ep58.信頼の帰還
ホワイトの医療室に戻るミカとシェール。
ホワイトは依然として眠りについたままだった………
「…なんか、久しぶりに大会場に集まったわ」
「そうですね。確か…ネオカオスの本拠地を見つけた時以来…ですかね」
「ホワイトちゃんは…まだ起きない感じ…か」
シェールがホワイトの頬を触る。
ホワイトの呼吸は日に日に浅くなっていた。
「呼吸が浅い…猛毒もそうだけど…それ以前に身体へのダメージが大きすぎたのだわ…回復団員が総出で出ても…」
「…今はホワイトが起きるのを信じましょう。それよりも…早速来たみたいです」
「…あら」
シェールが振り向くとそこにはカルム師団の男の団員が立っていた。
「ラッシュ師団副団長のシェールさん、お世話になります」
「…えぇ。お世話になるわ。あなたの名前は?」
「私はサベル。カルム師団ではルドさんとは別で歴史を追っている者です」
サベルと呼ばれた男が頭を下げる。
「サベル君でいいかしら?」
「…まぁ別にいいですが。私恐らくあなた達より年下なので…」
「へぇ、珍しいわ。ミカちゃんより年下なのにこんな礼儀正しくて…」
「…どういう意味です?」
「あはは…。世間話もこれくらいにして…私が共有できる歴史から…スピアの対策を考えましょう」
「えぇ。それじゃ、行きましょう」
ミカ、シェール、サベルの三人が医療室を出る。
「可能の災いディ・スピア…か」
ジンが自室で銃を見る。
「そういえば…災いと言えば…」
ジンがホワイトが一度ルキによって死亡した時の事を思い出す。
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――願いの女神イシュとジンが会話をしていたあの時。
「私のこの魔力は人の願いが強くないと使えないって事と、私自身の願いには呼応しないこと、他には魔力の消費量が通常の物より大きくなってしまうこともあります。…そして、大きな魔力には当然それに見合った代償がいります」
「代償…?」
「私の…休息が必要になります…今息を切らしているのもそういう事…そしてその休息の間…魔力切れによる副作用として災いが起こります。…今回の場合は少なくとも数ヶ月は要します…時間を要すれば要するほど、災いの比率は大きくなってしまいます…」
イシュは段々と息が荒くなってくる。
「女神族の魔力切れは…世界に影響を及ぼしますから…だから本来女神族は時が来た時しか動きません。今がその時ではありますが…」
「そういう感じ…だったのか…」
「…えぇ、だから魔力を使い切った今の私はしばらく動けません…だから…その間に…」
「俺がその災いを…乗り切ってやる」
ジンが真面目な顔をする。
「…元よりネオカオスって災いが存在してる。…こいつを災いとすれば、話は早いだろう」
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ジンの目付きが変わる。
「…まさか、ネオカオスは…あの時言ってた災いに該当しなかった…?となると…あの時災いが起こるって言うのは…もしや…」
ジンが一つの考えに至る。
「可能の災いの復活の事…だったのか…?…なんだよ、全てはホワイトを生き返らせた俺のせい…じゃねえか…」
ジンが下を向く。
「災いを乗り切ってやるって…何であの時言っちまったんだ…。現に今…壁にぶち当たっている状態なのに…俺は…俺は…」
ジンが嘆いていると、足音が聞こえる。
そして、部屋に男が入る。
「…!」
「よ」
「その声…ロキ…!」
ロキがジンの前に現れる。
「その様子だと、お前は今壁にぶち当たっている最中だな?」
「…なんでそれを」
「お前を見れば分かる。一緒の戦闘団員で、しかも何度も現場を一緒になったお前だ。お前の一番の理解者くらいにはなれるさ」
「…なんだよそれ」
ジンが目を逸らす。
「…そう言うロキはどうしたんだよ…実家の方…いいのかよ…」
「あぁ、大丈夫だ。親父もおふくろも、妹も皆元気だった。ジハの一件に巻き込まれてないかっていう不安もあったが安否は確認できたし、だから帰ってきた」
「…そうかよ」
「それより…団員の様子がいつもより違ったのと、何か別の団がいた気がするんだが、アレはなんだ?」
