ep56.神と呼ばれた女
――ホワイトとナギサを逃がしたミカ。
ミカが時間を稼ぎ、スピアを止めると言う算段。
だがスピアは誰一人たりとも逃がそうとは甚だ考えていなかった。
「…ふん、逃がすとでも?」
スピアはナイフをナギサが逃げた方へ向ける。
「逃がさせるわよ。何がなんでも…あの二人には生き延びてもらう…」
「良い心がけだな。だが、貴様一人に何ができる?さっきの女より弱そうなお前が…!」
「…弱そう?このあたしが?」
「あぁ。凄く…な」
「舐めるな…!」
ミカは銃剣でスピアの方へ撃つ。
「…面白い。だが…私には無力だ」
スピアは浮かせたナイフで銃弾を弾く。
「動きが身体に染み付いてきているなぁ」
スピアがナイフを再び大量に浮かせる。
「だんだんと…私も戦闘に慣れてきたんだ。私の方も余興が終わったところだ」
「…そう」
ミカがロキの持つ自己強化の魔力を使う。
「対ルキには…これを使った。応用が利けばいいけど…」
ミカが銃剣で再び撃つ。
「その銃撃はさっき見た」
ナイフで弾かれる銃弾。
「…」
再び撃つミカ。再びナイフで弾く。
ミカは撃ちながらも少しずつスピアの方へ近付く。
「ならば…こちらから…!」
スピアはナイフをミカへ向かって投げる。
「…それがどうし…っ…!――」
ミカは自己強化の魔力で身体がナイフを弾いた。
だが、ミカの右肩に傷ができる。
「っ…この傷…」
「どうした?傷ができてるぞ?さっきの威勢はどうした?」
ミカが出血する右肩を左手で押さえる。
「くっ…」
「もしかしてその強化系の魔力故に効かないと勘違いしたか?」
スピアがミカの方を見て笑う。
「ナイフは当然魔力で強化してる。皮膚のみならず、鉄にすら大きな斬り込みを入れるだろう」
「はぁ…はぁ…ふふっ…」
ミカが右肩を押さえながらも笑う。
「何がおかしい?そのダメージで笑ってられる余裕があるのか?」
「…あるわ」
次の瞬間、ミカは瞬間移動のように動きスピアの後ろまで移動する。
「…!」
「銃でダメなら…剣で…!」
ミカは銃剣でスピアの首元を狙う。
「っ…!」
スピアは瞬時にナイフでガードする。
「…貴様を侮ってたよ、ミカ。貴様は強い」
スピアはそう言うと、ナイフでミカの銃剣を突き飛ばす。
「…!」
「そう、私の次にな」
スピアはミカの腹にナイフを刺す。
「っ…!」
ミカは瞬時に距離を取る。
傷は浅かった。
「…浅いか…」
「ふぅっ…」
ミカは刺さったナイフを抜く。
抜いた衝撃でミカの血が地面に垂れる。
「はぁ…はぁ…よし…」
ミカは呼吸を整える。
ミカが傍に落とした銃剣を拾う。
「…まだ行ける」
ミカが銃剣を構える。
「まだ…戦え…――」
その瞬間…ミカの視界が霞む。
「っ…なに…これ…前が見えづら…」
「効いてきたようだな」
スピアはミカの方へ近付こうとうする。
ミカの身体にはルキのナイフの魔力である感覚麻痺の毒が入ってしまっていた。
「っ…そうだった…ルキの魔力は…武器に毒を付与できるんだった…これは感覚麻痺の毒…か…」
ミカが意識を保つために頬を叩く。
「っ…」
ミカの身体がよろける。
「…頭が…回らない…」
スピアはミカの腹にナイフを刺そうとする。
「っ…」
ミカは避けきれず、腹にナイフが刺さる。
「今度は深く入ったな」
「ごほっ…」
ミカが吐血する。
「そしてこのナイフには…猛毒がある」
「っ…がはっ…」
スピアがナイフを押し込み、ミカにダメージを与える。
「っ…この…」
