ep55.絶望の槍
スピアの言う自惚れ。
ナギサが、自分が勝てると思い込んでいる自惚れ。
スピアのこの言葉は、相手を挑発させるものではない。
相手の戦意を奪うものではない。
――相手に警告させるためのもの。
スピアがナイフを大量に浮かせてナギサの方へ飛ばす。
「っ…!」
ナギサはナイフをかわし、スピアに走って近付く。
「ほう、これを避けるのか」
「ナギサさん…ルキのナイフはかすり傷だけでも猛毒です…気を付けて!」
「了解…!」
ナギサがスピアに向かって剣を振る。
「それにしても…ルキは生きてたの…?あの爆発の中…生き残ってたの…?」
ホワイトが疑問に思うと、ナギサがスピアの腕に一撃入れる。
「っ…!」
「入った…」
スピアが憑依したルキの腕から血が出る。
「ふぅん?」
「…ホワイトちゃん…この人…殺しても大丈夫な人…?」
「え…?」
ナギサの言葉にホワイトが首を傾げる。
「本当は峰打ちで戦闘不能にして捕らえたいけど…最悪の場合殺しの選択もある…ホワイトちゃんはルキの事…どうしたいの…?」
「え…えっと――」
「ふん、殺しをすべきかしないべきか迷ってる時点で、貴様等は私には勝てない」
スピアがそう言うと、ナギサにナイフを投げる。
「っ…危な…!」
ナギサはナイフをギリギリのところで避ける。
「せっかく復活したんだ、血祭と行こうじゃないか」
スピアがナギサに向かってナイフを投げ続ける。
「魔力使わなきゃ…勝てないか…」
ナギサがそう言うと、剣を魔力で濡らす。
剣を水で濡らしたかのように魔力を込める。
「その魔力は、水か?」
「…そうよ。波の流れのような勢い…見せてあげる…!」
「水の魔力か…面白い!」
スピアがそう言うとナイフを大量に浮かせる。
「ならばこちらは――」
「遅いよ」
ナギサは気付かぬうちにスピアの後ろに回り込んでいた。
「…!」
ナギサは剣を振り、スピアの背中を斬る。
「がっ…」
「まだまだ…!」
ナギサは斬り続ける。
「ちっ…ちょこまかと…!」
スピアが剣の動きを見切って避け始める。
「…ホワイトちゃん、ごめん。やっぱりこの人は…殺すべきかもしれない…」
ナギサはそう言うと、スピアの胸に目掛けて突きを放つ。
「っ…!」
スピアの右胸に剣が刺さる。
「…!」
「ふぅー…」
ナギサが剣を刺したまま呼吸をする。
「っ…!」
ナギサは剣を抜く。
ルキの血が辺りに飛び散る。
「がっ…」
「…あなたの身体の中の血液…かなり頂いたわ」
ナギサの剣には血が大量に付いていた。
「っ…クソッ…」
スピアが刺された右胸を抑える。
「知ってる?人間って、血液の30%を失うと命に危険が伴うのよ?今の攻撃と魔力でだいたい15%程頂いたわ。次もう一度同じことをすれば…私の勝ちよ」
ナギサは剣を構える。
「…なるほど、痛み以外にも通りで頭がフラフラする訳だ」
「そう。…だから、ここでお前を倒す…」
「…そうだな。確かにもう一度くらえば私は死んでしまうな」
スピアは右胸を抑えるのを辞める。
「だが…それは回復すれば関係なかろう?」
スピアが手を広げる。
スピアの右胸には血が付いてなかった。
「…!血が…付いて…ない…!?」
「今の一撃は良かったよ。いや、腕も背中も斬られたか。今の連撃は良かったよ。そしてその魔力…人間に対しては強力だな」
スピアの斬られたはずの腕と背中にも血は付いてなかった。
「っ…でも…だからと言ってさっきの攻撃が効かなかったとは…」
「効いてはいたよ。だけどな、急速に回復させてもらった。分かってなさそうだから教えてやる」
スピアはそう言うと、自身の腹にナイフを刺す。
「っ…!何を…」
スピアはナイフを抜く。
身体に血は付着していたが、数秒経つと血が消えた。
「…!血が…消えた…!?」
「こんな感じだ。私はこんな感じでどんな攻撃をくらおうが急速に回復ができる。どうやら魔力の根源を取り込んだジハとやらの男の魔力が私にも宿っているらしい。偶然ながらも助かったよ」
「っ…そんな…それじゃ…」
「貴様に私を殺すのは不可能と言う事だ」
スピアはそう言うと、ナイフをナギサに投げる。
「っ…!」
スピアの投げたナイフが外れる。
「…とはいえ、私も久々の戦闘故に…感覚が戻ってないな」
スピアがそう言うと、ナギサは再び剣を振る。
「っ…!」
「一回攻撃してもすぐ回復されるなら…回復の暇を与えないくらい連続で攻撃すればいい…!」
