ep63.吸血鬼
――あれから数分後…
「はぁ…はぁ…」
ランス山脈にてナギサが歩いている。
ランス山脈…カコウの街の近くにある活火山だ。
ナギサですら愚痴を零すほどのとてつもない暑さをしていた。
「暑い…魔力で体温を調節しているのに…この暑さ…」
ナギサは自身の身体を水の魔力を使い、体温を調節していた。
「ちょっと魔力を強めなきゃ…」
ナギサは自身に魔力をかける。
「本当にここに魔力の根源があるとして…一体何処にあるって言うの…」
ナギサが山にある洞窟へ入ろうとする。
洞窟の中にはマグマが流れていた。
ナギサが辺りの魔力の気配を見る。
「…この場所…さっきより魔力の気配が強い…もしかしたら…魔力の根源に近付いて…」
ナギサがマグマの方へ歩き出す。
「っ…暑い…もう少し魔力を強く…いや、無理か…」
ナギサがそう言うと周りを見渡す。
「魔力の気配…マグマからしてる…そうなると…」
ナギサは水の魔力で少量の水を作り、マグマに飛ばす。
だが水はマグマに触れた瞬間一瞬で蒸発した。
「…流石に無理か。でも…カルム師団の研究力…舐めないで欲しいかな」
ナギサはそう言うと、魔力を使って黒い箱のような物を出す。
そして…
「…格納!」
ナギサがそう言うと、マグマの一部が吸い取られ箱の中に入る。
「流石ルドの発明した箱。自動的に魔力に反応して吸い取ってくれる…やっぱりマグマそのものが魔力を帯びてたのね。これで持ち帰れ――あっつ!」
ナギサは高温になった箱の温度に耐えれず、うっかり落とす。
「蓋してたからこぼれてない、良かった」
ナギサはそう言うと手に魔力を集中させる。
「身体全体じゃなくて手に集中させれば…この高温の箱も…うん、持てる」
ナギサが両手で箱を持つ。
「これで大丈夫…」
魔力の詰まった箱を持ちながら洞窟から出る。
「この魔力を基地に持ち帰って…分析すれば…もう一つの魔力の根源に辿り着ける…」
ナギサがゆっくり歩き続ける。
「そして行く先はあの人の…――」
「あの人が…どうかしたのか?」
「…!」
ナギサの後ろには謎の男が立っていた。
ナギサはすぐさま距離を取り、箱をその場に置いて剣を構える。
「この魔力の気配…あの時と似た魔力…まさか…」
ナギサがそう言うと、謎の男が剣をナギサに向ける。
「スピアの手下…!」
「よく分かったな。俺はスピア様の魔力から生まれた『可能性の欠片グニール』」
「欠片…ネオカオスで言うネオカオス四天王みたいなところ…か…」
ナギサはそう言うと身体全体に水の魔力を使い、体温を調節する。
「その魔力…スピア様の言ってた血液を吸い取る女か」
「だったら何…?」
「スピア様に褒められるチャンスだ」
グニールはニヤリと笑う。
そしてナギサの近くにすぐさま移動し、剣を振る。
「っ…!」
ナギサが剣でガードする。
「早い…」
「まだまだ!」
グニールは剣を何度も振る。
ナギサはガードし続ける。
「っ…」
ナギサが攻撃を弾き、距離を取る。
「っ…はぁ…はぁ…」
ナギサの腕が震える。
「まだ…万全じゃない…か…」
ナギサは息を吸い込む。
ナギサはまだスピアとの戦いの傷が治りきっていなかった。
「ゲホッ…この辺り…空気が悪い…」
ナギサが咳をする。
「この環境…俺には最高の環境だなぁ!この場所なら力が溢れ出てきやがるぜ…」
グニールが手を広げる。
「…魔力の根源が近いから?」
「ははは、そうかもなぁ!?」
グニールが高笑いをする。
「まぁ、死にゆく貴様には関係のない事だ!」
グニールはそう言うと、再びナギサに剣を振る。
「っ…」
ナギサが剣でガードする。
「…あの時のスピアと同じくらい…強い…!」
「はははっ!何せスピア様から直々に復活して貰ったからなぁ!」
「スピアから…復活して貰った…?」
「そうだ!」
グニールは剣でナギサの剣を吹き飛ばす。
剣がグニールの背後に落ちる。
「っ…!」
「隙あり…!」
グニールは剣でナギサを斬ろうとする。
「…と、来たらそうするよね…」
ナギサはそう言うと、全身に水の魔力をかける。
「…!?」
ナギサはグニールの剣を流れるように走りながらかわし、すぐさま落とした剣を拾う。
「その動き…まるで川の流れみたいだな」
「…水の魔力だからね、凄いでしょ」
ナギサはそう言うと、グニールの持っている剣を斬る。
「っ…!」
グニールの持っていた剣は真っ二つに折れる。
「チェックメイト…」
