ep54.槍の山再々
―電車の中にて…
「こっから2時間程かかるからなぁ」
「あはは…ちょっと遠いですよね、カルム師団の基地とラッシュ師団の基地の距離…」
「そうだね。でもまぁ、電車は使えるしカルム師団もラッシュ師団も普段から共に行動してる訳じゃないしあんまり関係ないんじゃないかな」
「…そう…なんですかね…?」
「そういうものだよ」
ナギサが椅子に寄り掛かる。
「そういえばナギサさん」
「ん、どうしたの?」
「…ルドさんって人、副団長の…」
「あぁ、ルドがどうかしたの?」
「ルドさんは…ナギサさんの恋人なんですか?」
「あぁ…いや、違うよ」
「え…昨日見た限りだと結構仲良い感じですけど…」
ホワイトが少し驚いた表情をする。
「よく聞かれるしよく言われるけど…ルドはあんまり人との距離感とか考えないから。でも誰にでもあんな感じの距離感を保てるからそういう所は尊敬してるよ」
「そう…なんですね。ナギサさんは…別で恋人がいたりするんですか?」
「いや、いないよ。ランスと別れたっきり恋人作るのは暫くいいかなってなっちゃってる」
「そう…ですか…」
「あ、でもさ。好きな人はいるよ」
「好きな人…」
「うん。その人は…昔からずっと好き」
ナギサが頬を赤くする。
「昔からずっと…そんないい人がいるんですね…」
「君もいるでしょ?好きな人」
「っ…います…」
ホワイトが顔を赤くする。
「へぇ。もしや、ジン君とか?」
ナギサがホワイトに指を指す。
「…正解です」
「お、当たった。まぁそうだよね。でも、昨日来てた時の時点でなんとなく分かってたよ。彼の何処が好きなの?」
「その…難しいんですけど…私と背負う物が似てて…後は…私が危なかった時に助けてくれて…それで…」
「へぇ、なるほど。まぁ、師団あるあるだよね。私の所もそんな感じで付き合ってる人多いし」
「え…そうなんですか…?」
「そうだね。まぁでも応援してるよ。なんとなくだけど、君達なら上手く行く予感はする」
ナギサがホワイトを見て微笑む。
「…それは、危険予知的なやつですか…?」
「危険って…そんないつも魔力に頼っていられるほど私ピリピリしてないよ。これは魔力抜きでの予感。でも私の予感は魔力抜きでも当たるんだぞー?」
「…そう…ですか。そう言ってくれて嬉しいです」
「うん。本当に応援してる。まぁでもまずは…君のお父さんを探してからだね。君のお父さんがどんな人かは分からないけど、娘はやらん!って言うお父さんだったらダメだもんね」
「…お父さんはそんな事言うような人ではないかも…分からないけど…」
「なんか言わなさそう。お母さんの方は逆に言いそうだけどね」
「っ…言いそうだから困る…」
「あはは」
ホワイトはナギサの恋愛事情が気になっていた。
「その…ナギサさんとランスさんって…どっちが告白したんですか?」
「え?」
ナギサが首を傾げる。
「…えっと…どっちだっけな…案外なりゆきで恋人になってる気がする…」
「え…なりゆきで…?」
「うん。私が色々教えてる最中…なんかキスされた覚えがあるな」
「えっ…キ…キス…えっ…」
ホワイトが唇に手を当てる。
「いや、私からキスした覚えもあるな…どっちだっけ…」
ナギサが考え始める。
「そうだホワイトちゃんは…って、付き合ってはないんだっけ。キスはした事ないか」
「…えっと…」
ホワイトが顔を赤くする。
「…あれ?もしかして…ある?」
「…何度か…ジン君と…」
ホワイトが目を逸らす。
「へぇ…それってもう、既成事実なんじゃない?」
「既成…え…?」
「なんとなくだけど、もう君とジン君、付き合ってる状態なんじゃないかなって」
「えっと…」
「なんてね。ちゃんと気持ちを伝えて…付き合った方が絶対いいよ。うん、絶対に…」
「そ…そうですよね…!」
ホワイトが焦っているような顔をする。
ナギサが焦るホワイトを見て微笑む。
「…私、絶対いつかジン君に気持ちを伝えます」
「うん、それが一番だよ。いい結果だったら、私に教えてね?」
「はい、勿論!」
二人が笑っていると、ナギサの手首に付けている通信機が鳴る。
