ep60.試練
――フランから伝えられるもう一つの災い。
それは女神界にある不浄の檻に閉じ込められていたのだった。
ホワイトはそれに入ろうとしてメアリに止められた、そういう事だったのだ。
一歩間違っていれば、ホワイトは危険な目にあっていたかもしれなかった。
「もう一つの災いが…あそこに眠っていたの…!?」
「そう。可能の災いが自身が色々な事を可能にして支配していたのに対し、その災いは人の行動を封じたりして支配していたから『不可能の災い』なんて言ってる」
「不可能の災い…」
「しかもその不可能の災いは…ホワイトちゃんが現世で戦った可能の災いとは比較にならない程強大な力を持っていた…」
「強大な…力…」
「さっき肉体と魂と魔力で三分割してそれぞれ封印したって言ったと思うけど、不可能の災いはこれをする必要がある程に強かったの…そして…封印した今でも不浄の檻の中で魂は暴れている…」
「っ…そんなに…!?」
フランの言う通り…不可能の災いと呼ばれた者は現世に現れたスピアよりも断然強い存在だった。
「そう。例えばだけど、不可能の災いは…呼吸すらも不可能にさせる力を持つの」
「呼吸を…不可能に…!?」
「そう。そのせいで…多くの人が呼吸を奪われ亡くなった。不可能の災いは…絶対に封印を解いてはいけない存在なの。勿論可能の災いの方も封印は解いちゃいけなかったんだけど…もう解かれてしまってるから…」
「っ…」
ホワイトが絶望する。
「でも大丈夫、不可能の災いは…封印された後も魂が暴れて女神界でも騒ぎを引き起こしたりしたけれど…魂だけでは不可能の災いは使えない。だから…思ったよりかは絶望的な状況じゃない」
「今私達がするべきことは…可能の災いディ・スピアの再度の封印…ないしは討伐」
「封印か討伐…」
「恐らくスピアの目的は…不可能の災いの復活…。けれど、あなたが今できる事は…さっきも少し言った通り、これと言って特にない。強いて言うなら…私達があなたの回復を早める事だけれど…それでもあまり期待はしないで欲しい…」
ホワイトが目線を下に向ける。
「…私にできる事は…ないんですか…」
「…ごめんなさい」
「っ…」
ホワイトが再び地面に膝を付く。
「そんな…私はいつまで…皆の足手まといでいるの…」
「ホワイトちゃん…」
「私は…私は………」
メアリとフランはホワイトの方を見る。
「…そうだ…ランスさんが…ランスさんが今頃、皆を強くしようとしてるはず…そうなれば私の足手まといも…」
「…!」
フランが驚いた表情をする。
「ランスさんだったら…あの災いもきっと…」
「…ホワイトさん、今あなた…ランスって言ったかしら?」
「…はい。私が入っているラッシュ師団という団体の…団長さんです」
「団長…さんなのですね。いや、まさか…」
メアリとフランが何かに気付いたかのような顔をする。
「…?」
「ホワイトちゃん、もしかしたらその人…」
「メアリ」
フランがメアリの方を見て話す。
「…お姉ちゃん?」
「今はダメよ、メアリ」
「…ごめんなさい、お姉ちゃん」
メアリが不貞腐れる。
だがメアリはフランから何かを隠すように仕向けられているようにも見えていた。
「そうね…ホワイトさんに今できる事…」
「…フランさん、メアリちゃん…」
ホワイトが立ち上がる。
「ん?どうしたのホワイトちゃん?」
「ホワイトさん?」
「…私を…ここで強くしてくれませんか…?」
「…え?」
「現実世界の私が暫く起きれないのは分かりました…だからと言って…ただ何もせずいるのは嫌です…。だから…私はその間に皆の役に立てるくらいには強くなりたい…だから…!」
「…なるほど」
「お願いです…!」
ホワイトが頭を下げる。
「いいよ」
「え…?」
「ホワイトちゃん、優しそうだしあたしはいいよ!お姉ちゃんもいいよね?」
「まぁ…それしか選択は残されていませんし、やる価値はあるでしょう。生命の女神である私がいればもしかしたらあなたが持つ回復の魔力に関しても何か良いアドバイスができるかもしれません。それに、不浄の檻の管理は別の管理の女神に任せても問題はないでしょう」
「…!」
ホワイトが目を光らせる。
「それに…あなたの事に関して知りたい事もありますからね」
フランが小声で話す。
「但し…私の指導は厳しいですよ?」
「そんなの…覚悟の上です…!」
ホワイトが右手の拳を握る。
「決まりですね。そうしましたら戦闘用の聖堂へ向かいましょう。女神族でも魔力を得るためにまずは戦闘力を身に付けている者もいます。戦闘用の聖堂は戦闘に持って来いの場所でしょう」
「はい…!」
「メアリ、別の管理の女神に連絡忘れないように」
「はーい」
メアリが返事をすると、目を瞑る。
そしてその瞬間…なにか気配を察知するホワイト。
