ep64.完璧と可能
――ナギサがグニールと戦闘をしている同時期…スピアマウンテンの近くの森にて…
「見つけた…ルキ…いや…スピア!」
フェクトがルキに憑依したスピアを追っていた。
フェクトが歩いて移動するスピアを見つける。
「あぁ?」
スピアがフェクトの方を振り向く。
「誰だ貴様は?」
「僕は完璧のフェクト…」
「完璧の…あぁ、この身体の持ち主の仲間か」
スピアはそう言うと、振り向いて何処かに歩く。
「待て…!話は終わってない…!」
「話?私は忙しいんだ。今すぐ魔力の根源を…」
「その血の付いたナイフ…僕の下っ端が…お世話になったみたいだね…」
「あぁ?」
スピアは右手に血の付いたナイフを持っていた。
フェクトがスピアを睨み付ける。
「あぁこれか。私の傍をウロチョロしてたネズミを刺しただけさ。それがどうした?」
「…許せない」
「許せない?何が?小動物に情でもあったか?」
「っ…!」
フェクトが両手に魔力を込める。
スピアの言葉にフェクトが怒りを露わにする。
「潰す…!」
フェクトはそう言うとスピアに近付き、殴りかかろうとする。
「私を潰すだと?」
スピアはフェクトの拳を軽々と左手で受け止める。
「自惚れるのも大概にしろよ?」
「っ…!」
フェクトはスピアから距離を取る。
「邪魔だ、紛い物」
スピアはそう言うと、フェクトにナイフを投げる。
「っ…!」
フェクトは飛んでくるナイフを瞬時に避ける。
「ほう、これをかわすとは。ちょっとはやるみたいだな」
「さっきの感触…」
フェクトが自身の手を見る。
今の自分の力では倒せない、そう思っていた。
「やっぱり…使わないと行けないみたいだ」
フェクトはそう言うと、両手に魔力を込める。
「真の完璧を…この身に…!」
フェクトがそう言うと、フェクトは魔力を解放する。
そして…フェクトはかつての"真の完璧"の魔力をその身に宿す。
「…!」
スピアがフェクトの方を見て驚いた表情をする。
「…驚いた。今の攻撃が本気ではなかったのか」
スピアが小さく拍手をする。
「…制御…できてるよな…」
フェクトは自身の腕を見る。
「…できてる。大丈夫だ。僕は真の完璧のフェクト…今までの僕とは違う…お前を倒す…!」
「真の完璧か。この女の記憶の中には真の完璧という言葉はないみたいだが…初見攻略と行こう」
スピアはそう言うと、ナイフを両手に持つ。
「来い、真の紛い物よ」
「…!」
フェクトは両手に魔力を込めて巨大な魔力弾を作る。
「…!でかい…!その魔力の弾は…一体…」
「くらえ…!」
フェクトはスピアに向かって巨大魔力弾を放つ。
「っ…!」
スピアは反応が遅くなり、正面で受ける。
「ぐおおおおっ…!!」
巨大魔力弾の影響で森の一部が吹っ飛び、あたりが煙に覆われる。
「……ふぅ。やっぱりこの魔力は疲れる…」
煙の中…フェクトは息を吐く。
「………貴様…!」
「…!」
煙の中からスピアが現れる。
スピアが憑依しているルキの身体はボロボロになり、皮膚の大部分が黒く焼けていた。
「…回復が…追い付かんだと…」
スピアが自身の身体を回復させようとする。
だがルキの身体はボロボロな状態からすぐに治らず、地面に血が垂れていく。
「…そんだけ大きな火傷を負えば、いくら君でもすぐの回復は不可能だ」
「っ…!貴様…!」
「そして…この魔力はまだ使えるって事…忘れないでくれよ?」
フェクトはそう言うと、再び巨大魔力弾を作り出す。
「っ…!」
「さっきの規模と同じくらいの威力…もう一度喰らったら…どうなる?」
「っ…!貴様…この身体の本来の持ち主がどうなっても構わないのか!?」
スピアが声を上げる。