「あ、通信。ちょっと出るね」
「あ…はい」
ナギサが席を立ち、別の車両へ移動する。
「はいはい、こちらナギサ――…え?…分かった。駅に着いたらすぐ向かう」
ナギサが拳を握る。
「謎の魔力の…気配…」
通信を終え、席に再び座り込むナギサ。
ナギサの顔は険しい表情を浮かべていた。
「ナギサさん?」
ホワイトがナギサの顔を見る。
「…ん、どうしたの?」
「その…目付きがさっきと違うから、何かあったのかなって…」
「…あぁ。いや…大した事ないよ?ただ…スピアマウンテンに早く着かないかなって思ってるだけ」
「そう…ですか。ならいいんですけど…」
「…ん」
ナギサが窓を見る。
――一方…ラッシュ師団の基地では…
「シェールさん、ご飯持ってきました」
シェールの使っている部屋にミカが入る。
「…いらない」
「…あの後何も食べてないでしょ、何か食べないと死んじゃいますよ」
ミカが蹲っているシェールの傍にお盆を置く。
「…お腹、すいてない」
「団長が心配しちゃいますよ」
「…ランス君は…もう私を必要としてないのよ…」
「…どうしてそう思うんです?」
「だって…ナギサちゃんが嘘をついてるかついてないかの真偽を…彼に話す事ができなかった。私は咄嗟に拒否してしまった…彼の恋人失格だわ…」
シェールが涙を零す。
「…ちなみに、あたしはナギサさんが嘘ついてたかどうか、聞いても良い感じですか?」
「そうね…隠しても無駄だし…ナギサちゃんは嘘はついてなかった。でも…それ以上に…」
「それ以上に…?」
ミカが首を傾げる。
…少しの沈黙の後、シェールが話し始める。
「…なんでもないわ。私には…ランス君は釣り合ってないかもしれない…やっぱりナギサちゃんの方が…」
「…はぁ」
ミカがため息をつく。
「三角関係…かぁ」
「…ランス君は…今は…?」
「彼の事、心配なんですか?」
「…そりゃ…一応…恋人…だし…」
「ちょっと精神的にヤバい状態だったり」
「…!ランス君が…!?」
シェールが顔を上げる。
「会いに行った方が、いいんじゃないんですか?」
「…いや…無理よ…。私には…今の彼と一緒にいる資格なんてない…」
「…そうですか」
ミカが立ち上がる。
「あたし、行くところあるんで一旦失礼します」
ミカが部屋を出ようとする。
「…もしもシェールさんが大丈夫になったら、本人に直接伝えた方がいいかも」
「ミカちゃん…」
「…じゃ」
ミカが部屋を出る。
「…嘘をついてるついてないじゃなく…あの子は…ナギサちゃんは…」
シェールの目から涙が出る。
――スピアマウンテンに着くナギサとホワイト。
ナギサを待っていたカルム師団の団員が立っていた。
「お疲れ様です、ナギサさん」
「お疲れ」
「お隣の美人な方は?」
「び…美人…」
ホワイトが顔を赤くしながら目を逸らす。
「ホワイトちゃん。ラッシュ師団の子だよ」
「ラッシュ師団の?」
「うん。彼女は行方不明のお父さんを探してるんだけど、前に私が会った魔力の根源を追っていた方の旦那さんらしくて」
「なるほど。それでもしかしたらお父さんの方がこちらに来てるかと言う事…ですか?」
「ん、まぁそれもそうだけど。こっちに直接来れば何か分かるかもしれないかなって思って」
「なるほど。そういう事ならお通り下さい。ただ、先程お伝えした通り…謎の魔力の気配を感じまして…」
団員がスピアマウンテンへの道を開ける。
「謎の魔力ね、了解。行くよ、ホワイトちゃん」
「あ…はい!」
ホワイトがナギサについていく。
「山の上の方にも団員はいますが、お気を付けて」
「うん、ありがと」
――山を登っていくナギサとホワイト。
辺りには魔力の気配が漂っていた。
そして…その気配は…ホワイトがかつて感じた事のある気配と一緒だった。
「ナギサさん…この魔力の気配…」
「…ん、どうかした?」
「あの時…私が魔力の根源と対面した時の…気配と似てます…」
「…え?」
ナギサが足を止める。
ホワイトが周りの様子を探る。
ホワイトの心臓の音が早くなる。
「このドキドキする感じと緊迫感…間違いないです。魔力の根源と似た気配を感じます…」