「…メアリちゃん?」
「はい、連絡しました。代わりにやってくれる方を用意してもらいました」
「…え?今の一瞬で?」
「女神族は同じ魔力を持つ者であれば心の声同士だけで会話も可能なのですよ」
「ええっ…!?」
女神族の魔力の強大さに驚くホワイト。
フランの言う通り、メアリは心の声で他の女神族とあの一瞬で会話をしていたのだった。
「はい。例えばメアリだったら管理の女神だから…他の管理の女神とは今の一瞬だけでも会話ができます。私であれば他の生命の女神と会話ができます。とても神秘的ですよね」
「凄い…です…」
ホワイトは同時に劣等感を感じていた。
「生命の女神は…私以外は今は多忙みたいなので今回は私のみで」
「生命の女神…そうだ、フランさん」
「なんでしょう?」
「その…癒しの神様って何者なんですか…?」
「…ふむ」
フランがホワイトの方を一瞬見た後、考え始める。
「女神族…だとは思うんですけれど、生命の女神って訳でもないし…今の話を聞いてると癒しの女神っていう区分に分けられてるのかな…って予想もしてるんですけど…」
「…何れ、話せる時に話しましょう。ですが一つだけ言えるとしたら…癒しの神は私達より上位…つまり最上位にあたる女神族と言う事」
「上位の…!」
「これ以上は…あの方から直接話して貰った方がわかりやすいかもですね」
「…直接…か」
「さて、聖堂へ行きましょう」
「あっ…はい」
フランが一番前を歩き、その後ろをホワイトとメアリがついていく。
『ねぇ、お姉ちゃん』
『どうしたの?』
フランとメアリがホワイトにバレないように心の声で会話している。
『なんでホワイトちゃんに嘘ついたの?』
『え?』
『心の声で話せるのは同じ魔力の女神族としかできないって事』
『…あなたと私は姉妹の関係、一部例外だってあるのですよ』
同じ魔力を持たない女神族でも、姉妹の関係であれば会話はできる。
『まぁそっか、私が代わる前の管理の女神もそんな感じだったし。それと…なんで隠し事したの?』
『隠し事…あぁ、あの事ね』
『そう。ホワイトちゃんが知る義務はあったはず』
『…不可能の災いの件ね…』
フランの心の声が震えている。
『…もしかしたら、既に奴は現世に復活していて…』
『相対しないといけない存在…』
『問題は…その復活している奴が人間界に封印した肉体か魔力の根源のどっちに該当するのかだけど…』
『…概ね肉体だと思っていいだろうけれど…だとしたら何故人格を持つようになったのかしら…』
『…ホワイトちゃんが戻る前に…教えるべきだよね』
『…そうね。そして…不可能の災いの完全復活を…防いで欲しい…』
フランとメアリが真面目な顔をしていると…
「二人とも…どうしたんですか…?」
ホワイトが首を傾げる。
「…!」
「ホワイトちゃん!ううん、なんでもないよ!」
「…?そう…ですか?」
「そうだよ!訓練とはいえ、戦闘本番に備えるためだからね。真面目になるのも無理ないよ。ね、お姉ちゃん?」
「…えぇ、そうね」
「…?そう…ですね…?」
ホワイトが首を傾げる。
メアリとフランは現実を隠し通そうとする。
「ささっ、見えてきたよ!アレが戦闘用に使う聖堂…」
ホワイト達の目の前には聖堂が立っていた。
「今からあなたは…あの中で私と戦って貰います。メアリには審判のような感じであなたの魔力を見てもらいます」
「ホワイトちゃんの魔力がどれほど発揮されているか、管理の女神メアリちゃんに任せなさーい」
「癒しの神に気に入られている人間とはいえ…手加減は一切致しません。よろしいですね?」
「…勿論です」
ホワイトが身構える。
――聖堂の大広間に入る三人。
「…さて、ホワイトさん」
フランがホワイトの方へ振り向く。
「…あなたの魔力…繋命について少しだけお話をしましょう」
「…!どうしてそれを…!」
ホワイトの繋命の魔力…それは目の前に立つフランも認知していた。
「癒しの神から聞いています。そして…あなたにはまだ繋命を使いこなせていない…」
「っ…!」
「あなたには…まだ可能性を秘めています。そして…その可能性を引き出すために、今から私と戦って貰います」
「っ…!」
「戦って…力に覚醒してください…!」
フランがホワイトの方へ剣を向ける。
「繋命…今の私に扱えるのかな…」
ホワイトが自身の右手を見る。
「っ…」
ホワイトが目を瞑って念じる。
「…………ぷはっ…」
ホワイトが息を切らす。
ホワイトに繋命が発生しなかった。
「…やっぱり…まだ駄目だ…今の私には繋命を…」
「隙ありですよ、ホワイト…!」
「っ…!」
フランがいつの間にかホワイトの目の前に立ち、剣を振りかざそうとしていた。
「っ…!」
ホワイトはギリギリのところで剣をかわす。
「あぶな…」
