ep52.封印されし禁忌
『魔力の譲渡』…『魔力の採取』…『新たな魔力の会得方法』…『根源』…
リュンヌが提示する四つの本、そのうちの『根源』。
魔力の柱の絵に記されている、『封印されし禁忌 魔力の根源』という文字。
「…これは魔力の柱の…」
「そして、ここの文字。『封印されし禁忌 魔力の根源』と書いてあるでしょ?」
「封印されし禁忌…?」
「私も人間だもの、魔力はもっと欲しいしその根源となったら俄然興味が湧いてきたのだけれど…この封印されしってのが気になるのよね…」
「…なるほど。魔力の根源は…封印されないといけない程強大な力って事でしょうか?昔の人が魔力の根源を見つけたけど、あまりにも強大過ぎて封印に至った…とか…」
「なるほど、そういう推測もあるわね」
リュンヌが指を咥える。
「…ネオカオスはそんな封印された根源を手に入れて…何を企んでるんだ…?」
「世界の改変よ」
「世界の改変…?」
ナギサが首を傾げる。
世界の改変…それは崩壊前のネオカオスがこの時、目標にしていた事だった。
「ネオカオスの団員がそう言ってるのをラッシュ師団が何度か聞いてるらしいわ。世界の改変の正体は分からないけど…間違いなくこれは個人の問題のみならず、世界の問題に発展するに違いない…」
「世界の問題…」
「考えてみて。魔力の根源…いわば私達の魔力の母なる存在…そんな根源が奴等の手に渡ったのを想像してみて」
「…考えただけで、恐ろしいですね」
ナギサの腕が震える。
「だからこれは…カルム師団にも協力をお願いしたいの。今はネオカオスとカルム師団は一度も対面してないから不問にしてるのだろうけど…あなた達にはあなた達で魔力の根源について色々探って欲しいの。そして…私に魔力の根源の場所を教えて欲しい…」
「…なるほど、分かりました。私達があなたの願い、受け入れましょう」
「ほんと?」
「はい」
リュンヌがナギサを見つめる。
ナギサの目には少しだけ曇りがあった。
「…ただ、リュンヌさん。あなたの目的も気になります。あなたの目的はきっと…魔力の根源を得る事やネオカオスを成敗するとかそこに収まってる訳ではなさそうなんです」
「…やっぱり、バレちゃった?」
「月神の族の人が考えてる事なんて全く分からないけど、全く分からないからこそ何かもっと考えているんじゃないかって思ってます。まぁ、あなたみたいな人が魔力の根源を悪用だなんて考え、しないと思いますけど」
「…あなたになら話してもいいかな。ラッシュ師団の方には話してないんだけどね」
リュンヌがそう言うと、ナギサは息を呑む。
「私の目的は…来たるべき時に備えて…世界の平和を作り続ける事」
「来たるべき時…世界の平和を作り続ける…」
ナギサの目付きが変わる。
「本当にその来たるべき時って物が来るかは分からないし、もしかしたらネオカオスの件の事なのかもしれないけれど…私達の族に伝わる言い伝え…。今現状、世界は平和ではないかるべき時というものはまだ来てないのかもしれない…」
「言い伝え…」
「こんな曖昧な事でごめんなさい」
「…いえ、大丈夫です。私は私でおとぎ話みたいな…でも、真実だった出来事に一度巻き込まれてますし…それが原因となってカルム師団としてこの世界を平和にする方法を考えていたので。今の言い伝えを聞いて…少し靄が晴れました」
「…そう。あなたがカルム師団の団長で良かったわ、ナギサさん」
「ナギサでいいですよ。そっちの方が呼びやすいでしょうし」
「じゃあ、ナギサちゃん」
「…まぁ、それでもいいです」
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「って感じ…かな」
「…そう…だったんですね…」
ホワイトは涙を堪える。
「私のお母さんは…いや、両親は…一族の目的を…果たす為に…不安の芽を摘もうとしてたん…ですね…」
「…そうだね」
ナギサがホワイトの方を黙って見る。
「そっか…私やお兄ちゃんが月神の族や太陽神の族としてではなく、普通の人間として生まれたから…お母さん達が一族の末裔…なんだ」
「一族の末裔ねぇ。まぁでも…ラルの街に行った時に出会ったその一族の人達は何か使命を持っているようには見えなかったし…与えられた使命を全うする種族という意味では末裔なのかも」
ナギサが上を向く。
「でも…私がどっちかの種族で生まれてこれれば…お母さんを助けれたかもしれないのかな…。今頃お母さんも死なずに…」
「うーん、それは違うんじゃない?」
「え…?」
ホワイトが首を傾げる。
「確かに君や君のお兄さん…は普通の人間として生まれてきたかもしれないけど、別に手助けできない事はないでしょ?」
