ep65.白の回帰
「…起きろ」
「う…う………」
「おい起きろ、カルム師団の馬鹿団長」
「っ…!」
ナギサが目を覚ます。
「お、目覚めたか」
「その声…」
ナギサが顔を上げる。
そこにはランスが立っていた。
「…なんでいるのさ」
「お前が来そうな場所…来てみただけだ。こんな暑い場所で寝てたら熱中症になっちまうぜ?」
「…はぁ。ランス山脈にランスがやってくるとか…ちょっと変」
「別に変じゃないだろう。たまたま一緒な名前なだけだ」
ランスはそう言うと、ナギサに手を差し伸べる。
「ほら」
「…私が掴んだら、シェールちゃん怒らない?」
「そんなんで怒らないだろ」
「いいや、独占欲ある子だと触れただけでも拗ねるよ」
「どこ情報だよ。じゃあ手、いらないか」
ランスが手を引っ込める。
「別に君の手なんて無くても立て…」
ナギサが立とうとするが、めまいで倒れそうになる。
「うぅ…」
「…!ナギサ…!」
ランスがナギサを掴む。ナギサが咳をする。
ナギサの身体中はグニールとの戦いでボロボロになっていた。
「ゲホッ…そうだった…結構出血してたんだった…」
「無理するな馬鹿。何があったかは…後で聞こう。今は回復に専念しろ」
「回復…かぁ」
「シェールから特製の回復薬を預かってる。これを飲め」
ランスがポケットから回復薬を出す。
だがナギサはそれを拒む。
「…私、薬嫌い」
「そんな事言ってる場合か?早く飲んで身体を治せ」
「…いい、平気」
ナギサはそう言うと、ランスの手を退かして立ち上がる。
ナギサの腹から血が地面に垂れる。
「ちょっ…ナギサ…!」
「うるさいなぁ…私にはそんな事よりもやる事があるの。回復を待ってる時間なんてない…」
「やる事って、これの事か?」
ランスはそう言うと、ナギサがマグマを格納した箱を取り出す。
「…!それ…なんで…」
「さっきそこに落ちてたから拾った」
「っ…返して…」
ナギサがランスの手を掴もうとする。
「おっと」
ランスがナギサの手を避ける。
「…返して。それは…カルム師団の…希望なんだから…」
「希望ねぇ。お前の団員はこんな物よりもお前の無事を希望してるだろうけど」
「っ…そんな事…ない…」
「あぁ?」
「皆…私の事を信頼してる風に見せてるけど…私は魔力の根源を追うのに必死なの…私が成果を得れなければ…皆からの信頼を失ってしまう…だから…」
「そんな事気にしてたのか?」
「そんな事って…」
ナギサがランスの腕を掴む。
「君には分からないよ…!」
ナギサが大声を上げる。
「君には…私の気持ちなんて分からないよ…私が…いつもどんな気持ちで…どんな気持ちで団長してるかなんて…」
「…!」
「あの時…あの後…どんな気持ちで…どんな気持ちでいたかなんて…」
「あの時…あの後…?」
「君が私を捨てた時…!」
「…!」
「君が…急に訳の分からない事言って…私の前からいなくなって…それで…」
ナギサの目から涙が出る。
「…捨てられたって…思って…それで…私は…カルム師団の団長として…誰にも捨てられないように…強くなろうとして…それで…」
「………」
ランスが目を逸らす。
「どうして…どうして私の前から…いなくなったの!?」
「…どうして…か」
「答えてよ…!!」
ナギサが大声を出す。
だが…その大声のせいで身体に痛みが響く。
「うっ…ゲホッ…ゴホッ…」
ナギサが吐血する。
「っ…!ナギサ…!」
「っ…さっきの戦いで…内臓もやられてるんだった…」
「……」
「ゲホッ…ゴホッ…はぁ…はぁ…」
「回復薬、やっぱり飲め」
「…嫌だ。薬は嫌い…それに…別に皆のためになるなら…ここで死んだっていい…」
「…飲まないなら、こうだ」
ランスが回復薬の蓋を開ける。
そしてランスは回復薬を自分の口に入れる。
「…は…何して…!?」
次の瞬間、ランスがナギサに回復薬を口移しをする。
「っ…」
ナギサが顔を赤くする。
口移しが暫く続く。
「…ぷはっ…ゲホッ…ゴホッ…いきなり…何して…苦い…」
ナギサが息切れしながらも、自身の傷を触る。
「うっ…身体中の痛みが…引いてく…」
「久々の薬の味はどうだ?」
「…苦いけど…甘かった…」
「そうか。ひとまずはこれで一安心だ。山を降りるぞ」
「っ…」
ナギサは戸惑いながらも頷く。
「一人で歩けるか?」
「…歩ける」
ランスが歩き出すと、ナギサがそれについていく。
「……ねぇ」
「なんだ?」
「…なんで私を助けたの?」
ナギサが首を傾げる。