「もしも私が強大な敵だった場合…今頃あなたは死んでいます…すぐさま繋命を発現できないでどうするのです?」
「っ…そうは言われたって…あの時繋命の力を使い過ぎたあまり再度の発現が…」
「言い訳無用…!」
フランが再び剣を振る。
「っ…!」
ホワイトが剣をかわす。
「発現する条件を自分で探すのです…」
「発現する…条件…そうだ…」
ホワイトが深呼吸をする。
「…あの時はお母さんに会いたい気持ちがあった…それがトリガー…?」
ホワイトがそう言うと、ホワイトは目を閉じる。
「………」
「…ホワイトさん」
「…!」
フランがホワイトの目の前に立っていた。
「…遅いです」
フランがホワイトの右胸に剣を刺す。
「ぐっ…!」
「…!!お姉ちゃん…!?」
遠くから見ているメアリが驚いた表情をする。
「がはっ…」
ホワイトが吐血する。
ホワイトの吐いた血と右胸から出血した血が零れ落ちる。
「お姉ちゃん!?そんな事したらホワイトちゃんが…!!」
「ここは特殊な魔力が施された聖堂…この場所で命を落とす事はありません」
「だからって…痛覚の方がなくなる訳じゃない…」
「ぐっ…ゲホッ…」
ホワイトが右胸を押さえる。
「繋命を発現するまでに…あなたは何回死にますか?」
「ちょっと…!」
メアリがフランの前まで走る。
「お姉ちゃん…ホワイトちゃんの事殺す気なの…?」
「…私は可能の災いや不可能の災いがしそうなことを模範したまで…」
「だからって…!」
「奴等は…遠慮なんてしないのですよ?」
「っ…!」
フランの言うことも最もではあった。奴等に躊躇など存在しない。
フランはまさに躊躇のしない敵を真似ていたのだった。
「奴等に殺しへの躊躇はありません…私はホワイトさんの魔力が発現できるのなら…例え自分を壊してでも…その使命を果たします…!」
「…ホワイトちゃん…お姉ちゃんはこう言ってるけど…ホワイトちゃんは…どうしたいの…?」
「っ…私は…私は……」
ホワイトが涙を流す。
「…私には…この魔力を…使いこなせません…」
「ホワイトちゃん…!?」
「あの時だって…お母さんがいたから発現できた…でも今は…そのお母さんも暫くは繋命で会う事もできない…そんな状態の私に…魔力を覚醒させる事なんて…」
「…甘い」
フランはそう言うと、ホワイトの左胸を剣で貫く。
「がっ…!」
「お姉ちゃん!?」
ホワイトの左胸から血が大量に出る。
ホワイトは吐血する。
「…ゲホッ…ゲホッ…はぁ…はぁ…」
ホワイトが左胸を押さえる。
心臓に穴が開いてしまうが…ここは特殊な場所。ホワイトが死ぬことは許されなかった。
「っ…心臓…が…痛い……刺されたような感覚が………」
「…この場所では心臓を失おうと、死ぬことはありません」
「お姉ちゃん…!もういいよ…!!」
メアリがフランの剣を手で掴む。
メアリの手から血が出る。
「…メアリ」
「もうやめて…!これ以上は…いくらこの場所でも見てられない…!」
「…ですが、このままでは繋命が…」
「……無理…だよ…私には…」
ホワイトが息を切らしながら話す。
ホワイトの口から血が垂れ続ける。
「ホワイト…ちゃん…」
「…私には…無理…です…もう…このまま…ずっと…起きれなくていい…だから…もう…」
「…お父さんに会わなくていいのですか?」
「っ…」
ホワイトが動揺する。
「あなたのお父さんは…あの時繋命による反応がないって事は…今も何処かで生きていると分かっているのでしょう…?」
「っ…それ…は…」
「あなたは家族思いの優しい人…優しい人だからこそ…繋命に覚醒し…その魔力を使って災いに立ち向かうのです…そして…」
「………」
ホワイトが自身の傷口に回復魔法をかける。
「…ごめん…なさい…フランさん」
「…ホワイト」
「…私、お母さんだけじゃない…自分にも約束したんだ…皆を助けるって…決めたんだ…」
ホワイトが拳を握る。
少しずつ…ホワイトの身体に力が戻っていく。
「…約束したんだった…皆に…だから……私は…!」
ホワイトが右手に魔力を込める。
そして…
「…!」
「皆を守りたい…!」
ホワイトの右手に繋命剣が現れる。
そして…ホワイトの胸に開いた穴が塞がる。
「…その剣…目覚めましたか」
「フランさん…」
「…かかってきなさい。この聖堂ではどんなに傷付いても死ぬことはありません。遠慮なく私に…力を示すのです…!」
フランが剣を振る。
「っ…!」
ホワイトが剣を振り、フランの剣を押さえる。
「……この力…!」
フランの剣が押し負け、フランは後退りする。
「はぁ…はぁ…」
ホワイトがフランの方を睨む。
「…私だって…強く…なりたい…!」
ホワイトはそう言うと、再びフランに向かって剣を振る。
――女神の試練を突破するため…ホワイトは立ち向かう。




