ep57.反撃の作戦
「スピアの討伐…!」
ジンが息を呑む。
ルドが通信機を操作する。
「魔力の根源を調べる上で得た知識で…スピアという名には聞き覚えがあってな」
「…聞き覚えが!?」
「あぁ。我々人間やその他多くの生き物に魔力を発現するようになった太古の時代になるな」
「そんな前まで…?」
ルドが通信機からホログラムを表示させる。
そこには少女と少年の影映っていた。
「太古の時代…とんでもない人間が二人生まれた。可能の災いと呼ばれし者と、不可能の災いと呼ばれし者…」
「可能の災いと…不可能の災い…?」
「可能の災いと呼ばれし男は今まで人間にできなかった事を魔法のように扱った。人々はこれを魔力と呼んだ」
「魔力…」
「可能の災いは人々や自然に魔力を与えた。人間に無限の可能性を与えたのだ。魔力から魔法が生まれ…魔力は色々な形で応用される事になった。逆に不可能の災いはその力であらゆる事柄を不可能とした。今でいう、魔力による行動封じや魔力封じがそれに該当するだろう」
「…そうか…俺の魔力も…ホワイトやミカの魔力も…全部その太古に生まれた人間のおかげで…それで…」
ジンが腕を見る。
「だが…可能の災いと不可能の災いは傲慢だった。魔力を得た人々より圧倒的に優れる力を持ち、その力で人々を制圧しようとした。それが地獄の始まりだった…人々と災いによる争いが始まった。激しい争いは何年も続き…人々の寿命は先に潰えてしまった。だが…人々は子孫を残し続け、戦いを諦めなかった。そして…数千年の争いの末、人々が勝ったのだ」
「…!人が…人間が勝ったのか…?」
ジンが驚いた表情をする。
「人々は二度と災いを放たないよう、二つの災いをそれぞれ山に封印した。災いは大きな魔力故にその大きさに比類する山に封印するしかなかった。彼らを魔力の生みの親、魔力の根源と呼び触れてはいけない存在として…」
「…触れてはいけない存在…魔力の根源…それが歴史…」
「だが魔力の根源の力は絶大だった。封印されてもなお人々に災厄を与えんとし、各地に魔力の柱として現れ、暴走を起こしては人々を奪う…」
「…!まさかそれが…」
ジンが拳を強く握る。
「…あんな悲劇を起こさないためにも、俺達カルム師団は今、歴史を辿りながら魔力の根源を研究している…という訳だ」
「…そう…だったんですね…」
「長くなったな。これがスピアに関する歴史の答えだよ」
ルドが通信機のホログラムを閉じる。
「あぁ。だが…今の話とスピアになんの関係が…?」
「あぁ…スピアは…可能の災いと呼ばれし存在だよ」
「は…!?」
「正確には…『可能の災いディ・スピア』という存在…奴の存在自体が魔力の根源そのもの…なんだよ」
「魔力の根源そのもの…!」
「スピアマウンテンは奴の存在を忘れぬためにも付けられた。槍の山なんて言われてね」
「そういう事…だったのか…」
「あぁ。ジハはこんなのを得ようとして…本当におかしな奴だ」
ルドがそう言うと、ランスが喋り出す。
「スピアとかいう奴…」
「…!団長…」
「…あいつはナギサとミカ…ホワイトを傷付けた…絶対に許さない…」
ランスが立ち上がる。
ランスの目付きが悪くなっていた。
「俺の団員を傷付けた罰だ…奴を…殺す」
「…!」
ジンがランスの方を見る。
「…奴を殺し、もう片方の不可能の災いとやらも殺し、魔力の根源そのものを滅ぼす…」
ランスが拳を握る。
拳から血が出ていた。
「…団長…待て…その精神状態でお前…」
「ルド…お前に言われて気付いたよ」
「…?何をだ?何かに気付いたのはいいとして俺は別にお前を励ましに来た訳じゃない。お前が動かないとナギサも動かない気がしたからここに来ただけだ」
「…あぁ。そのナギサだよ」
「ナギサが?恋人を辞めたお前に何が…?」
「…さっき歴史を辿りながら魔力の根源を研究って言ったな」
「…それがどうした?」
「ナギサにそんな危険な事を続けさせたくねぇ。それだけだ」
ランスもまた、ナギサに対して思う事があった。
「…何を言い出すかと思えば。恋人破棄したのに元恋人の心配とか未練タラタラかよ。シェールさんが聞いたら傷付くぞ?それにカルム師団は元々危険が伴うのは前提だ、ナギサだって理解してるさ。それを何故今になって…」
「あぁ、未練タラタラだよ。色々な…」
ランスがルドを睨む。
「…それで、どうするんだ?」