「勘違いするな。シェールとルドの願いだ」
「シェールちゃんと…ルドから…?」
「俺なんかより断然お前の事心配してたからな」
「…そう」
ナギサが目を逸らす。
「少しは落ち着いたか?」
「…ランス」
「ん?」
ナギサがランスを真面目な顔で見つめる。
「その…あったらでいいんだけど…『可能性の欠片グニール』って言葉に…聞き覚えある?」
「…!」
ランスが驚いた表情をする。
少しした後ランスは表情を戻す。
「…いや、ないな。それがどうかしたのか?」
「…さっき戦った相手…それがそいつの名前…」
「なるほど。可能性…となるとスピアの手下か…!」
「…恐らく」
「逆に…その手下に一人で勝ったのか…!?」
「まぁ…うん」
「お前…強いな…」
「…カルム師団の団長としての実力を見せただけ」
「そうか。山を降りたら、一旦カルム師団の基地にこの箱を送り届けて…その後再びラッシュ師団の基地に向かうぞ」
「…ん」
ナギサが小さい声で返事をする。
――ラッシュ師団の基地の医療室にて…
「フェクト様…!?」
医務室で寝かされていたフェクトの下っ端が目覚める。
「っ…!」
下っ端が辺りを見渡す。
近くではジン、ミカ、ロキが揃っていた。
スピアが現れ、ナギサもいなくなってしまった今状況の整理をしているところだった。
「…えぇ。スピアマウンテン付近の森から揺れが何度も…」
「その揺れも収まったみたいだな。あの場所にはあまり人が通らない以上、原因が地震なのかそれ以外なのかも分からない…けれど、魔力の柱は見えないみたいだな」
「となると…地震…なのか…?」
近くで起きたフェクトとスピアの戦いの余韻が医務室まで届いていた。
「地震だとしたら、この揺れ方はおかしいわ。後から段々と横に揺れる動きになるけれど…さっきあった揺れはずっと縦だった…」
「…となると…地震ではない…でも魔力の柱ではないとなると…」
「魔力のぶつかり合い…あ」
ロキが起きた下っ端に気付く。
「フェクトの所の女の人、起きたぞ」
「っ…!」
下っ端が警戒する。
「…お前達がいるって事は…ここはラッシュ師団の…」
「基地で医療室だ。…傷の方は大丈夫か?」
「…大丈夫…です。今は何とか…」
「そうか、なら良かった」
ジンがそう言うと、ジンが医療室から出ようとする。
「俺、ホワイトの方行ってくる。シェールさんに見守っていいか交渉してくる」
「了解」
「ん」
ジンが医療室から出る。
「…あの…フェクト様は…」
「フェクトは入り口前で団長やシェールさん、ルドさんが見た後から行方不明。連絡もなし…」
「そんな…!」
「…最悪の場合も考えなきゃね」
ミカが腕を組む。
下っ端を見るミカと悲しむ下っ端。
「うぅっ…フェクト様…フェクト様…」
下っ端の目から涙が零れる。
「…ミカ、どうする?」
「どうするもこうするも…今あたし達がするのは団長が帰ってくるまで鍛錬する事…今はその休憩で医療室で団員を見てる…それだけよ」
「…まぁそうか」
ロキが腕を組む。
「フェクト様を…連れ戻しに行かねば…」
下っ端が立ち上がる。
だが下っ端の身体中はスピアのせいで酷く痛んでいた。
「っ…身体の傷が…痛む…」
「その身体じゃ無理よ。安静にしてなさい」
「っ…でも…このままだとフェクト様が…」
「…あいつはそんな軟な奴じゃない。きっと…帰ってくる」
「っ…」
下っ端がベッドに戻る。
「あたしだって動きたいのは山々だけど…今は実力者が揃うまでは待機。フェクトだって今は協力関係を築いている以上戻ってくるはず。…戻ってこなかった時にまた考えればいい…」
「…フェクト様…無事でいてください…」
下っ端がそう言うと、医療室にラッシュ師団の団員が入る。
「ミカさん…報告です」
「ん、どうしたの?」
「スピアマウンテン近くにある森の一部が魔力の影響か無くなっていまして…」
「え…」
ミカが絶句する。
「そして…更にご報告が…」
「…何?」
「その森の中にて…完璧のフェクトが倒れているのを見つけました…」
「…!?」
「そんな…!」
下っ端が立ち上がる。
「フェクト様は…フェクト様は無事なのですか…!?」
「静かに。ここは医療室、他にも治療を受けている人はいるから騒ぎ立ててはダメ」
「っ……」
「…無事とは言い難いです。背中を深く刃物で刺されており、意識を現在失っている状況…。それに…何より右腕が…失ってしまっているのです…」
「右腕が…!?」
下っ端が絶望し、床に膝を付く。
「そん…な…」
