ep38.槍の山再び
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――ホワイトは夢を見ていた。
「ねぇ、お母さん!今日夢の中で月を見たの!凄く真ん丸だった!」
少女が母親に抱き付きながら話しかけている。
「後ね、後ね、今日夢の中におばあちゃんが出てきた!」
「へぇ、おばあちゃんが。現実ではもう会えないから、夢の中だけでも仲良くするんだよー?」
母親が無邪気な少女の言葉に微笑む。
「うん、もちろん!あっ…それでね、夢の中でおばあちゃんが言ってたんだけど…」
「はいはい、夢の中のおばあちゃんが、なんて言ってたのかな?」
「孫に命にかんしょうできるまりょく…?がはつげん…?したってことをお母さんに宜しくねって」
「っ…」
母親は驚いた表情をする。
「お母さん?」
「…ん?ううん、なんでもない」
母親が少女を抱く。
そして、少女にお願いする。
「ねぇ、もしもまた夢でおばあちゃんに会ったら、こう伝えてくれないかな?」
「ん?うん、分かった。なになに?」
少女がそう言うと、母親は少女の耳元に囁く。
「…!うん、分かった!」
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「…あれ、夢…か」
目を覚ますホワイト。
「…昔の夢…か。確かおばあちゃんが死んじゃった後に見た夢…あの時は無垢だったなぁ…」
ホワイトが目を擦る。
「…起きなきゃ。今日は…スピアマウンテンの…」
ホワイトがベッドから出る。
――ラッシュ師団の基地にて…ホワイトとミカが外に立っていた。
「ホワイト、本当にいいの…?あなただけでも基地に残って…ブラックさんの葬儀でも…」
「…うん、大丈夫。お兄ちゃんも…まだ自分の葬儀を望んではないと思うから…全部終わらせてから、お兄ちゃんを…送るよ」
ホワイトが涙を堪える。
「そっか。でも…こっから先は本当に生きるか死ぬかの戦いかもしれない。相手は…ネオカオス四天王の統率者でもあるジハ…過去に幾多の人間がやられてる。…誰かが欠けて勝って終わる可能性もあれば、皆死んでしまってあたし達の完全敗北…という可能性もあるわ」
ミカが厳しい現実を伝える。
「それでも、私は行かないと…お母さんやお父さん…お兄ちゃんの仇を…取らないといけない…」
「…そう」
ミカがホワイトの決心を知り、少しだけ微笑む。
「お前達、お待たせ」
ジンが二人の元へやってくる。
「ジン君」
「ジン、遅いわよ」
「すまん、色々準備してたら遅れた。それより…今日が最後になるかもしれないんだな」
ジンが拳を握る。
ジンの言う通り、今日が最後になるかもしれなかった。
スピアマウンテンの探索…魔力の根源の発見…そして、ネオカオスの計画の阻止…
「…別にまだそう決まった訳ではないわ。でも…昨日分散していたラッシュ師団がひとつの場所に集まるって事は…今日で魔力の根源を見つけられる可能性は大いにあるって事」
「あぁ、そうだな」
ジンが頭を掻く。
「奴等の戦力も昨日でネオカオス四天王を二人落とした以上、かなり落ちているはず。今がチャンスでもあるんだよ」
「…そうだな」
ジンがそう言うと、ミカが通信機を使ってホログラムを出す。
「作戦はこう。いくつかの班に分かれてスピアマウンテンの色々な場所を探る。割と単純ね。でもスピアマウンテンは標高が高くない割にかなり広くなってる。そして…岩石がとても硬い。ちょっとの魔力じゃ壊す事は不可能よ」
「なるほど。昨日ラッシュ師団全体で探れた場所は…」
ジンの言葉を聞いてミカが目を逸らす。
