ep42.晴れた空
――ホワイトがジハを倒した後、ジハによって魔力と魂を吸い取られた生物は皆元に戻った。
皆次々と目を覚まし、繋命の世界でリュンヌと会話していたホワイトもじきに目を覚ました。
皆何が起こっていたか理解していなかった。
目覚めたホワイトが「ジハは自分が倒した」と話を付けようとした。
だがミカは「ホワイトが倒した」という事実を残したくない故にそれを隠蔽しようとする。ホワイトの手柄を横取りするためではなく、ホワイトを守るため。
この話はホワイトとミカ、そしてジンとロキの四人による秘密に終わった。
世間一般では魔力の根源の暴走によりジハは死亡と決定づけられた。
一方で魔力の根源があった場所…スピアマウンテンの洞窟内には今は何もない。
洞窟内にあった鉱石も魔力の根源の消失と共に光を失い、ただの洞窟と化してしまっていた。
ジハやネオカオス四天王の亡きネオカオスは統率を失い、次第に崩れていく事に。
ラッシュ師団の前の基地が爆破された後、ジハが隠れていた場所についてはまだ探れず、ラッシュ師団はジハの隠れていた場所の調査とネオカオスの残党を全員確保という次なる目標としていた。
――それから数日後の朝。
二人の少女がネオカオスの残党を確保するため、出発の準備をしているところだった。
ラッシュ師団の基地、二人の部屋にて。
「ホワイト、おはよう」
「ミカ、おはよう」
「今日もネオカオスの残党捕まえに行くけど…どうする?来る?」
「あっ、私も行く」
「了解。準備できたら教えて。麻酔銃忘れないでね?」
ミカの言葉を聞いた後、ホワイトが立ち上がる。
ホワイトの腰には麻酔銃があった。
「もう準備はできてるよ、行こっか」
「了解」
ホワイトが立ち上がり、ミカについていく。
――廊下を歩くミカとホワイト。
「…それにしても…未だに信じられないわ」
「…何が?」
「ネオカオスの残党が…ジハの捜索をしているっていう噂を…」
ネオカオスの残党は未だにジハの捜索をしていた。
世間一般ではジハも死亡という扱いになってはいた。
だが現状ラッシュ師団ではジハに関しては「行方不明」という事にしている。
ジハの遺体を見つけるまでは、まだ気は抜けなかった。
「ロキ君とジン君が確保したネオカオスの下っ端に聞いたら分かった事だね」
「生きてる訳ないのに…ね?」
ミカが苦笑いする。
繋命剣を使ったホワイトによって、完全な存在となったジハは身体を斬られ…魔力の根源も共に消滅した。
普通ならばジハは生きている訳がない。
…普通ならば。
「まぁ、ジハが生きてた所で瀕死の状態なのは確実だろうし、今からすぐにネオカオスを動かすってのも無理なはず。この混乱してる状況で残党を全て片付ければ、例えジハが生きてても大丈夫なはず」
「そうだね」
「お前達、ここにいたのか」
ホワイトとミカの後ろにランスが現れる。
二人がランスの方へ振り向く。
「団長」
「ランスさん」
「お前達に命令がある」
ランスがそう言うと、ミカは再び廊下を歩き出す。
「命令ですか。じゃあ団長室に…」
「待て、別にここで話せる事だ。だが心して聞け」
ランスが少しだけ笑みを見せながら話す。
少し気味の悪い笑いにミカが引く。
「…なんですか。あたしは早くネオカオスの残党を…」
「それについてなんだが、お前達に休暇を与えようと思ってな」
「…え」
二人が首を傾げる。
「休暇?こんなクソ忙しい時に?団長がまさかあたし達に休暇を取れと命令するなんて珍しいですね。ブラック企業のような事ばっかしてるのに」
「ラッシュ師団はブラック企業じゃねえよ。…じゃなくてだな。お前達の功績を称えて休暇を与える事とした」
「ほんと…ですか…?」
「あぁ。休んでいる間もお前達には当然収入が入る」
「わぁ、ホワイト企業だ。ホワイトも隣にいるし、ホワイト企業だぁ」
ミカが棒読みで話す。
ホワイトが隣にいる中、ホワイト企業という言葉を言うのもなかなかのものである。
「そもそも私…ラッシュ師団で収入が入ってる事なんて知らなかった…」
「まぁ話してない…っていうか、ネオカオスの件があまりにもデカすぎてな、金の話どころじゃなかったんだ」
「そういえば…色々ありましたからね…」
そう、ラッシュ師団には一応街の人達からの報酬などと言った収入という物が存在していた。