「なるほど…?確かに君は魔力の根源と一度対面してるし…信憑性は高いね」
「でも…少しおかしいんです…」
「おかしい?」
ナギサが首を傾げる。
「この魔力…以前は山の中…つまり洞窟の方からしたのに…今はなんか少し離れた所にいるように…感じるんです…」
「離れた所に…?それは一体…」
ナギサが言葉を続けようとすると、ナギサの通信機が鳴る。
「…ん、スピアマウンテンの周りにいる団員からだ。ちょっと出るね」
「あ…はい」
「はいはい、こちらナギサ。どうしたの?」
『ナ…サ…ん…』
通信は雑音のせいで上手く聞き取れなかった。
「ん?なんか重い?どうしたの?」
『そ…に…なぞ…おん…が…』
そして、通信が切れる。
「…通信切れた」
「…今の雑音…この魔力濃度のせい…?それに…」
「それに…?」
「さっきの人の声…なんか焦ってるように…」
「焦ってる…?」
ナギサが首を傾げる。
「焦ってるって一体…」
「…!」
ホワイトが何かに気付き、後ろを向く。
そして…その気配はかつて感じた恐怖と類似していた。
「この気配…そんな…嘘…!」
ホワイトは少し歩く。
「まさか…暗殺の…?」
ホワイトが足を止める。
そして…そこにはルキが立っていた。
「…!暗殺のルキ…!」
「暗殺のルキ…確かネオカオス四天王の…?いやでも…だとしたら何故ここに…?」
「ルキ…生きて…たの…?」
ホワイトが聞くが、ルキは笑う。
「そうか、この身体の名前はルキって言うのか」
「…え?」
ルキが大量のナイフを念力で浮かせる。
「…ルキ…どうしたの…?」
「厄災刃」
ルキが大量のナイフをホワイトとナギサの方へ飛ばす。
「…!ナギサさん…避けて…!」
「な…!」
ナギサとホワイトはナイフを避ける。
大量のナイフが地面に突き刺さる。
「はぁ…はぁ…危な…」
「いきなり何を…!?」
「…やれやれ。流石に外にいた雑魚達とは違うか」
ルキが声を低くして喋る。
「でもまぁ、簡単に勝てそうだ」
ルキがナイフを再び大量に浮かせる。
「その口調…」
ホワイトが何かに気付く。
そして…目の前にいるルキはルキであってルキでない事に…
「ルキじゃない…!」
「その顔…貴様がホワイトか…クククッ…」
ルキがホワイトの方を見て笑う。
「…!あなたは…一体………」
「貴様が…魔力の根源を討った人間…そしてその魔力の感じ…なるほど。我等が憎き女神族の魔力…!」
ルキはホワイトにナイフを一本飛ばす。
「…!」
「ホワイトちゃん…!」
ナギサがホワイトに向かって飛ばされたナイフを剣で弾く。
「ナギサさん…!」
「この感じ…それに今の発言とさっきの通信…恐らくこいつに…襲撃された…!」
「襲撃…!?」
ナギサが剣を強く構える。
「スピアマウンテンの入口を見張っていた団員が恐らく…こいつにやられた…!」
「御名答だな。外にいるよく分からん服を着てた奴等は…全員私が倒した。生きてるか死んでるかは知らないけどな」
ルキが声を低くして喋る。
「そんな…ルキに…いや…ルキの中に…別の人がいる…!」
「別の人…まぁそういう事にしておくか」
ルキがナイフを大量に浮かせる。
「私はスピア。このスピアマウンテンを統べる神である」
「スピア…!それが中にいる人の…!」
「ホワイトちゃん…!この人…今までにないくらい強力な魔力を感じてる…!」
ナギサの腕が震えている。
ルキ…もといスピアから発している魔力にナギサの腕が震えるほどだった。
「ナギサ…さん…!」
「…ここは…カルム師団の団長として…」
ナギサが剣をスピアに向ける。
「スピア…お前を倒す…!」
「私を倒す…だと?」
スピアは謎の魔力を身体から発する。
魔力を少し発した程度で圧力を出していた。
「――少々自惚れが過ぎるのではないか…?」
後書き~世界観とキャラの設定~
『スピア』
…突如ホワイト達の前に現れた自称「スピアマウンテンを統べる神」。中身が女性なのか男性なのか不明な存在。現在はルキに憑依しているらしいが…?
魔力を少し発した程度で強力な圧力を与える程の魔力の持ち主。




