ep51.喧嘩と決心
「私のお母さんは…カルム師団とも関わりがあったんですか…!?」
ホワイトがナギサの顔を見る。
「…そうだね。まさか君のお母さんだったなんて」
「っ…」
「言われてみれば、確かに君はあの人に似てる。性格はあんまり似てないけど」
ナギサはホワイトの頬を触る。
近付くナギサにホワイトが顔を赤くする。
「あっ…近…」
「それで、君はお父さんを探してる感じか。えっと、行方不明…なのかな?」
「…はい。お母さんがネオカオスによって…殺された際にお父さんも行方不明になって…」
「リュンヌさんが亡くなった時の日…あの時の魔力の暴走の話は…ランスから結構聞いてるよ」
「ランスさんが…?」
「うん。そうだよね、ランス?」
ナギサがランスの方を見る。
ランスが腕を組んで聞く。
「ほぼ強制的に言わされたけどな」
「魔力の根源が関わってるかもしれない以上、根源を追ってる私達にも知る権利はあるよ。でもまぁ…男の人の情報はその時聞かされてなかったし…ランスも嘘をつくような性格とは思えないからなぁ。あの時の被害者は二人…リュンヌさんと…えっと確か…」
「…あたし」
ミカが手を挙げる。
「…え、あ、君だったの?」
ナギサがミカの方を見る。
「ミカちゃん…が、被害者?でも生きてる…どういう事?」
「あたしも…よく分からない。気が付いたら…団長に拾われてたし。致命傷だったけど…」
「なるほど。君も君で目覚めるまでの記憶はない…と」
ナギサが指をくわえる。
そして、ランスを横目で見る。
「…てか、あの時ランス嘘ついた?」
「何が?」
「被害者は二人…ってところ。リュンヌさんとミカちゃんがあの時の被害者なのは分かったけど、ミカちゃんこの通り生きてるじゃん」
「…別に被害を受けてるって事に嘘はついてないだろ。それともなんだ、死亡者と生存者で分けろってか?」
「そういう所だよ、ランス」
「なんだと?」
ランスがナギサに近付く。
ランスがナギサに対して怒りの感情を見せる。
「ちょっと二人とも…」
「そう言うお前こそ、何か隠してんだろ?」
「隠してた所で、君に言う事なんて何もないよ」
ナギサの言葉にランスの怒りが強くなる。
ランスがシェールを横目で見る。
「シェール、こいつが嘘ついてるか確かめろ」
「え…あ…」
「早く…!」
「……ごめんなさい、ナギサちゃん…」
シェールは目を瞑る。
シェールの魔力でナギサの心が読み取られる。
「…そんな事で恋人をこき使うんだ。変わったね、ランス」
「お前は逆に変わらなさすぎだ。ホワイトの親父さんの手掛かりになるだろうと思って来たが、こういう事なら会うんじゃなった」
「っ…」
「お前なんかに…会ったのが間違いだった…!」
ランスの形相が悪くなる。
「お前なんかに…――」
「ちょっとランスさん…!」
ホワイトが二人の間に割り込む。
「確かに…ナギサさんはちょっと変な人だけど…でも…だからって…そこまで言う必要は…――」
「…ホワイト、お前に何が分かる?」
ランスがホワイトを見下ろす。
「何がって…ランスさん…おかしいよ…?」
「…あぁ、俺はおかしい。こいつと会ってから…色々おかしくなっちまった…!」
「ランス…さん…」
「…ランス君、ごめん」
シェールが目を開ける。
そして…
「どうだ、ナギサは嘘を…」
「答えられない…」
「…なんだと?」
「ごめんなさい…」
シェールの目から涙が出る。
「っ…シェール…!」
「…私、先にラッシュ師団の基地に帰ってる。ホワイトちゃんやミカちゃん、ジン君も…早めにね…」
シェールがそう言うと、カルム師団の団長室から出る。
「シェール…待て…!」
「…シェールさん」
ランスとミカがシェールが出ていった扉の方を見る。
「………」
「…追えよ」
ジンがランスを睨む。
「…あ?」
「追えよ団長…あの人一人で…行かせていいのかよ…」
「っ…」
「追わないなら、俺が行く」
ジンがシェールを追いかけに団長室から出る。
「あっ…ジン君…ちょっと…」
「…ルド、ごめん」
ナギサがルドを横目で見る。
「いや、俺は大丈夫。それよりも…ラッシュ師団の方々が…」
「シェールさん…ジン君…」
場の空気はかなり死んでいた。
「…ホワイトちゃん」
ナギサがホワイトの顔を見る。