「…ただ、生きてはいます。最も一歩回収が遅ければ或いは…」
「…!」
「右腕の…欠損…」
ミカが自分の右腕を見る。
「…スピアの仕業でほぼ間違いないわね。推測にはなるけど、恐らくフェクトは下っ端の仇を取る為にスピアと戦い…そして負けた…」
「っ…そんな…力を制御できるようになったフェクト様でも勝てないなんて…一体どんな…」
「…フェクトは今どこに?」
「二つ目の緊急医療室に…」
「了解」
「フェクト様っ…!」
下っ端が立ち上がり、医療室から出ようとする。
だが、下っ端をミカが止める。
「待って、緊急医療室は限られた団員しか入れない。アンタは元ネオカオスな以上、入る事は許されない…」
「でも…フェクト様が…フェクト様が生きてるのであれば…!」
「…気持ちは分かるけど、うちらの回復団員の力があれば、意識を戻すくらいならできるはず。それに…アンタだって回復が終わった訳じゃない。今は安静にすべきよ」
「っ……」
「フェクトの事は…こっちでなんとかするから…ね…?」
「…分かり…ました…」
下っ端が再びベッドに戻る。
「フェクト様…」
――フェクトがいる緊急医療室にて…
「シェールさん…!」
「えぇ…分かってるわ」
シェールと団員が話している。
フェクトは人工呼吸器を付けられて眠っていた。
「ネオカオス四天王…完璧のフェクト…魔力の気配が感じられない…魔力を抜き取られてしまったのかしら…それに右腕の欠損…相当肉体に負担がかかったか…或いはスピアに斬られたか…」
シェールがフェクトを見る。
「…何れにせよ、彼が目覚めたら色々と聞く必要があるわね。スピアと戦闘を行い…どんな魔力を使われたか…奴の目的は何なのか…」
「それにしても…ホワイトさんの方は…回復が全く見られないだとか…」
「…そうね。外傷自体は無くなっていても、身体の中はかなりやられてる…ホワイトちゃんの意識が戻ったら…フェクトの回復もお願いしたいけれど…」
「…ですね。彼女の回復も待ちましょう」
団員がそう言うと、シェールの通信機が鳴る。
「…ごめんなさい、マナーモードにしてなかったわ。ちょっと出るわね」
「了解です」
シェールが緊急医療室を出る。
「…ランス君?」
「おう」
シェールがランスと通信する。
「…ナギサちゃんの方は?」
「ちゃんと見つけてきた。今カルム師団の基地に寄っていたところだ。すぐそっちに戻る」
「そう…良かった」
シェールが一息つく。
「そうだランス君…フェクトが…スピアにやられたらしいの…」
「フェクトがスピアに…そうか」
「右腕も失って…とても危ない状態…ホワイトちゃんよりかは意識が戻るのは早くなりそうだけれど…」
「そうか…」
シェールが涙を堪える。
シェールの身体が震えていた。
「…大丈夫か?」
「…私、怖いわ」
「怖い…?」
「もしも…可能の災いディ・スピアが完全に力を取り戻したら…私達だけじゃない…世界中の皆が…太古の時代のように奴に怯える事になってしまう…」
「…そうだな」
「力を取り戻す前に…奴を倒せなかったらって思うと…とても怖いの…」
シェールが恐怖のあまり、涙を零す。
「…だからこそ、俺達は強くならないと行けない。そのためには皆の力が必要だ。シェール…勿論お前の力もな」
「ランス君…」
「俺達も早く戻る。じゃあ、後でな」
ランスが通信を切る。
「……そっか、そうだよね」
シェールが拳を握る。
「今度は私も…皆のために戦わなきゃ…例えこの命が尽きようとも…ラッシュ師団の副団長として皆を…守るのよ…!」
シェールがそう言うと…
団員が走ってシェールの元に来る。
「シェールさん!ご報告が…!」
「あら…今度は何かしら…」
「ホワイトさんが…ホワイトさんが…!」
「ホワイトちゃんが…!?」
団員が焦りながらも笑顔になる。
「目を覚ましました…!」
「…!」
シェールが驚いた表情をする。
「今すぐ彼女のいる緊急医療室に…!」
「えぇ…!」
シェールと団員がホワイトのいる緊急医療室に向かって走り出す。
――ホワイトの眠っていた緊急医療室にて…
「ホワイトちゃん…!」
「シェール…さん…」
ベッドにいるホワイトがシェールの方を見る。
ホワイトが目を覚ましていた。
「ホワイトちゃん…!」
シェールがホワイトに抱き付く。
「シェールさん…!?ちょっ…」
「本当に…良かった…」
シェールが強く抱き締める。
シェールの包容にホワイトが身体中の痛みに苦しむ。
「うっ…痛い…」