ネオカオスの件の大きさにそんな事している余裕はなかったが。
だがその余裕もできたことにより、遂にそれもかなう事になった。
「という事でお前達は明日から暫くの間自由だ。今は今でネオカオスの残党探しで忙しかったりはするが、別にそれは俺達でもなんとかなる。後でジンやロキにも休暇を与える」
「あ、ジン君やロキ君も…」
「そうだ。自由の間は本当に何をしててもいいぞ。基地からずっと出てもいい」
「え…それって…」
基地から出てもいい…つまり、本当に自由だった。
そして夜までに基地に戻る必要もなくなる。門限も存在しない。
本当の自由なのだ。
「夜に基地に戻らなくてもいいって事だ。まぁ別に基地にある物を使って貰っても構わないし、なんならここに残っても構わないが」
「分かった。じゃあ今から命令通り休暇貰うね、団長」
「おう。ネオカオスの残党を全て確保する事ができたらまた連絡する。通信機は一応持っていてくれ。基本呼ぶことはないが…」
「ん」
「じゃあな」
ランスはその場を去る。
ホワイトが少しだけワクワクしていた。
流石のホワイトも休暇と言われたら嬉しい。何せ、身体も心も休められるのだから。
「ミカ、休暇だって」
「…ホワイト、どうしよう」
「…え?」
「あたし…やる事全くない…」
ミカが頭を押さえる。
「どうしよう…今までずっとラッシュ師団として活動してきたから…いざ休暇を取ろうってなっても何もやる事思い付かないし…実家はないし…どうすればいいの…?」
「あはは…」
ホワイトが苦笑いする。
(そういえば…ミカの実家って、どこなんだろう。ないって言ってたけど…なんでなんだろう?)
ホワイトはそう考えていた。
「…そうだ、ミカ。それについてなんだけど…」
「ん?」
「…お父さんを探すの、手伝ってくれないかな…?」
「ホワイトのお父さんを?」
ネオカオスの一件が終わったら父親を探すという事をホワイトは決めていた。
「うん…お母さん曰く…生きてるって事なんだけど…」
「なるほど…?」
ミカが腕を組む。
ホワイトは信頼のおけるミカにも繋命の事について喋っていた。
自分は繋命に目覚めたという事、夢のような世界で母に出会った事、死者とも会話ができるという事…
ミカはすぐさま話を理解していた。
「手掛かりとかはあるの?」
「…今はないかも」
「そっか。それなら…片っ端から探さないとか」
「…うん。だから…長い旅になると思う。だから…ミカが嫌なら私一人で行こうかなって思って」
「ふーん」
ホワイトは一人で旅する事も決心していた。
自分の家族の問題であるから、協力はして貰いたくても最後には自分で解決するべきだと、思っていた。
「あっ…でも、一応お父さんの魔力の気配は覚えてるから…お父さんが近くにいるって分かるとすぐ見つかるかも…」
「いいよ、手伝う」
ミカは躊躇いもなくホワイトに協力する事を誓う。
「ほんと!?」
「元々やる事なかったし…あたしもあなたと旅して色々探ってみたい事が多いし…何よりリュンヌさんがあんなに強くて凄い人だったし、ソレイユさんはどんな人なんだろうって」
「…きっとミカが今抱いてる印象とは逆のイメージかも」
「へぇ、それは楽しみだなぁ」
ミカが笑顔になる。
ソレイユと会える楽しみを胸に込めるミカ。
だがすぐに出発するには、準備と手掛かりが足りない。
「今日は準備をして、明日出発しよう。手掛かりがないならまずは情報を得なきゃだね」
「うん。あっ…そうだ。ジン君にも話付けなきゃ。ジン君もネオカオスの件が終わったらお父さんを探すの手伝ってくれるって約束してくれたから」
「あ、そうなんだ。じゃあジンの方は心配ないわね。問題はロキだけど…」
ミカが悩んだかのような顔をする。
「ミカが誘ってくれれば誘いに乗るんじゃないかな?」
「え?あたしが?」
「うん」
「なんであたしが…?」
「うーん…なんとなく?」
ホワイトがそう言うと、ミカは首を傾げた。
ロキとミカはお似合いだから。
きっとミカの誘いならロキも乗ってくれるとホワイトは信じていた。
「ロキとジンは恐らく牢屋のフェクトと話をしてるだろうから、あたしが行ってくるわ。ホワイトは部屋で準備してくれると助かるわ」
「分かった、ありがと」