ロキが腕を組む。
「あぁ…別の団はカルム師団…今は魔力の根源を追っている団体だ。そして今はラッシュ師団とカルム師団で協力し、可能の災いに立ち向かう力を得ているところだ」
「可能の災い…か」
ロキが天井を見る。
「そしてその可能の災いは…まさかのルキに憑依していた」
「ルキに憑依…と言う事は…ルキは生きていたのか…あの爆発から生き残るなんて…奴もしぶといな。でも今は憑依されている…と」
「あぁ。それと…可能の災いは魔力の根源そのものだ」
「魔力の根源そのもの…?」
ロキが首を傾げる。理解が追いついていなかった。
「あぁ、カルム師団の見解では…ジハが一度手にした魔力の根源に…可能の災いの魂が宿っていた。そしてその可能の災いがジハを介して…という予想を立てている」
「なるほどな。ジハを介して…まぁ確かにルキならジハと接触する可能性は高いだろうな」
「…そして、今スピアマウンテンはスピア本人が占領している。ホワイトやミカが…大ダメージを負って…」
「ホワイトとミカが大ダメージを…!」
ロキが驚いた表情をする。
「幸いミカは命に別状はないが…ホワイトは大きすぎるダメージのあまり、今も眠っている状態だ…」
「っ…」
「ミカの方は…あいつの治癒能力がヤバいせいですぐに復帰した。とはいえ…あんまり無理はさせたくないんだがな…」
「…そうだな」
「奴はホワイトやミカだけでなく…カルム師団の団長すらも大ダメージを負わせてる…団長のナギサさんは今は医療室で安静にしている。…そのくらい可能の災いはヤバい存在だ…」
「…カルム師団の団長にも…重傷を与えた…か」
ロキが自身の銃を取り出す。
「…ミカは今どこに?」
「会議室にいる。ラッシュ師団の団員と一緒だ」
「会議室か、了解」
ロキはそう言うと部屋を出ようとする。
「…ミカに会いに?」
「まぁそうだな。あいつの顔を見てからじゃないとラッシュ師団としての仕事がままならないからな」
「何を言っているんだお前は…」
ジンがため息をつく。
「じゃ、後でな」
「…おう」
――とある場所。
「…フェクト様、ジハの遺体を回収しました」
「うん、ありがとう」
ネオカオスの一件で姿を消したフェクトが謎の男と会話をしている。
「ジハの遺体には…左胸に刺されたような跡があり…遺体の中には魔力がなく…本当にもぬけの殻の状態でした…」
「…そっか。わざわざごめんね」
フェクトが椅子から立ち上がると、謎の男が口を開ける。
「…それにしても…何故我々を救って下さるのですか、フェクト様」
「僕は…ジハさんに騙されていた身だったからジハさんは今は嫌いだ…けれど、ネオカオスは案外好きだった」
「フェクト様…」
謎の男の正体はかつて殺戮のデストに仕えていたネオカオスの下っ端だった。
「僕はネオカオス四天王の中で唯一下っ端がいなかったけれど、デストやルキ、メタリーは頼れる下っ端がいた。ルキはなんかたまに逆上して下っ端を殺してたみたいだけど…。そんな下っ端達もジハさんやネオカオス四天王亡き今、行き場所を失っている。僕は皆に…行き場所をを与えたいだけなんだ」
「…フェクト様に行き場所を与えて下さるなんて光栄です」
「とはいえ、もうネオカオスとしての活動は不可能だね。ジハさんもそうだけど、デストは完全に壊れ、メタリーはホワイトに殺されて死亡…ルキもあの研究所の爆発で恐らく死亡…」
「…それなんですが、フェクト様」
「ん?どうかしたのか?」
フェクトが横目で団員を見る。
「ルキ様…なのですが、別の者がルキ様を見たと言い張りまして…」
「…何?」
フェクトが元ネオカオスの下っ端の方を見て目を細める。
ルキの目撃情報…それ即ち、スピアの目撃情報だった。
「かつて魔力の根源があったとされるスピアマウンテン…その場所に向かうルキ様を見たという事で」
「ルキが…スピアマウンテンに向かっていた?」
「…はい。しかも…そのルキ様からはルキ様本来の魔力とは違う魔力…しかも強大な魔力を感じ取ったという報告が」
「…どういう事だ?」
フェクトが空を見て考え始める。
「ルキが生きてる…のは別にいいとして、そのルキから違う魔力の気配…強大な魔力…もしかして…」
フェクトは考える。
フェクトにはひとつ考えが過ぎっていた。
