じゃあ私の家においでよ」
「…おう」
ナギサとランスがナギサの家まで移動する。
「着いたよ」
「…ここが、ナギサの家」
「そこ座っていいよ、ちょっと待ってて」
「…ん」
ランスが座布団に座る。
ランスが家の中を見渡す。家の中の本棚を特に眺める。
「…本とかが沢山ある」
「ちょっと待ってて、これ温めるから」
「ん?分かった」
ナギサが冷蔵庫から鍋を取り出す。
――数分後…
「お待たせ、昨日の夕飯の余りだけど一緒に食べようよ」
ナギサがカレーライスを出す。
「…これは?」
「カレーライスだよ。もしかして…知らない?結構変わってるね」
ナギサがそう言うと、ランスの腹が大きく鳴る。
「あははっ、大きな音立ててる。余程お腹すいてたんだね!」
「…うるせぇ」
「ほら、早く食べようよ」
ナギサがランスにスプーンを渡す。
「…ありがとう」
「いただきます」
ナギサがカレーライスを食べ始める。
「…いただきます」
ランスがカレーライスを食べる。
「…!」
「どう?」
「…美味い。なんだよこれ」
「これがカレーライスだよ。気に入った?」
「…!」
ランスがカレーライスを早く食べ始める。
「ちょっ…そんな早く食べたら…」
「っ…げほっ…」
ランスが勢い余って咳をする。
「ほら…言わんこっちゃない…ゆっくり食べなって」
ナギサがランスの背中を摩る。
「…すまない」
「美味しいなら何よりだよ。まぁ…一人暮らしも慣れてきたしこれくらい美味しく作れるようになったとは自負してる」
「…そうか」
ランスがそう言うと、ランスが机の方にある本を見て指を指す。
「…それはなんだ?」
「ん、これ?」
ナギサが机の上の本を取る。
その本には魔力の根源について記されていた。
「これは、私が最近勉強している魔力の根源に関する本だよ」
「魔力の根源?」
「うん。巷では魔力の根源は人間そのものだったみたいな伝承もあったりしてさ」
「なるほど、魔力の根源か…そういえば…俺の魔力…」
ランスが自分の腕を見る。
「ん、ランスにも魔力あるんだ?どんな魔力なの?」
ナギサがランスに近付く。
「…なんだよ。気になるのか?」
「気になるよ。どういう系?」
「どういう系って…まぁあんまり戦闘とかには使えないだろうけど…」
「そうなると…私にかけても問題ない感じかな?やってみてよ!」
「…待て、俺の魔力は人によっては危険なんだ…」
「危険?」
ナギサが首を傾げる。
「あぁ…この魔力を使うと…最悪の場合…廃人にしてしまう可能性がある…」
「廃人にしちゃう可能性…?それって…」
「あぁ…俺の魔力は…記憶の操作だ」
「記憶の…」
ナギサが驚いた表情をする。
「人に記憶を与えたり…人の記憶を消したりする事ができる」
「…凄いじゃん」
ナギサが褒めるが、ランスが引く。
「…なんだよ、普通に考えて危険だろ。お前にこんな魔力使ったら…もしかしたらお前を傷付けてしまう」
「へぇ、案外優しいじゃんランス」
ナギサがランスの肩に手をつく。
「それってさ、どんな記憶も消したりする事ができるの?」
「できる気がする。昔…誰かの記憶をその魔力で消した覚えがある…気がする」
「…そっか。それってさ、自分にもかけれるの?」
「…たぶんできる」
「じゃあさ、自分にかけなよ」
「…は?何言ってんだよお前」
「いいや、割と真面目だよ」
ナギサがランスの顔を見る。
ナギサの顔は笑顔ながらも真面目だった。
「俺自身にかけるなんてただの自傷行為だ。それを勧めるなんてお前、もしかしてヤバい奴か?」
「そうじゃなくて…ランスのためだよ」
「俺のため?」
「さっき、薄っすらとしか記憶を覚えてないって言ってたよね?」
「…まぁ」
「それにその顔…思い出したくもない記憶もあるんでしょ」
「なんでそれを…」
ランスがナギサから距離を取ろうとする。
「なんとなく。私の勘は当たりやすいんだよね」
