ep67.再び集結
――電車の中にて…
「………」
「………」
ランスとナギサが窓の外を見ている。
まるで恋人同士みたいに。
だが現実は、かつて恋人同士だった仲。
「身体の方は大丈夫か?」
「…まぁ、うん」
ナギサが自分の腹を摩る。
ナギサの身体は綺麗さっぱりと傷がなくなっていた。
「あの薬、凄いね。ボロボロになってたはずの内臓が…治ってる」
「凄いだろ?ラッシュ師団の回復団員の技術や魔力は最強だ」
「…ホワイトちゃんも、回復団員の一人だよね」
「まぁな。あいつはミカやジンと一緒に行動していたりでちょっと異端だが…」
「ふぅん…」
ナギサがランスの目を見る。
「カルム師団だって、凄いだろ。魔力の根源を追って太古の歴史まで調べ上げてんだからさ」
「…別に凄くないでしょ。昔の書物とか資料を読み通して分析して…魔力の根源に辿り着けただけ」
「……そうか」
ランスが目を逸らす。
「…そういえばさ、ランス」
「ん?」
「…不可能の災いって知ってる?」
「不可能の災い…可能の災いとは別の奴か?」
「そう。所謂もう一つの魔力の根源」
「もう一つ…なぁ」
ランスが腕を組む。
「ランス山脈…怪しいよな」
「やっぱりランスもそう思う?」
「…お前が倒れてた所とか、凄く魔力が豊富だったしな」
「君と名前が同じなのも何かと疑問だしね」
ナギサが真顔で喋る。
「…そうだな」
「…なんか隠してる?」
ナギサがランスを上目遣いで見る。
「…何故そう思う?」
「だってさ…可能性の欠片の話をした時、一瞬動揺してたじゃん」
「………」
ナギサがランスの目を見る。
「…まぁいいや」
ナギサが立ち上がる。
「いっ…」
ナギサが腹を押さえる。
傷はなくなっていても、痛みはなくなっていなかった。
「ナギサ…!」
「大丈夫、ちょっと痛んだだけ」
「大丈夫じゃないだろ、座ってろ」
「…ルドに連絡しなきゃ」
「俺がやる、座れ馬鹿」
「誰が馬鹿よ」
「お前だよ」
ランスがナギサの腕を掴む。
「…離して」
「貸せ」
ランスがもう一方の手でナギサの通信機に触る。
「辞めて」
ナギサがランスの手を振り払う。
「…まだ痛むんだろ。しかも…スピアの件と可能性の欠片とやらの件で二度もやられてる。万全じゃないからこそ今は休め」
「…痛くない」
「さっき痛んだって言ったのはお前だろ?」
「…条件反射で言っちゃっただけ。痛くなんて――」
ランスがナギサの腹を触る。
「っ…!」
ナギサが片目を瞑る。
ナギサが痛みに苦しむ。
「…痛そうじゃねえか」
「…触らないでよ、女の子のお腹触るとかセクハラだよ。だから痛くないって――」
「それ、もう一度」
「ぐっ…」
ナギサの腹を触るランス。
ナギサが腹を押さえる。
ランスが微笑する。
「…はぁ…はぁ…どんな趣味してんの君…元恋人にここまでの仕打ち…許されないよ…」
「痛いか?」
「…痛くない」
「ふむ、もう一度――」
「分かった…痛いから…痛いから触らないで…」
ランスが触る前にナギサが諦める。
「よくできました」
「っ……」
ナギサが顔を赤くする。
「…馬鹿」
ナギサが席に座る。
「…可能性の欠片」
ランスがそう言うと、ナギサがランスの目を見る。
「なんか、この人生で聞いた覚えがないのに、聞き覚えがある…それだけだ」
「…そう」
ナギサが目を逸らす。
「…着いたら、色々計画を立てよう。可能の災いや可能性の欠片…そして、不可能の災いとやらの事も含めてな…」
「…うん」
ナギサが目線を下に向ける。
――それから数時間後…
ランスとナギサはラッシュ師団の基地へと戻った。
その後、団長室にて…
「ただいま戻った」