ミカが銃剣を必死で振るが、スピアには当たらなかった。
「どうした?さっきまでの威勢は?」
「っ…」
スピアが思いっきりナイフを抜く。
「がはっ…」
ミカの腹から大量に出血。
「その出血量じゃ、もう戦えないだろう?」
「っ…ぐっ…」
ミカが腹を押さえる。
ミカの手に大量の血が付く。
「このまま、あの世に送って…」
「そうはさせない…!」
その瞬間…ナギサが水の魔力を剣に纏わせ、スピアに斬りかかる。
「っ…!」
スピアはギリギリのところで避ける。
「小娘…帰ってきやがったか…!」
「ナギサ…さん…」
「ミカちゃん遅れてごめん…!ホワイトちゃんは運び終えた…今度はミカちゃんを助けに来たよ…!」
「…でも、ナギサさん…そのお腹の傷…」
ナギサの腹の傷はまだ出血が止まってなかった。
「これくらいどうと言う事はないわ…それよりも…ミカちゃんの方が…」
「…あたしはこれくらい…慣れてるので…」
「うるさい輩だ」
スピアは瞬時にナギサの後ろに移動する。
「…!いつの間…」
「消えろ」
スピアがナギサをナイフで切り上げる。
「ぐっ…!」
「ナギサさん…!」
ナギサが吹っ飛び、倒れる。
だがナギサはただでは吹っ飛ばなかった。ギリギリのところで水の魔力で衝撃を抑えていた。
「…雑魚が。だが…今の攻撃を防ぐとは驚いた。まさかギリギリで魔力でガードしてたとは…」
「…!ナギサ…さん…」
「…ごほっ…」
ナギサが咳をする。
「…ふむ、このままじゃただのリンチだ。そうだ、良い事を思い付いた――」
スピアが何かを閃く。
「このスピアマウンテンを、私に寄越せ」
「…!」
スピアが手を広げる。
ナギサが顔を上げる。
「このスピアマウンテンは私の領土みたいなものだ。私に返してくれるなら、貴様等は今は殺さない」
「っ…そんな事…」
「だが、これを断るならお前等は問答無用で殺す。お前等を殺した後は山を降り、街に住まう人間共も殺してやろう」
「っ…!!」
「さぁ、どうする?私にこの山を返さないか?」
スピアが交渉を仕掛ける。
「っ…」
ナギサが自分の傷を見る。
ナギサの腹からずっと出血し続けていた。
「…お手上げ…だわ。今の私達じゃ…目の前にいるバケモノ一匹にすら勝てない…」
「ナギサ…さん…?」
「束になっても…勝てる気がしない…この膨大な魔力…」
ナギサが再び顔を上げる。
目の前にいる憑依されている少女一人に…勝てる気がしなかった。
「…スピアマウンテンを…お前にあげるわ…」
「…!?ナギサさん…!?」
「決まりだな」
「待ってくださいナギサさん…そんな事したら魔力の根源の謎が…」
「そんなの…遠回りでもできる…それよりも…今スピアがこう言ってるのよ…今見逃してくれるのよ…でも…私がここでスピアを倒し切れなかったら皆が…」
「っ…」
ミカが息を詰まらせる。
スピアがナイフを大量に浮かせる。
「余興は終わりだ、今すぐ山を降りろ」
「…ミカちゃん…行くわよ…」
ナギサが傷を押さえながら歩き始める。
「ナギサさん…」
ミカがナギサに着いていく。
「…スピア…と言ったわね…」
ミカが振り向き、スピアの方を睨む。
「…あぁ?」
「…次会う時は…絶対アンタを殺す…!」
「…!?ミカちゃん…!?」
「…あぁ。いいだろう。最も…神と呼ばれた私を、お前如きに止めれるかな?」
「………絶対…殺す…!」
「その威勢がいつまで続くかな?」
スピアがそう言うと、ミカとナギサはスピアマウンテンを降り始める。
段々と離れていき、スピアの顔は見えなくなっていった。