「どうなっても?別にいいかな」
「なっ…!?仲間じゃないのか…!?」
「仲間…だよ。救えるなら救いたい。でももしかしたら君が乗っ取っている以上…ルキは殺しが救いなのかもしれない」
「っ…!」
「だからここで…ルキ諸共…死んでくれ…!」
フェクトは再び巨大魔力弾を放つ。
「っ…!」
スピアはすぐさま距離を取る。
魔力弾を避けたつもりのスピア。だが…
「ちなみにその魔力弾…距離を取ると威力が上がるおまけ仕様だよ」
「…は?」
距離を取るスピアに迫る魔力弾は段々と大きくなっていく。
「っ…!」
「ゲームオーバーだよ」
フェクトがスピアの方に指を指す。
スピアに巨大魔力弾が直撃する。
巨大魔力弾の影響で再びあたりが煙に覆われる。
「…ちょっと…やりすぎたかな」
「……がはっ…」
「…おっと」
そこにはボロボロのルキの身体で必死にスピアが立っていた。
スピアが血を吐く。
「…生きてるんだ。それが…可能の災いとやらの力なのかい…」
「………舐めやがって」
「完全にボロボロだね。立っているんのがやっとなんじゃないかい?」
「っ…!」
スピアはフェクトの方を睨む。
フェクトが余裕そうにスピアを見つめる。
「…君が強靭な魔力を持っているのは君の前に立つ前から感じていた。…けれど、君はその強靭な魔力に身体が耐えれてないんだよ。ルキの身体では魔力に限界がある。だから…急に大きなダメージを受けたらすぐに再生できない。制御できてないんだよ今の僕は巨大な魔力を制御できる。制御できるように…ジハさんの一件が終わった後…ガンガンに鍛えたからね」
「…ふふふっ…」
スピアが笑い出す。
「…何がおかしい?」
「あーっはっはっは!そうだよフェクト!貴様は正しい!貴様は自分の未熟さに気付いて自身を磨き上げた。正解だよ、完璧の…いや…真の完璧のフェクトよ!」
スピアがボロボロで黒くなった腕を広げる。
「…何が言いたい?」
「全て正解であり…全て可能である。そう…全て…可能の範囲内だ」
スピアはそう言うと、目を赤く光らせる。
「…!」
スピアは小声で何かを呟く。
そして…スピアは自身の負傷した身体を少しずつ回復させる。
「させるか…!」
フェクトは小さい魔力弾を何個も放つ。
「っ…!」
スピアは咄嗟に魔力でシールドを貼り、魔力弾を受け止める。
「その魔力…ルキのじゃない…でもジハさんのとも違う…そうなると…お前本来の…!」
「だったら…なんだ?」
「その上から潰してやる…!」
フェクトは巨大魔力弾を放つ。
魔力弾はスピアのシールドに直撃する。
「…無駄だ。可能の災厄の前では、貴様の攻撃など無力――」
「っ…!」
シールドは魔力弾を消し去る。
スピアがシールドを解除する。
「今のうちに…」
スピアが治りきっていない傷を回復させる。
「っ…!」
フェクトが両手に魔力を込めてスピアに近付く。
「回復の邪魔をするな…!」
スピアはフェクトの拳に対してシールドを貼る。
「っ…!」
フェクトの拳はシールドに阻まれる。
「…?」
フェクトは何かに気付く。
「もしや…?」
フェクトは一旦距離を取る。
「っ…どいつもこいつも邪魔ばかり…」
スピアはシールドを解除し、傷を回復させる。
「やっぱり…!」
フェクトは再び巨大魔力弾を放つ。
「っ…またそれか…!」
スピアは再びシールドを貼り、魔力弾を防ぐ。
「今だ…!」
魔力弾を防いだ影響で発生した煙の中にフェクトは隠れる。
「…!奴は一体…何処へ…?」
スピアが辺りを見渡す。
「…こういう時こそ…」
スピアが目を瞑る。
スピアの持っている魔力でフェクトの位置を探知しようとしていた。
「…そこか」
スピアは右を向いて開眼。