「おかえり、ランス君、ナギサちゃん」
「あぁ。留守にしててすまなかったシェール。ルドもありがとう」
「大丈夫、私は特に何もできてないけど…皆ちゃんと行動してくれた」
「良いって事だ」
笑顔で出迎えるシェールと、腕を組んで待つルド。
「やっぱ俺の団員は優秀だな。これなら俺がいなくなっても大丈夫そうだな」
「もう、冗談止してよ」
「勿論冗談だ、暫く俺が団長なのは揺るぎないな。はっはっは」
ランスが高笑いする。
「………」
「ナギサちゃんは…身体の方は…」
「ん…えっと…もう平気、何も痛く…」
「ナギサ」
ランスがナギサの方を見る。
ランスの目線を感じ、ナギサが少しだけ肩の力を抜く。
「…いや、ちょっと痛い。少しだけ休みたいや」
「そっか。丁度ホワイトちゃんがね…起きたの」
「ホワイトが…!」
「ホワイトちゃんが…!」
ランスとナギサが声を揃える。
「…なんか二人とも、息ぴったりだな」
ルドが微笑む。
「……そうだね」
シェールが不安な顔で二人を見る。
「えっと…ホワイトちゃんが起きたから、ナギサちゃんの傷の治りも早くできるはず。ホワイトちゃんを呼んでくるわ」
「あっ、いや私行くよ。ホワイトちゃん何処にいる?」
「えっと…会議室にいるみたい。何か話をしてるみたいで…」
「話?」
「若者達は若者達で話したい事でもあるんだろうな」
ルドが腕を組みながら話す。
「…別に私達もこの団だと年齢が高いってだけで、若い方だとは思うけどね…」
「そっか会議室だね、行ってくるよ」
ナギサはそう言うと、団長室から出る。
「シェール、スピアの行方を追っている団員からの連絡はまだか?」
「何度か連絡は取れてるけど、奴の魔力の痕跡を追うことはできても、スピア自身を見つける事はできてないみたい…」
「そうか。余程早く移動しているのか…こちらが遅いのか分からないが…引き続き頼む」
「分かったわ、団員にもそう伝えておくわ」
シェールはそう言うと、通信機を操作する。
「フェクトからスピアとの戦闘の話は聞けてるか?」
「彼に意識が戻ってからすぐに聞くのは申し訳ないと思って、まだ聞けてないわ」
「そうか、なら俺が聞きに行こう。ルドは…不可能の災いとやらの歴史を纏めてくれないか?万が一だが可能の災いだけでなく、奴とも対峙する可能性がある」
「不可能の災い…分かった。そっちでも読みやすいようにデータ化しておこう」
「頼む」
「…いつものランス君に戻ってくれて嬉しい」
シェールが小声で呟き、微笑む。
ランスの横顔を見てシェールが笑顔を見せる。
「フェクトって何処にいる?」
「えっと、緊急医療室よ」
「よし、行ってくる」
ランスが団長室から出る。
――会議室にて…
問題児四人が話す。
「ランスさんとナギサさん帰ってきたみたい。さっきまでカルム師団の団員さんの回復に回ってたんだけど、その時に二人を見かけたよ」
「そっか」
「私の魔力の方も問題なく使えるくらい戻ってきた。何より…少し強くなった気がする」
「お」
ミカがホワイトの目を見る。
ミカはホワイトの魔力が気になっていた。
「その…繋命って奴?」
「…うん。女神様達にみっちり鍛えられたけど成果が出てよかった…」
「それは良かった」
ミカが微笑む。
「…えっと、続きだよね」
「うん。ホワイトの通信機にナギサさんから送ってもらったデータを見てある程度は考えを立てているけど…」
不可能の災い…その名の通り、魔力の使用を不可能にする、対象の呼吸すらも困難にし、そのまま窒息死させる…等と厄介な魔力を持っていた。
可能の災いとは対照的に、自分ではなく相手に付与する系の魔力が多い。