「っ…どうしたんですか、ナギサさん…?」
「ちょっと君と二人で話がしたいな。君みたいな純粋な目をした子なら…私の話を理解してくれそうだなって」
「えっと…分かりました」
「…あたし達は一旦失礼します。ほら行くよ団長」
ミカがランスの服を引っ張る。
「ちょっ…何をする…力強…」
「ホワイト、あたし団長連れてくからナギサさんと話終わったら駅来てね。そこで待ち合わせで」
「…分かった」
ミカが団長室から出る。
ルドがナギサの方を見る。
「俺も出た方がいい?」
「いや、ルドは別にいて貰って大丈夫。ホワイトちゃんに今話して意味がある事は、あの話題だけだから。別にルドに聞かれても大丈夫」
「そうか、分かった」
「さて…ホワイトちゃん」
「…はい」
ホワイトがナギサを見る。
「君は確か…お父さんを探してるって言ったよね」
「はい…お母さんも…お兄ちゃんも…もうこの世にはいない以上…お父さんしかもう…」
「なるほど…ちょっと重いね」
「…ごめんなさい」
ホワイトが頭を下げる。
「いいよいいよ、頭上げて。人間ちょっと事情があるくらいの方が私は好きだよ」
「…そう…ですか。なんかランスさんと同じような事…」
「ランスと?」
「ランスさんも…私がラッシュ師団に入る時に同じような事言ってました」
「へぇ、あのランスが。まぁ彼は彼で訳ありだからね」
ナギサが腕を組む。
「訳あり…?」
「まぁ色々あるんだよね。それよりも…君のお父さんの事に関してはさっきも言ったけど手掛かりはなし…でも、君のお母さんが何を目的に動いてたか…は話せるよ」
「…!そういえば…お母さんがどんな目的で動いてたかは聞いた事ない気がする…」
「うん。あれは確か私がカルム師団を作り上げて少し経った頃…」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――時は2年半前…
「ナギサさん、ラッシュ師団の方でどうやら動きがあったようです」
「動き…ネオカオスの事…?」
カルム師団基地の団長室にて…
ナギサとナギサに話しかけるカルム師団の団員。
「仰る通りです。ネオカオスがどうやらラッシュ師団の団員を手にかけたとの情報を…」
「…ネオカオス…極悪非道…」
「我々も加勢に行くべきでしょうか…?」
「…いや、私達の基地からネオカオスの活動場所はちょっと遠すぎる。それに…あの団長とは…ね」
ナギサはこの頃からランスとの関係が怪しくなっていた。
「…?」
「兎に角…そういう事だから今の私は手出ししない…。でも…奴等がまた私の団員に指一本でも触れたら…潰すけど」
「…そうですか」
ナギサと団員が話していると、別の団員が団長室に入ってくる。
「ナギサさん、ナギサさんと会いたいって人が来客室に」
「…私に会いたい?」
「はい。名前は…リュンヌ。月神の族と思われる方です」
「リュンヌ…月神の族…聞いた事ある名前だ。私が直々に来客室に行くよ」
「いや、ここは彼女をここに呼ぶべきでは…」
「来客へ失礼になるのは嫌だからね。私から行くよ」
ナギサはそう言うと、椅子から立ち上がり歩き始める。
――カルム師団基地の来客室にて…
「お待たせしました、リュンヌさん」
座っているリュンヌにナギサが話しかける。
「おっ」
リュンヌが立ち上がる。
「今は私がここの団長をやってます、ナギサと言います」
「会えて嬉しいわ、私はリュンヌ。ランス君から話は聞いてるわ。こっちに騒がしい団長がいると」
「…あいつ、変な事吹き込んだな…」
ナギサが歯ぎしりをする。
ナギサがリュンヌの闇に覆われている様な右腕を見る。
「…その右腕。やっぱり月神の族の」
「あぁ、これ?かっこいいでしょ?でもちょっとかっこつけかな?」
リュンヌが笑顔で右腕を見せる。
「…やけに軽いんですね。月神の族や太陽神の族の方にはラルの街で会った事はあります。けど、あなたみたいなかなり軽い感じの人は初めてです」
「うふふ、実際に体重も軽いからね」
リュンヌがその場で何度か小刻みに跳ねる。
リュンヌの胸が揺れるのをナギサが見つめる。
「…その胸に付いてる肉塊は重そうですけどね。でも細いし。スタイル良くて嫉妬しちゃいますよ」
「それはあなたもでしょ?」