――その後…カルム師団は管理から外れ、スピアにスピアマウンテンを明け渡してしまう。
――ラッシュ師団の基地にて…
「今すぐこっちに運べ!」
「急げ!まだ死なせてはならない!」
ラッシュ師団の回復団員達がカルム師団の団員達を運ぶ。
「カルム師団の団長…あなたも重傷なんです。あなたもこちらに…」
「…えぇ…ごめんなさい…」
ナギサがラッシュ師団の回復団員についていく。
「ミカさんも…」
「…あたしはいい」
「でも…あなたも…」
「あたしは大丈夫…それよりも…ホワイトは…」
団員が目線を下に向ける。
「ホワイトさんは…」
「…!まさか…死…」
ミカが絶望したような顔をする。
「…いえ、ですが…意識が戻らないのです…」
「っ…!」
ミカが走り出そうとする。
「っ…うぐっ…」
ミカが腹の傷を押さえる。
「はぁ…はぁ…ホワイト…が………」
「ミカさん…!あなたも重傷なんですから…あなたも早く医療室へ…」
「…ホワイト…は…どこの医療室に…?」
「っ…ここから一番奥の…医療室です…」
「…ありがとう…」
ミカが傷を押さえながら歩く。
「ミカさん!早くあなたも別の医療室へ…」
「…ごめん…後で…」
ミカが歩き続ける。
ホワイトがいる医療室へ入るミカ。
「っ…」
ホワイトはベッドで寝かされていた。
ホワイトの身体には人工呼吸器が付けられていた。
「ホワイ…ト…」
ホワイトの傍にはシェールがいた。
「…シェール…さん…」
「…ミカちゃん。その傷…」
「…これくらい…いつもの事です…それよりホワイトは…」
「…今は自分の身体を心配しなさい」
シェールがそういうと、ミカに魔力をかける。
「っ…ごほっ…」
ミカが咳をする。
「っ…身体の中から伝わる痛みが…無くなった…」
ミカが自分の身体を確認する。
「…はい、身体の毒は消せたわ。こんな状態の中でも動けるなんて…やっぱりあなたは凄いわ。でも私には大きな傷は治せないから…その傷も回復団員の人達に…」
「…ホワイトは…ホワイトは…」
「…ホワイトちゃんは…かなり大きなダメージを負ってしまってるわ…。猛毒のナイフが何本も背中に刺さって…毒を取り除くまでに時間がかかってしまった…」
「っ…まさか…」
「毒を消す事はできたけど…呼吸がかなり浅くなってるわ…このままじゃ…二度と目を覚まさないかもしれない…」
「そんな…!」
ミカが大きな声を出す。
「…ここは医療室、静かにしなきゃダメよ」
「…ホワイトは…これから目を覚まさないなんてことが…あるの…?」
ミカの目から涙が出る。
「そんなの…嫌だよ…」
「…私だって嫌よ…でも…今回はあまりにも…助かる見込みが…」
「っ…こんなの…こんなの…!」
ミカが泣いていると、ジンが医療室に入る。
「…ミカ…シェールさん…」
「ジン君…」
「ジン…!」
「…ごめんなさい…俺がホワイトの傍にいないあまり…ホワイトを再び危険な目にあわせてしまった…」
ジンが落ち込む。
「…ジン君は悪くないわ…」
「…ジン…ホワイトのお父さんの手掛かりの方は…」
ミカが聞くが、ジンが自身の顔に手を当てる。
「すまない…収穫…無しだ…」
「っ…」
「今も何処かに生きてはいるんだろうけど…これだけ探して何もないなんて…」
「そんな…」
「もう…既に亡くなってる可能性も…」
「そんな事…!」
シェールが大声を出して立ち上がる。
「……ある…訳…ない…で…しょ…」
シェールが途中で絶望し、涙を流す。