「…まぁ、そうですけど…」
「それに、君に話さなかったのは…きっとリュンヌさんなりの優しさなんじゃないかな。私はまだ子供とか全然そんなの考えてないけど、自分に子供ができて、自分の子供が危険な目に合わないようにはしたいって思うかな。それが親って物なのかなとも思うし。まぁ…今思えば話して欲しかった事かもしれないけど」
「そう…なんですかね…」
「皆が口を揃えて言う正解なんて殆どないよ。けれど、自分なりの正解なら見つけられる」
「…そう…ですよね」
ホワイトがそう言うと、ナギサが何かを思い出したかのような表情をする。
「そうだホワイトちゃん。スピアマウンテンに一緒に来ない?」
「え…でも…いいんですか…?」
「近いうちに私も再度直接行って確認したいところなの。スピアマウンテンは今カルム師団以外立ち入り禁止にしてるけど、ホワイトちゃんは特別。私がお世話になった魔力の根源を追ってた人の娘な以上、私が許可するよ」
「ほんと…ですか…?」
「うん。それに…もしかしたらその…お父さんの手掛かりも見つかるかもしれないし」
「お父さんの…!」
ホワイトが目を光らせる。
だがホワイトはジンやミカの事を思い出す。
「あっ…でも…ラッシュ師団の皆が…」
「そうだったね。一度相談するために連絡してもいいよ」
「…ちょっと失礼します」
ホワイトが左手首に付けていた通信機を起動し、ランスに連絡しようとする。
「…でも、ランスさんのあの状態…まともに話を聞いてくれるのかな…」
「あぁ。さっきの。ランスはあんな感じだけど立ち直りは割と早いはず。私が一番よく理解してるから」
「一番…?」
「ん、いやなんでもないよ」
「…」
ホワイトが通信機の電源を切る。
「え、どうしたの?」
「…やっぱり…今は行けません。お父さんの手掛かりが欲しいのもあるけど…今はランスさんやシェールさん達が心配です。皆の調子が良くなるまで…一緒には行けません」
「そっか。君は優しいんだね」
「…ごめんなさい」
「いいよ。でもいつでも待ってる。一応私の連絡先教えるね」
「あっ…お願いします」
ホワイトが通信機の電源を付ける。
ナギサがホワイトの傍に寄る。
「えっと…凄いねこの通信機。誰が作ったの?」
「あ…えっと…ミカです」
「ミカちゃんが?意外と才能あるんだなぁ」
「…ミカは武器や物を作るのが好きな…大事な友達です」
「へぇ、ふーん」
ナギサが自分の左手首に付けている通信機をホワイトの通信機に当てる。
「…何してるんですか?」
「ん、これでおっけ。連絡用の所見て」
「えっと…え…なんか知らない連絡先が…」
ホワイトの通信機にはナギサの連絡先が送られていた。
そして、それとは別でカルム師団の得たデータも送られていた。
「これ、私の連絡先。今さっき君の通信機にデータを少し送って、私の連絡先とその他私が持ってる情報を色々送っておいたよ。私の通信機凄いでしょ?」
「凄い機能…でも色々って…何入れたんですか?」
「例えばカルム師団の研究成果とか、カコウの街周辺で得られた物とか」
「え…そんな大事な情報…貰っちゃっていいんですか…?」
「君にならいいよ。ただ、他の団員には内緒だよ…?」
ナギサがホワイトの口に人差し指を当てる。
「えっと…分かりました…」
「後、一応だけどランスと私の馴れ初めの出来事もあるから」
「馴れ初め…え…ええっ…!?」
ホワイトが声を上げて驚く。
「うふふ」
「ななな…馴れ初めって…えっと…その…ナギサさんとランスさんは…えっと…え…?」
「うん、実は元恋仲」
「元……」
「まぁ色々あるんだよ。特にこれは君にしか送ってない情報だからね。本当に誰も見てない所で見てね?」
ナギサが微笑む。
まるでランスとの関係は何も無かったかのように隠しているかのように…
「えっと…分かりました…」
「よし、じゃあひとまずは解散かな。さっき部屋を出てったシェールちゃんやジン君、ミカちゃんが気になるし、早く行ってあげてね?」
「え…あ…はい…分かり…ました…」
「うん。街まで送ってくよ。ルド、団員の皆にお願い」
「うい」
「じゃあ、行こっか」
ナギサがそう言うと、ホワイトと共に団長室を出る。
「…」
ホワイトはナギサの笑顔を黙って見ていた。
――カコウの街に出るホワイト。
外はとても暑かった。
「暑い…」
ホワイトが額に出てる汗を腕で拭く。
「そうだ…確かミカは駅で待ち合わせって…」
ホワイトが駅の方面に向けて走る。
「…!」
駅に着くホワイト。
そこにはミカとランスの姿があった。
「ミカ…と…ランスさん…」