ナギサがランスの頬を触る。
「だったらさ、そんな記憶諸共…全部消しちゃえばいいじゃん」
「…!」
「記憶に残るような思い出を消すのは流石に酷いけど…記憶に残したくもない物ばっかりならさ、一度全部消してスッキリしようよ」
「…なるほど」
「まぁ…君の気持ちは尊重したいから、君がどうしたいか…ちゃんと決めるといいよ」
「…俺は――」
ランスが自分の頭を触る。
「…なぁナギサ」
「何?」
「…一度俺の記憶をリセットしたら…俺に思い出を作ってくれないか?」
「ん、いいよ」
「それと…俺に人間の道を歩ませて欲しい」
「人間の道って…大袈裟だなぁ。まぁ今から記憶を失うならまぁ無理ないか。全然いいよ」
「本当か!」
ナギサが頷く。
「なら…」
ランスが頭を抱える。
そして魔力を発動させる。
「っ…」
「…!」
ランスが気を失う。
「ランス…大丈夫?」
ナギサがランスを揺する。
「…んあ」
ランスが目を覚ます。
「あ、良かった起きた」
「…あぁ。お前は…誰だ…?」
ランスがナギサの方を見る。
ランスは自身の魔力で今までの記憶を失っていた。
「あぁ…そこまで失うのか。私はナギサ。カコウの街で修行中の身だよ」
「カコウの街で修行中…。そもそも俺はその名前を知らない」
「…なんかデジャヴを感じる」
ナギサが苦笑いする。
「まぁ…いいけど」
ナギサがランスの頬を抓る。
――その後約3年間…ナギサとランスは一緒に暮らしていた。
「でさ、聞いてよランス。記憶をリセットしたばっかりのランスがさ…それはもうおかしくておかしくて…うふふっ…」
「その話…この前も聞いたぞ」
ナギサとランスが話している。
ランスが呆れ顔をしている。
「えへへっ…だって面白くてさ…」
「まぁ、お前のおかげで今の俺があると言っても過言じゃないけどさ…」
ランスがナギサの方を見る。
「…ナギサ」
「何?」
「お前には色々な物を貰ったよ」
「ん…?私何かあげたっけ?一番最初のカレーライス?」
「お前には色々な思い出を貰った。いつかお前にも…お前の記憶に一生残るような物をあげたい」
「…!」
ナギサがランスの方を見て目を光らせる。
発言を後悔したのか、ランスが少しだけ顔を赤くする。
「…いや、今の恥ずかしいな。やっぱり無しで」
「ランスー!」
ナギサがランスに抱き付く。
「ちょっ…辞めろ、離れろ…」
「…私、待ってるよ」
「…何をだ?」
「君が私の記憶に残るような思い出をくれるのを、待ってる」
「…あぁ、必ずだ」
ランスがナギサを抱き締める。
――ある日…ナギサとランスが夕飯を食べていた時の事…
「ナギサ、魔力の根源についてずっと勉強してるけどさ…何か答えが出たりはしてるのか?」
「うーん、あんまり…。でも、根源って言うからには歴史を遡る必要もあるかなって思って来たかも。最近の出来事を漁ってみるに…山が関係してそうなんだよね」
「山が?」
「山のふもととか…山そのものに魔力の柱が出る傾向にあってさ。その中でも…スピアマウンテンってところが何度か魔力の柱出ているっていう事件が起こってるからそこが怪しいんだよね」
ナギサはこの頃から既に魔力の根源の核心に迫っていた。
「スピアマウンテンって言うと…ここから電車で2時間くらいの所か?」
「そう。いつか研究しに行きたいけど…ランスも一緒に来る?」
「お前が行く場所なら何処でも行く」
「そっか、そう言われると嬉しいな」
「あぁ…」
ランスが口にカレーライスを含もうとする。
「…!」
ランスは右腕の方を見て驚いた表情をする。
「ん、どうしたの?」
「…なぁ、ナギサ」
「どうしたの?」
「俺って…人殺してないよな…?」
ランスの口から衝撃的な言葉が出る。
「え…殺し…え?ないと思うけど…」
「…そう…だよな」
「…?」
ナギサが首を傾げる。
「…ナギサは、人を殺した事があるか?」
「急だね…。ないよ」
