ep62.行方不明
――外に出る三人。
そこに丁度基地から出たフェクトと居合わせる。
「あれ、ランスと別嬪さんと…誰?」
「フェクト…!今はそれどころじゃない…後でまた連絡する…!」
「え…あ、うん」
フェクトが走る三人を見る。
「…なんだったんだ。あっちは駅の方、スピアマウンテンとは逆の方向…」
フェクトが腕を組む。
フェクトの通信機が鳴る。
「こちらフェクト。どうし…」
「フェクト…様…申し訳…ございま…」
通信相手はスピアマウンテンの当たりを見ていた元ネオカオスの下っ端だった。
通信にノイズが走っていた。
「っ…!?おい…どうしたんだ…!?」
「奴等に感付かれ…私…がはっ…」
下っ端が苦しそうな声を出す。
「っ…!今君…何処にいる…!?」
「…ス…スピアマウンテンの……ふもと…に…」
「すぐ行く、待っててくれ…」
フェクトが通信を切る。
「っ…!僕のせいだ…!」
フェクトが歯を食いしばってテレポートする。
「――僕が…僕が動向を探らせたせいで…また…失う………」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――フェクトの下っ端がルキの動向を探る前…スピアマウンテンにて…
「…この身体、やはり不便だな」
スピアがルキの身体を触る。
スピアにとってルキの身体は少し重く感じていた。
「私の本来の身体…何処に行ったのだろう」
スピアが考え始める。
「封印される前の事…思い出そうにも何百年も何千年も前の話だ…何も思い出せない…」
スピアが頭を抱える。
「…とはいえ、私の魔力が眠っていたスピアマウンテンを奪還できたのだ。この地でなら、我の力の完全な復活までも時間をかけずして達成できるだろう――」
スピアが一人で呟くと、スピアの左腕がスピアの頭を掴む。
まるで何かに取り憑かれているかのように…
「…なんだ?」
「私の身体…返しなさいよ」
スピアの言葉にルキが途中で割り込む。
「確かルキと言ったな。私の本来の身体を手に入れるまでは…貴様の身体を使わせて頂く」
「…早く返しなさい。私には…ホワイトやジン…あいつらを殺すという大事な目的があるの…」
「あぁ、だから本来の身体を手に入れたらそっちに憑依する。そうなったら貴様の身体は用済みだ。その際貴様は殺さないでおいてやろう。どうだ、良い条件だろう?」
「…そんな条件、どうでもいいわ。早く…返しなさい…!」
低い声と高い声が交互にルキの身体から放たれる。
ルキの意識がナイフで自分の右胸を刺す。
ルキの右胸から血が垂れる。
「…何をする。そんな事をしたところで、身体の主導権は変わらない」
スピアが刺された身体をすぐさま回復させる。
そして…スピアはルキの記憶を探り始める。ルキの中にある…砂漠の街がスピアは気になっていた。
「そういえば、貴様の記憶の中に砂漠の街があるな」
「…そんな記憶、今更掘り出してどうしたのかしら…?私の殺し屋時代の記憶なんて…あなたには関係ないでしょう…?早く身体を返しなさい」
「いんや、ほんのりだが…私の記憶に残っているんだ。砂漠の街に暮らしていたかのような記憶が…」
「…じゃあそこへ行けばいいじゃない。それで本来の身体を手に入れて…私の身体を返してよ」
「なるほど、それもいい。そこに私の本来の身体があれば…私は完全体になれる…!」
スピアはそう言うと、持っていたナイフを舐める。
「…いでよ、我が眷属よ」
スピアは舐めたナイフを地面に突き刺す。
突き刺さったナイフは魔法陣を作り出し…魔法陣の中から二人の男が出る。
「…!ここは…」
「…この山の感じ…と言う事は…現代のスピアマウンテン…!」
二人の男が困惑する。
「…成功したな」
スピアが二人の男を見つめる。
「…!女…?でもあの方より身長が…」
「…待てグニール。この気配…この女…間違いない…スピア様だ…!」
「なっ…それは本当か…ボルグ!?」