現実はそうも上手く行っていなかった。
「…全体の10%にも満ちてないわ。昨日はネオカオス四天王二人と出くわすという思わぬアクシデントもあったからね…」
「10%…なかなか骨が折れそうだ」
ミカの言う通り、昨日ラッシュ師団が探索できた範囲はスピアマウンテン全体の10%にすら満ちていなかった。
元々別の場所に向かった団員がいたのと、ネオカオス四天王のフェクトとメタリーという思わぬ妨害もあったからだ。
「けど、昨日別れた班が今回集まる訳だから…今回で半分は探れるんじゃないかしら?」
「まぁ…行けるかもな。だが…ネオカオスに出くわす可能性も高いだろう?」
「…間違いなく高いね。ネオカオスにでくわした場合は…今回は戦闘を回避するわ。但し…ジハがいた場合は団長に連絡を。ジハを見つけ次第、奴を捕らえる…それだけの事」
「…そうか、魔力の根源を見つける事よりも、ジハを捕らえる事の方が優先か」
ジンが持っている銃の銃弾の数を確認する。
「団長は、ジハは殺しても構わないって言ってたけど…」
ミカの言う通り、ランスは今回殺しの許可を出していた。
今回の作戦はジハを殺して計画をそもそも阻止するのも視野に入っていた。
「そうだな。奴を殺せば奴の計画自体を壊す事が可能だし…他のネオカオスの下っ端もすぐ捕まえられるようになるだろう」
「そういう事。なんか久々に殺しの許可が出たのよね。場合によっては…ジハを殺す」
「…分かった。それで、俺達がスピアマウンテンで探す場所は何処になる?」
「えっと…ここね」
ミカが指を指す。
その場所は昨日、メタリーと戦闘をした場所だった。
「そこは…メタリーとやりあった場所のすぐ近くじゃないか。どういう事だ?」
「…さぁ?あたしにもよく分からないわ。まぁでも…あの場所は怪しかったりするかもね」
「それは何故だ?」
「メタリーがいたって事は…何かしら手掛かりがあった可能性が高いって事」
「なるほど?」
メタリーがブラックとあの場所にいた理由、それは誰にも分からなかった。
だが、そこにメタリーがいるという事実はあった。
そして、それが疑わしい事も。
「あの時メタリーがあの場所に立ってた理由は正直よく分からなかった。あたし達も偶然出くわしただけ…だから…何かあるんじゃないかと思うわ」
「…そうだな。となると…」
「案外、あたし達が一番最初に魔力の根源を見つけたりしてね」
ミカが冗談を言う。
「ははは、それはラッシュ師団として大層な活躍になっちゃうな」
「魔力の根源を見つけた場合も団長に連絡すること、らしいわ」
「了解だ」
「…さて、そろそろ行こっか。魔力の根源を探しに…!」
三人はスピアマウンテンへ歩き出す。
――スピアマウンテンにて…
「だいぶ歩いたけど…まだ目標の場所には着かないのか?」
「もうちょっとで…あ」
ミカが地面についてる複数の血痕を見つける。
その血はメタリーやブラック、ミカの物だった。
「この血の跡…ちょっと古めの…」
「昨日の…だな。ここで何人も傷付いたんだ…」
「今思えば、あの時の戦い…色々な犠牲が付き物だったわね…」
ミカが腹を押さえる。
「…そうだ、ミカは腹の傷は大丈夫なのか?」
「ん、全然平気よ。それよりも…アンタの方だってかなりダメージを受けたはず…そこのところどうなのよ?」
「俺は…別に大丈夫だ。ホワイトは?」
ジンがホワイトの方を見る。
ホワイトがジンの声を聞いて少し驚く。
「あっ…えっと…私?」
「…どうしたホワイト?」
「あ…ごめん…ボーっとしてた…えっと…私も大丈夫」
「そうか」
ミカとジンが歩き出す。
ホワイトが首を振って周りを見渡す。