「そうか。まぁ…お前みたいな奴が人を殺すとは思えないしな…」
「…生涯人を殺したくはないかな…例えそれが大罪人だとしても…」
ナギサが部屋の電気を見る。
「…そう…だよな」
ランスの腕が震えていた。
――だが…ある日…
「ああああああああ!!」
ランスが叫び出す。
「どうしたの、ランス!?」
ナギサがランスに近寄る。
「あ…あぁ…あぁぁ…」
ランスが自分の腕を見る。
ランスの腕には大量の血が付いていた。
「なんだよ…これ…」
「ど…どうしたの…?」
「…この血は…一体…」
「血…?」
ナギサがランスの腕を見る。
だが…ランスの腕には特に何も異変が無かった。
ランスにしか見えない幻覚…だがナギサは理解できていなかった。
「血なんてどこにも…」
ナギサがランスの顔を見ると、ランスの目から涙が出ていた。
「…!ランス…!」
「俺が人を殺した?それも…大量に…?」
ランスがそう言うと、ランスが嘔吐する。
「げほっ…おえっ…」
「ランス…!?」
ナギサがランスの背中を摩る。
「ランス…しっかりして…何が…何が見えるの…!?」
「あ…ああ…あぁぁ…」
「人を殺したって…何…どうし…」
ナギサが言葉を続けようとすると、ランスが気を失う。
「っ…!ランス…!」
ナギサがランスを揺する。
「…もしかして…記憶が戻ってるの…!?もしかして…昔の…嫌な記憶が…!?」
ランスを見るナギサ。
「お医者さん…呼ばなきゃ…!」
ナギサがランスを運ぶ。
――カコウの街の病院にて…
医療室にて医者に話しかけるナギサ。
「…ランスは…ランスは…」
「ランスさんは…あなたの恋人ですか?」
「そうです…ランスは…ランスは…」
「彼の恋人のあなたに伝えないといけない事があります。ランスさんは…脳に何かしらの障害が起こってしまっているようです…」
「脳に障害…!?」
「脳の一部が異常な色をしておりまして…。ランスさんの魔力…もしかして本人自身に使ったりとか…」
「っ…まさ…か…」
ナギサが床に膝を付く。
「記憶をリセットするって…提案した…私の…せい………?」
「ランスさんはそれにより、自分の腕に血が付いているという幻覚を見てしまっていたようです。そして…恐らくですがそのリセットしたはずの記憶の一部を…悪い形で思い出してしまったような…」
「そん…な………」
「少しすれば生活には戻れるでしょう。但し…脳の障害は魔力が発達してる今の時代でもそう簡単に消せるものじゃありません。生活には戻れても、普通の生活には戻れません。恐らくまた幻覚を見ては倒れ…病院に行っているようでは…ランスさんの身が…持ちません…!」
「っ………」
ナギサの目から涙が出る。
ナギサが気を失っているランスの顔を見る。
「…ランスが目を覚ましたら…教えて下さい…」
「承知しました」
ナギサは気を落としながらも医療室から出る。
――だが…少し時間が経ち…
「ナギサさん…!」
「…!医療室の…もしやランスが起きて…?」
「それが…!」
医者が言葉を話す。
「…!?」
ナギサはその言葉を聞いて驚く。
「嘘…え……は………?」
ナギサがランスのいる医療室へ走り出す。
「…!」
医療室には既にランスの姿はなかった。
「嘘…」
ナギサがベッドの上を見る。
「…!」
ベッドの上にはメモ書きが置いてあった。
そのメモ書きには知らない番号と、下にメッセージが書いてあった。
『ナギサとの恋人を辞めたい、俺よりいい人を見つけてくれ。』
「っ…!!」
ナギサはメモ書きを見て床に膝を付いてしまう。
「う…嘘…そん…な…恋人を辞める…なんて…」
ナギサの目から涙が出る。
「元々ボロボロな君を助けた所から…決心してた事…だったのに…なんで…どうして…」
ナギサの涙が床に落ちる。
「ラン…ス…嫌だ……嫌……嫌…」
ナギサが頭を抱える。
「嫌あああああああああああっ…!!」