「…まぁ。多少は肩凝りしますけど」
ナギサが肩を叩く。
「それにしても…月神の族は外では集団で行動するってのが基本と聞いてたから、単独行動するなんて珍しいですね」
「夫にも動いててもらっててさ。夫には今ラッシュ師団の方に掛け合ってもらってる訳」
「あぁ、なるほど。リュンヌさんは結婚されてたんですね」
「うん。子供もいるよ、二人」
リュンヌが左手の指輪を見せながらピースする。
「子供もですか。…二人も?お若い見た目してるのに珍しいですね。そうなるといたとしても赤ん坊くらいの子供…ですか?」
「もうすぐ16になる娘がいるんだ。上のお兄ちゃんは娘の7個上」
「へぇ、結構可愛い年齢…じゃないですね。…え、めっちゃ美貌保ててるじゃないですかリュンヌさん。ガチで何者ですかあなた…?」
ナギサが驚いた表情をする。
「うふふ、すごいでしょ?私もうすぐ50なのよ」
「50!?…何かの間違いでは…え…私50歳なんてなったら絶対老けてる自信ある…」
ナギサが自分の顔に手を触れる。
「まぁ、これも月神の族の魔力の影響って事で」
「…へぇ。凄いですね」
「話がズレちゃったね。私がここに来た理由…それは、魔力についてよ」
「魔力…ですか?」
ナギサが首を傾げる。
「カルム師団はネオカオスに立ち向かうためではなく、魔力について研究してるって聞いてね」
「まぁ概ね合ってます。その魔力が…どうかしたんですか?」
「ネオカオスはどうやら魔力に固執してるみたいでさ」
「…なるほど……まぁそこはよく…理解してますよ」
ナギサが険しい顔をしながら腕を組む。
「ネオカオスが魔力の根源を探しているんじゃないかって思って」
「魔力の…根源」
ナギサが息を呑む。
「その存在については知ってる?」
「…知ってます。カルム師団を結成する前に個人的に調べてましたし、今も調べながらって感じですけど、まだ謎が多くて…」
「私もよく分からないけど、ここ最近で街の図書館に置いてる古い本を主に盗まれたっていう事件が発生しててね」
「古い本…?」
「えぇ。目撃者の情報的にも犯人はネオカオスの団員でほぼ確定。奪われた本はどれも魔力に関する内容の物ばかり…そしてその奪われた本の一部に…魔力の根源が記された物があったらしいわ」
「…なるほど」
「一応、図書館から一部私が押収した古い本も何個かあって」
リュンヌが古びた本を四本取り出す。
「これらは?」
「本を奪われた図書館で実際に在庫がなくなった本を持ってきたわ」
「『魔力の譲渡』…『魔力の採取』…『新たな魔力の会得方法』…『根源』…」
ナギサが本の題名を見つめる。
「前半三つは分かると思うけど、最後のはあなたも分からないでしょ?」
「そうですね。私も魔力に関する本はこの基地に何本もありますが、『根源』と書かれた物はないです」
「またひとつ、賢くなれたね。今から開いてもらって読んでもらっても構わないんだけど…」
「…何か問題が?」
「これとは別で、今手元にこの本がある訳なんだけどさ」
リュンヌが再び古びた本を取り出す。
その古びた本には月の模様が描かれていた。
「…これは?」
「これは私達の一族にしか伝わっていない本。世界に一つしかない本よ」
「それは凄い…でも、そんな大事な物…持ってて大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。そしてこの本の内容は…魔力の根源について沢山書かれている」
「魔力の根源について…!」
ナギサが目を光らせる。
「長々と読むのもいいけど、重要なのはここ」
リュンヌが本を開き、本に書いてある魔力の柱の絵に指を指す。
――そして、『封印されし禁忌 魔力の根源』と記されていた。
後書き~世界観とキャラの設定~
『四つの本』
…リュンヌがかつて持っていた本。題名は『魔力の譲渡』『魔力の採取』『新たな魔力の会得方法』『根源』であり、『根源』に関してはリュンヌの一族にしか伝わっていない世界でたった一つしかない貴重な本である。そしてその本には魔力の根源に関する記述が多く載っている。
そして本に載っている『封印されし禁忌 魔力の根源』の「封印されし禁忌」とは一体何の事なのだろうか…
カルム師団はそれについて調べている最中である。