「…団長も未だに精神状態が安定しない状態…カルム師団の団員もかなりのダメージを負って今ここで診てるけど…命に別条がないとして復帰までに時間がかかる…ナギサさんも…かなりの重傷を…どうすれば…いいの…?」
「そういえば、さっきカルム師団のルドさんと出会ったな」
「ルドさん?あぁ…副団長の。来てるの?」
「あぁ」
「今、何処に…?」
ミカが聞くと、ジンがミカの傷を見下ろす。
「…それより、お前はその怪我を治して貰えよ。お前…人の心配しすぎるのもいいが、自分を大事にしろよ?」
「…うるさい」
ミカがジンを睨む。
「…ルドさんはカルム師団の団員が重傷を負った連絡を受けて来たらしい。あの急ぎ具合だと…団長室だな」
「団長室…」
ミカが走ろうとする。
「っ…ぐっ…」
ミカが腹を押さえる。
「さっきも言っただろ、まずはそれを治せよ。俺が代わりに行ってくる」
「っ…でも…」
「ホワイトが起きた時にお前が重傷のままだったら、あいつ怒るぞ?」
「っ…」
「…後でな」
ジンはそう言うと、医療室から出る。
「…怒られる…か…」
ミカも続いて医療室を出る。
――団長室にて…
「…お前、いつまでその状態でいる?」
ルドがランスを睨み付けている。
「…ナギサを見ると、あの頃を思い出すんだ…頼むからほっといてくれ…」
「俺はナギサじゃない、ルドだ。俺を見ても関係ないだろ」
「…そもそもお前は俺とあんまり関わりがないだろう…」
「あぁ、だからなんだよ。団長であるお前がラッシュ師団の団員に命令を下さないでどうする?」
「…今更何を命令しろと?団員によっては休暇もあるんだぞ…?そんな奴等を呼び戻してまで…俺は…俺は…」
「…人思いな所は変わらないんだな」
ルドが少し笑う。
ジンが団長室へ入る。
「ランス…!」
「…ジン…か。団長と呼べと…言ったはずだ…」
「…こんなお前を見て団長と言える訳ないだろ。それよりも…ルドさん、来てくれたんですね」
「ジン君…か。ナギサも重傷と聞けば流石の俺も…ね」
「…カルム師団の基地の方は…」
「大丈夫だ、俺やナギサに代われるほどの優秀な見張りがいる。今はそいつに任せてる」
「…そうですか」
「それよりも…ナギサがそちらの団員に迷惑をかけて…すまない」
ルドがジンに頭を下げる。
「…いや、寧ろ…俺達のせいでナギサさんや他の団員の皆さんまで巻き込んで…」
「元よりスピアマウンテンを管理してたのは我々カルム師団だ、管理が甘かった俺やナギサの責任だ」
ルドが拳を握る。
「それより、俺が来た理由は他にもある。ラッシュ師団とカルム師団で…手を組むべきじゃないか?」
「…手を組む?」
「あぁ。スピアマウンテンの神を名乗る謎の女…確か名前は…」
「…確か中身の奴の名前はスピアって名前で…外見はルキ。俺の…元仲間だ」
ジンが拳を握る。
「元仲間…ネオカオスやラッシュ師団にも色々複雑な事情があるのだな」
「…別に今になって情が湧くとかそんな事は一切ない。いざとなったらあいつを殺すのだって躊躇わない。だが…それでも…」
「…それでも?」
「…ホワイトなら…どうしようもない奴ですら助けようとしちゃいそうだなって…」
「…」
ルドが少し黙る。
そして…ルドがランスの方を見る。
「腹を括ろう、ラッシュ師団」
「…ルドさん?」
「奴は確保など生温い存在…いざとなったら…ではなく、最早殺しがルキへの救済だ」
「…!」
「今、この状況における我々の目標はただ一つ」
ルドが目を光らせる。
「――暗殺のルキ及び…それに憑依した存在…スピアの討伐だ」




