ep47.二年前のあの頃
ミカの姉…ジーナと言う名前の姉を知っているホワイト。
ミカがホワイトを見上げる。
だがホワイトは本人と会っていない。
ホワイトが知っているのは、母に聞かされた名前と行動と、身体的な特徴。
「どんな人かまでは知らない…。でも…お母さんと当時一緒に行動してた…私達と同じくらいの年齢の子って事くらいは…」
「っ…最後にジーナという名前を聞いたのは…」
「ちょっと落ち着け、ミカ」
ジンがミカの肩を触る。
「っ…ごめん…」
「会話には順序って物がある。…一旦冷静になれ。それにこの雨の中だ…少し駅の中に行って話そう」
「…そうね。ごめん…」
ミカがそう言うと、三人は駅の中へ向かう。
「…ごめん…二人とも」
ミカがホワイトからタオルを貰い、濡れている身体を拭く。
「いいよ。それよりも…ミカが思い出せる範囲で話を聞かせて」
「…うん。ジーナは…あたしの姉。両親が亡くなった後も一緒に暮らしてたのを覚えてるわ」
「…そっか」
「でも…その後の記憶が飛び飛びなの…色々起こっていたような…そんな感触で…」
「飛び飛び…色々…」
ホワイトが疑問に思う。
「…戦っていた記憶があるような気もするし…あたしが大きな怪我をした気もするし…ジーナが死んだ…気もする…」
「…うん」
「そして、何か不思議な腕をした人に会った気もするの…」
「…!それって…」
「そう…それが太陽神の族と…月神の族…かもしれない…」
「なるほど…」
ミカが頭を抱える。
ミカの記憶はぼんやりとしか残っていなかった。
「ごめん、ぼんやりで…」
「うん…大丈夫。ミカは大事な仲間であって…一番の友達だから…」
「っ…ありがとう…」
「えっと…ジーナって名前を最後に聞いた時…だよね?あれは…2年前…丁度お母さんが亡くなる前…」
「リュンヌさんが…亡くなる前…」
「…その後は…聞いた覚えはないよ」
ホワイトが胸に手を当てる。
「…そっか。リュンヌさんはその時、何かジーナに関して言ってた…?」
「えっと…確か…『ジーナちゃんと一緒に悪を倒しに行ってくる』って言っていたような…」
「ジーナと一緒に…悪を?」
ミカが首を傾げる。
「…恐らくその悪ってのがネオカオス…ジハの事だと思う…」
「ジハ…!」
ミカの目付きが変わる。
「っ…そっか…ジーナは…あたしの姉は…ジハを止めようとして…でも…殺されたの…?」
「っ…まさか…お母さんやお父さんだけでなく…あなたのお姉ちゃんまでジハは手をかけたっていうの…?」
「だとしたら…許せないっ…!」
ミカはそう言うと武器を魔力で生み出す。
「っ…!ミカ…!」
「…ジーナの仇。ジハを絶対に…――」
「待って落ち着いて…!ジハはもう…この世には…」
「っ…そう…だった…」
ミカが武器を下ろす。
「冷静になってよ…ミカ…」
「っ…でも…そうしたら…なんであたしはこんなに記憶が曖昧なの…?」
「ミカ…」
「あたしの記憶がこんなに曖昧なのは…記憶を操作されてる…?」
「記憶の操作…?」
記憶の操作という言葉に既視感を覚える一同。
そして…
「記憶の操作を身近に使える奴…もしや…団長…!」
「…!?」
ホワイトが驚いた表情をする。
そして、ジンが割り込むように話し始める。
「…そういえば、俺も団長に記憶の操作みたいなことをラッシュ師団に入る前にされた気がするな…」
「ちょっとジン君…!?」
「…あはは…そっか…そうだったんだ…」
ミカが気力を失いながらも笑い出す。
「全ての黒幕はあの男…ラッシュ師団の団長…ランス…!」
「ちょっと…!?」
「あたしが曖昧な記憶なのもランスが記憶を操作したせい…そしてその記憶操作の中に…彼にとって不都合の…」
「いい加減にして!!」
ホワイトが怒鳴る。
「ランスさんがそんな事する人な訳ない!!」
「っ…でも…それ以外考えられない…」
「だったら!だったら…ランスさんに直接聞くのが…いいんじゃないの…?」
「…直接…聞く…?」