「頭を下げろ…スピア様の前だぞ…!」
「っ…!」
ボルグとグニールは驚いた表情をしつつも、ルキに憑依しているスピアに頭を下げる。
「…グニールにボルグ…よく復活してくれた」
「っ…スピア様…」
「…私共を復活させて下さり、感謝致します」
スピアがニヤリと笑う。
「…ふん。復活早々だが、貴様等に命令がある」
「はっ、なんなりと」
「ボルグ…貴様はこのスピアマウンテンに残れ。どうやらこの山について探ろうとする不届き者が何人もいるらしい。そいつらを見かけ次第…殺せ」
「…承知致しました」
「グニール…貴様にはもう一つの魔力の根源がある場所に向かってもらう。そこに眠っている不可能の災い…奴を起こせ」
「もう一つの魔力の根源…あの山ですね。承知致しました」
「私は私の本来の身体を手に入れるという目的がある。その目的を達成する前に…貴様等には働いてもらう」
「承知致しました」
グニールとボルグが口を揃えて返事をする。
「期待しているぞ…『可能性の欠片』よ…」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――…スピアマウンテンのふもとにて…
「…!」
フェクトが腹から血を流して倒れている女の下っ端を見つける。
「おい…しっかりしろ…!」
「その声は…フェクト様…」
女の下っ端が顔を上げる。
「っ…何が…あったんだ…」
「…奴等に私の動きがバレて…ルキ様…いや、ルキ様に憑依している者に腹を刺され…それで…」
「…そう…か」
フェクトが下っ端に回復魔法をかける。
「…僕の回復魔法では完全には回復できないが…応急処置くらいはできる…」
「…ありがとう…ございます…お手を煩わせてしまい…申し訳…」
「…大丈夫。僕のせいだ…僕が君に危険な思いをさせてしまった…この罪は…僕が償う」
フェクトはそう言うと、魔力で渦を作り出す。
「…この中に入れば…目の前にはラッシュ師団の基地だ。そこで…治療してもらってくれ…」
「っ…ですが…フェクト様はどうするのです…?」
「…可能の災いとやらを倒しに行く」
「っ…!?そんな…無茶です…!奴等は力の一部を使ったに過ぎない…もし本気で戦えばいくら完璧のフェクトであるあなたでも…」
「…ごめんね」
フェクトはそう言うと、下っ端を渦の方へ押す。
「っ…!」
下っ端が渦に入り込む。
「フェクト様っ…!!」
「…」
フェクトは黙って下っ端を見る。
下っ端は渦に飲み込まれ、ラッシュ師団の基地の目の前まで送られてしまう。
「さてと…」
フェクトが周りを見渡し、魔力の気配を探る。
「…そっちか」
フェクトはそう言うと、魔力を使って南の方角へ高速で移動する。
――ウィッシュ城下町の駅にて…
「ダメだ…何処にもいない…!」
「駅員さんにも聞いたけど…カルム師団の団長…そういう人は何処にも見かけなかったって…」
「っ…クソッ…!」
ランスが柱を殴る。
ナギサを探しているランス、シェール、ルドだったがナギサは駅にはいなかった。
「ナギサちゃんは一体何処に…」
「…まさか、あの身体で…歩いて行ったのか…?」
「っ…まさかそんな事…」
「…いや、有り得る。あいつは電車代ですらケチるような奴…もしかしたら…」
ルドが考え始める。
そして、ランスが決意する。
「…ルド、シェール。お前等は基地に戻ってくれ」
「ランス君…?」
「俺とルド、シェールの三人がいないラッシュ師団とカルム師団は…圧倒的に戦力が落ちる…。だが一人欠けるくらいなら問題はない…あいつは俺が連れ戻す」
「…!そんな事…」
「…任せていいか、ランス」
「あぁ…」
「っ…ルド君まで…」
「…ごめんなシェール。俺がいない間、皆を頼む。それにあいつには…俺から謝らないと行けない」
「っ…分かった…ラッシュ師団は任せて…」
「…おう」
シェールがランスの手を掴む。
「その代わり…浮気しない事」