「決まってる、スピア討伐のために今は鍛える…そして…カルム師団とも手を組もう」
「…決まりだな」
ルドが微笑する。
「とは言ってもな…うちらの団員は俺とナギサ以外あんまり戦闘強くなくてな…」
「そうか。だったらお前とナギサだけでいいだろう。うちにも強力な面々は揃っている」
「…そうかよ。ならナギサにもそれを伝えてくる」
ルドが団長室から出ようとする。
「あぁ。ナギサなら医療室にいるはずだ。治療を受けているはず」
ルドがそれを聞くと、ルドがランスの方を振り向く。
「…なぁ、ランス」
「なんだ?」
「…お前は立ち直りが早いな」
「今落ち込んでたとて仕方ないだろう。俺がここで立ち上がらなければ…皆を再び傷付けてしまう。だから…俺が団長としてやらねばならない」
「…そうだな。ナギサもお前のそういう所を見習ってほしかったりはするんだけどな」
ルドはそう言うと団長室から出る。
「さて、ジン」
「…団長、本当に大丈夫なのか?」
「まぁ…少し辛いが」
「やっぱ辛いじゃねえか」
「…何かあった時は、ジンも俺の事を助けてくれないか?」
「はぁ」
ジンがため息をつく。
「…嫌か?」
「嫌じゃねえ、ラッシュ師団である以上は助けてやる。でも…」
「でも?」
「団長は団長で一人で抱え込むんじゃねえ」
「…!」
ジンの言葉を聞き、ランスが驚いた表情をする。
「お前…そんな言葉を使えるようになったのか…」
「…俺を何だと思ってんだよ」
「いや…元殺し屋なお前がまさか一人で抱え込むとか…少し驚いた」
「馬鹿にしてるのか?」
「いいや、元気を貰った。助かる」
ランスが少しだけ微笑む。
「…んで、どうするんだよ」
「ひとまず…シェールに謝らなきゃ…だな」
「…そうだな」
ランスとジンが団長室を出る。
――ナギサの医療室へ着くルド。
「ナギサ…!」
「…ん」
ナギサがベッドで寝ていた。
「大丈夫か…!?」
「…大丈夫。ナイフも急所は外れていたから一大事にはならなかったし、何よりラッシュ師団の回復団員の人達は凄いよ。すぐに出血を止めてくれたし、私の身体の中に入ってた毒も取り除いてくれた。けど…ホワイトちゃんが庇ってくれなかったら本当に死んでたかも…」
「…そうか」
ルドがナギサを見つめる。
ナギサは後悔したかのような目をしていた。
「…私さ、ホワイトちゃんに…仲間を死なせはしないって言ったのに…それなのに…死なせるかもしれない事に巻き込んで…寧ろホワイトちゃんが…私を死なせないために行動して…それで…」
ナギサがそう言うと、ルドがナギサの頬を抓る。
「いてっ…何するの…?こっち一応重傷患者なんだけど…」
「…弱気になるなよ、ナギサ」
「別に私は…」
「確かに…ホワイトさんを危険な目に合わせたのはお前の落ち度もある、それは否定しない。お前が俺らの団長だからと言ってお前を擁護したりはしない」
「…」
ナギサが目を逸らす。
「だけど…ホワイトさんはそれでも…お前を守りたいと思って庇ったんだ。庇ってくれた分を…無駄にするな。お前は…団長として前だけを見ていろ」
「…まぁ、そうだね」
ナギサが目を擦る。
「…ごめん、弱気になってた。私…カルム師団の団長として…頑張るよ」
「…あぁ」
「そのためにも…私は強くならなきゃ。よし…鍛錬に行こう…!」
ナギサがベッドから出ようとする。
「いでっ…」
ナギサが腹を押さえる。
「ナギサ…弱気になるなとは言ったが、無理はするな」
ルドがナギサをベッドに戻す。
「…ルドには敵わないよ」
「今はゆっくり休め。カルム師団は暫く俺が纏める。そして…ラッシュ師団の人達にも協力してもらう。目指すはスピア討伐だ…」
「…あの化け物の…討伐か…」
ナギサが自身の腹を摩る。
「…ルド」
「どうした?」
ナギサが言葉を続けようとするが、途中で辞める。
「…いや、なんでもない」
「?まぁいい。今日はもう遅いから明日からランスやその他団員と詳しく話す」
「…お願い」
「あぁ。おやすみ」
ルドが医療室を出る。
「…やっぱ言えないや」
――翌日の早朝…
「…ホワイトは…まだ目を覚まさない…か」
ミカがホワイトの医療室に入り、ホワイトを見る。
ホワイトは一日中目を覚ましていなかった。
「…シェールさん。ずっと見てたんですか?」
ミカがシェールの方を見る。
「…えぇ。一晩中ね。…少し眠いわ…」
「…ゆっくり休んでください」
ミカがシェールに布団をかける。
「…ミカちゃん、ありがとう」
