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白と悪魔と  作者: りあん
第二部 可能と不可能の根源
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ep53.最悪の別れ

 ――その日の夜…

 ナギサはホワイトを自分の部屋に案内した。


「ここが私の部屋。団長室とは別で部屋があるんだけど、ここで寝てるんだ」

「…綺麗。いい匂いする…」


 ホワイトが部屋の匂いを嗅ぐ。

 部屋からはシャンプーのような甘い匂いが漂っていた。


「まぁ、最近はちょっと忙しくてここでは寝てないんだけどね。寧ろ、団長室で寝るのに慣れちゃったというか」

「…そう…なんですか…?」

「うん。だからかれこれ数か月はベッドに寝転がってない」

「…へぇ」


 ホワイトがナギサの目を見つめる。

 ちゃんとベッドで寝ていないせいか、ナギサの髪は少しだけ乱れていた。


「今日はここを自由に使ってもらって構わないよ。あ、お風呂場はここ出て左側ね。そろそろお風呂入りたいでしょ?」

「分かりました、ありがとうございます」

「いえいえ。何かあったら通信機で呼んでね。まぁ、私もそろそろ寝るけれど」


 ナギサがそう言うと、部屋を出る。

 部屋に一人、ホワイトが残される。


「とりあえず…お風呂…入ろ」


 ホワイトが部屋を出て風呂場へ向かう。




 ――風呂を済ませるホワイト。

 ナギサの部屋に戻る。


「ラッシュ師団の所とは違う良さがある…シャンプーも…ナギサさんのお気に入りなのかな…?まぁ…団長が女の人だったら多少は女の人向けになってるのかも」


 ホワイトが一人で呟く。


「…ベッド」


 ホワイトがベッドの方を見る。

 ホワイトはベッドに飛び込む。


「ふかふか。いい匂い…ナギサさんの…匂いがする」


 ホワイトが布団の匂いを嗅ぐ。


「こんな部屋でジン君と一緒に寝れたら…」


 (って、私は何を考えてるんだろ…)


 ホワイトが首を振る。

 ホワイトが寝転がる。


「…そうだ、さっきナギサさんから貰ったカルム師団のデータ…寝る前に見よ」


 ホワイトが左手首に付けていた通信機を起動し、ホログラムを表示する。


「えっと…あった。これかな」


 ホワイトはファイルをタップする。

 そのファイルには『カルム師団』と書かれていた。


 ホワイトはその中に入ってる何個か分かれているファイルのうち、『研究成果』を選んだ。


「…色々ある」


 ホワイトは更にその中に入っているファイルの文を読んでいく。


「…へぇ…ほぉ…ふーん…ん…?あぁ…へぇ…すご…」


 ホワイトが一人で呟きながら文を読む。




 ホワイトが読んでから少し時間が経ち、ホワイトがうつ伏せになる。


「…んー。いい匂い…ぷはっ…」


 ホワイトが顔を上げる。


「…なんでこんないい匂いする人なのに、別れちゃったんだろ…私がランスさんだったらこの匂い、一生大事にしたいのに…」


 ホワイトが少し経った後、首を振る。


「…じゃなくて、このカルム師団の情報をある程度見た限り…ナギサさんは信用できる人って再認識できたかな…」


 ホワイトが寝返りを打ち、仰向けになる。


「そういえば…」


 ホワイトが通信機を手に取る。


「…ナギサさんとランスさんの話…」


 ホワイトが再びファイルを開く。


「…どこだろ、これかな」


 ホワイトが更にファイルをタッチした時、誤って通信機を額に落とす。


「いでっ…」


 ホワイトが額を触る。

 ホワイトの額が少し赤くなる。


「…いてて…油断した…」


 ホワイトが再びうつ伏せになる。


「えっと…『謎の出会いと最悪の別れ』…?別れが最悪なのはよくありそうけど…謎の出会いってなんだろう…?」


 ホワイトがファイルをタッチする。


『――出会いは、ランス山脈近くの海。なんか男が倒れてる。私と同じくらいの年齢の人で凄い傷だらけ。すぐに街の人を呼んでこの子を助けた。』


「…えっと…ランスさんの事なのかな」


 ホワイトが首を傾げる。


「ランスさんは…死にかけてた…のかな…?それをナギサさんと街の人…カコウの街の人なのかな」


 ホワイトが文をスライドする。


『――手当てをして少ししたら目が覚めた。ランスと言う名前の男だった。ランス山脈と言う名前と同じだけど、きっとまぐれだろう。目が覚めた後、私を襲おうとしてきたけど弱ってたから軽傷で済んだ。犬なんじゃないから噛まないで欲しいんだよなぁ。』