ナギサがすぐさまグニールの首元に剣を向ける。
「…ここまで俺を追い詰めるか。流石はカルム師団とやらの団長よ」
「…少し動かせば首を斬れる状況で…余裕ね」
「あぁ…余裕さ…」
「っ…!」
ナギサが剣を振り、グニールの首を斬ろうとする。
だが…
「…!」
「私は可能性の欠片…それ以上の力を出す事…造作でもない!」
グニールは瞬間移動のように動き、ナギサから距離を取る。
「瞬間移動…」
「そして…ダメ押しだ」
グニールはそう言うと、手に魔力を込める。
そして再び剣を作り出す。
「無から剣を…作り出した…!?」
「さっき持ってた剣は流石に舐めプだったな。だが…この剣ならば殺傷能力はかなりある」
グニールはそう言うと、剣の刃を少し触る。
グニールの指から血が出る。
「少し触っただけで…この威力だ」
グニールの指が出血しているのをナギサが見る。
「…血、出てるよ」
「貴様に見せるために敢えて出しただけさ。こんなもの…すぐに治る」
グニールがそう言うと、指の傷が瞬く間に治る。
まるでスピアの魔力のように…
「その魔力…スピアのと一緒か…」
「その通り…スピア様の魔力で復活した我等『可能性の欠片』は…スピア様の魔力の一部を頂いている。この意味が…分かるか?」
「…どういう意味?」
「スピア様に一度敗北した貴様達には…我等『可能性の欠片』で十分だと言う事だ…!!」
グニールはそう言うと、再び剣を振るう。
「っ…!」
ナギサが剣でガードする。
さっきの一撃よりも重量のかかる一撃にナギサが押される。
「どうだ!さっきより重いだろう!?」
「ぐっ……」
ナギサが水の魔力を剣に込める。
「っ…」
ナギサがグニールから距離を取る。
「…今の感じ…魔力を剣に集中させなかったら…危なかった…」
「どうした!血液を吸い取る魔力は使わないのか!?」
グニールがナギサに挑発する。
「…使って欲しいの?」
「使って見せろ!そいつを上から叩き潰し…貴様の首をスピア様に献上しよう!」
「そう…」
ナギサが目を閉じ、息を吸い込む。
「…!」
ナギサが目を開ける。
ナギサの持っていた剣を魔力で変形させる。剣は薙刀へと変貌していく。
「それが血液を吸い取る魔力を持つ武器…!」
グニールがそう言うと、ナギサは薙刀を振るう。
「っ…!」
グニールは薙刀をかわす。
「危ない武器だ…だが…!」
グニールはナギサの動きを見る。
「………」
ナギサの動きが一瞬止まる。
「そこか…!」
グニールはそう言うとナギサの攻撃が当たらないように動く。
「っ…!まず…」
グニールがナギサの腹に剣を突き刺す。
ナギサの手から薙刀が離れる。
「うぐっ…」
ナギサの腹から血が出る。
「漸く当たってくれたぜ…お嬢さん――」
グニールは剣を刺しながらナギサを見る。
「…は?」
だがナギサの顔は口から血が出ていながらも笑っていた。
「何がおかしい?」
「…別に何も…おかしくないよ…!!」
ナギサはそう言うと、グニールの首元に噛み付く。
「いだっ…!」
ナギサの歯がグニールの首に刺さり、出血する。
「クソッ…離せ…!」
グニールが剣を深く刺そうとする。
「ゲホッ…」
ナギサが噛み付きながらも血を吐く。
グニールの首元がナギサとグニールの血で覆われる。
「汚らしい…!」
「っ…!」
ナギサが強く噛み付く。
「ぐっ…」
ナギサがグニールの頭を掴む。
「…貴様…何を…」
「…私と一緒に…ここで死のうよ…っ…!」
ナギサが再びグニールの首に強く嚙み付く。
「っ…!この…!」
グニールが剣を抜こうとする。
だが…
「っ…剣が…動かない…!?」
「…だから言ったじゃん、一緒に死のうって…ねっ…!」
ナギサが再び噛み付く。
ナギサは刺されている腹にも魔力を込め、剣を固定していた。
「っ…貴様…!」
グニールがナギサの口を振り払う。
「っ…」
「うぐっ…」
ナギサとグニールが離れ、二人は倒れる。
「……はぁ…はぁ…貴様…よくも俺の首元に噛み付きやがって…!」
グニールが首元の傷を押さえる。
「だが…!」
倒れているナギサの腹にはグニールの剣が刺さっていた。
ナギサの腹からは大量に出血していた。
「ゲホッ…」
ナギサが吐血する。
「その状態じゃ俺の攻撃を避ける事は不可能…今こそ殺す…」
グニールが倒れているナギサの方向へ歩き出す。
「………ふっ…」
ナギサがニヤリと笑う。