「ランスさんはラッシュ師団の団長…ラッシュ師団の事で分からない事があったら…ランスさんに聞くのが一番って皆言ってるでしょ…?ジン君の記憶操作…とかはよく分からないけど…ミカの記憶を操作してたんだとしたら…きっと何か理由があるはず…やましい理由かどうかまでは分からないけど…ランスさんの事だからきっと…大丈夫だよ…」
「…そう…か…そっか…」
ミカが冷静になる。
「…ごめん、苛立ってた…ジーナが死んだ理由がジハや団長にあるって考えが少しでも過ぎって…それで…――」
「…大丈夫。今は一旦落ち着いて…ジン君も…ミカに追い打ちかけるようなことを言っちゃダメ…!」
「…すまない」
ジンとミカがホワイトの言葉を聞いて冷静になる。
「…だけど、ジン君もそれ…されてたんだね…」
「…もって事は、ホワイトもか…?」
「私はないけど…他の人達はランスさんによって悪い思い出の記憶を本人の希望で消して貰ってたりはしてたらしくて…」
「…なるほどな」
ジンが腕を組む。
「…さっきも言ったが、俺はラッシュ師団に入る前に団長に頭を掴まれた。そして…何かあの時魔力を感じたんだ」
「…そっか」
「俺も気になってきた。こうなったらミカと俺で団長に聞きに行こう。最悪の場合…あいつを潰す」
「最悪の場合って…」
「…あたしも、団長に色々聞きたい事がある。あいつ…隠し事が多すぎる…!」
「ミカまで…」
「…ホワイトは、どうする?」
ジンがホワイトの目を見つめて聞く。
一瞬迷いを見せるが、ホワイトが決断する。
「っ…ついていくよ…!せっかくの休暇でお父さんを探す予定だったけど…ミカにお姉ちゃんがいた事の驚きの方が大きい…!それに…ミカのお姉ちゃんの件がネオカオスと関わってるなら尚更…!」
「…決まりだな。そうなると…電車を使って戻る事になりそうだな」
「うぅ…せっかくの休暇が…でも…一番の友達が苦しんでるし…何よりジン君にもランスさんへの疑問が残っている事があるし…でもお父さんも探したいし…でもランスさんを潰すとかそんな物騒な事…させたくないし…」
ホワイトが悩み始める。
「…行こっか、もう一度。ラッシュ師団の…基地へ」
「…あぁ。団長の野郎に…話を付けてやる」
「…ジーナの件、絶対何か知っているはず…あたしは団長を口説いてみせる」
三人はラッシュ師団があるウィッシュ城下町行きの電車へ乗り込む。
――数時間後…
ラッシュ師団の基地に入るホワイト、ミカ、ジンの三人。
ミカが先頭で走り、すぐさま団長室へ向かう。
「ちょっ…ミカ…!」
ミカを追いかけるホワイト。ミカの目付きは悪くなっていた。
団長室の扉を開けるミカ。
団長室にいたランスはミカの顔を見るなり疑問に思っていた。
「ミカ?お前達には休暇を与えたはず…」
ミカはランスの方へ向かいながら右手に魔力を込め、剣を作り出す。
そして…
「…!」
ミカの剣がランスの首元まで迫る。
「…なんの真似だ?」
ランスがミカを睨み付ける。
ミカの腕は震えていた。
「はぁ…はぁ…ごめんなさいランスさん…」
ホワイトが息切れしながら団長室へ入る。
ジンもゆっくりと団長室へ入る。
「ホワイト。それにジンも。どういう意味だ?」
「…団長、あたしの記憶やっぱいじったでしょ」
ミカがランスの方を見て話す。
「お前の記憶を?」
「とぼけないで…あたしの記憶に微かに残っている姉の記憶…でも曖昧だったり飛び飛びすぎて訳が分からなくなっている記憶…どういう意味…?」
「姉…だと?」
ランスが疑問に思う。
「お前には姉がいたのか、ミカ」
「いたのか…じゃないわよ…!団長があたしの記憶に何をしたか聞いてるのよ…!」
「ちょっとミカ…!」
「なるほど、それで俺を疑っている訳か」
「…俺の方も気になる。俺がラッシュ師団に入った時だ。団長…俺の頭に何をした?」
「そういえばそうだったな」
「ちょっと二人とも…!」
ホワイトがジンとミカの二人を見て慌てる。
そして、シェールが団長室に入る。