「犬………」


『――意識が戻った彼から話を聞いてみると、自分は何十年も何百年も生きてる感覚があるって言い出した。でもその記憶が曖昧でうっすらとしか覚えてないだとか。記憶が半分しかないような感覚って言ってた。…でも、ランスには凄い魔力があった。それは記憶の操作だった。ランスは魔力で人に記憶を与えたり人の記憶を消したりすることができる。その対象は相手のみならず、自分にも与える事ができるらしい。例えばさっきランスにあげた物の名前…すぐに忘れる事ができるようになってた。そこまで繊細に記憶を操作できるなんて凄いや。』


「…ランスさん、やっぱり記憶の操作が元の魔力なのか。それにしても何百年も生きてる感覚って…?…いてて」


 ホワイトが先程通信機をぶつけた自分の額をさする。


『――ランスは昔の記憶が曖昧だけど、何やらとんでもない記憶までも混じってるようだった。私に言いたくもない記憶の数々…とにかく辛そうだった。私の提案で、彼に自身の今までの記憶を消去させた。彼に一旦全部の記憶が無くなった後は、私が色々教えればいい。楽しくない100年をずっと記憶に残すよりも、楽しい1年を残す…そっちの方が絶対有意義に決まってる。』


「…そうかなぁ。でも…ランスさんが辛そうで…ナギサさんなりの最善の提案だったのかな」


 ホワイトが文をスライドする。


『―――それから記憶が空っぽになったランスに色々教えた。私が今まで生きてきた中で起こった色んな出来事や、今まで出会ってきた優しかった人や逆に厳しかった人の事、死ぬほどくだらない話とかをいっぱい話した。いつしかランスも笑顔が増えてきた。ランスが私に向かって「いつかお前にもお前の記憶に一生残るような物をあげたい」って言ってきた。なにそれ、プロポーズみたいじゃん。私はそれに頷いた。ランス、もう私の記憶には一生あなたが残る気がするよ。こんな私だけどランスは優しい。これからも一緒にいてくれる気がしてる。』


「…ここで終わりかな?やっぱりランスさんってとても優しい人…なんだ。そりゃ…ナギサさんも恋人として――」


 ホワイトが文をスライドする。


「…あれ、まだ続いてる…?」


 ホワイトが何もない部分をスライドしていくと、更に文が出てくる。


「…あ」


『――ランスがおかしくなった。頭を抱えて、大きな声をあげて、怒ってるのか苦しんでるのか分からなかった。ランスが急に「俺が人を殺した?それも…大量に…?」と言い始めた。ランスは自分で過去の記憶は完全に消したはずなのに…思い出したの…?どうして…?』


「…!」


 ホワイトが文を見て驚いた表情をする。


『――思い出したくないから絶対記憶を呼び戻すなんて行為はしないはず…もしかして、自然に記憶が戻ってきてる…?人を殺したとか言ってたけど…仮にそうだったとして…なんでランスはあの場に死にかけていたの?なんでランスは思い出したの?なんでランスは…私から…離れたの…?』


「…離れた…?」


『――…その日、ランスは私を置いてどっかに行ってしまった。メモを置いて何処かに行ってしまった。連絡先は書いてあったが、「ナギサとの恋人を辞めたい、俺よりいい人を見つけてくれ」と書いてあった。彼との恋人としての付き合いがこれで終わった。どうして…?私が何か…いや、私のために…?分からない…何も分からない…私はその後、連絡をすぐ取った。数日経った後、ランスが連絡を返してくれた。ネオカオスと戦うためにラッシュ師団を立てたって…なにそれ…本当に意味が分からないよ…』