「可能の災いよりも強力故に魔力と魂と肉体でそれぞれ封印されたってのも納得ができるわ…」
「…そうだな」
「ホワイトが聞いた女神族の話だと…肉体が封印される前に不可能の災いの魔力が奴等の肉体の腐敗を文字通り不可能にした…そうなると、こっちも納得はできないけど理解はできる」
ミカがそう言うと、会議室の扉からノックの音が聞こえる。
「はーい、どうぞ」
ロキが扉の方に話す。
「やっほ」
ナギサが会議室に入る。
「ナギサさん!」
「ホワイトちゃーん!」
ナギサがホワイトに抱き付く。
「ちょっ…ナギサさん…急に抱き付かないでください…!」
「無事で良かったー!本当に良かったよホワイトちゃん!」
ナギサがホワイトに頬擦りする。
「ちょっ…ナギサさんだって…無事で良かったです…ほっぺた柔らか…」
「…あ、えっと、ナギサさん?」
ミカがナギサの顔を見る。
「はい、ナギサです」
「…戻ってくれたのは嬉しいですけど、何用で此方に?」
「あっ、そうだった。えっと…ホワイトちゃんに用があってさ」
「えっと…私?」
「そう!私の事回復してほしい!」
「いいですけど…身体万全じゃなかったんですか?」
「いや、万全だよ?ちょっと痛む程度だし」
「万全じゃなくないじゃないですか!」
ホワイトが回復魔法をナギサにかける。
「ん、ありがと」
「主に何処が痛むんですか、お腹ですか?」
「お腹。めっちゃ痛い」
ホワイトがナギサの腹部の方に回復魔法をかける。
「…大事にして下さいよ」
「うん、女の子だもんね」
ナギサがホワイトの頭を撫でる。
「…なんで今撫でたんですか?」
「なんとなく」
「…ナギサさんって言いましたね」
ロキがナギサの方へ近付く。
「おっ、イケメンじゃん。初めましてナギサです、カルム師団の団長やってます!宜しく!ナギサでいいよー!」
ナギサがロキの手に無理矢理握手する。
「…はい、お願いします。ロキと言います、戦闘団員やってます…」
ロキがナギサの手を離す。
ロキがホワイトの方を見る。
「めっちゃ元気だなこの人…」
「…うん」
「そうだ、ランスや副団長の二人はちょっと忙しそうて私は手が空いてるからさ、丁度君達とお話がしたかったんだよね」
「丁度って…仕事してください」
ミカが呆れ顔をする。
「でも、この四人がここにいるって事は…何か私達に隠してる事があるな?」
「っ…」
四人が動揺する。
「そ…そんな事ないですよ…ねぇ、ジン?ロキ?ホワイト?」
「あ…あぁ…」
「そう…だな」
「……」
ホワイトが下を向く。
「ホワイト?」
「…ナギサさんは、どうなんですか…?」
ホワイトがナギサの目を見る。
「ちょっとホワイト…!いくら軽い人でもカルム師団の団長…!失礼だよ…!」
「私がどうか…か」
「…ナギサさん、ランスさんと昔恋人やってたって…言ってましたよね…」
「っ…!」
「は…」
「え…」
ホワイトとナギサ以外の三人が驚く。
「…言ったよ、君にだけだけどね」
「団長の元恋人…だと…」
「…初めて会った時からちょっと馴れ馴れしさに違和感はあったけど…まさかそういう事だったなんて…」
「団長同士…惹かれ合ってたって事か…」
「んー、それはちょっと違うかな、イケメンなロキ君」
ナギサがロキの方を見て微笑む。
「だったら…何故…」
「…少し、過去について話そっか。私とランスが出会った時の事、そして…何故私とランスが別れたか…」
「…!」
「あれは…私がまだカルム師団を立ち上げてなくて魔力学校とは別で個人で勉強してた頃の話なんだけどね………」
――ナギサが話し始めると、四人は息を呑んで聞く…