「…今日、団長から団員全員の招集予定がかかってます。シェールさんも…お願いします」
「…勿論よ。それより…あなたの傷の治り具合…半端ないわね」
ミカの傷はこの一晩で殆ど治りきっていた。
「まぁ…少し身体に違和感があるくらいで…今は大丈夫です」
「そう…。やっぱりあなたって…いや、何でもないわ」
「…?」
ミカが首を傾げる。
「ナギサちゃんは…」
「…まだ寝てます。傷の方も治りきってないみたいで」
「普通は一晩で治らないのよ、あの傷は。とはいえ…ラッシュ師団の回復団員の力があれば、早くて明日には治るかもね」
「…正直、ラッシュ師団は凄い団体だと思ってます。ホワイトがいれば…回復団員の負担も減ったり効率が良くなったりはするんですけど…ホワイトがこの状態じゃ…」
「ミカちゃん…」
「ホワイトが傷を癒している間…私達で奴に対抗する力を…手に入れましょう…!」
「…勿論よ」
ミカとシェールが立ち上がる。
――ラッシュ師団基地の大会場に集まるラッシュ師団の団員とカルム師団の団員。
「皆、よく集まってくれた。休暇中に来てくれた者もいて助かる」
ランスが声を上げて喋る。
「そして、今回カルム師団の団員の方達にも集まってもらった。そして俺の隣にいるのが、カルム師団副団長のルドだ」
「…ルドと言う。宜しく頼む」
ランスの隣でルドが頭を下げる。
「本日皆に集まってもらったのは他でもない。昨日ホワイトやミカ、カルム師団のスピアマウンテンを管理していた人達が出くわした人物についてだ。その人物は…俺達ラッシュ師団が死亡と断定したはずの…ネオカオス四天王の一人、暗殺のルキだ」
「暗殺のルキ…!?」
「まだ生きていたのか…!?」
一部の団員達がざわめく。
「…そうだったな。一部伝えてない人間もいるな、すまない。暗殺のルキは何故か生きており…そして、その中に更に別の人格が芽生えている事も分かった」
「別の人格…?」
「奴の名前はスピア…ルドの過去の調べによると…太古の時代に生まれし人間…『可能の災いディ・スピア』という存在…奴の存在自体が魔力の根源そのものだ」
「魔力の根源そのもの…!?」
可能の災いディ・スピア…それがカルム師団のデータにも残っていた、魔力の根源そのもの。
魔力の根源はスピアという人格を持っていたのだった。
「先の件…魔力の根源の暴走によってジハは死亡と世間一般には広まっていた。だが…魔力の根源の暴走はそれに飽き足らず、ネオカオス四天王である暗殺のルキに力を与えた…いや、どちらかというとルキを利用していると推測している」
ランスが喋り終わると、ルドが喋り出す。
「…俺達カルム師団が今まで調べてきた魔力の根源のデータとして…間違いなく暗殺のルキにはスピアが憑依している。そして…可能の災いの如く、何もかも可能にしてしまう魔力を持つ。だが…復活の余韻故か魔力を盛大に持て余す事はしなかった。それでも強大な力に変わりはなく、ホワイトさんや俺達カルム師団の団長…ナギサが大きなダメージを受けた。ミカさんはどうやら復帰したようだが…」
ルドの言葉を聞いた多くの団員がミカの方を見る。
「ちょっ…これは別に…回復団員の皆が凄かったからすぐ復帰できただけで…」
ミカが目を逸らす。
「…ゴホン。そこで俺とルドで一晩中考えた。スピアは復活したばかり故に完全に力を取り戻すまでに時間がかかっていると推測。そこを早い段階で叩いて討伐したい…という事だ」
「…と言っても、俺らの団長やホワイトさん、ミカさんが協力しても傷一つすら付けられない相手だった。そこで俺達は早めに鍛錬を行い、早いうちにスピアを討ちたい」
「そのためにも…ラッシュ師団とカルム師団のそれぞれ持っている知識や魔力を共有し、早い段階で対スピアの力を得たい。皆、協力してくれ。それと…団員全員で攻めるのは逆に奴に警戒されて危険だ。過去にネオカオス四天王などと直接相対した戦闘に優れている団員を抜粋し、残る団員でバックアップを尽くす…そうしたいところだ」
「今日より…鍛錬を開始したい。そのためにも、我々カルム師団の知識も共有しよう。その中にはスピアに関する歴史も載っている。皆にデータを送ろう」
ルドはそう言うと、皆の通信機にデータを送る。
「…さてと、ひとまず招集は以上だ。これから…ラッシュ師団とカルム師団で合同で鍛錬に勤しむ。皆…少し忙しくなるが、急いで強くなってくれ…!」
「了解…!!」