「…いや、確信に至るにはまだ早いか。その者は今どこに?可能だったら呼んでくれないかい?」
「はっ、今お呼び致します」
元ネオカオスの下っ端は通信機を繋げる。
「フェクト様がお呼びだ、アジトへ来てくれ」
「…了解」
通信機の先から女の声が聞こえる。
「何れにせよ、情報が欲しいな。ルキが何故生きているかよりも…ルキが何故スピアマウンテンに向かったいたか…気になる。何せ…魔力の根源はもうもぬけの殻の状態だ。後は…カルム師団がここ最近までずっといたはずなのに急に殆ど団員がいなくなった所も見ると…やはりルキは鍵を握っていると見た」
「お呼びですか、フェクト様」
フェクトの目の前に女の元ネオカオスの下っ端が現れる。
「早いね来るの。えっと…君は確かルキの所の。スピアマウンテンに向かうルキを見たって聞いたよ。ちょっと教えてくれないかい?」
「了解です。あの後正体を隠す事にした私はジハ様…いや、ジハの遺体回収のため、遺体の場所に心当たりのあるスピアマウンテンに向かっていたところ、カルム師団の団員を確認しました」
「うん、そうだね。そこからカルム師団の動きを観察してほしいと頼んだのも、僕だね。確かそれは一昨日の話かな?」
「そうです。そして昨日…いつも通りカルム師団にバレないようにカルム師団の動きを観察していたら…突如ルキ様がカルム師団の前に現れ…団員達をナイフで串刺しに…」
「串刺しに…」
フェクトが拳を握る。
「あの時のルキ様は何やらいつもと口調が違う感じで…しかも何か魔力の気配も違って…という感じでしたが…」
「そうか、分かったよ。他に何かおかしな動きはあったかい?」
「えっと…ルキ様自体がおかしかったのもそうですが、ルキ様が現れる前にラッシュ師団のホワイトと、カルム師団の…かなり美人な女がスピアマウンテンに入っていくのが確認できまして」
「ホワイト…と、カルム師団の美人な女…?」
フェクトが首を傾げる。
「恐らく団長や副団長に当たる方…かと。他の団員とは少し違う服を着ていて…それで」
「なるほどね。他には?」
「本当はその場にずっといるべきだったと思うのですが…ルキ様のあの行動を見て、その後動きを窺うのは危険と判断し退避致しました」
「…なるほど、分かった」
フェクトが指を咥える。
「そうだな…引き続きスピアマウンテンの当たりを見てくれないかい?今スピアマウンテンにいるかは分からないけど、ルキの動向を見たい。できれば他の人も一緒にいた方が安全だから何人かで行動して欲しい、お願いだ」
「承知致しました」
元ネオカオスの下っ端はそう言うと、スピアマウンテンの方向へ走り出す。
「…さてと」
フェクトが風に服をなびかせる。
「さっきの情報があってもまだ確信に至れない。これは直接聞くしかないな…」
「直接聞く…と言いますと?」
「ラッシュ師団に…直接話に行く」
フェクトは危険な選択を選ぼうとしていた。
何せ目の敵にしていた、されていたラッシュ師団に協力を求めようとしていたのだから。
「…!フェクト様…それは危険です!いくらラッシュ師団に許されて解放されたフェクト様と言えど、奴等がそんな簡単に情報を吐いてくれるとは思えません!それにもしかしたら…」
「…だけど、それ以外何があるんだい?」
「っ…それは…」
「僕はジハさんとは違う…ジハさんとは違うやり方と目的で…今この世界に何が起こっているかを調べたい」
「フェクト様…」
「そのためなら…僕は何処までも行く。僕が直接行って…その目と耳で確かめる」
フェクトはそう言うと、謎の森の中を歩き出す。
「それに…ジンにまだ完全に恩返しができてないんだ。僕は恩返しをしたい」
「――目指すは…ラッシュ師団の基地だ…!」
後書き~世界観とキャラの設定~
『サベル』
…カルム師団団員の男。一人称は私であるが、ちゃんと男。
戦闘に関してはラッシュ師団より劣るカルム師団の中では剣の扱いに長けているらしい。
『ロキの家族』
…休暇を貰っていたロキは殺戮のデストのベースの人間を探し終えた後、家族の元へ顔を見せていた。
家族構成は父、母、妹、そしてロキの四人家族で現在もご存命。
銃の扱いやネオカオスの尋問など、やっている事に反して珍しく家族思いである。