「ランス君…騒がしそうだけどどうし…た…の…?」
シェールがその光景を見て絶句する。
「…!ミカちゃん…!?ジン君にホワイトちゃんも…これはどういう事…!?」
「シェール…」
「ランス君…あなた…ミカちゃんに殺されるような事…したの…?」
「待て、そんな事はしてない。だが…こうなってしまっている以上俺も言い訳はしない」
ランスがミカの剣を見下ろす。
「…剣を下ろせ。お前と俺が出会った時の事を再び話そう」
「…本当に話してくれるのね?」
「シェール」
ランスがシェールの方を見る。
「っ…ランス君は…嘘をついてないわ」
シェールは心を読む魔力でランスの想いを感じ取った。
「…そういうシェールさんもグルだったりしてね?一応、彼氏だしね?」
「っ…そういう考えも…あるのね…」
「ちょっとミカ…!いい加減にして…!」
ホワイトがミカに対して怒鳴る。
「ランスさんは…正直何考えてるか分からないけど、シェールさんはそんな人じゃない!シェールさんは…嘘は絶対つかない人だよ…!」
「ホワイトちゃん…」
「…ホワイト」
「だから…少し落ち着いてよ…お願いだよ…」
「…分かったわ」
ミカが剣を下ろす。
「…さて、何から話そうか」
ランスが考え始める。
「そもそもミカがラッシュ師団に入ったのは…2年前の事だ」
「2年前…」
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――2年前のある日…
「…リュンヌさんは…もうだめか…この子も…」
ランスは倒れているリュンヌとミカの息を確認する。
既に二人に息はなく、身体も既に冷たくなり始めていた。
「…遺体二人を運ぶ。シェール達、手伝ってくれ…」
「…分かった」
その場に駆け付けたシェールを含む団員はリュンヌとミカを運ぶ。
「………ジハ…俺は奴を絶対に許さ…」
ランスが言葉を続けようとすると…
「ランスさん……!少女の方が…目を覚ましました…!」
「何っ!?」
ランスがミカの方へ向かう。
「…………何故だ…?」
ランスはすぐさまミカの頬を触る。
「…ぬくもりを感じる。生きている…いや、生き返った…?」
「一人生存したのは朗報かもしれないよね、ランス君…?」
「…ひとまず基地に戻ろう。話はそれからだ」
ランスはミカを抱えてラッシュ師団の基地へ戻る。
―基地の病室で寝かされるミカ。
それを見るランスとシェール。
「りんごは好きか?」
ランスがミカにりんごの実を渡す。
ミカがりんごの実を食べ始める。
「…好き」
「お前は…リュンヌさんと一緒にいたが知り合い…なのか?」
「…分かんない」
「は?」
ランスが腕を組む。
「でも、リュンヌさんとあたしは…かつて一緒に戦ってた気がする」
「気がする?そうなると記憶喪失と言ったところか…」
「ランス君…この子はもしかしたらジハの攻撃をもろに受けて…記憶に障害が…?」
「まぁ、そう言う感じだろうな。ちょっと見せてくれないか?」
ランスがミカの頭を触ろうとする。
「っ…!」
ミカがランスの腕を振り払う。
「何をする?別に攻撃をする訳じゃない。お前の記憶がどうなっているか確認したいだけなんだ」
「確認…?」
「あぁ。俺の魔力は凄いぞ?記憶に関する魔力でな、過去の記憶を見たりすることができるんだ。不都合な記憶を消す事や、逆に人々の記憶にある情報を他者に与える事もできる。凄いだろう?」
「凄いね」
「まぁそう言う事だ。お前の過去の記憶を見せてくれないか?それによってお前の経歴が分かるかもしれない」
「…いいよ。攻撃はしないでね」
「助かる」
ランスはそう言うと、ミカの頭に手を乗せる。
ランスは目を瞑る。
「…これは」
「ランス君…何か分かった?」
「真っ黒な記憶…なんだこれは…」
「…え?」
ランスの見えたミカの記憶には…真っ暗な雲のような物が映っていた。
「真っ黒で何も見え…いや、僅かに見える部分もあるが…その僅かがあまりにも小さくて…見えない。まるで黒い霧に覆われているような…」