ナギサは剣振り、何度もスピアを斬り付ける。
「っ…!」
「今の攻撃で一気に血液を…」
ナギサが言葉を続けようとするが、スピアは右手に持っているナイフをナギサの腹に刺す。
「ぐっ…!」
ナギサはすぐさま剣を振り、スピアを後退させる。
「……今のは効いたぞ」
スピアは再び魔力で自身の傷を一瞬で回復させる。
「っ…こんなの…!」
ナギサは自身の腹に刺さっているナイフを抜く。
ナギサの腹から血が垂れる。
「っ…」
「ナギサさん…!」
ホワイトがナギサに魔力をかけ、傷を少し回復させる。
「っ…ごめん…ありがとうホワイトちゃん…」
「っ…ナイフが…」
「大丈夫よ…急所は避けてたから…ちょっと苦しいけど…っ…!」
ナギサがスピアを睨む。
「ナイフに猛毒を仕込んでたはずなんだが、どうやらお前には効かないのか?」
「ふん…私にそんな小細工が通用する訳ないわよ…!」
ナギサが剣を構える。
ナギサには血液中に水の魔力が行き渡っていて毒が効いていなかった。
「さっきの連撃も良かった。だが…お前の連撃は弱い。連続で攻撃する故に逆に魔力が弱まっている。当て続ければ強いが、当て続けなければ弱い」
「っ…」
ナギサが傷を押さえる。
「そして、回復したとは言え今の私の一撃でお前にはかなりダメージが入った。やはり人間は脆い生き物だ…」
「っ…ナギサ…さん…」
ホワイトがナギサの方を見る。
ナギサの顔には汗と同時に決心の表情が見えた。
「ホワイトちゃん…大丈夫…私が絶対あなたを…皆を死なせない…!」
ナギサがそう言うと、剣に魔力を込める。
「ナギサさん…?」
「…今のは余興だよ。私の本当の武器…見せてあげる…」
ナギサがそう言うと、剣を魔力で変形させる。
剣は薙刀へと変貌していく。
「…!」
「…薙刀。それが貴様本来の武器か」
ナギサがスピアに向けて薙刀を向ける。
「くらいなさい…!」
ナギサは薙刀に水の魔力を込める。
「その魔力…なんだ?」
スピアが目を細める。
ナギサが薙刀を振る。
「っ…!」
スピアは避けようとするが、かすり傷を負う。
「…ふん、この程度の傷…」
その瞬間、スピアの傷口から大量に出血する。
「…!」
大量に吹き出たスピアことルキの血がナギサの薙刀に吸い込まれる。
「…この魔力で生まれた薙刀は斬った物から水…つまり血液を吸収する…しかもそれはさっきの剣以上に…あなたの血液も今のかすり傷だけで奪えるのよ」
「…なるほど」
スピアは魔力で傷を治そうとする。
だが傷は治らなかった。
「…何故、治らない」
「そして…この魔力の真骨頂は…水を奪った相手の魔力を…封じれる…!」
スピアの後ろで浮いてたナイフが落ちる。
「っ…私の魔力を封じる…だと…!?」
「ナギサさん…!」
「言ったでしょ…私が皆を死なせないって。私がここで勝たなきゃ…行けないの…!」
ナギサがそう言うと、再び薙刀を振るう。
「っ…」
スピアが距離を取る。
「…長いリーチが厄介だ。魔力も使えない。すぐさま回復も、ナイフを浮かせる事もままならない…」
スピアがナギサを睨む。
「ならば」
スピアがナイフを両手に持つ。
「…武器だけで戦うのね」
ナギサがそう言うと、スピアはナギサに向かって走る。
「…!」
ナギサは薙刀を振る。スピアはそれを避ける。
「…当たらなければどうという事はない――」
「当たらなければ…でしょ!」
ナギサは薙刀を振り回す。
「っ…!」
振り回した影響で風の刃を起こし、スピアを攻撃する。
「くっ…」
「…そんな小さい武器じゃ、私に近付く事もできないわ」
「…そうか」
スピアはナギサに向かってナイフを投げる。
「だがその薙刀では機動力は落ちるだろう?」
「…それも、関係ないわ」
ナギサはジャンプをし、ナイフをかわす。
「…!」
「…確かにこの薙刀は重量はあるけど、魔力で軽くする事ならできる。そう…私の思念から生み出した武器だから…」
「っ…どこまでも…」
次の瞬間、ナギサが何かを察知する。
「…!」
「都合のいい女だ…!」
スピアの目が赤く光る。
その後、スピアは小声で何かを呟く。ナギサはそれに気付く。
「…!今の口の動き…」
ナギサは瞬きをする。
「…!」
瞬きをした瞬間、スピアの身体は一瞬で傷が回復していた。
まるで何事も無かったかのように…その一瞬で………
「回…復…してる…!?」