そして、煙から出てきたフェクトの拳をシールドで受け止める。
「っ…!」
「煙の中に隠れるのはいい事だ。だが…私のこの魔力の前には無力だよ」
スピアはフェクトの拳を掴む。
だがフェクトはニヤリと笑っていた。
「…これを待ってたよ」
「何…?」
フェクトはもう片方の手に魔力を込める。
「っ!?」
「吹っ飛べ!」
フェクトはもう片方の手から巨大魔力弾を至近距離で放つ。
「っ…!」
スピアはシールドを貼るのが遅れる。
辺りに煙が舞う。
「………やってやったよ…」
スピアがフェクトの前でボロボロになり、倒れていた。
「…君を倒すためなら…腕の一本くらい…くれてやるよ…」
フェクトの右腕は…フェクト自身の巨大魔力弾に巻き込まれ、欠損してしまっていた。
フェクトの右腕の付け根から血が垂れる。
「…君の魔力には…弱点があった…なんでも可能な魔力だったけど…一度に一つの事しか可能にできない…」
フェクトが無くなった右腕の付け根を見ながら話す。
「…シールドか…回復か…どっちかしかできなかった…だから二つの場所から攻撃すれば…攻略できる…」
フェクトの身体がふらつく。
「…可能の災いディ・スピア…討ち取ったり…だね」
勝ちを確信したフェクト。
だがフェクトの背中にナイフが刺さる。
「………え…」
「慢心も大概にせよ、紛い物よ」
「ゴホッ…」
フェクトが吐血し、その場に倒れる。
「…あぁ。確かに今のは効いたよ」
倒れていたはずのスピアが立ち上がる。
「だがフェクトよ。本当に死んだか確認してから勝ちを確信するべきだ」
スピアはそう言うと、身体中の傷をゆっくりと回復させる。
「…そん…な…」
「この身体は普通の人間である以上…瀕死に至るような攻撃を受ければ回復は追い付かなかった。貴様みたいに攻撃力が高い奴とは相性が最悪だったな。まぁその致命傷も…長い時間を経て治る。この戦いではそれを学べてラッキーだよ」
スピアは別のナイフを取り出し、フェクトの背中を刺す。
「がはっ…!」
「貴様の魔力は使えるなぁ。この吸収刃とやらを使わせてもらおう」
「ぐっ……力が…抜けていく……辞め……ろ……」
ナイフに魔力が吸い取られ、力が抜けていくフェクト。
スピアが刺したナイフを抜く。
抜いたナイフを自身の腹に刺す。
「………これで良し」
スピアはナイフを再び抜き、ナイフをその場に捨てる。
スピアの身体にフェクトの魔力がみなぎる。
「…いい気分だ。依り代の物とはいえ、身体中に力がみなぎる…」
スピアがそう言うと、スピアの負っていた傷が段々と消えていく。
「魔力の増幅も感じる…ふふふっ…」
スピアが不敵に笑う。
「…だが、貴様の言う通り、この身体には限界があるようだな。これ以上の魔力は受け入れられない。すぐさま砂漠の街に行き、元の肉体を手に入れねば…」
「…クソッ……右腕失って…ここまで…かよ…ゴホッ…」
フェクトが吐血する。
スピアが倒れるフェクトを見下ろす。
「紛い物よ、よく聞け。真の完璧とは…私の事を指すのだ。私こそが真の完璧…そして…私がこの世界の神の一角だ。完璧とは神なのだよ」
「っ……クソッ………」
「貴様の魔力は私が活かしてやる。完璧とは何か私がこの魔力を以て教えてやろう。あの世で完璧を噛み締めろ」
スピアがそう言うと、その場を去る。
「………紛い物…か…」
フェクトが小声で喋り出す。
「…思えば…僕は…いつだって…完璧とは程遠かった…」
フェクトが自身の左腕を見る。
「右腕だけじゃない……もう…左腕も…動かない…や…」
意識が朦朧とする中、ゆっくりと目を閉じる。
「…最期に…ジン…君に力の制御ができた僕を見せたかった…会いたかった…よ…」