ナギサの目からハイライトがなくなっていた。
「…何がおかしい?貴様の方が致命傷だと言うのに…何故笑っていられる?」
グニールは倒れているナギサの目の前に立つ。
「終わりだ…血を吸い取る女…!!」
「…終わり…だね…」
グニールが魔力で剣を作り出そうとする。
だが…
「…君がね」
「…は?」
グニールは魔力で剣が作り出せなかった。
「何故だ…?何故剣が作れん…?」
「…はぁ…はぁ…」
ナギサが立ち上がる。
そして腹に刺さっている剣を抜く。
「ゲホッ…」
ナギサが吐血する。
ナギサの腹から大量に血が出る。血は地面に大量に落ちる。
「…これだけ出血しても死なないの…凄い…ふふっ…」
ナギサが笑い始める。
「貴様…!」
グニールがナギサに殴りかかろうとする。
だが…
「がっ…!?」
グニールの首の傷口から大量に出血する。
そして…その血はナギサの剣に吸い取られる。
「貴様…何を…何をした!?」
「…さっき噛み付いた。そっから血を出すのは当然でしょ?」
「っ…それだけじゃ説明が付かん…!一体何をしやがった!?」
「…さっき君、言ったじゃん」
「言った…!?俺が何を…!?」
「死にゆく君には…関係のない事って」
ナギサはそう言うと薙刀を拾い、ゆっくりグニールの方に歩き出す。
「っ…!貴様…!!」
グニールは魔力で火を作ろうとする。
だが…火は当然出なかった。
「っ…魔力が扱えない…何故だ!?」
「…血を吸い取るってデータしか貰って無かったの?」
「…!?そうだ…血を吸い取り…魔力を封じるって…だが…武器の攻撃は一切…」
「…良かった…ブラフをかけておいて…」
ナギサはそう言うと、自分の歯に指を当てる。
「関係ないって…言おうと思ったけど…話してあげる。私の魔力は…武器だけじゃなく…自分にもかけれる…君の首に噛み付いて…血を吸い取っただけ…」
「っ…!なんだそれ…吸血鬼かよ…!?そんな馬鹿げた事を…!」
「…御馳走様でした。美味しくないけど」
ナギサはそう言うと、持っている薙刀を剣に変形させる。
「本当は殺しなんて…したくないんだけどさ…君の上司が…ホワイトちゃんを傷付けたからさ…殺しちゃうね?」
「っ…!」
グニールが動こうとする。
だが…
「ダメだよ、動いちゃ」
ナギサがグニールを睨み付ける。
「っ…!!動けん…!?」
ナギサの睨みに怯えたかのように、グニールの身体が動かなくなる。
「…さっき首からいっぱい血を吸い取った分…魔力だけでなく身体能力にも影響が出るんだよ」
「っ…貴様…!!」
グニールが魔力で剣を作ろうとするが…やはり作れなかった。
「ホワイトちゃんを…傷付けた仕返しに…」
「辞めろ…」
「…ふふっ…」
「辞めてくれぇぇぇ!!」
「さようなら」
ナギサはそう言うと、剣でグニールの心臓を貫く。
「がはっ…」
ナギサは刺した剣を抜く。
大量の血が零れ落ちる。
「………」
ナギサは倒れるグニールを見下ろす。
可能性の欠片グニールの命の炎は…ナギサによって潰えた。
「………ふぅ」
ナギサが息を吐き出す。
ナギサの目にハイライトが戻る。
「ゲホッ…ゴホッ…」
ナギサが吐血する。
「…腹筋鍛えてたとはいえ…ちょっと…無理しすぎたかな…」
ナギサが腹の傷を押さえる。
「また…お腹刺されちゃった…しかもかなり深く…内臓やられちゃってるし…」
ナギサが水の魔力で出血箇所を覆う。
「夢で見た全身滅多刺しに…されるよりはマシか…それにしても…可能性の欠片…かぁ」
ナギサが薄暗い空を見上げる。
だが…遂に限界が来る。
「うっ…」
ナギサが腹を押さえ、倒れる。
「…力…入らないや…魔力…使い過ぎちゃった…」
ナギサが横になりながら目の前の情景を見る。
「…ダメだ…意識…が………」
ナギサはそう言うと、意識を失ってしまう。
ただ一人…活火山に一人…
後書き~世界観とキャラの設定~
『可能性の欠片グニール』
…スピアによって生み出された謎の男。かつてスピアに仕えていたらしく、スピアの魔力によって現代に蘇る。
ランス山脈に向かい、スピアの命令通り魔力の根源を手に入れようとしたが居合わせたナギサによって倒され、死亡。
蘇らせて早々倒されるとは悲しい物である。
『吸血鬼』
…ナギサがグニールに呼ばれた別称。
グニールの首元に噛み付き、魔力を発動する事でグニールの魔力を封じて勝利。
グニールにとってナギサは、首元に噛み付く吸血鬼に見えていた………