「可能の災厄――」
スピアがそう言うと、ナギサの薙刀はスピアの投げたナイフによって吹っ飛ぶ。
「っ…!」
ナギサの手から薙刀が離れる。
「何…今…の」
「隙ありだ」
スピアが指を鳴らす。
そして…スピアの後ろから大量のナイフが浮き上がる。
「嵐の如くナイフで…死ね」
スピアは大量のナイフをナギサの方へ飛ばす。
「っ…!しまっ…――」
「ナギサさん…!!――」
咄嗟に危険を感じたホワイトがナギサに飛び込む。
「ホワイトちゃ…――」
ホワイトに押されるナギサ。
ナギサが尻もちをつき、ホワイトがナギサの上に乗る。
ナイフの嵐が二人を襲う。
「…!」
「はぁ…はぁ…大丈…夫…ですか…ナギサさん…」
ホワイトがナギサを庇っていた。
ナギサがホワイトを見上げる。
「ホワイトちゃん…なんで私を庇って…」
「今…ナギサさんが…死んじゃうって思って…それで…――」
ホワイトの口から血が出る。
「っ…ホワイト…ちゃん…?」
「がはっ…」
ホワイトがナギサの上で吐血し、倒れる。
ナギサの顔にホワイトの血が付く。
「ホワイトちゃん…!?」
ホワイトの背中には何本もナイフが刺さって大量に出血していた。
「…小娘が小娘を庇ったか」
スピアが歩き出す。
「っ…ホワイトちゃん…!ホワイトちゃん…!!」
ナギサがホワイトを揺する。
だがホワイトは意識を失っていた。
ホワイトの身体中から大量の血が流れ、地面に落ちる。
「そんな…死んじゃダメ…まだ…死んじゃダメ!!」
「貴様も仲間に救われたな」
スピアが二人の前に立つ。
「っ…!」
「だがもう終わりだ。二人仲良くあの世に送ってやる」
スピアがそう言うと、再びナイフを大量に浮かせる。
「っ…さっきのがまた…!」
ナギサが立ち上がろうとするが、上に乗っているホワイトの重量で立ち上がれない。
「っ…ホワイトちゃん…起きて…――」
「チェックメイトだ、二人の小娘」
スピアがそう言うと、ナイフがナギサとホワイトの方へ向く。
「…!」
その瞬間…
宙に浮いてるナイフは崩れ落ちた。
「…は?」
「はぁ…はぁ…間に合った…」
「…誰だ貴様は?」
スピアは声がした方を向く。
そこにはミカが立っていた。
ミカは一瞬でルキの浮かせた大量のナイフを宙から切り落としていた。
「ミカ…ちゃん…!」
「…ホワイト達がスピアマウンテンに行くって言ってたから…様子を見に来てみたけど…まさかこんな事になってるなんて…」
ミカがスピアの方に向けて銃剣を構える。
ミカがルキに憑依しているスピアを睨む。
「…それで…どういう事…?どうして目の前にルキが…いるの…?」
「っ…ミカちゃん…あいつは…」
「まぁいいや…アンタの中に誰がいようが、どの道アンタを殺すという選択肢は取ろうと思ってたし…!」
「…そうか、この身体の小娘は相当貴様に恨まれてるみたいだな」
スピアがニヤリと笑う。
「ルキだろうがなんだろうが気色悪いのよ…殺しでしか快感を得れないその気色悪さ…反吐が出そうだわ…」
「…殺しでしか快感を得れない…か。なるほど」
スピアがミカの方へ近付く。
歩いただけで魔力の圧を感じ取っていた。
ミカが額から汗を垂らす。
「…ナギサさん。ホワイトを連れて安全な場所へ逃げて…」
「ミカちゃん…!でも…そんな事したら君が…」
「いいから逃げて!このままじゃホワイトが死んじゃう…。それに…今のアンタじゃ…こいつには勝てない…!!」
「っ…!」
「早く…!」
ナギサは意識がないホワイトを背負う。
ナギサはホワイトの息を確認する。
「っ…息が…まだ…」
ホワイトの息は微かにあった。
「早く…逃げて…ホワイトが…また死んじゃう前に…」
「っ…ごめん…なさい…」
ナギサはホワイトを背負って走る。
「っ…そうだ…通信を…」
ナギサが手首に付けている通信機を使う。
「…皆…助けて…」
後書き~世界観とキャラの設定~
『水の魔力について』
…ナギサの持つ水の魔力は対象の血、つまり水分を吸い取る事で斬った対象の魔力を封じることができる。
劇中ではスピアを斬り付け、スピアの魔力を封じたが…
『可能の災厄』
…スピアが呟いた後、突如スピアから失われた魔力が戻る事になった言葉。
ナギサの魔力封じすらも打ち破る魔力なのか概念なのか全くの謎に包まれている。
そしてその魔力を発動した後…スピアは急に力に目覚め、ホワイトに重傷を負わせたのだった…。