「あっ…ごめんなさい…!」
「…大丈夫です。こっちの方の身体は万全じゃないみたいで…」
「…良かった…本当に良かった…」
シェールが涙を流す。
「…私のせいで…皆に迷惑かけて…ごめんなさい…」
「いいのよホワイトちゃん…それに…あなたはナギサちゃんを身体を張って庇ってくれた…ホワイトちゃんも無事に戻ってきてくれて…本当に…本当に…」
「シェールさん…」
「立てるかしら…?」
シェールがホワイトに手を差し伸べる。
「…立てます。ありがとうございます」
ホワイトが立ち上がる。
「…身体の中がちょっと痛いけれど…大丈夫です」
「良かった…」
「…ランスさんは?」
「ランス君は…今ナギサちゃんを連れ戻しに行ってるわ」
「連れ戻し…?私が眠っている間に一体何が…」
「二人が帰ってきたら話すわ。ホワイトちゃんが意識を失った後何があったか…そしてこれからの事…」
シェールがそう言うと、ホワイトが右手で魔力を使えるか確認する。
「シェールさん、今怪我とかないですか?」
「私はないけれど…大怪我をしている子ならいるわ…」
「大怪我…!?一体誰が…!?すぐ治療しないと…!」
「…それが…完璧のフェクトって覚えてるかしら…?」
「フェクト…!覚えてます…彼の身に一体何が…?」
「…ホワイトちゃんなら、緊急医療室に入れる資格があったわね。こっちに来て」
「あっ…はい…!」
シェールがホワイトを連れてフェクトのいる緊急医療室に行く。
「…!」
ホワイトが右腕を失って眠っているフェクトを見て絶句する。
「フェクト…右腕が…」
「…スピアとの戦闘故か、御覧の有様よ。それに…魔力まで抜き取られてしまっている…」
「魔力まで…!?そんな…」
「…ホワイトちゃん…治せるかしら…」
「…無くなってしまった腕は治せないですが…付け根を治療する事なら…」
ホワイトはフェクトの右腕の付け根に回復魔法をかける。
「っ……」
フェクトの左手の指が動く。
「…!指が動いた…」
「…うぅ…」
フェクトが声を出す。
そして、フェクトが目を覚ます。
「フェクト…!」
「目を覚ました…!」
「っ…ここは…って、ホワイト…!?」
フェクトがホワイトを見て驚いた表情をする。
「…良かった…フェクト…」
「良かったって…僕は右腕を失ってしまってるし…何より魔力をかなり吸い取られてしまった…何も良くない…」
フェクトが左手で拳を握る。
フェクトがホワイトを見上げる。
「…君は意識をずっと失ってたって聞いてたけど、もう大丈夫なのかい?」
「…うん。少し身体中痛いけど…大丈夫」
ホワイトがそう言うと、フェクトが目を逸らす。
「…君はおかしな奴だ」
「え…?」
「君は意識を戻してまだ間もない頃だろう。それなのに自分の身体より人の身体を心配する。なんでそんなに人の心配ばっかりするのさ。今は自分の身体を大事にしなよ」
「…そう…だね…」
「仮にも女の子なんだし、好きな人のためにも身体は大事にするべきだよ」
「好きな人…」
ホワイトが顔を赤くする。
ホワイトはジンの顔を想像していた。
「…まぁ、そういう君の親切な所に僕が二度も助けられているのは事実だ、感謝するよ…」
「…うん」
ホワイトが小さく頷く。
「…右腕が無くなるって、こんな感覚…なのか」
フェクトが自身の無くなった右腕の方を見る。
「…僕はジハさんの右腕的な存在だったし…その右腕が本当に右腕を失うなんて…皮肉な物だね…」
「フェクト…」
「魔力もスピアに奪われてしまった…僕はこれから…どうすればいいんだろうね…」
フェクトがため息を吐く。
「…目覚めたらスピアの件の事…聞こうと思っていたけれど、やはり後にしましょうか…」
「シェールさん…」
「ホワイトちゃんもフェクトも…意識が戻った今だからこそ身体を休めるべきよ。ランス君とナギサちゃんが戻ってから色々話を聞いても、遅くはないわ」
「…そうですね。ありがとうございます」
「…そうしてもらえると、僕も助かるよ…」
フェクトが上を向く。
そして、ホワイトが思い出したかのようにシェールに問う。
「そうだ…シェールさん。ジン君やミカは何処に…?」
「今は二番目の医療室にいるはずよ。皆…ホワイトちゃんの事を心配してたわ」
「…分かりました、行ってみます」
ホワイトがジンやミカのいる医療室へ走り出す。
「そうだ、帰ったら皆に言わないといけない事あるんだった……」
ホワイトが走りながら呟く。
「――ランスさんの…事…それももしかしたら………」