「何言ってるんだお前、それは当たり前だ。そもそも浮気してねぇ」
「…後、無事で帰ってくる事…何か分かったらすぐ連絡する事…いい?」
「…分かってる」
ランスはそう言うと、南の方角へ走り出す。
――一方…ラッシュ師団の会議室では…
「ミカ」
ロキが会議室に入る。
「…!ロキ…!?」
ミカがロキの顔を見て驚いた表情をする。
「会議の方終わってるっぽいから入ってみたが…ここに残って何してるんだ?」
「…別に何も…」
「会議で何を話してた?」
「ラッシュ師団とカルム師団で共有する情報について…色々ね」
「なるほどな」
ロキが腕を組む。
ミカが不思議そうにロキを見上げる。
「なんで帰って来たのさ…実家はどうしたの実家は…」
「親父もおふくろも妹も…皆元気だったから帰って来ただけだ」
「…そう」
ミカが目を逸らす。
「元気無さそうだな、どうした?」
「…ホワイトが…不安で…ずっと目を覚まさないし…さっき医療室も場所を移して緊急医療室まで…その場所に送られると緊急の団員以外は基本入れない…」
「…そうか」
「息はあっても…意識がない…こんなの…助からないって言ってるようなものじゃない…」
「ミカ…」
ロキがそう言うと、ミカを後ろから抱き締める。
「っ…!」
ミカがロキを振り払う。
「…何してんの」
「別に」
「別にって…アンタねぇ…今二人だから良かったけど…周りに誰かいたらどうするのよ…」
「二人だから良かった…か」
ロキが少し笑う。
「…何笑ってんのよ」
「いいや、何でもない。ホワイトは…きっと戻ってくる。もしかしたら…脳内世界とやらで何かしている可能性だって…あるかもな」
「脳内世界…」
「癒しの神とやらと関わりがあるんだろ?もしかしたら癒しの神に回復して貰っている最中かもしれない。全く違う事をしてる可能性もあるけどな…」
「…そう…ね」
ミカが顔を上げる。
ミカの通信機が鳴り始める。
「…団長から連絡だ」
ミカがランスからの通信に出る。
「…もしもし」
「ミカ。シェールやルドにも伝えたが、俺は暫くラッシュ師団に戻れないかもしれない」
「…は?何で?」
「医療室から突如いなくなったナギサを追うためだ。あいつ…もしかしたら電車を使わずカルム師団の基地に向かっている可能性があってだな。シェールやルドだけでは不安だから…お前にも基地にいて欲しい。今は残って鍛錬を続けてくれ」
「…そう。分かった」
「よ、団長」
ロキがミカの通信している所に乱入する。
「ちょっ…ロキ…耳元でうるさい…」
「あ?なんだロキもいたのか?帰って来たのか?」
「あぁ。実家の方が元気そうだったんで、戻ってきちゃったぜ」
「そうか。それならお前にも今の言葉が聞こえてたはずだ。お前にも基地にいて欲しい。今はひたすら鍛錬に勤しんで欲しい。時が来たら…ラッシュ師団とカルム師団の実力者で動き…スピアを討伐する」
「承知」
「後は…」
「ミカさん!と…ロキさん!」
会議室にラッシュ師団の団員が入る。
焦っている表情を浮かべる団員。
「…ん、どうしたの?」
「どうした?」
「基地の前…外で誰かが…倒れています!!」
「…!?」
「なんだと…?」
ミカとロキが団員の方を見る。
「恐らく服装的にネオカオスの下っ端…性別は女性で…」
「早く医療室に運んでくれ」
ランスが通信越しに話す。
「その声は団長…!通信してたんですか…?」
「あぁ、丁度いいタイミングで通信してたな。倒れている奴、もしかしたら…フェクトの下っ端かもしれん」
「フェクトの…」
「今は協力関係のフェクトだ…奴の下っ端となると…使えるかもしれん」
「使えるって…」
「兎に角急げ…!急ぎ治療をするんだ…!」
「…!承知…!」
団員はそう言うと、基地の入口の方まで走り出す。
「俺も行こう」
ロキが走り出す。
「あたしも…行く。団長…後でね」
「あぁ。また後でな」
――ミカが通信を切り、ロキについていく。