「なんだろう…この感じ…」
「ここらへんに目印を作るわ。ここ周辺を探るわよ」
ミカはそう言うと、魔力で剣を作り出し、地面に突き刺そうとする。
だが、岩石は硬く剣は上手く刺さらなかった。
「…あ、突き刺さらないんだった。あの岩の間と間に挟むか…」
ミカは少しだけ移動し、岩の間に剣を挟む。
「うん、まぁこんなんでいいでしょ」
「目印って…武器かよ」
「…何か悪い事でも?」
「…別にいいけど、お前の武器そんな使い方でいいのか…?」
「皆に役立てれば、こういう使い方でも嬉しい。それだけの事よ」
「そうか」
ジンが少し微笑む。
「…それにしても、あまり知らない感じの魔力の気配がするわね。ただ…強い魔力って訳でもないし、何処からこの気配が漂ってるかは…分からないわ」
「奇遇だな、俺もだ。スピアマウンテンに入ってから、妙な気配を感じる。昨日も同じような気配を感じたが…」
ミカがホワイトの方へ振り向く。
「ホワイトはどう?」
「…え?」
ホワイトはミカの声に少し驚く。
「えっと…なんだろ…私はよく分からない…かも」
「そっか。うーん、どうやって探そうか?」
「手あたり次第…ってのは効率悪いし、この妙な魔力の気配を追ってくのはどうだ?」
「まぁ、それが一番ね。そういう時は…これかな」
ミカはそう言うと、魔力で何かを作り出す。
そして、温度計の様な物が出る。
「空気中の魔力の濃度が分かる物を作ってみたわ。温度計みたく使えるわ」
「…ほう。普段の魔力の濃度ってどれくらいなんだ?」
「目盛りで言うと…街の中とかだと普段は1を指してるわね。最大で10まで上がるけど今は…2よりちょっと上くらいか」
ミカの言葉にジンが疑問を持つ。
「…ん?街の中の方が魔力の濃度は高いんじゃないのか?魔力を持つ人が多い訳なんだし」
「あぁ。えっとね…基準が難しいけど…ウィッシュ城下町では基本的には1を指してたわね。他の小さな街とかだともうちょっと低いかも。ちなみにラッシュ師団の基地では5を指してたわ」
「5…!?街と比較してどういう数値してんだよ…」
ジンが驚いた表情をする。
それと同時にラッシュ師団の強さに驚く。
「まぁそれだけうちらの団員の魔力は強いって訳。まぁ…修行の成果ね」
「ラッシュ師団の強さをここで感ずるとは…しかし、今が2くらいだと…やはり魔力はそこそこ感じられるんだな」
「さてと…どっちに歩けば濃度は強くなるかしら」
ミカが辺りを見渡す。
「まぁ、手あたり次第って感じだな」
「ひとまずこっちに行ってみましょう」
「おう」
ミカとジンが歩き出す。
ホワイトは周りを見渡していた。
「ホワイト?」
「…私、一人で探してみる」
「?別にいいけど…ネオカオスを見つけたりとか何かあったらすぐ連絡してね」
「…うん」
ホワイトは一人で歩き出す。
「なんだろう、この感じ…何処かで感じた事あるような魔力…」
ホワイトが呟く。
「…思い出せない…頭がボーっとする…」
ホワイトは片手で頭を押さえる。
「…頭?そうだ…頭に関与する魔力だったような…誰の魔力…だっけ…」
ホワイトが歩いている。
突如、ホワイトが足元の岩石に足を引っかける。
「うわっ…!」
ホワイトが転びかける。
ギリギリのところでホワイトは地面に右手を付く。
「っ…あぶな…」
ホワイトがゆっくり立ち上がる。
そして、ホワイトが立っている場所は少し脆い感触がした。
「…あれ?このあたりの岩…ちょっと脆い…?」
ホワイトが銃剣を取り出し、剣の部分で地面をつつく。
地面をつつくと、地面にヒビが入る。
「…やっぱり。でも流石に大きな穴を開ける事はできない…か。地道に掘り進めていくしか…」