「…そっか、そう見えるんだ」
ミカがランスを見上げる。
「お前は一体…何者なんだ?」
「…分からない。だけど…自分の名前なら覚えてる」
「ほう、言ってみろ」
「ミカ」
「ミカ…か。いい名前じゃないか」
「…たぶん母親が付けてくれたんだろうけど…それも思い出せないの」
ミカが頭を押さえる。
「そうか。…実際お前の記憶は霧に覆われているように何も見えなかった」
「…そっか、やっぱり。…正直この世界については何も分からない…」
「この世界について…か。もしかしたら違う世界の種族なのかもなお前は」
「え」
「死んでたはずなのに息を吹き返したり、案外凄いじゃねえかミカ」
ランスが少し笑う。
ランスの顔を見てミカが首を傾げる。
「…嬉しいけど、変だと思わないの?」
「別に思わないが?ラッシュ師団には変…というか、訳ありな奴が多くてな。底が知れない奴もいっぱいいるぞ」
「ふーん…」
「っ…」
シェールが目を逸らす。
シェールもまた、ランスの言う訳ありな奴に該当していた。
「とは言え、疑問が多い事に変わりはない。特にお前はこのまま放っておくわけには行かない」
「…そうね。でもどうするの?あたしは…」
「俺達と戦わないか?」
「…え?」
ランスがミカに手を差し伸べる。
「俺はランス。このラッシュ師団の団長を今はやっている。こいつはシェールだ」
「シェールよ。私は心が読める魔力や、毒や病気といった状態異常系を治療できる魔力を使えるわ」
「…凄いね、二人とも」
「俺達ラッシュ師団と共に…ネオカオスの計画を阻止するのを…手伝ってくれないか?」
「…ネオカオス…それがリュンヌさんを殺した団体か…」
ミカの目付きが変わる。
「…そうだな。ネオカオスのボスであるジハは…世界の改変とやらを行おうとしてる」
「世界の…改変?」
「詳しくは彼のみしか知らないだろうが…推測できる事としては最悪な事に繋がるのは間違いなしだ」
「なるほど」
「実際に…ネオカオスは人殺しも平然と行う」
「っ…人殺しを…!」
ミカがネオカオスの事を想像し、睨んだような目をする。
「現に…うちの団員も何人か奴等によってやられている…」
「なっ…」
「…そんな奴等相手に手伝ってくれなんて…無茶を言うようだが…」
「…やる」
ミカがランスの目を見つめる。
「本当か?」
「…現に…あたしは行く場所がない。かといって一人で外に出歩いてたらきっとネオカオスに殺される…だから…」
ミカが拳を握る。
「ここで…あたしを強くしてほしい」
「…決まりだな」
ランスがそう言うと、シェールが服をミカに渡す。
「これは?」
「ラッシュ師団の団服だ。お前は今日から…ラッシュ師団の一員だ」
「…へぇ」
「ただ…お前のサイズに合うかは分からん。現にお前は…結構良いプロポーションを持っているからな…」
ランスがミカの身体を見る。
そう…ミカの身体は…小柄でありながら肉付きが良かった。
「プロポ…なんだって?」
「兎に角着てみてくれ。あ、更衣室はここだと廊下に出てすぐ近くだ」
「…ん」
ミカは更衣室へ移動する。
そして団服に着替える。
団服に着替えたミカは病室へ戻る。
「似合ってるじゃねえか」
「…まぁ、ちょっと胸がきついけど」
「…ちょっと嫉妬しちゃうわ」
シェールが目を逸らす。
嫉妬しているシェールだったが、シェール自身もかなりスタイルが良く、嫉妬するほどのプロポーションがない訳ではなかった。
「それで…あたしは何をすればいいの?」
「そうだな…まずはお前に戦闘以前の問題があるから色々学んでもらう必要があるな。シェール、頼めるか?」
「いいよ、ランス君の頼みとあれば」
「助かる。シェールと共に…書庫へ向かって色々学んで来い」
「…分かった。シェール…さん」
「行こっか、ミカちゃん」
シェールの指示に従い、ミカがついていく。
ミカ本人もあまり覚えていない、ラッシュ師団の過去は一体…どういう物なのか………