「…ホワイト、話は終わったんだね」
「あっ…うん…ナギサさんから…お母さんの事、聞けた…」
「そっか」
「ランスさんは…」
ランスは暗い表情を浮かべ、頭を抱えていた。
「…かれこれこういう状態。まぁ…ナギサさんも軽そうに見えて結構効率を求めるタイプな人だったし、団長とは相性悪いんだろうね」
「ランスさん…」
「…ホワイト、戻ってたか…」
ランスがホワイトの方を向く。
「…今はゆっくり休んでください…ナギサさんも…きっと完全に悪意があってあんな事を言った訳じゃ…」
「…悪いのは俺だ…全部…俺なんだ…」
「ランスさん…」
「…こんな感じでさっきからずっと自分の事を責めてる」
ホワイトはランスの顔を見る。
(この人とあの人がかつて恋仲だったなんて…)
と考えるホワイト。
「…ランスさん、こんな時に言うのもアレ…なんですけど…」
「…なんだ、言ってみろ…」
「…スピアマウンテンに…ナギサさんと行く事になるかもしれません…」
「…!」
ミカが驚く。
「それって…」
「お父さんの手掛かりを得られるかもしれないって…言われて…」
「…なるほどな。それなら…行くといい」
「…え…拒否…しないんですか…?」
「元より今はお前に休暇を与えている状態だ。…今の俺にお前を止める権利はない、勝手にすればいい。何かあった時はあいつが守ってくれる…はずだ…」
ランスが目を逸らす。
「…そう…ですか…」
「…俺は基地に帰る。シェールも…ジンからの連絡で二人とも基地に戻ってる最中と聞いた。シェールに…俺は酷い事を言ってしまった…」
「ランス…さん…」
「こんな状態の団長、流石に一人にできないからあたしも一緒に基地に戻るね。そうなるとホワイトは…まだここに残る感じ?」
「…ナギサさんと、行動する…」
「…そう。でも…あなたのお父さんの手掛かりがあるかもしれないし、あたしは止めないわ。団長も止めてないし…けれど、何か危険な事があったらすぐ教えて。あたしも駆け付けるから」
「…分かった。その時は…お願いね」
ミカがホワイトの方を不安そうに見る。
「…死なないでね」
「勿論…」
ホワイトがそう言うと、ミカとランスは駅のホームへ向かう。
「…」
ホワイトが自分の拳を握る。
そして、ホワイトはカルム師団の基地があった方向へ走り出す。
―カルム師団の基地の目の前にはナギサが立っていた。
「…!ナギサ…さん…」
「あれ、ホワイトちゃん」
ホワイトがナギサの方を見る。
「戻ってきたの?それともまだカルム師団に何か用がある感じ?」
「…さっきの…スピアマウンテンの話…」
「あぁ。それがどうしたの?」
「…私も行かせてください」
「なるほど、了解。でも早いね」
ナギサはそう言うと、ホワイトの方を見て笑う。
ホワイトの目は一点の曇りもない純粋な目だった。
「…ランスさんには…話しました。ランスさんは今…精神がまともじゃなさそうな状態でした…」
「精神がまともじゃない…か。まるであの頃の…」
「…でも、ナギサさんと行動する事に許可は出してくれました。何かあった時は守ってくれるはずだって…」
「うっわ…重大任務、任されちゃったよ…」
ナギサが頭を掻く。
「ランスは分かったけど、ミカちゃんとジン君…シェールちゃんは大丈夫?」
「ミカはランスさんと一緒にいて…ジン君とシェールさんは二人で行動してます。皆なら…大丈夫です」
「なら良かったけど…その…少し嫌な予感がしてさ」
「…嫌な予感?」
ホワイトが首を傾げる。
「私さ、危険予知的なのが昔からずっとあってさ。スピアマウンテンに…何か起こりそうな予感がしてさ」
「何かが起こりそう…?」
「…実は少し前に不吉な夢を見て。スピアマウンテンに再び…巨大な魔力の柱が現れる夢を…」
「夢…でも、たかが夢なんじゃ…」
「って思いたいよね」
ナギサが遠くにある活火山の方を見る。
「ごめんね、驚かすような事言っちゃって」
「…いや、大丈夫です。けれど…ちょっと身構えておきます」
ホワイトがそう言うと、ナギサがランス山脈の方を見る。
「さてと、ホワイトちゃんもスピアマウンテンに行くという事で…覚悟は大丈夫?」
「…お父さんを見つけるためなら…既に覚悟をしてます」
「そっか。内気な性格な割に決心ができる子で良かった」
「…ある意味、そこは母の遺伝子を受け継いでる気はします」
「そうだね、両親の良い所は似るといいぞー」
ナギサがホワイトの方を見て笑顔になる。
「あ、そうだ。何かあった時は守るって話だけどさ」
ナギサが剣を持つ。
そして…水の魔力を剣に宿す。
「――私…何があっても仲間を死なせはしないよ。絶対にね」