「…ナギサ…さん…」


 ホワイトの目から涙が出る。


「…ナギサさんの辛い気持ちも分かる…でも…ランスさん…どうしちゃったの…」


 ホワイトが枕に顔を付ける。


「…でも、普段のランスさんからは嫌な記憶を思い出したかのようなそんな様子は一切なかった…でもだとしたら…なんで…?」


 ホワイトが首を傾げる。


「…もしかして、ナギサさんが関係してるの…?」


 ホワイトは一つの考えに至った。


「ナギサさんが…ランスさんに何かをしたの…?」




 ――翌日…


「おはよ、ホワイトちゃん」


 ホワイトを起こしに部屋まで来るナギサ。


「…おはよう…ございます」

「よく眠れた?」

「…!ナギサ…さん…」


 ホワイトがナギサの顔を見て少し距離を取る。


「どうしたの?」

「あっ…いや…ちょっとびっくりしただけです…」

「そう。もしかして、あの情報見てくれた?」

「あっ…一通り見ました」

「そう、良かった。あの情報を見て、カルム師団や私を信用してくれたら嬉しいかな」

「…はい。眠い…」


 ホワイトが目を擦る。


「顔洗っておいで。ご飯食べたらスピアマウンテンに行くよ」

「…はい」


 ホワイトが洗面所へ向かう。






 ――カコウの街に出る二人。


「さてと、スピアマウンテンに行く訳だけど」

「…」


 ホワイトが下を見つめる。


「何かあった?」


 ナギサがホワイトの方を見る。


「あっ…いや…」

「そう?さっきから顔色悪いけど…大丈夫?」

「大丈夫です…。体調は悪くないです」

「ならいいけど。電車でウィッシュ城下町のあたりまで行くよ」

「…!ウィッシュ城下町…」


 ウィッシュ城下町…スピアマウンテンの最寄りの駅がある場所だ。


「そう。そこが最寄りだからね。ラッシュ師団の皆に一応挨拶してく?」

「連絡だけ取っていいですか…?歩きながらでいいので」

「いいよ。じゃあ行こっか」


 ナギサとホワイトが歩き出す。




 ――ホワイトが歩きながらミカに通信を繋いでいる。


「…うん。これからスピアマウンテンに向かう」

『そう、分かった』

「ランスさん、大丈夫…?」

『…昨日からずっと頭抱えてる。しかもよく眠れてないみたいで…』

「そ…っか…シェールさんやジン君は…?」

『シェールさんも少し落ち込んでる様子。ジンは…今日は一人であなたのお父さんの手掛かりを得るために近くの街を回る予定らしい』

「そう…なんだ…」

『他の団員も休暇を貰っているメンバーが多いし、今はあたしが団長を見てる感じ。…本当はあたしも休暇を貰いたいんだけどね』

「あはは…」


 ホワイトが苦笑いする。


『じゃ、切るね。何かあったらすぐ教えて』

「うん、ありがとミカ」


 ホワイトが通信を切る。


「ホワイトちゃん」

「…はい」

「昨日はさ…ごめんね」


 ナギサが自身の髪を軽くいじる。


「えっと…」

「あの後さ…ランスから連絡があって」

「え…ランスさんから…?」

「うん。さっきミカちゃんが言ってた通り酷く落ち込んでたみたいだけど…それでも、ホワイトちゃんを守って欲しいって」

「え…」


 ホワイトが驚いた顔をする。

 自分を守って欲しい…落ち込んでいてもランスの人を思う気持ちは衰えていなかった。


「ランスはさ…別れてから私に対しては意地悪だから私も少し意地悪しちゃうんだけどさ…意外と憎めない奴でさ。私の事はもう好きでも何でもないんだろうけど…信用はしてもらってるみたいで」

「信用…」

「私がランスの事を今信用してるかなんて、ランスには分からないはずなのになんでなんだろうね」


 ナギサが空を見上げる。


「おっと、ごめん。そろそろウィッシュ城下町行きの電車が来るしこんな暗い話ばっかしてちゃダメだよね。行こっか」

「あっ…はい」


 少し経った後電車がやって来た。

 ナギサとホワイトはウィッシュ城下町行きの電車に乗る。


「もしかして…ナギサさんが何かした訳じゃなくて…」


 ホワイトが小声で呟く。


「ランスさんが…ナギサさんのためを思ってあの行動を…?」


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