ホワイトは部屋に戻り、ミカは牢屋の方へ移動した。
――ラッシュ師団の基地の牢屋にて…
「あぁ…お前はこれで自由だ」
「…僕はもう、自由…か」
フェクトとロキが話している。
フェクトが檻から出されていた。
「もうネオカオスみたいな厄介事に巻き込まれるなよ?」
「…分かってるよ。でも…ひとつだけ聞きたい。どうして僕を解放するんだい?一応ネオカオス四天王として僕は君臨してた。まだ話してない事もあるはずだ。それなのに…何故?」
背の低いフェクトが背の高いロキを見上げる。
「団長命令ってのもあるが、お前はネオカオスの中でも特段悪い事をしてた訳ではないからな。殺しも殆どなし。よって…お前を釈放とする」
「へぇ。案外ラッシュ師団もちょろいんだね」
「…だが再び悪い事をしたら俺がまた捕まえてやる」
「ふふっ…悪い事をしたら…だろ?」
フェクトが笑う。
「…次会ったら、僕は敵としてでなく、味方として君達の前に現れるよ。では失礼するよ」
フェクトはそう言うと、牢屋を去っていく。
そして、ジンがロキの元に現れる。
「味方としてか…」
「案外ベタな事言うんだな、あいつ」
「なんとなくそんな予感はしてたけどな」
フェクトが去っていった。
二人が残され、物静かな空気になる。
「終わったな」
「あぁ。後は…残党処理だけだ」
そこへミカが合流した。
ミカは歩くフェクトを見て疑問を抱く。
「あ、ミカ」
「ねぇ、今の…フェクト?」
「あぁ」
「あいつ…解放したんだ?一応ネオカオス四天王だったのに?また悪さする可能性もあるでしょ?」
「あいつなら大丈夫だろう」
「ふーん…案外アンタも甘いのね」
ミカが目を細める。
だがフェクトの事に関してはそこまで疑っていなかった。
薄暗い牢屋に三人が残る。
「それよりミカ、何故ここに来た?」
「ホワイトがお父さんを探すのを二人にも手伝って欲しいって事でさ。それでアンタ達を呼びに来たって訳」
「ホワイトの親父さんを?」
「うん。じきにアンタ達にも団長から休暇命令が来るし」
「マジか」
「うわ、珍しく…どころか割と初めての休暇だ」
ロキとジンが驚いた表情をする。
休暇というものはやはり二人にとっても嬉しい物だった。
「俺はいいぞ。元より協力するって言ったのは俺の方だしな」
ジンは約束通り、ホワイトに協力する事に。
「ジンは確定でいいとして、ロキはどう?」
「…俺か、そうだな…」
ロキが考え始める。
何かやりたい事がある雰囲気を二人に醸し出しているロキ。
ロキは決断する。
「いや、今回は俺はパスで頼む」
「え」
「ロキ?」
ロキの言葉に二人が疑問を持つ。
「勿論、ホワイトにも協力したい気持ちはあるし何よりミカの頼みだ。戦闘団員として一緒に行動を多くしたジンもいるし四人で行動した方が何かといい事はあるだろう。だけど…俺にも少しやりたい事があってな…」
「やりたい事?」
「ネオカオスの残党処理のひとつではあるんだが…"殺戮のデスト"のベースとなった人間を探したい。そいつと話がしたい」
殺戮のデスト…かつてラッシュ師団が戦った人造人間。
そして…その人造人間のベースとなった人間にロキは興味を抱いていた。
人造人間であれだけ強ければ、本物はどれだけ強いのだろうかというワクワク感もあった。
「そう」
「後は…最近帰ってなかったからな、一旦実家にも帰ろうと思う」
「あ…そっか、実家ない組と違ってアンタは実家あったからね」
「待て、勝手に俺を実家ない組に入れるな」
「だってアンタ元殺し屋でしょ?殺し屋だったのに実家あるの?」
「一応なくはないが…」
ジンが少し呆れたように話す。
「へぇ、それは気になるわ。今度案内しなさい?」
「…今度な。今は別にまだ帰る必要はない。ホワイトは…そうか、今は実家には誰もいないのか…」
「そうね。…じゃあロキとは暫しお別れって訳ね。ちょっと残念」
ミカが残念そうな顔をする。
「あぁ、すまないが。ただ、もしも"殺戮のデスト"のベースとなった人間が見つかって、一件終わったら俺もお前達に合流しよう、約束する」
「そう、助かるわ。じゃあ、また会う日まで」
「おう。二人とも、気を付けてな」
ミカがそう言うと、ミカとジンが牢屋から出た。
ロキが一人で残り、残った仕事を進めようとする。