ホワイトは銃剣で地面を削り始める。
「…そういえば、子供の頃もこんな感じで砂遊びしたっけ」
ホワイトは昔の出来事を思い出す。
今自分がやっている事に無邪気な少女の時代を懐かしんでいた。
「…懐かしいなぁ。亡くなった後も夢の中にまで出てきたおばあちゃん、不思議だったなぁ」
ホワイトは少しずつ掘り進める。
「夢の中でもいいから、久々に会いたいなぁ」
ホワイトがそう言うと、銃剣で堀った部分に穴が開く。
「…あ」
穴が開いた事により下に小さい岩が落ちる。
穴の奥はとても暗く、底が見えなかった。
「っ…!」
ホワイトは穴の奥から強力な魔力を感じ取った。
「この気配…穴を開けてから強くなってる…」
ホワイトは穴の方に手を掲げる。
「二人とも…!」
ホワイトがミカとジンを呼ぶ。
「ん?どうしたホワイト?」
「何かあった?」
「こっち…!」
ホワイトが穴の方を指指す。
「これは…穴?」
「…ミカ、魔力濃度を測る奴が…なんかおかしくないか?」
「え?」
ジンの言葉を聞いて、ミカが魔力の濃度を確認する。
「…え。何これ」
魔力の濃度の目盛りは9を指していた。
「普段だと信じられない魔力濃度…この穴が開いてからよ…」
「…まさか?」
「そのまさかね…この穴の先に…魔力の根源があるかもしれない…!」
「っ…!」
「ほんと…!?」
「断言はできないけど…でも、怪しいのは確かよ」
ミカがそう言うと、穴の奥を覗く。
「…にしても、よく気付いたねホワイト?」
「え…あ…なんか何処かで感じた事あるような魔力をここらへんから感じて…」
「何処かで?それは…何処で?」
「…何処だろ、分からないけど…少し前に感じたような魔力に似てて…」
ホワイトが頭を抱える。
ホワイトにもこの違和感の正体は分からなかった。
「ふーん…」
「とりあえず…穴を広げれば入れるかしら」
ミカが武器を使って穴を広げようとする。
「待て、広げるのはいいとして、奥が見えないのに飛び込むのは危険だ」
「そんなの、降りる時は慎重に降りて、帰る時には登っていけばいいじゃない」
「…お前って案外脳筋なんだな…」
「大丈夫、流石にこの岩を手づかみで登れなんて言わないわ。ここに縄を縛って…」
ミカが魔力で縄を作り出し、岩石に縛る。
「えい」
ミカが縄を穴の奥へ投げる。
「これでこの縄を使って上り下りできるようになったわ。これで行きましょう」
「…なるほどな」
「さて、行くわよ」
ミカが縄を掴んで降り始める。
「仕方ねえ、行くぞ」
ジンも縄を掴んで降り始める。
「ホワイトも、早く」
「あっ…うん。ありがとう…」
――穴を降りていく三人。
真っ暗な場所…ホワイトは少し不安に感じていた。
「どこまで続くのこれ…?」
「…手がそろそろ痛い」
「…私も」
奥に行くにつれ、魔力の気配が強くなっていく。
「魔力の濃度は強くなっている気がするぞ…!」
「…あ、なんか…見えてきた…?」
ミカが下を見ると、緑色の光の様な物が見える。
「行ってみよう…!」
降りるスピードを上げて確認しに行く三人。
――この先に待ち受けている物が、果たしてネオカオスの狙う魔力の根源なのか………
後書き~世界観とキャラの設定~
『魔力計測計』
…ミカの魔力で作り出された温度計のような物。空気中の魔力濃度がどれだけあるかを見る事ができ、最大10段階で表示される。
基本的に1を指す事が多いが、ラッシュ師団の基地では5を指している。ラッシュ師団がそれだけ魔力の強い団体であることが証明されている。
そして…魔力の根源に近付けた際にはその数字は9や10を示していた…




